3歩先を行く長身、揺れる金の糸。  
頭の後ろで手を組んで、機嫌よさげに歩くそいつの背中を、あたしはひたすら睨みつけていた。  
言ってやりたいことは山ほどある。  
聞きたいことは…とりあえず今のところはひとつだけ。  
多少殺気立っているあたしの気配に気づかないわけがないのに。  
その大きな背中―――ガウリイはいつもと、いや、今までとまったく変りなくふるまっている。  
 
 
あれはちょうど、数日前のこと。  
あたしはとうとうガウリイに自分の気持ちを打ち明けた。  
 
 
「へ?なんだって?」  
 
また聞いてなかったのかこのクラゲーっ!とか何とか、いつもの調子でスリッパでどついてやる余裕もなく、  
あたしは一度うつむいた顔を上げ、けれど今度ははっきりと言った。  
 
「だから……あたし、あんたのことが好きだって言ったの!」  
 
い、勢いに乗ったとはいえ、やっぱし恥ずかしい…  
何度もンなこと言わせるなーーっ!!  
見なくてもわかる。あたしは今耳まで真っ赤にゆであがってるだろう。  
心臓がバクバクと鼓動を早める。  
 
「…そっか。ありがとな。」  
 
ガウリイはただゆるく微笑んでそう言って、あたしの頭をいつものようにぽんぽんと撫でた。  
そこから先に続く言葉を期待してたのに、何も言わず、そのまま再び歩き出す。  
しばし硬直したあと、どうも混乱していたのか何なのか、とにかくいつもの調子でなかったことは確かなあたしは、  
なんだか納得の行かないままわけもわからずガウリイのあとを追いかけた。  
 
結局、それから数日が経ってしまったのである。  
 
ガウリイは今までと何ら変わりなく、あたしに接してくる。  
相変わらず過保護で、相変わらずバカで、相変わらず頼りにはなるけど、相変わらず物事は覚えてない。  
今まで通りあたしの頭をわしわし撫でたりするし、一緒に飛ぶときなんかも今まで通りくっついてる。  
そこにはロマンスのかけらなんて微塵もない。…今までだってなかった(と思う)けど。  
 
あたし自身、正直なところ、ちょっとばっかり自惚れてたりしたのだ。  
たぶん、ガウリイもあたしと同じ気もちなんだろう……と。  
だからこそ、なかなか言ってくれないガウリイにじれったくなり、とうとう堪え切れなくなって、  
あたしは道の真ん中で唐突に告白してしまったのだ。  
まぁ…道の真ん中って言っても、周りにはだーれもいなかったんだけど。  
 
気もちを伝えたら、ガウリイはあたしをぎゅっと抱きしめてくれるはずだった。  
『オレもずっとお前が好きだったんだ』って言ってくれて、『ずっと言ってくれるの待ってたのに』って答えて、  
笑いあって、手をつないで歩きだして、そこからあたしたちの関係が変わっていくんだと思ってたのに。  
 
笑ってくれたけど、違ってた。  
あたしたちの関係は、何も変わったりはしなかった。  
 
 
「……うそ…」  
 
ようやくたどりついた村の宿で、今まさにありがちなパターンを展開しようとしていた。  
 
「ほ、ほんとに?  
 ほんとに一部屋しか空いてないの?」  
 
いつもの通り、交渉やら手続きやらはあたしの仕事。  
ガウリイはぼけーっとどこかを眺めながら、何を考えてるのかわからない無表情のまま、あたしの後ろに突っ立っている。  
 
「こんな小さな村の宿で、部屋数を期待しちゃいけないよ。  
 もう日も暮れてきてるし、この時期旅人も多いしねぇ。一部屋でも空いてるだけ、運がいい方さ。」  
 
そりゃあそうだけど…  
今までだって、こんなことはよくあった。  
宿を取りに行ったものの、結局一部屋しか取れなくて、ガウリイと同じ部屋になる…なんてのは  
頻繁にあるとまでは言わないけど、それでも何度かあったことだし、珍しいことでもない。  
それに野宿だって数え切れないほどしてきた。  
お互いの寝顔や、寝起きなんかも、もうすっかり見慣れてる。  
近くで眠ることは、もう日常茶飯事みたいなものだった。  
 
だけど、今までとは状況が違う。  
 
後ろの自称保護者に想いを打ち明けてから、初めての宿。  
それがいきなりガウリイと同室?  
 
