スレイヤーズ  

 ぱちぱちと火が爆ぜる。  
 うっすらと目を開けると、滲む視界の向こうで、オレンジの縁取りをした女  
のシルエットが見えた。  
「あれ、起きたの? まだ交代には早いわよ?」  
 自らの高い声で仲間を起こさないよう気を遣ってか、リナは低い声を作って  
囁きかけてくる。  
「……そうか」  
 ぼそりと応えるゼルの声もまた、寝起き故に随分と低い。  
「……どしたの? なんか、具合悪そう」  
「ん…………アツイ……」  
 気温は高くない、むしろ涼しい位なのに、ゼルの躰は嫌に熱を帯びている。  
 熱さに眩暈がして、それをやり過ごそうと眼を閉じと、遠く近く、甘く蒸れ  
たような匂いを嗅ぎ取った。  
 熱帯の夜のような、果実が腐っていくような、そんな甘さ。  
 ひたりと頬に手を添えられて、その冷たさに思わず手を伸ばした。  
「少し、熱いわね。熱でも出たのかしら…」  
 触れたのはリナの手。それも、グローブを脱いだ素手が、ゼルの頬に添えら  
れていた。  

 彼女の手に触れていることをリナ自身はさほど気に止めた様子もなく、アメ  
リアはもう朝まで起きないし、ガウリイ起こしても何が出来るとは思えないし  
、などと対処法を口の中で呟いている。  
「仕方ないわね、あなたの分も見張りしておくから、朝まで眠ってていいわよ  
」  
「……しかし……」  
「いーからいーから。無理しないで。その代わり、今度何か奢ってねv」  
 ゼルの前髪を撫でつけながらほほえむリナの表情に、彼の心臓が大きく跳ね  
た。柄にもない、と自分で思いながら、鼓動が早まるのはどうにも止められな  
い。  
 鼻孔にまとわりつくあの甘い匂いが、頭の中に染み込んでいく感覚―――  

 気が付けば、その細い手首を掴んでいた。  
「ゼ、ル?」  
 戸惑いがちに囁かれた自分の名前。驚いて見開かれた血色の瞳。彼の頬にさ  
さやかに触れる、栗色の柔らかい髪…………  
 リナの全てが、ゼルの中で膨らんでいく。  
「っ!」  
 力任せに腕を引き寄せれば、リナはベクトルに従って、ゼルに覆い被さるよ  
うに倒れ込む。  
 射程距離に収めた獲物を逃すまいと、ゼルは両腕で彼女をきつく抱きすくめ  
た。  

「ちょ、ゼル……っ」  
 リナはとっさに彼の胸に肘を突き、躰を起こそうと藻掻くが、彼女の細腕如  
きでどうにか出来るような力ではない。  
 睨み付けてきたリナの後頭部に手を添え、唇を触れさせた。  
「……ン………っ…?!」  
 舌を割り込ませ、絡めとる。鼻にかかった吐息。ゼルの頬に、尖った耳に触  
れる長い髪。  
 深く舌を伸ばし、口腔内を舐め尽くそうとする。  
 腕の中でリナが藻掻く。それさえも、ゼルの中に押し込められ続けてきた彼  
女への劣情を煽るだけ。  
「っ…やめ……ゼル…なにして…」  
 もっと深くと角度を変え、息を継ぐ隙にリナは弱い抗議を囁いた。  
「ずっと、我慢してたんだ……」  
 あの甘い匂いが囁きかける。  
「抱きたいって…お前さんを…体中、好きにしてみたいって、思ってた」  
 甘ったるい匂いが全てを埋め尽くす。頭が痛い。  
「…………好きなんだよ、お前が」  

