あれから数日が過ぎ、あたしの平常心は限界に来ていた。
あたしの横を歩くガウリイは、あの夜の出来事なんて、本当に覚えていないんじゃないかってくらいいつも通りで、それが無性に腹立たしかった。かといって自分から切り出すわけにもいかず、このままなかったことにするには……あまりにも無理がある。
宿に着いた時は、「部屋は一つ」と言われるんじゃないかと毎回いらない緊張を強いられ、部屋に入ったら入ったで、いつそのドアがノックされるんじゃないかとまたしても落ち着かず、結局何事もなく夜が明け。
……いやえとあの……待ってるとかそういうんじゃなくって!
ようするに、どうしていいか分からないのだ、あたしは。
隣を歩くガウリイには知られないように、こっそり息を吐く。
魔族との戦いだって、こんなに神経を擦り減らしたことはないんじゃないだろうか……?
「リナっ!」
突然名前を呼ばれ、あたしの腕は強く引っ張られ、ガウリイに引き寄せられる。
一瞬で頭が真っ白になり、思わず悲鳴を上げそうになり、次の瞬間、たった今あたしが立っていた場所を、炎が過ぎる。
『炎の矢』っ!
「ぼんやりしてるんじゃないっ!」
ガウリイの強い苛立ちを含んだ叱責に、あたしは歯噛みした。
茂みから現れたのは数体の野良デーモン。
考え事をしていたとはいえ、これは迂闊以外何物でもない。
あたしは大きく跳び、急ぎ呪文を唱え始める。
瞬間、
「リナ」
ガウリイがあたしを制した、すでに抜き放たれた『妖斬剣』を構え。
あたしが何かいうより早く。
野良デーモン達は一太刀で闇へ帰された。
……あちゃー、これは怒られるよなー……。
ガウリイは剣を払い、鞘に納め、あたしの方を向く。怒鳴られるかと思いきや、
「先を急ごう。早くしないと、日暮までに次の街に着かないんだろう?」
何事もなかったかのように、顔色ひとつ変えず、ガウリイは歩き始める。
……あれ?
「あ、うん……」
あたしはその背中を追い掛ける。
……なんか調子狂うんですケド……。
やっぱり今日も部屋は別々で、夕食もいつも通りの光景で……。
昼間のことを諌められるかと思いきや、それもない。
あたしはやっぱしガウリイの考えていることが分からない。この男はホントに何も考えていないだけかもしれない。
食事を終え、階段を上がって部屋に向かう。
あたしがドアノブに手をかけた瞬間、
「リナ」
ガウリイがあたしを呼び止めた。
「話がある。後でお前さんの部屋に行くから」
優しい口調でそういうと、隣の部屋のドアへ消えていった。
……つまりつまりつまりっ、これってつまり、そういうコトっ!
覚悟は出来ていたとはいえ、いざ状況に置かれると、急に全身に緊張が走る。
ええと、とりあえずどうすればいいのか。
……とっ……とりあえずお風呂行ってこなきゃ!
準備しながら、えらく積極的に事態を受け入れようとしている自分が信じられない気持ちになる。
不思議な気持ち。
いや、あの時から決めていたのだから。
ううん。本当は、ずっと前からだった気もする。
あたしは、すうっと息を吐き、……と、その時、ドアをノックする音がした。
えっ! ちょっと早過ぎないっ!
慌ててドアへ駆け寄り、ひとつ深呼吸してから、ゆっくりとドアを開ける。
ガウリイ。
あの時と同じようにガウリイを部屋に通し、後ろ手にドアを閉めて……鍵をかける。
あの時と違うのは、ガウリイが酔っていないことと、腰掛けたのがベッドではなく、その横に置かれたナイトテーブルの椅子であること。
あたしはゆっくりガウリイに近づき、少し迷ってから、ベッドに腰掛ける。
そんなあたしをみて、ガウリイは苦笑した。
「そんな顔、しないでくれよ。リナ」
名前を呼ばれ、ときんっ、と心臓が鳴る。
「そんなつもりで来たんじゃない。
オレは、あの時のことを謝りに来たんだ」
一瞬、頭が真っ白になる。
「……え……何?」
「だから、謝りに来たんだよ。お願いだから、そんな顔、しないでくれ。
お前さん、自分が今、どんな顔してるか、分かるか?」
あたしはぎゅっと唇を噛み締めた。
ガウリイの言っている意味が分からない。
あたしが一体どんな顔してるって言うの?