「ほかに宿は…ないわよね?」  
「うちだけだよ」  
 
わかってはいたものの、ちょっぴり期待して聞いてみたら、やっぱり予想通りの回答。  
 
「そもそもあんたたち、最初っから一部屋でよかったんじゃないのかい?」  
「ちっ、ちがっ!」  
 
おかみさんのクリティカルパンチのような発言に、あたしは思い切りうろたえた。  
 
「あたしたちはそういう関係じゃないの!だから二部屋頼んでるんじゃない!」  
 
とは言え、それなりの年頃の男女が一緒に宿へくれば、だれだってそう思うだろう。  
実際、こうして部屋を取る時に、そういう勘違いをされることも増えてきた。  
でも何度も言うけど今までとは状況が違うのよっ!  
 
「じゃあ、泊まらないのかい?」  
「……泊まるわ」  
 
大きなため息を吐きだしながら、あたしは宿帳にサインをする。  
後ろの男はまったく変わりない様子で、あたしがサインするのを見ている。  
……ほんとにこいつ、何とも思ってないわけ?  
ひとりであれこれ悩んだり焦ったりしてるのが、なんかだんだん無償にむなしくなってきた…  
 
ペンを置くと鍵を貰い、そのまま部屋がある2階へ向かう。  
階段を上る足取りが、恐ろしく重たかった。  
 
 
まぁなんと部屋のせまいこと。  
 
入ってみれば、ベッドが窓際にあり、あとは気持ち程度のスペースのみ。  
せまい。  
なんでこんなに狭いのか。や、これが普通なのか。  
あたしの感覚がすっかり麻痺してしまってるだけなんだろうか…  
サイドテーブルの上にとりあえず荷物を下ろしたものの、あたしは落ち着かなくなる一方だった。  
 
普段ガウリイと同室になると、必ず彼は床で寝ることになっていた。  
“女子供にはやさしく”を徹底して、どんなに言ってもあたしにベッドを譲ってくれる。  
時々“女子供”の、あたしはどっちにあてはめられてるのか、妙に気になったりはするのだが。  
 
今日もガウリイは床で寝るつもりなんだろう。  
あんなことを言ってしまった以上、冗談でも「一緒に寝る?」なんて言えやしない。  
 
あたしは無言のままショルダーガードやグローブやらを外し、壁のフックに引っかける。  
ガウリイも何も言わずに、胸甲冑なんかを外していた。  
身体は軽くなったのに、心が重いのは何でだろう。  
……や、原因はこの男なんだってのはわかりきってるんだけど。  
 
「じゃあとりあえずメシでも行くかぁ」  
 
大きく伸びをしながら、ガウリイはのほほんと言った。  
 
「なんだ?リナ、まさかあり得ないとは思うが…食欲がないのか?」  
「違うわよ」  
 
我ながら、今のはずいぶん不機嫌丸出しな返答だっただろうか。  
この鈍感男!のーみそくらげ!  
 
「そっか?まぁそうだよな。リナが食欲なくなるなんて、どう考えてもないもんな」  
「うっさいわね!あんただってそうでしょうが!」  
「ははっ。そうかもな。なぁ、早く下に行こうぜ。オレ腹減っちまって…」  
 
言いながらもすたすたとドアを開け、部屋を出るガウリイ。  
今までなら無邪気におっかけっこでもするかのようにあたしも飛び出すところだけど、そうもいかない。  
 
「リナー?」  
「今行くわよ」  
 
あーもう!  
なんかほんとに悲しいの通り越してイライラしてきたっ!!  
 
この日、勢いにのっていつも以上に食べまくって、宿の人やら周りの客やらがやたらと驚いた目で見ていた。  
ガウリイともすさまじい食事の取り合いをし、おかみさんはあたしたちが甘ったるい関係でないことをしみじみわかったようである。  
 
 
食事のあとお風呂につかりながらいろいろ考え事をしていたら、すっかり長くなってしまった。  
指先がふやけてぼこぼこになっている。  
 
「おう、リナ。遅かったな。」  
 
なぜかガウリイはベッドに腰掛け、剣の手入れをしていた。  
 
「……そう?」  
 
あたしは極力冷静を装い、さらりと流し、とりあえずサイドテーブルに備え付けた椅子に腰かける。  
距離が近いせいか、ガウリイからお風呂上がりのいい匂いがする……たぶんあたしもなんだろうけど。  
 
「せっかくだから、今日はあんたがそのままベッドで寝れば?」  
 
テーブルで頬杖をつき、さらりと言うあたし。  
 
「いいって。オレは床で寝るから。」  
「いいじゃない。あたしが譲ったげるって言ってんのよ?素直にそうしなさいよ」  
「あのなぁ、女の子を床で寝かせて、自分はベッドで寝ろっていうのか?」  
 
