「おやおやリナさん。こんなところで一体何を?」  
累々と横たわるドラゴンとエルフの死骸の中、後ろから突然掛けられた声に驚くこともなく  
リナはゆっくりと振り返った。  
「・・・・・・あたしがどこで何をしようが、勝手でしょう?」  
今まで触れていた、かつて知り合いだったドラゴンの体から手を離し、立ち上がる。  
「僕が以前言ったことを覚えていますか?」  
「次に出会う時は敵同士――――命の取り合い、ってことかしら?」  
「覚えているなら、なぜここに?」  
「答える義務はないわ。」  
瞬間ゼロスの体がかき消え、すぐにリナの目の前に現れると、リナの体を抱きすくめて  
指で顎を捉えた。  
「僕がここにいることは判っていたはずです。」  
「そうね。」  
「皆さんはどうしたんですか?」  
「セイルーンの正規軍と一緒にいるわよ。」  
「無謀ですね、お一人で来るなんて。」  
「そうかしら?」  
「・・・・・・無謀ですよ。人間側の“切り札”である貴女が、一人でここに来るなんてね。」  
「・・・・・・」  
ゼロスの瞳が開き、リナをじっと見つめる。  
「まさか、お一人で僕に勝てるとでも?」  
「・・・・・・」  
普段のリナからは考えられない口数の少なさに焦れたように、ゼロスは突然リナの唇を奪った。  
人間ならざる体でその感触を味わうかのように、深く深く舌を絡ませる。  
「――――っ・・・・・・ゼ、ロス・・・・・・」  
苦しい息のなか、リナはもがいてゼロスから逃れようとするが、しっかりと腰にまわされた手は離れない。  
ようやくゼロスの唇が離れた時には、お互いの間に濡れた糸が引き、それが自分と忌わしい魔族の間に出来た  
淫靡な絆に思えて、リナは唇をなめてそれを切った。  
「リナさん・・・・・・」  
ゼロスの表情はどこか恍惚としていた。  
「僕は“生きている”貴女を気に入っているんです。」  
ゼロスの手がゆっくりとリナの体の上を這うと、音もなく服が裂けた。  
「ちょっと!」  
「貴女のその負の感情・・・・・・」  
「ゼロスっ!」  
「たまらなく、甘美だ。」  
あっという間に、服の役割を果たさなくなった布をまとわりつかせたまま、リナは地面に押し倒された。  
――――生前知り合いだった、ドラゴンの側に。  
「貴女の怒り、羞恥、恐怖・・・・・・どれも素晴らしい。」  
ゼロスの手がリナの胸の頂をきゅっとつまみあげる。  
「んんっ――――」  
痛みとわずかな快感に、リナが目を閉じて耐える。  
「ねえ、リナさん。この行為にはどんな意味があるんですか?貴女達人間にとって。」  
性急に、確実にゼロスはリナを快楽に陥れる。  
「快楽のためですか?種の保存のためですか?」  
ゼロスの手が足の間に入り、最も敏感な部分を触り始めても、リナはじっと耐えた。  
「少なくても僕は楽しんでいますよ。貴女の負の感情をね。  
 ――――ああ、濡れてきました。気持ちいいんですね?」  
「くぅ・・・・・・っ」  
こんなところで――――累々と横たわるドラゴンとエルフの死骸の中で、魔族に犯されている。  
その事実がより一層リナの負の感情を高めた。  
「リナさん、恥ずかしいんですね。――――ミルガズィアさんに見られて。」  
ゼロスはわざとらしく側のドラゴンの死骸が見えるように、リナの体を抱き上げる。  
それでもリナはじっと耐えた。  
――――まだだ。まだその時ではない。  
湧き上がる負の感情は抑えること無くゼロスにぶつけたまま、リナが考えるのはゼロスのことではなかった。  
 
みんな、死んだのだろうか。  
人間の軍隊に先駆けて攻撃を開始したドラゴンとエルフの連合軍は、  
このゼロスの手にかかって全滅したのだろうか。  
このカタートの地で。  
 
「リナさん、何を考えているんですか?」  
「・・・・・・全滅したの?」  
「ああ、ドラゴンとエルフの皆さんのことですね。」  
再びリナを地面に横たえると、ひざの裏に手をあてて両足を広げる。  
「もちろん、僕が殺しましたよ。一人残らずね。」  
ゼロスは顔をリナの足の間に近づけると、太ももをひと舐めした。  
ぴくりとリナの足が震える。  
「無謀ですね。たとえ連合軍と言えど、所詮はドラゴンとエルフ。僕を相手取るには役者不足ですよ。」  
ねえ、リナさん?と余裕のある表情の下に隠された疲労を、リナは見抜いた。  
 