「あの時は本当に済まなかった。お前さんの気持ちを試した上、あんなことまでして……」
ガウリイはどこまでも優しい口調で言う。
「あの時の事は忘れてくれ。話はそれだけだ」
「……忘れろ、って……どういう意味よ! なんでそんなこというのよ!」
あたしの剣幕に、ガウリイは困ったように、ため息をついた。
「なら聞くが、お前さん、昼間、何を考えていた? いや、今日だけじゃない。あの時からずっと」
その言葉に、あたしは顔だけじゃなくて全身が赤くなったのが分かった。
「……ちょっ……何っ…て、それは……っ!」
うろたえるあたしに、ガウリイは恐ろしく冷静に呟いた。
「オレのことだろう?」
言われて、あたしは絶句する。普通で聞けば、こんなに甘ったるい言葉を、なぜこの男は冷たく言うのか。
「……そうよっ! あなたのことばかり考えていたのよ、悪いっ!
だって仕方ないじゃない! あなたのことが、頭から離れないんだから!」
苛立ち紛れに、あたしは思わずそう叫んでいた。
涙で、ガウリイの顔が歪んで見えた。
「オレはな、リナ……こういってしまえば、自惚れ以外何ものでもないことくらいは分かってるんだが……お前さんが、こうなっちまうのが、怖かったんだ」
言って、涙の伝うあたしの頬に触れ、拭った。
「あの至近距離でデーモンが現れても、お前さんはぼんやり考え事している。
正直に言うさ、そこまでお前さんの心にあるのが、オレなんだって思ったら、嬉しかった。
……でもな、それじゃダメなんだ」
言って、ガウリイはため息をついた。
あたしはゆっくり顔を上げる。ガウリイは、微笑んでいるのに、哀しい顔だった。
「オレはリナを守りたい。これからもずっとだ。
……まあ、お前さんが『守らなきゃならないくらい弱い』ってわけじゃないが、それでもな、傷付くのが分かってて、それでも前を見据えて戦っているお前さんを……少しでも、守ってやりたいんだよ」
「……じゃ……あ、それと、あの時のこと、忘れろ、ってのは、どういう、ことよ?」
しゃくりあげながら、何とか言葉にするあたしに、
「だからな? 他のことに囚われて、お前さんが本来のお前さんでなくなる。その原因が、例えオレであっても、そのことでお前さんが今日みたいにぼんやりして、揚げ句取り返しのつかないことになるようなことが起きるのは……。
それが嫌なんだよ」
ガウリイは、あたしの頬から手を離し、いつものようにあたまをくしゃっ、と撫でた。
「お前さんがいつか、魔族に掠われたオレを助けてくれた、あの時から決めていたんだ。
今度はオレがお前さんを守る、って。一生かけてでも。
でも、オレが原因でお前さんが弱くなったり……また、オレがお前さんの足枷になる。
それだけは、耐えられん」
「だったらっ!」
あたしは叫ぶ、苛立ちと悔しさを混ぜて。
「なんであんなことしたのよっ! 言ってることが違うじゃないっ!」
「あ、いや。あれは世に言う酒の勢いってやつだ」
いつものとぼけた口調で言うガウリイ。腹が立った。
「あの時のリナの顔を見て、少し、近づいてもいいかと思った。
でも、そのあと動揺しまくってるお前さんを見て、時期を間違ったことに気付いた。
本当にすまなかった。だから……」
「……ばかなことばっかり言ってるんじゃないわよ……」
あたしはゆっくり立ち上がり、ガウリイの前に立ち、その胸倉をつかむ。ガウリイは抗わない。
「さっきから聞いていれば何よっ! 自分の言いたいことだけ、あたしのことなんて無視してべらべらしゃべった揚げ句、何? アンタ、あたしのこと好きだって宣言してるよーなもんじゃないっ! それにっ!」
「……リナ……」
「これだけ引っ掻き回して、あたしのっ……あたしの気持ちはどうしたらいいのよっ!」
あたしは悔しかった。
他でもない、自分自身に。
こんなにも守られていて。
こんなにも想われていて。
こんなにも……愛されていて……。
あたしはそれに気付こうともしないで。
あたしが『子供』であるばかりに、この男の想いの深さなんて、考えようともしなかった。
言葉一つで答えられるような簡単な感情しか持ち合わせていない、『子供』な自分。
八つ当たりしか出来ない自分。
……更に、ワガママを、言おうとしているあたし。
あたしは胸倉を掴んだそのまま、ガウリイの胸に頭を預ける。
「あたしは、アンタみたいに3歩進んだらきれいさっぱり忘れられるよーな脳じゃないんだから……忘れられるワケないでしょーが」
「……オレの脳みそはニワトリかよ?」
「ニワトリ以外。ニワトリに失礼よ」
ガウリイの肩が少し震えた。笑ったようだ。
ゆっくり、ガウリイの腕があたしの背中に回された。
「なあ、リナ。オレは思っていることをきちんと言葉にするのは苦手だから、上手くお前さんに伝わったか自信がないんだが……」
「伝わったわよ、アンタがあたしを好きだってことなら」
「いや、そうじゃなくてだな」
あたしは腕をその首に回し、碧い瞳を捕らえて告げた。
「あなたはあたしが好き。で、あたしを守りたい。
でもあなたは、あたしが戦いが出来なくなるくらいあなたのことばかり考えて、それをエサにまた囚われのお姫様になるのは二度とゴメン。ってことでしょ?
