スレイヤーズ

「───・・・ゃ・・・いやぁぁあああああああああ!」  
悪夢は叫びとなって眠りを突き破り、あたしを跳ね起こした。  
「───っ」  
また、あの夢だ。数ヶ月前あの男に犯された時の。  
愚かにも感じてしまった自分も、あんな事をした男も許せなくて。  
涙でグシャグシャになった顔を膝に押しつける。何度も、何度も、それこそ血が滲むくらい体を洗っても、  
あの男の指の感触は甦り、あたしを苦しめた。あの男がおいていった下着もスーツを破り捨てたのに  
───置いていったものは全てブランド品で、ああ、そんなもので懐柔できるとでも思ったのかしら───  
あの日の光景は夢となりあたしに何度も襲いかかった。  
捕まえなくてはいけないのに、あれ以来、怪盗が姿を表さないのを安心している自分がいる。  
次、また会うことがあったら、きっと、あの男はあたしの醜態を嬉しそうに語るに違いない。  
そんなこと、そんなことになったら───考えただけで吐き気がした。  
ああ、できるなら一生このまま会うことがなければいい。  
そして結局、ネックレスも返す事ができなかった。汚されたような気がして・・・。  

「なんであんたがココにいるのよ・・・・・・」  
翌日、あたしは署内でこう呟く羽目になった。  
ゆうべあんなにも───もう、会うことがなければいい───と強く願った怪盗が目の前にいたから。  
いや、あたしにも最初わからなかったのよ。あの男だって。  
だって、怪盗の時は実用性通り越してカッコつけてるだけじゃと言うしかない、全身黒づくめの衣装が、  
爽やかなスーツ姿で、しかもあの夜なびいていた金髪は後ろでしっかりと結ばれていて、極めつきには  
ものすごーく穏やかな笑顔で『今日からこちらの署に配属になったガウリイ=ガブリエフといいます。  
よろしくお願いします』なんてのたまったものだから。似てるけど違う人かもって。  
でも、さっきからあたしに絡みついてくるその男の視線は確かにあの怪盗のもので  
───間違いない、あいつだ。  
「おや、リナさん、彼とお知り合いですか?」  
あたしの呟きを聞きつけたのか、署長がニコニコと尋ねてきた。  
「え・・・いや、その・・・」  
さて、どう答えたものか───あたしが考えてると、ふいに横からかかってくる声。  
「ええ、彼女とは知り合いなんですよ。前の署にいたとき事件を解決するのに手伝ってもらって。  
・・・大変優秀で助かりましたよ」  
あの男だ。今度は何をするつもりなの?冷や汗が背筋を伝う。  

「それは丁度よかったです。それならリナさんとコンビ組んでもらいましょうか」  
「ちょ、ちょっと署長!」  
たまったもんじゃない!この男とコンビなんて組んだ日には!  
「どうしました?丁度あなたの相棒も異動になってしまってたコトですし、イヤなワケでもあるのですか?」  
───いやなワケ、大ありですよ、署長サン  
とか思いつつも、生半可な言い訳が署長に通じるわけもないし、アタマを悩ませるあたしの横からまた声が。  
「彼女となら喜んで」  
なんだその満面の笑みは。一体この怪盗はなにを企んでいるの。  
かくて、あたしの抵抗を無視しまくった二人によって、殺したいほど憎い奴とコンビを組む事になってしまった。  

 

「・・・あんた、一体どういうつもりよ・・・・・・」  
怒鳴り散らしたい衝動をなんとか押さえ込みあたしは問いただす。低く低く。ここは人気のない休憩室。  
「あんたじゃない、ガウリイって読んで、リナ」  
「なれなれしく呼ばないで!」  
問いただしてる相手───あのくされ怪盗───のあまりにも飄々とした様子に思わず抑えていた感情が出てくる。  
「なんで、あんたがココにいるか聞いてるのよ・・・」  
息を大きく吸い、なんとかあたしは再び低く問いただした。  

「リナに逢いたかったから」  
あっさりと答えた男に、感情はまた沸点まで上り詰める。  
「ああ、あとコレ返さなきゃいけないしな」  
あたしの警察手帳!なくしたと思っていたら、この男に盗られていたのか。ひったくるようにあたしは奪い取った。  
「今度から盗られないように気をつけろよ」  
アンタが言えるセリフじゃないでしょうに。更にムカムカが募る。  
「ふざけないで!あんたが盗ったくせに!だいいち、あんた刑事だったんでしょ!なんでっ!なんで!」  
「・・・ああ、その事か。面白いだろう?実は泥棒が刑事でしたって───なんて、ベタな小説でもかけそうだろ?」  
と、言いながら楽しげに煙草に火をつけた。  
「吸わないでちょうだい、キライなのよ」  
「───そっか、じゃやめる」  
なんなんだこの男は、なんでそんなあっさりとあたしの言うこと聞くのよ。もうなにもかもむかつく対象だ。  
あたしの内心のイライラは知らずか男は話しを続けた。  
「それに、色々便利だったしな」  

