それはごく自然だった。
昼間の戦いの傷を癒し、明日の戦いのことを話している時に、ふと訪れた沈黙。
お互いの眼を見つめ合っているうちに、だんだんと顔が近づき――――唇が重なった。
初めて重ねた唇は少しかさついていたが、柔らかく、温かく、その感触に胸が震えた。
ガウリイの手がリナの背中をかき抱き、リナの手がガウリイの首をかき抱く。
今まで共にいた長い長い時間、何なかったことを埋め合わせるかのように激しく口付け合う。
「・・・・・・ガウリイ・・・・・・」
「リナ・・・・・・」
性急なぐらいにお互いを求めて、服を脱がしあう。
ガウリイの手が、唇が、リナの体中を這い回り、その感触にリナは頭をのけぞらせた。
「リナ・・・・・・リナ・・・・・・」
うわごとの様に繰り返しながら、ガウリイはリナの体を貪った。
その小ぶりでも形のいい胸や、白くて滑らかな肌や、敏感に反応する耳や、
さらりと広がる艶やかな髪や、小さく愛らしい唇や――――
リナの体のパーツの全てが愛しくてたまらない。
「ガウリイ・・・・・・っ」
リナも必死でそれに応える。
ガウリイの髪をかきあげて、引き寄せた顔のいたるところに口付けを繰り返し、たくましい胸を撫で回す。
今ここに、確かにふたりいる――――
お互いの肌の感触と、荒い息遣いでそれを実感する。
「リナ・・・・・・」
ガウリイの指がそっと、リナの足の間に入った。
「――――っ!」
リナがびくり、と体を震わせた。
「あっ・・・・・・」
「リナ、濡れてる。」
感じてくれてるんだな、とガウリイは嬉しそうに笑う。
「・・・・・・ばか」
当たり前じゃない、とリナが恥ずかしそうに笑う。
ガウリイがマントを広げてリナを横たえた。
「ガウリイ・・・・・・」
少し不安そうな表情のリナを安心させるように、ガウリイは頭を撫でる。
リナはガウリイに両手を差し伸べて、ガウリイが応えて身を倒すとしがみついた。
「怖いか?」
「・・・・・・ん、少しだけ。でもガウリイだから、大丈夫。」
「そっか。」
ちゅ、と音をさせてリナの頬に口付けて、そこから下へ下へと降りていく。
時々舌でくすぐりながら、リナの体の傷跡にそって唇を這わせた。
「あっ・・・・・・」
「キズ、消えなかったな。」
今まで繰り返してきた戦いの跡が、リナの体のあちこちにある。
こんな小さな体で世界の命運を背負って、命をはった戦いを繰り返してきたなんて思うと、
ガウリイは少し切なくなって、どうしようもなく力いっぱい抱きしめたくなる。
抱きしめて、腕の中に閉じ込めて、もう何も危険なことがないように守っていきたい――――
「リナ・・・・・・」
もう一度足の間に指を差し込み、今度はそっと動かす。
「ふ・・・・・・っ」
「痛かったら、言えよな。」
ゆっくりと指を入れていく。
「あ、ガウリイ・・・・・・」
リナが求めてきたので、ガウリイは唇を重ねた。
深く優しく舌を絡ませながら、差し込んだ指を少しずつ進めて動かす。
たっぷりとぬれたそこはガウリイの指に絡みつき、もっとちょうだい、と誘っているようだ。
十分時間をかけて慣らしてから、リナの足の間に体を入れて聞く。
「そろそろ、いいか?」
「・・・・・・うん、来て・・・・・・」
ガウリイはリナの瞳を見つめながら、ゆっくりと自身を埋めていった。
「ああっ!」
想像以上の痛みを感じながらも、リナは眼を閉じることはせずに、ガウリイを見つめる。
青い瞳と赤い瞳は潤んで絡み合い、それが体が繋がることよりも心地良い。
「リナ、リナっ」
「ああ・・・・・・ガウリイ・・・・・・っ」
ずっと前からひとつになっていた心に遅れて、ようやく体もひとつになった喜びに
二人でお互いを抱きしめ合う。
音のないカタートの地にふたりの声だけが響き渡っていた。
サラサラとした感触の髪を、お互いに触りあう。
事後のけだるいような、くすぐったいような雰囲気に二人は包まれていた。
ぼんやりと紅い月を見ているリナに、ガウリイが話しかけた。
「何考えてんだ?」
「ん・・・・・・みんな、どうしてるかなって。」
「・・・・・・リナ・・・・・・」
呆れたようにガウリイが言う。
「普通、こーゆーときはオレのこと考えるもんだろ。」
ちょっと情けなさそうな声のガウリイに、リナはぷっと吹き出した。
「それもそーね。悪かったわ。」
「ま、お前さんらしいと言えば、らしいけどな。」
ガウリイはリナの髪を一房つかんで口付けた。
「オレのことだけ考えろよ、今くらい。」
何もかも忘れて。
本当はガウリイには分かっていた。
今、リナが何に心を捕らわれているかなんて。