おそらく、ドラゴンとエルフは全力でゼロスと戦ったのだ。  
自らの命を顧みることなく、全力で。  
たとえゼロスを倒すことが出来なくとも、消耗させることが出来るように。  
そうすれば、自分たちの後に続く者がゼロスを倒してくれると心から信じて。  
人間側に存在する“切り札”が、きっと倒してくれると。  
 
 
ぴちゃり  
ゼロスの舌がリナの秘裂を舐めた。  
「あっ・・・・・・」  
思わず声をあげてリナがのけぞる。  
「いいですね、ますます羞恥の感情が増えましたよ。」  
感情のないはずの魔族が、嬉しそうにその行為に没頭する。  
舌でリナの先端を回すように舐め、同時に指を差し込んで中から愛液をかき出す。  
「あっ・・・・・・あん・・・・・・ああ・・・・・・」  
快楽に頬を染めたリナの艶やかな姿に毒されたかのように、ゼロスもうっとりとした表情を浮かべる。  
「いいですよ、リナさん。もっと僕を憎んでください。その負の感情が、僕を癒してくれます。」  
「ゼ、ロ、スっ・・・・・・」  
「ああ、わかりました。欲しいんですね?コレが。」  
いつの間に服を脱いだ姿になったのか、全裸のゼロスの股間には人間と同じようなモノがあった。  
「――――っ!?」  
「今、入れて差し上げます。」  
言うか言わないかのうちに、ずずっとゼロスの象徴がリナの体に入りこむ。  
「ああああああああっ!」  
強烈な圧迫感と快感に、意識が飛びそうになる。  
「いいです、いいですよ、リナさん・・・・・・」  
ゆっくりと腰を動かしながら、うわごとのようにゼロスは呟いた。  
リナからあふれ出る憎悪、羞恥、恐怖――――それらが自分自身の傷を癒していくのを感じながら。  
「あんっ、ああ、あふぅ・・・・・・んっ、ああ・・・・・・」  
ゼロスが腰を動かすたびに、リナが悶える。  
「素晴らしいです、リナさん。」  
ゼロスはリナの負の感情に溺れた。  
疲労の余り、迂闊にも失念していたのだ。  
――――リナが普通の人間ではないことを。  
リナに快楽を与え、そこから生み出される負の感情を貪ることに、自らの見えない傷を癒すことに専念してしまった。  
ほんの、一瞬。  
その一瞬で、リナには十分だった。  
 
「ルビーアイ・ブレード!」  
「――――っ!?」  
解き放たれた力ある言葉に、驚いてリナを見るがもう遅い。  
紅い輝きを放つ刀が、リナの手から生み出されている。  
それは間違いなく自分の中心を、アストラルサイドの自分をも貫いていた。  
「・・・・・・リナさん・・・・・・?」  
「ゼロス・・・・・・」  
自らの中に入ったままのゼロスを感じながら、リナは最後の別れにゼロスに自分から口付けた。  
「悪いわね。」  
自分の魔力を手の中の紅い剣に注ぎ込む。  
 
かつて倒した欠片の一つを思いながら。  
かつて自ら手に掛けた仲間の思いを込めて。  
自分を信じて命を捨てたドラゴンとエルフのためにも。  
そして――――  
 
リナと共に混沌の海に還ることを無意識に望んでいた、高位魔族に安息を与えるために。  
 
「さようなら、ゼロス。」  
ゼロスは理解した。  
自分が何を望んでいたのか。リナがなぜ一人でここを訪れたのか。  
「リナさ――――」  
呟きが言葉になる前に、リナは大きく手を振り上げた。  
 
音もなく切り裂かれる。  
 
霧が晴れるように、黒い何かがさらさらと空気に流れた。  
リナの中にあった存在も消えた。  
「・・・・・・悪いわね、ゼロス。」  
もう一度リナは謝罪の言葉を口にする。  
「あたしはまだ死ぬわけにはいかないのよ。」  
全裸の体を地面から起こすと、遠くの峰を見つめる。  
「あたしは、もう一つのあたしを倒すまでは、死ねないのよ。」  
 
だから、ひとりで滅んでちょうだい。  
あたしは、あたしを倒すから。  
 
明日、レイ=マグナス=シャブラニグドゥを倒すのだから。  
 

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