「もしかして、あんた・・・」  
きっとこいつはあたし達が必死で考えた包囲網をいともたやすく入手していたのだ。  
だから、あんな簡単に逃げおおせて───悔しい、悔しい!  
「赦されないわ!今すぐ署長に───」  
「ムダだぞ」  
「なんでよっ!」  
「盗ったものはゆうべのうちに全部返した、もう怪盗はやらない───」  
思わず素でハァと聞き返してしまった。なんなんだコイツは。ホントに。  
「言っただろ?リナに逢うため必要だからさ」  
「ふざけないでっていってるでしょう!」  
「・・・ふざけてなんかいないぞ」  
「それがふざけてるっていってるのよ!あんな!あんなことまでしておいて!」  
あんな、あんな───人を思ってないように犯しておいて!  
感情の激高のあまり目の前がクラクラした。言葉が喉でもつれる。  
「───・・・あの時はああするしかなかったんだ・・・ごめん、な?」  
伸びてくる大きな手。  
「やっ!さわらないで!」  
あたしの髪に触れようとした男の手を反射的にはらい、あたしは全力できびすを返した。  
一刻も早くこの場から立ち去りたくて。この男から離れたくて。  
「おいっ!待て!リナッ!」  
あっというまに声は遠ざかる。  
あの男がごめんといった時の表情───今にも泣き出しそうな、世界中が痛むような微笑み  
───泣きたいのはこっちのほうなのに。なんてあんたがそんな顔すんのよ!  
あまりにも悲しげで、儚くてしばらく瞼の裏から離れそうにもなかった。  

 

かと、いってあたしがどんなに拒否しても、上司命令は変えられるはずもなく───  

 

コンビを組み、数ヶ月がたった。  
信じられないことに、あたしとガウリイの息はピッタリで、次々と犯人を謙虚していった。  
署長に我が署始まって以来の名コンビとかまでいわれて。  
勿論あたしもその間黙っていたわけではなく、なんとかガウリイが怪盗だったということを証明  
しようとしたけれども・・・・・・全くないのだ、それを裏付ける証拠が。でもココで諦めるわけにはいかない。  
季節は変わり、あの夜の傷は癒えても事実は変わらないから。  
彼はなにも言わなかった。時々殺さんばかりの勢いで睨んでるのを気づかないわけじゃあるまいし、  
ウザいくらい「好きだ」とか「愛してる」とは言うのだけれど、あの夜のことは何一つ。  
そして、彼がまとう雰囲気が変わっていった。  
コンビを組んで当初は夜の怪盗らしき顔が出てきたこともあったけど、今となってはすっかり穏やかな顔しかしない。  
そう、すっかり昼の光が似合うように。  

 
 

「まちなさいっ!待たないと撃つわよっ!」  
今にも泣き出しそうな空の下、あたしは逃走する犯人を追っている。  
このままいけば、反対側から回り込んでくるガウリイと挟み撃ちにできる。  
コソ泥ふぜいだから、今日も楽勝な───  
「リナっ!あぶないっ!」  
ガウリイの声。気づいたらあたしにナイフが飛んできていて。  
───だめ!よけきれない!  
衝撃に備え、あたしは本能的に目をつむる。  
が、いつまでたっても痛みはこない、おそるおそる目を開けると手のひらから血を流しているガウリがいた。  

「あんた一体、なにやってんのよ!」  
あきれたというかなんというか、ガウリイは犯人が投げたナイフをあたしに刺さる直前で手のひらで  
受け止めていたのだ。飛んでくるナイフを素手で。普通の人間じゃできないぞ、こんな真似。  
「リナこそ、なんで犯人おわなかった」  
「・・・・・・・・・どっちみち、この雨じゃ追うのはムリよ・・・」  
と、窓の外に視線を向ける。巨大バケツをひっくりかえしたような雨が降っている。  