自惚れるのもいい加減にしなさいよ、ばか。
あたしはあたしよ。これからだって、ずっとあなたの隣で戦っていくし、お宝だって大好き、盗賊いぢめだって辞める気はないし。もちろん、魔道の追究も続ける。
ガウリイのことばっかり考えている暇なんてないのよ、これからだって」
ほんの少し、ガウリイのことを想う時間は増えるだろうケド。
「……盗賊いぢめのところは、辞めてくれてもいいんだけどな、オレは」
碧い瞳が、困ったように細められた。
「それじゃあ、それこそあたしがあたしでなくなるわよ」
ガウリイは、ゆっくりあたしを抱きしめた。
肩で大きく息を吐き、ため息をついたようだ。
「……やれやれ、困ったな。お前さんはいつもそうやって……オレを振り回すんだな」
言って、あたしの頭を抱き寄せ、その耳に唇を押し当てる。
「……言ってみろよ?
お前さんが、今、何を望んでいるか」
この男は、この後に及んでも尚、あたしに選択させるのか。
答えなんて、決まっている。
意を決して、同じように、あたしもガウリイの耳に唇を当て、そっと呟く。
その言葉に、了解、と言うように、背中をぽんぽん、と叩いた。
それが、合図。
どちらからともなく、唇が重なり、舌が絡み合う。
ガウリイの腕があたしの腰を強き抱き、椅子に座ったままのガウリイの上に倒れ込むように抱き着く。
あたしのたどたどしい唇に、下からガウリイの熱い感情がぶつけられる。
息をするにも苦しい。
加速する熱に翻弄されるように、一瞬でも唇が離れれば、貪欲なくらいその唇を捜し求める。
自分の中にも、こんな熱情があったことに、自身が驚く。
痛いくらいの早鐘を打つ心臓は、全身にあるかのように、一気に熱を帯びた。
「……っん」
ガウリイの手が、あたしの身体のラインをゆっくりたどり、撫で回す。執拗なまでに唇で口内でうごめいていた舌は、ゆっくり首筋に落ち、服に手が掛かった。「……あっ……ちょっ……ちょっと待ってガウリイっ!」
あたしはガウリイの手を制した。
「なんで?」
思いっきり不服そうな声に、
「……あっ……あたし、まだ、お風呂、入ってないんだけど……」
「それで?」
「あのいやだからその……えと……」
「ここまできてそれはないだろ?