どうやら手入れが終わったらしい剣を、長い腕を伸ばし、壁に立て掛けた。  
 
「オレはほんとにいいから。な?お前さんがこっちで寝ろよ。」  
 
言うとガウリイはベッドから腰を上げて立ち上がり、あたしの背中をぽんと叩く。  
う…ただでさえパジャマって薄着なのに、あんま触られると困るんですケド……  
さらに困ったことに、ガウリイが動いたせいで、風に乗って石鹸のにおいが鼻に届いた。  
無意識に深く吸い込んで、身体に取り込むと、軽いめまいがする。  
 
「……じゃあ、一緒に寝る?」  
 
自分でも一瞬、何を言ったのかわからなかった。  
これまでも軽い冗談で、こういうことを言って、ガウリイをからかったりしたこともあった。  
けど、確か今のあたしは冗談でもこんなこと言えないはずじゃなかったっけ?  
てことは…何?ついぽろっと本音が?  
 
「お前なぁ…」  
 
いったいどれくらいの時間が開いて、ガウリイが口を開いたのかはわからない。  
ただ、あたしは不思議と照れたり、焦ったりはしていなかった。  
どうやら、さっき出た発言はほんとに本気だったみたいだ。  
 
「仮にも年頃の娘が、あんまり簡単にそんなこと言うもんじゃないぞ。そういうのはちゃんと……」  
 
言いかけて、ガウリイがはっと口を閉じる。  
そういうのは…何?“ちゃんと好きな人に言え”とでも言いたいわけ?  
 
「いいから、ほら。」  
 
ガウリイは何もなかったように、またいつもの調子に戻る。  
あたしをベッドへ追いやろうと、あいてる方の二の腕を掴んで、立たせようとする。  
さすがに力ではかなわないし、彼よりも断然軽いあたしは、すんなりと立ち上がらされた。  
 
「…ガウリイ」  
 
うつむいたまま、自分でも驚くほど小さな、けれど強い口調が漏れた。  
 
「あたし、まだあんたにちゃんと返事もらってないんだけど」  
 
ふたりして、しばらくの間立ちつくした。  
ガウリイはあたしの片腕を持ったまま、あたしは下を向いたまま。  
ふと俯いたまま視線をやると、困ったときなんかによくやる彼のクセ…あいてる方の手で、頬のあたりをぽりぽりとかいている。  
ふぅ、と小さく息を吐く音がして、あたしの腕が解放された。  
 
「返事…って、何の返事だ?」  
 
つきんっ、と、胸のあたりに小さく痛みを感じる。  
 
「あんた……それ本気で言ってるの?」  
「ああ」  
「…いくら忘れっぽいからって、あんたにとってみたら、あんなのどうでもよかったってこと?!」  
 
声を荒げ、頭いっこ分上にある彼の顔を睨みつけた。  
 
「なぁ、リナ。お前さんが言う“返事”っていうのは、何に対してだ?」  
「あたし言ったわよね?!あんたに、あんたのこと好きだって。ねぇ、本当に忘れたの?」  
 
苛立ちが悲しみに変わり、最後の方は妙に冷静な声だった。  
ガウリイは真剣な表情のまま、頬をかいていた手を下ろす。  
 
「…いや、それはもちろん覚えてる。」  
「だったらっ…」  
「でも、それはオレ、ちゃんとお前に返事したはずだろ?」  
 
あたしは再び、視線を下に落とした。  
木の板を敷き詰めた床に、あたしとガウリイの足が見える。  
 
「…いつ?」  
「いつって…ちゃんとその場で返事したじゃないか」  
 
言われてあたしは再び、あの死ぬほど恥ずかしかった場面を思い出す。  
ガウリイはあたしにただ「ありがとう」を言っただけで、あたしのことをどう思ってるだとか、そういうことは一切なかったはずだ。  
 
「リナが、オレのこと好きだって言ってくれて。オレちゃんとありがとう、って言ったぞ?」  
 
そりゃあ言ったわよ。  
 
「…バカにしてるの?」  
「してないだろ?嬉しかったから、オレはその気もちを返した。それじゃダメなのか?」  
 
いつもは穏やかなガウリイの口調が少し強まった。  
 
「あんた一体いくつなのよ…今までだって、経験がないわけじゃないんでしょう?!  
 普通好きだって言われたら、付き合うとか、ごめんなさいするとか、そういうもんじゃないの?!」  
 
ガウリイはそのどちらでもなかった。  
あたしが言った『好き』は、家族や、友達なんかに言うものとはまったく違う。  
たったひとり、本当に大切な人だけの、特別な『好き』だったのに。  
 