このカタートに入ったときは一緒だったルナの気配が、しばらく前に消えた。
自分たちの前に立ちはだかった獣神官の相手を彼女が引き受け、その獣神官の気配と共に消えた。
人より感覚が鋭敏なガウリイはもちろん、その身に人間ならざるモノを宿したリナも気付いていた。
今度ルナと会えるのは、混沌の海か、転生の果てか――――
リナはガウリイの胸に顔をうずめて、じわりと湧き上がってきた感情に耐える。
「リナ」
ガウリイはいつものようにリナの頭を撫でた。
「もったいなかったよなー。」
「ガウリイ?」
聞きなれた、のほほんとした声に思わずリナが顔をあげると、ガウリイがぱちんとウィンクをする。
「もっと早く、こうすればよかったな。リナとするのがこんなに良かったなんて。」
「・・・・・・ばか・・・・・」
消えそうに小さな声だったが、確かに笑いを含んだ声でリナが言う。
「ね、ずっとこうしたかったの?」
「もちろん。いやー、オレよく我慢したよなー、って自分を褒めてやりたいくらいだ。」
「ばかねぇ・・・・・・」
発作のように襲ってきた笑いに肩を震わせながら、リナがガウリイに腕をまわして口付けた。
「じゃあ、もう思い残すことなんて、ないのね?」
さりげなく言われたリナの覚悟に、ガウリイは眉をひそめて答える。
「まさか!1回じゃ全然足りない。今までずっと我慢してたんだ。」
だから、とガウリイはリナに口付けを返す。
「コレが終わったら、またしような。」
この戦いが終わったら――――
「ガウリイ・・・・・・」
リナが何かを言おうとするが、ガウリイは再び唇を重ねてそれをふせぐ。
「言っとくけど、オレ、ひとりじゃ帰らないからな。
あと、お前の姉ちゃんに告げ口するネタも、山ほど持ってるからな。」
ふざけたような口調だが、ガウリイの瞳は真剣そのものだ。
「ガウリイ・・・・・・」
「どっちもダメだぞ。」
リナの覚悟はあっさりと拒否される。
相討ちになったなら、それでいい。
自分を保ったまま勝てたなら、今度は自らをカタートに封じる――――
「リナはオレと一緒に帰るんだ。」
そんな悲壮な覚悟も、あっけなく打ち砕くガウリイの覚悟。
「ガウリイ・・・・・・」
でも、とリナはためらう。
日に日に増していく、破壊の衝動――――盗賊いびりなんかでは解消できないくらいの。
心の奥に巣食う紅い闇――――じわりじわりと広がっている。
いつか侵食される日が来るのではないか?
――――彼らのように。
あの赤法師でさえ勝てなかったこの存在を、抑え込むことができるのだろうか。
それとも、もう一人の彼のように、自分の一部として受け入れて、人であることを捨てるのか。
「なあ、リナ。これが終わったら、ちょっとゆっくりしような。」
今までめぐってきた街や国を振り返って、もう一度行きたい所やおいしかったものについて話そう。
それに飽きたら、どこか静かな所に小さな家を建てて、のんびり暮らそう。
たまにアメリアやゼルガディスを呼んでもいい。
リナの手料理を食べながら、みんなで呑んで、朝まで語り合おう。
これまでのことやこれからのこと。
世界の行く末のことなんか忘れて、ただ毎日を生きていこう。
「素敵ね。」
リナが微笑む。
そんな風に過ごせたら、どんなに素晴らしいか。
ガウリイの言った未来に思いをはせると、胸の中が温かくなるのがリナには分かった。
魔族との戦いなんてない、平和で平凡な毎日――――
そんな日々が送れるのだろうか?
この身に、魔王の欠片を有したままで。
「なあ、リナ。オレ、子供の名前の候補、いっぱいあるんだ。」
エリス、アルフレッド、ディラール、アリア、ベル、ルーク、ミリーナ――――ルナ。
「だから、いっぱい子供作ろうな。」
そう言って笑うガウリイに、リナは頬を寄せた。
出来るかもしれない?
「ね、ガウリイ。」
「ん?」
「あたし、あんたとだったら、何でも出来る気がするわ。」
「奇遇だな。オレもだよ。」
ふたりでずっと戦って、生きてきた。
背中を預け合って、信じて、助けて、助けられて、ずっとずっと一緒だった。
心も体も一つになって、半身を得た実感から、まるで完全体になったような気分だ。
「だから・・・・・・」
だからきっと大丈夫。
こんなモノ、ガウリイさえいれば、勝てるはず。
今までだって、勝利を収めてきたのだから。
だから帰ろう、みんなのところへ。
そして、幸せになろう、みんなの分まで。
今までずっと、戦ってきたのだから。
だから、そのために――――
明日、レイ=マグナス=シャブラニグドゥを倒す。