抱けと言ったり止めろと言ったり、忙しいな、お前さん」
「……はっきり言うな!」
言いながらも、ガウリイの手は止まらず、あたしの上半身はほぼ脱がされている。
「このままでもオレは気にしないぞ?」
「あたしは気にする!」
「ま、風呂上がりのリナは、また次回、だ」
言ってあたしを抱え上げ、ベッドに横たえる。
上着を脱ぐガウリイを見て、余裕たっぷりの態度になぜかムカついた。
テーブルに置かれたランプを消し、部屋は薄闇に包まれた。
ガウリイはあたしのブーツを脱がし、そのまま下肢を纏っていた衣類さえもするすると脱がせる。
「……ずいぶんと手際がいいわね?」
思わずついてでる皮肉。
「そういうことは、今は言わない」
ガウリイはあたしに覆いかぶさり、唇を塞ぐ。
ガウリイの手が、ゆっくりあたしの顔から首にかけて、這い回る。それだけで、ゾクッと全身が粟立ち、重ねられた唇の隙間から、思わず息が漏れた。
唇を離す事なく、その手は肩から腕、手首、手の平、戻って今度は鎖骨から胸、腋の下、腰、お腹、臍へと、順番に滑らせる。
その触り方は決していやらしいものでなく、確かめるよう。
「……ガウリイ?」
唇が離れた瞬間、名を呼ぶ。彼はあたしの目を見て微笑んだ。
「確かめたいんだ、これは夢の中のリナじゃなくて、今、これが本物だってことを」
言って、その手は更に下に滑り落ちる。
シーツの隙間に手を滑りこませ、お尻からふとももに。内ももに触れられ、一瞬あたしの身体が跳ねる。
「んっ」
ガウリイの手はお構いなしに、そのまま膝、すね、ふくらはぎ、足首、足先まで、ゆっくり到達する。
不思議だ。それだけであたしの身体は一層熱を帯び、息が上がる。
ガウリイの手はあたしの顔へと戻り、髪を撫で、再び唇が重なる。
今度はわざとらしく音を立て、舌を絡めてくる。
髪から離れた手が、あたしの胸を覆う。
「……あっ、やっ」
思わず声が出てしまい、身体が構えてしまう。
ガウリイは手の平で、その頂点を押し潰すように円を描いたかと思いきや、指に挟んで強い刺激を与える。
「……やっ……ガウリイっ!」
「いやか?」
「だって、あたし、胸、小さいし、っ、あっ」
ガウリイが、あたしの胸の敏感になっている部分をくわえ、吸い付いた。
「だから、オレは気にしないって言っただろ?」
「でも本音は大きい方がいいんでしょ?」
「否定はしないがな。
いいか、リナ。一度しかオレは言わないぞ。よく聞いておけ」
言ってガウリイ顔を上げ、あたしの目を見て、
「オレはな、リナがリナだから、愛おしいんだ。他の誰でもない、お前さんが。
リナを形作るパーツひとつひとつが、何にも変えられない。胸の大きさなんか、それこそどうでもいい。
意地っ張りで強情で食いしん坊で、でもお人好しで照れ屋で義理堅くて。
真っ直ぐ前を、未来を見据えて、がむしゃらに突き進んでいくかと思えば、一人でみんな抱え込んで。
傷つき易いくせに、真っ向から受け止めて。
ホント、たまには寄り掛かってくれればいいのに、って言ってやりたいくらいだ。
でもな、オレはそんなリナだから、守りたいし、愛おしいと思うんだ。
だから、リナは、リナでいい」
涙が溢れた。
あたしは、涙があとからあとから込み上げては流れ落ちるのを、止めることが出来なかった。
どうしようもなくなって、ガウリイの頭を抱きしめた。
あたしもあなたに伝えたいことはたくさんある。
でも鳴咽が止まらなくて、声にならなくて、涙しか出てこなくて。
切れ切れに言葉を紡ぐけど、もはや言葉にすらならなくて。
結局。
ばかみたいに、ガウリイの名を呼び付けた。
あたしの思考は真っ白になり、彼の愛撫を一身に受ける。
喘ぎ声とも悲鳴とも区別のつかない声で、愛しい男の名を呼ぶ。
その手は愛おしそうにあたしの胸をまさぐり、唇は跡を付けていく。
不意に、ガウリイの手がするすると下の方に滑り落ち……あたしの脚の間に指を滑り込ませた。
「ああぁっ!」
間違って『あの日』が来てしまったんじゃないかと思ったが、それは血液ではなく、あたし自身がガウリイを求めていた証であるものだと気付き、例えようのない羞恥に駆られる。
「……んんっ、あっんっ!」
思わず甘やかな声が漏れ、ガウリイにすがりつく。
ゆるゆると上下に動かされた指が、一点に触れる。
「ああぁぁっ!」
足先から快感がはい上がってくる。
「リナ」
甘く囁かれ、その指は執拗に芽を攻め立てる。爪先で軽く引っかかれるように刺激され、あまりに強すぎる快感に、思わず目をきつく閉じ、背中がしなった。
ガウリイは、そんなあたしの身体を優しく抱き留めながらも、その指は止まらず、そのままぬるっと『あたし』の中に潜り込ませた。
「っ!」
声にならない悲鳴。
予想していた痛みはなく、むしろ快感が走り抜ける。
目を開けると、ガウリイが悪戯っぽい、でも熱に潤んだ目であたしを見下ろしていた。
「……『無理』なんじゃないかって心配はしてたんだが……これだけ感じやすいなら、大丈夫そうだな」
言われた意味に気付いて、思わずその背中を叩いた。
抜き差しされていた指が、二本に増やされた。
これには痛みを感じ、思わず息を飲んだ。
「痛かったか?」
問うガウリイに、あたしは首を振ったが、そんな嘘はお見通しだったらしく、指の動きはゆっくりになった。
その動きに、あたしの中から不思議な感覚が生まれてくる。わけのわからない恐怖に、ガウリイに更に強くしがみつく。
その瞬間、指が『あたしの中』の何かを甘く引っかいた。
びくっ、と身体が跳ねる。
「あんっ」
あたしの声を捕らえ、その部分を二本の指が交互に刺激し、更に手の平(?)の部分で、敏感になっている芽を擦り上げた。
「あああああああっ!」
堪え切れずに悲鳴をあげ、身体が跳ね、足先から頭に向かって白い衝撃が走った!