思考を奪うほどの甘い匂いに苛まれ、頭痛と酸欠でくらくらする頭を振る。  
 既にリナは、自分の腹の下だ。  
「ゼル、ちょっと待ってよ……そりゃあ、あなたの気持ちは嬉しいけど…  
 ………何も、こんな処で………その」  
 オレンジに縁取られたリナの頬が、赤く染まっているのが分かる。瞳が潤ん  
でいるのは怯えているせいか、先刻のキスが苦しかったのか。  
 まるで酷い睡魔に取り憑かれているようにくらくらする頭で、ゼルが唯一考  
えられるのはリナのことだけ。彼女の抗議の声も、殆ど理解できてはいない。  
「…………リナ」  
 ショルダー・ガードもマントも外させ、くつろげたチャイナカラーの襟から  
覗けた素肌にくちびるを寄せる。きつく音を立てて吸い上げると、リナの躰が  
震えるのが分かる。  
 耳を丹念になぞり、耳朶を噛み、耳の穴に舌先を僅かに触れさせた。  
「っ、ン」  
「…耳、感じやすいんだな………」  
 心細いのか胸の前で交差させられた細腕を退かし、残りの隠しボタンを片手  
で器用に外していく。触れた素肌は、火に当たっていた割につめたく冷えてい  
た。  

「………冷たい」  
 はだけた胸に唇を下ろす。一対の膨らみをやわやわと揉みしだき、そのまろ  
みを丹念に味わう。指先で探り当てた果実を円を描くようにこねくり回せば、  
殺しきれない声が微かに聞こえてくる。  
「っ………ふ」  
 抗いきれない衝動に駆られて、感情の赴くままにそこを口に含む。  
 リナの背なが、大きく仰け反った。  
「んぅうっ!」  
「…………リナ………」  
 夢にまで見た少女が、今こうして目の前で悦楽に震えている。  
 否、これもまた夢ではないのか?  
 頭の中がどうにもすっきりしない。甘い匂いがやたらと鼻について、その所  
為か頭痛も酷い。  
「なぁ………夢じゃ、ないよな?」  
 茫洋とする視界の中に収めたリナの貌が、刹那、険しくなって―――  
 ――――頭に衝撃が走る。  
 岩で出来た膚だから外部からの痛みはないが、スリッパ殴打によって頭をシ  
ェイクされて、酷い頭痛が殊更酷くなった。  

「あのねぇ、寝ぼけて襲って告ったなんて、人をおちょくるにも程があるわよ  
?! 大体順番が違うじゃない!」  
 あられもない姿ながら、びしっと指を指してゼルを糾弾するリナは、確かに  
夢の中で見るような儚いものではない。  
 熱やら匂いやら頭痛やらでごっちゃになった頭でも、それは十分理解できた  
。ゼルは自然と、口許が綻ぶのを感じる。  
「………そうか。よかった」  
「あんたねぇ………っ、だから……こーゆーことは……」  
 この至福が現実だと知って納得したのも束の間、ゼルは改めてリナへの愛撫  
を再開し、リナは気持ちよさで彼方へ飛ばしていた抗議を再開する。  
「こーゆーことは……宿屋の、ベッドの上がいいか?」  
 幾ら抗議されても、もうこれは止められない。  
 欲しい。欲しい。リナが、欲しい。今すぐに。  
「だ、からっ……そこで…んっ……ふたりとも…」  
「そんなに気になるなら、眠り(スリーピング)でもかけてやれ」  
 すぐ横で旅の連れが眠っていても、そんなことはどうでも良かった。  
 リナが「呪文に集中できるわけないじゃない」と泣き言を言うのを遠く聴く  
。  
 ゼルの手は、もうリナの下履きの中へと侵入していた。  

「やぁっ……あ……んっ……」  
「………………濡れてる……ほら、ぬるぬるして……」  
 触れた蜜壺は溢れさせた淫蜜でしとどに濡れ、くっと指を曲げて内壁を擦る  
と、更に熱い蜜が溢れてくる。ぬめる蜜を指に絡ませ、ぷっくりと腫らした陰  
核の先端を擦りあげた。  
「っあ……ん……ッ!」  
 一番敏感であろうそこを強くくじる。リナは喉から迸る声を堪えるのに必死  
になり、ゼルの肩口をきつく掴んだ。  
「…ぅ……っく、ン…」  
 引き結んでも引き結んでも、リナの唇は容易く綻び、しどけなく開かれたそ  
の隙間から悩ましい吐息を吐き出した。  
 ようやく観念したか、リナは自らの手で、下履きを膝までずり下ろす。  
 僅かに開かせた華奢な脚の間で指を蠢かせると、くちくちと蜜が鳴る。  
「こんなに濡らして………宿まで保たないだろう?」  
「や、あ…………ンっ」  
 ただでさえ高くなっていたゼルの体温が、リナを欲しがるが故にまた高くな  
っていく。相変わらず頭も痛い。  
 衝動と本能で動いているに等しいゼルの動きが、リナの絶頂を悟って自然と  
早まっていく。  