…そんなことを考えたら、だんだん目の中に熱いものがたまってきた。  
絶対にこぼしたくなかったから、あたしは必死で上を向いた。  
泣くもんか。  
絶対に泣いたりしない。  
 
「…リナ」  
 
やや困ったような口調で、ガウリイはあたしの名前を呼んだ。  
 
「どうして、急にあんなこと言ったりしたんだ?」  
 
そんなの、あたしだってわからない。  
ガウリイを好きだって気づいてから、あまりに月日が経ちすぎて、喉元の、すぐそこまで出かかっていた。  
気がついたら、押し出されたように気もちが声になってたんだから。  
 
けれどあたしはガウリイの質問には答えず、目線をそらしたまま黙っていた。  
 
「……オレは、ふざけて答えたわけじゃないぞ?」  
「………」  
「なぁ、リナ…」  
 
それでもあたしは黙っていた。  
するとガウリイが突然、とんでもないことを言い出した。  
 
「少し…離れてみるか?」  
「な…」  
「別に、このまま別れようって言ってるんじゃないんだ。  
 とりあえず、2〜3日この村にいて、その間別々に過ごせばいい。宿はこのまま、お前がここにいればいいし、  
 オレは適当に村の外で野宿するから。  
 落ち着いたら、また一緒に旅すればいいだろ?」  
 
どう、しろというのか。  
それじゃあまるであたしが気の迷いでも起こしたみたいじゃない。  
2〜3日別々に過ごして、どうなるの?ひとりになれば、気もちが消えるとでも思ってるの?  
…それがあたしの勘違いだったって、思うようになるって言いたいの?  
 
「ガウリイ」  
 
弱く、あたしはようやく口を開く。  
 
「嫌ならはっきり言って」  
「だから…」  
「あたしと、付き合う気がないなら、はっきりそう言って」  
 
今度はガウリイが黙り込んだ。  
ま、ガウリイらしいと言えばガウリイらしいかもね。  
あたしを傷つけるようなことを言いたくないんだろうけど…  
 
その沈黙が、十分な答えになっていた。  
 
ガウリイは、あたしをそういう対象として見れないんだろう。  
仕方ない…よね。ずっと「保護者」だったわけだし。  
やっぱりガウリイにとってみれば、あたしはどうやっても“子供”だったんだ。  
 
「…わかったわ。  
 さすがに、ふられても今まで通りっていうのはキツいから、ここで別れましょ。  
 今までありがとう。いっぱい、ゴタゴタに巻き込んでごめんね。」  
 
自分がパジャマ姿なのはわかってたけど、あたしはガウリイの目を見ないように言いながら、荷物をまとめ、マントでくるむ。  
持ち上げて、必死に涙をこらえてくるっとドアの方へ向かおうとすると、痛いくらいに肩を掴まれた。  
 
「…放して」  
「いやだ」  
「…放してってば!」  
 
強引に肩をよじって、手を払いのけたけれど、今度は両腕を掴まれ、無理矢理ガウリイの方を向かされた。  
 
「何?!言っとくけど、これまで通りなんてあたし無理だから!」  
「なんで別れなきゃいけないんだ」  
「何でって…あんた、あたしと付き合う気がないんでしょ?それなのに、今までみたいに一緒にいられるわけないじゃない!」  
 
あたしが言ったことを聞いてるのかいないのか、ガウリイはマントでぐるぐる巻きにした荷物を無理矢理取り上げ、テーブルに戻した。  
 
「お前…付き合うっていうのが、どういうことかわかってるのか?」  
 
ガウリイの声はひどく落ち着いているように聞こえた。  
けれどそれはいつもよりずっと低く、よくよく考えれば、怒ってるようにも思えてくる。  
 
「わ…わかってるわよ!」  
「付き合うってなったら…キスとか、それ以上のことだってするんだぞ?!ほんとにわかってるのか?!」  
 
あたし以上に、ガウリイが声を荒げた。  
つかまれたままの両腕に力がこもり、痛みすら感じる。  
 
「…そんなのっ、わかってるわよ!」  
 
わかってる。あたしだってもう子供じゃない。  
経験はないけど、世間一般で言う恋人同士がどういうものかは、それなりにわかってるつもりだ。  
興味がないわけじゃない。身体の関係がない付き合いに、憧れを抱いてるわけじゃない。  
もちろん、一緒にいたいから、好きだから付き合いたいって思うんだけど…  
 
