「あぁ、食った食った……」  
ゼフィーリアへの途中。宿の食堂で腹を満たしたオレ達は、それぞれ部屋に引っ込んだ。  
甲冑を外してから、気付かなかったキズなどがないか確認し、長年の習慣で長剣を鞘から抜き放つ。  
 
呪符によって切れ味が抑えられている程なので、この剣に刃先の手入れとかそういったものは不要なのだと思い出し、鞘にしまう。  
柄元の意匠は光の剣とずいぶん違う。  
 
ここ数年で得たものと、失ったもの。順に考えるまでもなく、リナの事が頭に浮かぶ。  
 
初めて会ってから、ほぼずっと保護者として側にいる。  
手触りのいい髪と、くるくると変わる表情、ある時は危機を救い、またある時は容赦なくオレを巻き込んで叩きのめす呪文を紡ぐ唇。  
それからオレ程に食べてるのに、筋肉質といえるほどの筋肉も女らしい胸の肉なども付かず、細く小柄な体。  
比較する相手がいないので分からないが、リナの使う魔法はそんなにエネルギーを必要とするのか?  
 
胸を気にしているのは知ってる。でも実は尻の形がいいというのは内緒だ。誰にも教えてやらん。本人にもまだだが、言ったら吹っ飛ばされる気がする……。  
 
熟睡している時や、機嫌よくニコニコしている時は普通の女の子に見えなくもない。  
そんな時は、少しもやっとする。  
顔は可愛い方だし、小柄で華奢だし、お人好しだし、ごたごたに首を突っ込むのと無茶をする性格がなくて、胸その他がもう少し育てばきっとモテるだろう。  
近所にいる男の誰もが噂にするくらい。女の誰もがリナをやっかむくらい……あ、モヤモヤする。やめよう。  
 
 
そう言えば、リナが無茶をするのは人のための事がおおい。  
それで自分の髪が銀に変わっても、死にそうになっても、結果オーライなら笑っている。  
オレが保護者なのに、囚われたオレを助けるために無茶をした事もある。  
なんだかなぁ、普通は逆だろ。  
でも、自分の道は自分で切り開くのがリナだ。例え道をふさぐのが勝ち目のほぼない相手でも、勝つ為に最善を尽くせることは、尊敬している。  
その結果としてオレ達はここにいて、これからリナの実家にいく予定だ。  
着いたらどうなるのか……とかはあまり考えていない。  
 
若い娘さんの実家に男が行くとなると、やはりここは「娘さんをください。」がセオリーなんだろうか。  
そりゃ、リナの身も心も欲しい。  
オレの名前を呼ばせて、オレの事だけ考えさせて、細い穢れのない体をオレだけのものにしたい。  
オレのモノだって印を胸と言わず腰と言わず、身体中あちこちにつけたい。  
快感に喘ぐ声を聞きたい。どこもかしこも独り占めして、オレなしでは生きられないくらい惚れさせたい。  
夜通し抱いて、気だるい朝を過ごしたい。  
 
でも……そうしたらリナはリナではなくなるかもしれない。  
少なくとも、リナらしくはない。  
 
まだリナは性について、ほとんど何も知らないまま。  
だからこそ保護者として側にいられるってわけだ。無理やりにするのは好きじゃないし、多分それは無理だし。  
中途半端に知識をつけて興味本意で誘われたら、断る自信はあるが傷つけない自信はない。  
プロポーズするにしても……先は長いな。  
 
 
「ガウリイ、ちょっといい?」  
 
おおっと我が愛しのお嬢さんからのお呼び出しだ。まだバレませんように。えーっとクラゲクラゲ……  
 
「おう、開いてるぜ〜」  
 
 
おわれ。  
 

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