肩で大きく呼吸する。衝撃は身体中に甘い余韻を残した。
「……ガウリイ……」
わけが分からず彼を見上げると、彼は小さく笑い、唇に軽くキスをした。
「リナ、嬉しいんだが、指が痛い」
言われて、まだあたしの中に彼の指が、それもしっかり飲み込まれている。
「えっ! いやだっ! ちょっとっ!」
「ウソ、ウソ」
言いながら、指を引き抜かれた。
「ガウリイのばかっ!」
彼はなぜか嬉しそうに笑った。
「リナ、今度は、ちょっとキツイかも知れんが」
言われて思わず身構える。再びガウリイにしがみつくと、今度は指が増やされ、三本、侵入してくる。
「……いっ、痛っ!」
先程と比べものにならない存在感の侵入に、思わず声をあげる。
「リナ、今のうちに言っておくが、『オレ』のは……もう少しキツイぞ? 止めるか?」
……今頃になって、なんか恐ろしいことを言ったぞ、この男……。
「……そんなこと言って、ガウリイの方が止められないんじゃない?」
あたしの精一杯の軽口に、ガウリイ笑いながら、
「そうかもな。」
指がうごめいた。
卑猥な水音が、熱い吐息が、部屋の中に響く。
その水音を発しているのも、喘ぎにも似た吐息も、すべてあたしから生まれいずる音。
どれだけの時間、彼からの『愛』を受けたのか。
気がつけば、あたしははしたなくも自ら脚を開き、男の熱情を受け入れている。
痛みは、とうに甘い疼きに変わり、その指がもたらす快感に溺れていた。
絶え間無く漏れる喘ぎを、ガウリイの唇が受け止める。
「……リナっ……」
熱い吐息に混ぜ、あたしの名を呼ぶ。
あたしはその意味を受け入れ、ただ、ひとつ、頷いた。それだけ。
指が引き抜かれ、彼はあたしから一度身体を離し、自らのズボンを脱ぎ捨て……。
あたしは見てしまったのだ、彼の……『ソレ』を……。
ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待ってっ!
『ソレ』、ほんとーに入るのかっ! 『ソレ』がっ!
一瞬にして、甘い感情から引き戻される。
今更ながら、後戻りなんて出来ないことは分かっている。
でもっ! でもでもっ!