数ヶ月の間でこいつとはなんとか、普通に会話を交わせるようになってきた。  
最初は噛みつかんばかりの勢いだったあたしだけど、署長とか他の同僚の目もあるし、  
何より捜査に支障をきたしそうだったし、仕方がなく会話してあげてんのよ。楽しくなんかないんだから。  
「ん、手当終わったわ」  
ちなみにココは車の内。いったん、手当しに戻ったらこの雨で。  
しばらく足止めみたい。ああ、ヤだな。こいつとなんて二人っきりになりたくないのに。  
それにこのひどい雨、外との接触をたたれた気がする。  
雨の音しかしない静寂の世界。まるで、まるで───  
「リナは優しいな───・・・」  
ガウリイの声がちょっとばかり別世界へコンニチワしていたあたしの意識を連れ戻した。  
「あ・・・ああ、ただ自分をかばって怪我されただなんて後味悪いだけよ。  
あんたのコトなんてなぁあーーーんとも思ってないから。むしろあたしの知らないトコでシネ」  
運がイイコトにこいつの傷は浅かった。  
「───リナちゃん、冷たひ・・・」  
ったく、イイ年こいた大の男が情けない顔するなっつの。  
包帯を目の前のダッシュボードに片づけながら、あたしは前々から気になっていたことを、ふと尋ねてみた。  

「ねぇ・・・あんたなんで怪盗なんてやってたの?」  
どう考えてもこいつが理由なしに怪盗とかするやつじゃないってのは、ココ数ヶ月でわかってた。  
「───え?」  
「いや!いいのよ!話したくなければそれで!あんたの事なんてどうでもいいし!」  
そう、どうでもいいんだから。ちょっと気になってただけなんだから。  
「あー・・・忘れた」  
───ガスッベキッ  
「こんのくらげアタマがぁぁ!」  
「わー!ごめんなさい!嘘!ほんのオチャメ!だから警棒でなぐるのはやめてくれ!」  
それでよし、と言いながらあたしは警棒を元に戻した。最初から素直になれば痛い目見ずにすんだものを。  
「んーとな、家宝を探していて」  
「は?家宝?」  
「そ、家宝の宝石。なんか百年前に盗まれたんだとさ」  
家宝のある家って・・・こいつの家ってもしかしてお金持ちとかなんだろうか。  
「で、オヤジが一生かけて探しててさ。じゃあ俺もやってみようかなって」  
・・・やってみようかなで、あんなに盗んでたんかい。  
「それにオヤジが家族ほおりだしてまで、探しだそうとしたものを見てみたくて、な」  

───また、まただ。あの表情。今にも泣き出しそうで、困ったような微笑み。  
ガウリイのこういう顔を見るたびに、あたしの胸はわけのわからぬ思いに満たされる。  
たたき壊したいような、抱きしめたいような、泣きたいような、本当にわけのわからない気持ち。  
どうにか消し去りたくてあたしは言葉をつぐむ。  
「どうして、それをやめたの・・・?」  
ガウリイ、ふっと息を吐き、あたしを見つめた。  
「そんなもんより、大事なもんができたから、かな───」  
──────あ。  
だめだ。気づいてしまった。  
ガウリイと視線が絡み合う。引き寄せられるようにキスをして、しまった。やわらかな唇の感触。  
・・・いつの間にか、あたし、憎みながらこの人のことを───囚われてしまった。  

「・・・ん・・・っぁ」  
口づけは深く、深くあたしを貪る、おそるおそる舌を絡ませると、唾液が行き交った。  
耳の奥で水音がする、雨の音に混じって。天井を舌がかすめ、上唇を甘く噛まれると、  
体の奥がジワッと熱くなる。頬が火照りだし、目が潤むのがはっきりと解った。  
いつのまにかあたしはガウリイの背に手をまわし、力を込めるほどキスに夢中になっていて。  
頬に包帯でつつまれた大きな手がソッと添えられた。触れられてるトコがとても熱い。  

「いやなら抵抗していいんだぞ・・・リナ」  
サングラス越しじゃない熱を持ったガウリイの瞳があたしを射抜くように見つめた。  
抵抗?そんなのできるはずがない───だってもっと触れてほしい。  
額に、瞼に、鼻先に、優しいキスが降ってくる。空いた片方の手でガウリイは助手席のシートを倒し、  
席をスライドさせた。覆い被さってくる体。あたしにかかる重みが少し心地よい。  
ガウリイの手が服にかかった。内心ビクリとしたけれど、大丈夫。その手はナイフに変わらないはずだから。  
器用に服にかかった手は動き、あっという間にあたしの服をはだけさせていた。  
ザラついた手が服と肌の間にもぐりこんできて、ブラのホックをはずす。そのまま持ち上げられて、乳房が露わになった。  
「ふ・・・ぁあ・・・っんっ」  
ガウリイが胸に顔をうめ、先端が吸われると、唇から声が漏れてしまう、自分の口から出たとは思えない甘い声。  
しばらくあたしの胸を弄んでいたガウリイの舌は上へと移動し、首筋を責め立てる。  
嬌声はもう抑えることができなくなっていて、ひっきりなしに唇から漏れた。  
意識をガウリイの舌にとられていると、膝に手がおかれた。手は軽く開いた膝の隙間から、スカートの奥へと。  
「やっ・・・」  
止めるまもなく、下着を膝のとこまで下げられる。  
じっとりと湿ったソコは外気を冷たく感じさせた。こんなに濡れてしまってる・・・。  
───くちゅっ  
明らかに雨音と違う音が、あたしから発せられた。  