ガウリイを好きだって気付いてから、今までとは違う見方をしてることに、ある日突然気付いてしまった。  
大きくて、長い指先に見とれてしまったり、ふと唇に目が行くと、キスしたい…なんて思ってしまったり……  
ガウリイと、いわゆる夜の営みっていうやつをしてる自分を想像して、胸の中心が締め付けられる想いになったり。  
 
戦士らしい、筋肉のついたその身体に組み敷かれて。  
ガウリイはどんな声であたしの名前を呼ぶんだろう…  
どんな風にあたしに触れるんだろう…  
どんな熱いまなざしで、あたしを見つめてくれるんだろうか……  
 
…気がつくと、そういうことを考えるようになっていた。  
もしかしてあたしってやらしいのかもしんないなんて思ったりもしたけど、ガウリイだからしたいって。  
ガウリイなら、いいのに、って。  
 
「……そうでなくても、お前さん初めてだろ?もっと…ちゃんと考えて…」  
「何よ!考えてどうしろっていうの?初めてだからダメなの?!」  
 
気の迷いでも、ただの好奇心でもない。  
 
「あたし…ガウリイになら、何されてもかまわない…って」  
「リナ」  
 
それまであたしの両腕を掴んでいた手が、すっと下に降ろされた。  
 
「オレ…お前がオレのこと好きだって言ってくれて、ほんとにうれしかったんだ。  
 だからちゃんとそれを伝えたかった。でも、下手に期待を持たせるようなことはしたくなかったんだ…」  
「…じゃあ、やっぱりガウリイは……あたしと付き合う気がない…のね」  
 
うつむいてそう言うと、ふと右の頬に彼の手が触れる。  
あたしはもう一度、ガウリイを見上げた。  
 
「ない…っていうか、ちょっと意味合いが違うかな。  
 オレだってリナのことが好きだし、ずっとこうやって一緒にいたいと思ってる。  
 だからこそ、付き合う、っていうことは考えなかったし、あのとき中途半端に好きだって返せなかった。」  
 
ガウリイの口から好きだっていう言葉が聞こえた瞬間、あたしの心臓がずしっと重くなったような気がした。  
 
「どういう意味…?」  
「オレな、リナ。お前さんが大事で大事で仕方ないんだよ。  
 本当に大切に思ってるから、自分の欲望とか、そういうので…お前を傷つけたりしたくない」  
 
頬に添えられた手の親指が、ゆっくりとそこを撫でる。  
 
「言ったでしょ。あたし、ガウリイになら何されてもかまわない。傷ついたりしないわ」  
「…オレが嫌なんだよ……  
 大事にしたいし、守ってやりたいのに、時々お前をめちゃくちゃに壊しちまいたくなる。  
 そんなことをして、傷つけて、泣かせるくらいなら…初めから一線を越えなければいい話だろ?」  
 
言って、頬から離れようとする手を、あたしは自分のそれで引き留めた。  
上から重ねた手で、自分よりはるかに大きなその手をきゅっと握る。  
 
「いいよ」  
「え?」  
「いいよ。じゃあ、壊して。」  
 
何を言ってるかは…たぶん、わかってるつもりだった。  
冷静な口調でそう言って、ガウリイの手に頬ずりをする。  
 
「もういっそ、あんたの手で、あたしがぼろぼろになるまで壊してよ」  
「リナ…お前…」  
「そしたら責任とって、一生あたしのそばにいてくれればいいから。」  
「…一生そばにいるのに、別にお前さんを壊す必要ないんじゃないのか?」  
「もう手遅れだわ」  
 
両の手で頬にあるガウリイの手を、自分の左胸の上に当てさせる。  
ちゃんと布を巻いてない、薄いパジャマの布越しで、かなりリアルな感触を伝えたんだろう。  
一瞬ガウリイの腕が、びくっと反応した。  
 
「わかる?壊れそうなくらい心臓が鳴ってるの。あたしもう、ガウリイがいないと生きていけないのよ」  
 
冷静に考えればクサいセリフだが、あたしは本心からそう言った。  
 
「いいじゃない。あたしを泣かせるのだって、あんただけの特権なんだから」  
「でも…」  
「うっさいわね!あたしがいいって言ってんだから、ちゃっちゃと押し倒して襲えばいいでしょ?!  
 あんたそれでも男なのっ?!!」  
 
なんだかすごくめちゃくちゃなことを言ってる気がしないでもなかったが、仕方がない。あたしだってもう余裕がないんだし。  
でもそれはガウリイも同じだったみたいで、少し苦笑いを浮かべると、ふっきれたようにあたしをその腕にきつく閉じ込めた。  
 
 
 

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