 ゼルの動きにつられてリナの腰が僅かに持ち上がる。  
 舌先を突き出すリナの喘ぎが、その間断を狭めて―――……  
「あ…………っ、?」  
 ぴたり、とゼルの動きが止まった。  
 直前まで責められたのに中断されて、リナは恨みがましい目つきでゼルを見  
上げる。  
「自分だけ気持ちよくなるなよ………」  
 額に汗が滲んでいるのが分かる。さほど動いてもいないのに、リナと同じく  
らいに息が上がり、周りとの距離感が掴めない。彼女と自分しかここにいない  
ような感覚。  
 リナの前で膝立ちになり、ズボンの前をくつろげると、はち切れんばかりに  
いきり立ったソレをリナに突きつける。その大きさに驚いたか、彼女が一瞬息  
を飲んだ。  
「……なぁ……してくれよ、リナ…」  
 甘えるように囁きかけると、彼女は裸同然の躰で四肢をつき、そっとゼルの  
ソレに触れた。  
 砲身を両手で包み込まれ、先端にリナの唇が降らされる。  
 それだけでイってしまいそうになって、ゼルは思わず躰に力を込め、天を仰  
いだ。  

 木々の間から星空が見える。そして、その木々のそこかしこからぶら下がる  
、赤い果実。  
 石榴の赤を纏ったあけびのような、その果実は、ひとつだけが割れていた。  
 ああ、この匂いはあの植物からなのか、とゼルはぼんやりとそれを認識する  
にとどまった。今は、リナとの情交の方が重要だから。  
 もし彼が頭痛にも熱にも、甘い匂いにも苛まれていなかったら、その果実を  
見たとき、何としてでも野宿の場所を変えさせていただろう。  
 その果実は焚き火の火に炙られて皮を割り、甘い匂いを出していたが、それ  
は本来「春」の季節に爆ぜるもの。  
 季節が訪れ、果実が割れる頃、この辺りでは虫も獣も人も、すべてが発情す  
ると言うことを、この時彼は失念していたのだ。  
 自分の五感が人より遥かに鋭敏であることも。そして、  

「ん……ぷ、ふぅ……ン……」  
 リナは片手でゼルの砲身を支え、喉の奥までソレを呑み込み、舌で全体を愛  
撫する。唇をすぼめて刮ぐように頭を上下させ、先端を舌先で抉る。  
「ふぃもひいい(気持ちいい)?」  
「咥えたままで喋るなよ……気持ちいいから」  
 上目遣いで見上げられて、ゼルの視界がぐらりと揺れた。  
 躰を駆けめぐる衝動に絶頂を感じ取って、リナの頭を両手で掴む。  

 

「んっ……んんっ…ふぅンっ……!」  
 栗色の髪を掻き乱し、腰を使ってリナの口を犯す。彼女は息苦しさにか涙を  
浮かべる。それとも喉の奥を突かれてえづいているのか。  
 ゼルの腰の辺りを掴んできつく眼を閉じ、強制的に動かされる行為をやり過  
ごそうとしているようだった。  
「っ………射精る……っ……!」  
 根本までしゃぶらせた状態で、リナの喉の奥に一度目の白濁を吐き出す。  
 喉を灼かれたか、気管に入って噎せたのか、リナは吐き出そうと藻掻いたが  
、ゼルはそれを赦さなかった。  
「全部飲めよ………」  
 リナの頭をそこに押しつけて、無理矢理に嚥下させる。呑み込みきれなかっ  
た白濁が、彼女の顎を伝って痣の残る首筋を濡らす。  
「…………けほっ、けほ……」  
 リナの口の周りが、雄の欲望でべたついている。頬には涙の跡が幾筋もあり  
、服は半端にはだけられ、尻はむき出しのままだ。  
 こんな姿を男が見たら、どんな奴でも劣情を掻き立てられずにはいられない  
だろう。自分が彼女をここまで貶めたのだという征服欲が、ゼルの胸に去来す  
る。  
 同時に、言い知れないほどのいとおしさを覚えて、ゼルはリナの躰を掻き抱  
いた。  