再びガウリイがあたしに覆いかぶさる。
あたしは、こんじょーない話だが、一気に固まってしまった。
そんなあたしを見て、
「……やっぱり怖いか?」
心配そうな顔をする。
……ガウリイの心配する『怖い』と、あたしの感じた『怖い』は別物ですけど……。
あたしはゆっくり首を振り、恐怖心を押し殺し、微笑んで見せた。
多分、引き攣ってはいたとおもうけど……。
あたしの脚を押し広げ、その身体を割り込ませる。
思わず身を固くしてしまったあたしを気遣うように、今までにないくらい、ゆっくりとした優しいキスをする。
あたしはその身体に腕を回し、その優しさを受け入れる。
「……んっ!」
あたしのそこに触れたのは、またしてもガウリイの指。すっかりあたしのポイントを覚えてしまったその指が、あたしの固まってしまった心と身体をゆっくりほぐしていく。
再び漏れる、喘ぎ。
一本の指では物足りない、と、『あたし』が鳴く。
もやのかかる頭で、この男はどこまでもあたしを気遣うつもりなのか。
そう思うと、愛しいのが半分、憎らしいのが半分。
あたしから、手を差し延べる。
「……ガウリイ……お願い……っ」
あたしの声に、ガウリイは一度驚いたように目を見開き、そして、柔らかく微笑んでから、あたしを強く抱きしめた。
あたしの頭を抱え込むように抱きしめ、彼は囁く。
「リナ、力抜いて、辛かったら爪立ててもいいから」
言うが早いか、あたしの『入り口』に、熱いモノが押し当てられ、しばらく擦られるようにゆっくりうごめき……。
ソレはあたしを分け入って侵入してきた。
「……いっっ……ああぁぁぁっ!」
圧倒的な熱、存在、圧力、痛み。
痛みのあまり、顔を彼の胸に押し付け、爪をその背中に立てる。
無意識のうちに痛みから逃れようと、上へずり上がろうにも、あたしの頭はガウリイが抱え込んでいて逃げられない。
ゆっくりと、確実にねじ込まれる『ガウリイ』。
「リナっ!」
ガウリイの切羽詰まった声がして、あたしは必死で悲鳴を押し殺した。
穿たれた絆は、それでも間違いなく、あたしが望んでいたもの。
ゆっくり顔を上げ、ガウリイの顔を見る。
眉間にシワを寄せ、熱っぽい目が、あたしを見ていた。
身体が、比喩でなく、二つに引き裂かれるかのような痛み。
それでも大きく呼吸を整え、受け入れる。
あたしには、伝えたいことがある。
でも何て伝えたらいいか、分からない。でも伝えたい。
あたしはその言葉が適切かどうか分からないが、とにかく伝えたかった。
「……ガウリイ……」
今日は何度その名を呼んだか、既に分からない。
「ん?」
ガウリイは小さく微笑んだ。
あたしはゆっくり、言葉にする。
「……ありがとう」
と。
息が出来ないほど強くかき抱かれ、ガウリイは熱い吐息と共にゆっくり動き出した。
突かれる度に激痛が走るが、あたしは懸命に堪える。動くたび、ガウリイからも呻き声が漏れ聞こえる。
背中に回した手がガウリイの汗を感じる。
「……っんあっ……」
指で探られた場所を、熱い塊が同じように、いや、それよりも強い刺激であたしを襲う。
快楽が痛みを押し返す。
「……ガウリイっ……ガウリイっ……っ!」
痛みだけではないことを伝えたくて、必死で彼の名を呼ぶ。同じくらいの必死さで、彼もあたしの名を呼ぶ。
ガクン、と身体がわななくほど、ガウリイの熱があたしを突き立て、その動きは徐々に加速する。
「リナっ!」
ガウリイの悲鳴にも似た叫びが聞こえ、これまでにない衝撃が来た!
同時に、今までの快感すべてを凌駕するような……白い奔流が襲い掛かる。
あたしの口から、無意識に高い悲鳴がほとばしる。
溢れた白い雷は、爪先から一気に脳天に駆け上がり、意識までを吹き飛ばした。
……意識が完全に飛び去る直前に、ガウリイの、熱情があたしの中に吐き出されたのを感じながら……。
「……どっちが『もっていかれた』か、分からんな、これじゃ……」
ガウリイの呟きに、あたしの意識は引き戻される。
「気がついたか?」
小さく頷くと、ガウリイはあたしの髪をゆっくり撫でた。
その手が気持ち良くて、このまま眠ってしまったら、どんなに心地いいだろうか。
「オレが聞くのもなんだが……大丈夫か?」
確かに、あんたが聞くことじゃないな。
「大丈夫なように見える?」
あたしの言葉、ガウリイは小さく笑うと、ゆっくりあたしを抱きしめた。
鼓動を間近で聞き、眼を閉じる。襲って来たのは、幸せな睡魔。
そういえば、あたしはここ数日、ロクに寝てなかったんだっけ。この愛しいクラゲのせいで。
ガウリイが何かを囁いたようにも聞こえたけど、それを聞いているだけの気力もなかった。
宣言した通り、あたしは盗賊いぢめも辞めてないし、お宝物色も怠らない。魔道の探求もはかどっているし、ばったり行き会った野良デーモンは一撃で倒し、振り向き様にガウリイにブイサインを送る。
苦笑するガウリイ。
心配なんて無用よっ! あなたのことを想うのは、その腕の中だけだから。
あたしはあたし。
だからガウリイ、これからも隣を歩いてよ。
一生だからね。
……ちなみに。
『あのあと』、二回戦を目論んでいたのにも関わらず、あたしがすっかり眠ってしまい、頭を抱えていたというのは……。
ホントにゴメン。
終わる。