「はっ・・・ぁっ・・・ぁんっ」  
太い指が閉じられたソコを割り、あふれ出る液をすくい取った。  
指は滑るように裂け目を移動し、肉芽をこする。  
「あああっ───」  
腰が浮いてしまうほどの快感にあたしは大きく喘いだ。  
抱きかかえるように背中に腕をまわされ、ガウリイの腕のなかでくるりと体が反転  
───シートと抱き合うような形にされる。  
露わになった乳房とシートの間に手を差し込まれ、包み込むように揉まれた。  
「あっ・・・んっ・・・ガウリイ・・・」  
そんなに強く揉まれてないのにこんなに感じてしまうなんて。  
「リナ───・・・」  
耳元で囁かれたあたしの名前はすごい熱をもっていて、じんわりと体のんかに広がった。  
「・・・はじめて名前呼んでくれたな・・・」  
そういえば今まであんたとかばっかでマトモに呼んだことなかったかも・・・・  
「もっと呼んで?リナ」  
胸の先端を指で強く摘まれる。  
「んっ・・・ガウリイ・・・あぁんっ」  
あの夜は決して呼ぶことのなかった名。  
「リナ───・・・もっと」  
伸びてきた指が肉芽ををさぐる。  
「ガウ・・・ぁっ・・・りっ・・・ふぁっ・・・やぁあ」  
骨ばった指があたしのナカに挿し込まれた。  
「リナ───・・・愛してる」  
「あっ・・・ガウリイ・・・あたしっ・・・もっ・・・あああっ!」  
どんどん大きくなる快楽にあたしは耐えきれずはじけた。  

 

ぐったりとした体をシートに預けていると、お尻に熱くて堅いモノが押し当てられた。  
「あ・・・」  
「いいか?リナ」  
若干不安げなガウリイの声。  
「ここまできて、ダメなわけないじゃない・・・んっ」  
言い終わるか終わらないうちに、ガウリイのモノが後ろからゆっくりとはいってくる。  
───ぬぷっ  
「あんっ・・・ぅ・・・んんっ」  
鈍い痛みを伴って、狭い肉が開かれていく感覚。  
「リナ・・・痛くないか?」  
律儀にも抽送をとめ、聞いてくるガウリイ。  
「んっ・・・大丈夫・・・続けてっ・・・」  
じきにガウリイのものがあたしのナカに全て納まる。ドクドクと脈打ってるのがはっきりと感じられて。  
「はっ・・・リナ、俺もう我慢できないからなっ・・・」  
その言葉とともに激しく腰を動かしだすガウリイ。  
「ああっ・・・ゃっ・・・そんなっ・・・うごかないでっ・・」  
突き上げるような激しい波ににあたしはシートを掴んでいた手に力を込めてしまう。  
ガウリイはあたしに何度も自分自身を打ち込み、その度にあたしは淫らな声と蜜を溢れさせた。  
グチャグチャに掻き回され、熟れたあたしのナカはもう痛みなど感じず、快楽を受け取る事しかできなくなって───  

「はっ・・・がうりいぃ・・・ぁっああっ」  
もっともっと打ち込んでほしいの。逃げられなくなるまで。  
「っ・・・リナッ」  
苦しげにあたしの名を呼び、ガウリイはあたしのナカに精を放った。  
熱いなにかが駆けめぐり、それに押し出されるようにあたしが果てると、  
ねっとりとしたものがあたしからあふれ出るのがわかった。  

 

「───って!なにしてんのよっ」  
荒い息を整える間もつかず、あたしは大声を上げた。重大なコトに気づいたから。  
「早く帰って、犯人に逃げられたこと報告しなきゃいけなかったのに!ガウリイのバカーーー!」  
あれからかなり時間がたっちゃってる。  
「リナ・・・二回もやっといて言えることじゃな・・・げふっ」  
鳩尾に一発。あの後、もう一回しちゃったなんて恥ずかしいコト思い出させるからよ。  
「車だして!早く!」  
あたし達の体温ですっかり窓がくもっちゃってるし・・・。拭うとまだ雨は降り続いてるトコだった。  
「はいはい───・・・っと、リナ」  
「何よ?」  
「ありがとう、な」  
「・・・・・・どういたしまして」  
我ながら愛想なく答えて、ソッポを向く。  

なんだか、やっとネックレスを祖母に返せそう───雨があたしとネックレスの汚れを流してくれた気はして。  

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