「なあ、リナ……」
長い金髪にでっかいリボン、屈強な体にピンクのワンピースをまとったガウリイが、
青ざめた顔でリナに話しかけてきた。
ここは女だけの国フェミール王国。クレア・バイブルを探すため男子禁制のこの国に入るために、
男達はみな女装し、女性陣に和やかな笑いを提供しまくっていたのだった。
そうあくまでも女装、のはずなのだが。
「ゼロスさ、あいつ女だぞ……」
ぶぼばっ!
口に含んだミルクティーをリナは盛大に噴出した。
「ちょ、ちょっとガウリイ! いきなり何言い出すのよ! あいつが女なわけないじゃないの!」
「い、いや……。俺も男と思ってたんだけど……さっき、あいつが着替えしてる時に見ちまって……」
「何を?」
「その……胸みたいなモンがちゃんとあって……しかもけっこうでかくて、お前の10倍はあ……」
最後まで言えずにガウリイはリナに顔面をしこたま殴られ、テーブルの向こうに吹っ飛んでいった。
「あんた脳みそくさって夢でも見たんじゃないの! くだらないこと言ってんじゃないわよ!」
気を取り直してお茶の続きをしていると、今度はアメリアがふらふらと戻ってきた。
「おっかえり〜。で、どうだった?」
「リナさん……、ゼロスさんの胸、なんだか本物みたいなんですけど……」
「ちょ、ちょっとアメリア! あんたまでどうしたのよ」
「だ、だって! さっきゼロスさんに胸に何入れてるんですかって冗談で触ったら、な、なんかぷにゅって……」
アメリアの顔が紙のように白くなっていく。
「まるで本物みたいな感触で、絶対わたしよりあります〜っ! へたしたら姉さんより大き……」
がごぎんっ!
鈍い音とともに、アメリアはしこたま壁に頭を打ち付け、気を失った。
「あんたの姉さんなんか知らないわよ! まったくどいつもこいつも……」
ぶつくさ呟きながら再びお茶を飲んでいると、今度はドレス姿のゼルガディスが戻ってきた。
岩肌の顔を更に表情をこわばらせ、足取りが重い。
「何よゼル、まさかあんたまでゼロスが女だって言うんじゃないでしょうね」
リナの言葉にゼルガディスはぴたと足を止めた。
「……何の話だ。そんなはずないだろう」
「そ、そーよね! そんな馬鹿なことあるはずないわよね!」
「……俺は疲れたから少し寝る。夕飯はいらん」
「え? ちょ、ちょっとゼル!」
「この格好のせいで俺は疲れてるんだ。あれは幻覚だ……そうに違いない」
ぶつぶつ呟きながら倒れている2人に目もくれず、ゼルガディスは自分の部屋に戻っていった。
「ゼルまで……。もー頭きた! こうなったらあたしが確かめてやるわよ!」
「やあリナさん、どうしました?」
ここはゼロスの部屋。真っ赤なチャイナドレスでくつろいでいるその姿は、黒髪の美女にしか見えないが。
「ゼロス、ちょっとその服脱いでくれない?」
「ええー、リナさんってばだ・い・た・ん。まだ陽は高いですわよん、えっち」
「裏声はもういいってば! いいから脱げったら脱げーーっ!」
「怒鳴らなくても脱ぎますよ。やれやれ、この服一度脱ぐと着るの大変なんですけどね」
「誰が下脱げってったー! 上だけでいいんだってばーっ!」
(しばらくお待ち下さい)
「……あんた食べるもの、そんな所に入れてるの?」
「リナさんも食べますか? ピザまんの方あげますよ」
「いらない。……まったく、あいつら肉まんと区別もつかないのかしら」
(ガウリイさんたちに見せたのは本物ですけどね)
「ん? 何か言ったゼロス。まあいいわ、変なこと言って悪かったわね。それじゃ」
帰ろうとしたリナだがぐいと腕を引かれ、バランスを崩してぽてっとゼロスの腕の中に倒れこんだ。
「へ? ちょ、ちょっとゼロス!」
「僕だけ見せるなんて不公平じゃないですか〜。リナさんのも見せてくださいよ」
「な、なにを……、ちょっと何、服脱がせてるのよ!!」
「あ、ちっちゃくて可愛い、くすくす」
「こらゼロス! いいかげんにしないと……きゃーーーーっ!!」
え? この後どうなったかって?
それは秘密です。くすくす。
おわり。