「…………リナ…………リナ」  
 白濁に粘つく唇に己のそれを重ね合わせ、貪る。自分が吐き出したモノなど  
気にならない。  
 胸に、首筋に舌を這わせ、頭を支えていた手でうなじをなぞった。  
「……んぁ…っ…ゼルぅ……も…焦らさないで………」  
 その声で甘く名前を呼ばれるのを、どれだけ願っただろう。  
 夢の中で幾ら陵辱しても、その表情だけは見えても、声だけはいつも聞こえ  
なかった。無音の世界でリナを抱く度、眼を醒ましては虚無感と自己嫌悪に苛  
まれて。  
 濡れた声に誘われ、細腕を首に巻き付けられて引き寄せられ、彼女を再び地  
面に横たえた。  
「挿入るぞ…………」  
 リナに自分の膝を抱えさせ、上からのしかかるようにしてそそり立つ楔を穿  
っていく。深々と差し込んだ楔は肉を割り、蜜を溢れさせ、彼女の最奥を叩い  
た。  
「は…あっ……リナの中……………気持ちいい」  
「………ばか……っ…」  
 自分はこんなにも饒舌だったかという疑問が僅かに頭を掠めたが、何もかも  
がどうでもいい。ただリナを気持ちよくさせたい、リナの中でイきたい、それ  
だけが彼の思考を占めていた。  
「んっ、ぅ……ゼ…ル……ゼル…」  
 リナがきゅっと目を瞑ると目尻に涙が滲むのが見える。  
 親指の腹でそっと拭い取って、ゼルは緩やかに律動を始めた。  

「あっ…っく……ん……っ……っ!」  
 上から突き立てられるたびに声が漏れそうになるのか、リナは自分の指を噛  
んでまで声を殺そうとする。  
 血が滲みかけた指を振り払い、ゼルは意地悪く、しかし本心で囁いた。  
「聞かせてやれよ」  
「やっ………うっ……」  
 唇を引き結び、リナは嫌々とかぶりを振る。無意識に彼女の膣が締め付けを  
増し、ゼルは密かに息を吐く。  
「…聞かせてやれば…お前が俺のものだって事…あいつらも分かるだろう?」  
 リナはどうか分からないが――恐らく気付いていないだろうが――ゼルは知  
っていた。横で寝入っているアメリアとガウリイが、とっくの昔に眼を醒まし  
ていることを。  
「だ、め……そんな、の……はずかし…っ」  
 濡れた声でモラルを口にしても、説得力など微塵もないのに。  
 リナが声を殺しきれなくなりだして、それに合わせるようにゼルの激情が温  
度を急速に上げていく。  
 ラストスパートをかけるために掴んでいたリナの手を離し、彼女の細い腰を  
掴む。リナは声を押しとどめるために、両手で口を塞いだ。  
「リ、ナ……リナっ……!」  
「んっ、ん……んん――――――………っっ!!」  

 ほぼ同時に達したふたりの間から、白い液体が溢れ出す。  
 最奥に白濁を注ぎ込まれたリナの肢体が、ひくひくと震えていた。  
(頭が……ガンガンする………)  
 リナの中から自身を抜き、ゼルはぺたんと地面に座り込む。  
 さっきまであれほど彼を苛んでいた熱が、急速に引いていくのが分かる。  
 同時に、息苦しいまでの、あの甘い匂いも消えていった。  
「……中に、射精されちゃった………」  
 立てた膝の間から、まだ白濁を垂れ流すリナの陰部が見える。  
 その時になってようやく、ゼルは自分のしでかしたことに気が付いた。  
「…………リナ、その……」  
「謝ったら、ぶん殴るわよ」  
 あられもない格好のままで、それでも彼女は彼女のままで。  
「………そうだな」  
 そんな彼女に惚れたのだと、ゼルは知らず、唇を歪めた。  

 ふたりが躰を洗おうと、近くの河へ出掛けた後、焚き火の傍に残されていた  
二つの影が重なり合ったのは、また別の話。  

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