その会話を聞いたのは偶然だった。
リナ達と3日間の別行動。
夜遅く宿に戻り軽く夜食でも、と思い食堂に下りた時の事だった。
人影はほとんどなく、囁くような声が二人分聞こえた。
アメリアとガウリイだった。
「あんなに痛いとは思いませんでしたよぉ」
アメリアがガウリイにそう囁いていた。
ガウリイは頭をかきながら困った顔をしている。
「いやぁ、まぁアメリアは初めてだったからなぁ。
それでもできるだけ痛くないように優しくしたつもりだったんだぜ」
心臓がはねた。
今の会話は一体なんだ?
二人に声をかけることも出来ず、その場を離れることも出来ず盗み聞きをしてしまう。
「それにしても、あんなに太いものが入るなんて不思議ですよね?
ガウリイさんは随分慣れてたみたいですけど、やっぱり昔はたくさん経験されたりしたんですか?」
「う〜んそうだなぁ。やっぱり男だしな。
傭兵やってたころなんか結構なぁ」
「そういうものなんですかぁ…」
食事を諦めフラフラしながら2階の部屋へ向かった。
頭がガンガンする。
さっきの二人の会話が頭から離れない。
あれは...どういうことだ?
二人は特別な関係ということか?
ガウリイはリナのことが好きなのではなかったか?
アメリアは...俺に好意を持ってくれているものだと思っていた...。
それは、ただの勘違いだったのか?
毎日俺に話しかけて、俺が人に戻れることを祈ってくれていた...。
そうか。
あのお姫様は優しい。
「特別」ではなくても大切な仲間にはとびきり心を砕く。
俺はただそれを特別と思っていただけだったのか...。
俺にとってアメリアが特別だったのか...。
深く考えて初めて知った自分の心の奥。
ずっと人に戻ることを優先してきた。他のことを考える時間なんてなかった。
だからこそ自分の本当の気持ちに気づかないフリをしてきたんだ。
心臓が痛い。
アメリアが他の誰にも見せない表情をガウリイにだけ見せている。
あの笑顔でガウリイに愛を囁いてる。
そう考えただけで。
自分の心に墨を落としたようにどんどん黒い色が広がっていく。
俺が欲しかった。
俺だけのものにしたかった。
閉じ込めて俺しか見れないようにしたかった。
トントン。
「...ゼルガディスさん?」
頭から冷水をかけられたように、薄汚い思考の中にアメリアの声が響く。
その声に答えることを一瞬躊躇う
「帰ってきてますか?」
その声に諦めて
「・・・ああ」
短く答えた。
「よかったです。あんまり遅いので心配してたんです。
ゼルガディスさん、お部屋に入ってもいいですか?」
その台詞に苛立ちを感じた。
「悪いが疲れている。今日は休ませてくれ」
自分でもわかるほどそっけなく冷たい返事だ。
アメリアが扉の向こうで息をのむのがわかった。
ただの仲間としての気持ちしかないのなら俺に優しくしないでくれ。
壊してしまいたくなる。
「お疲れなのは知っています。
でも少しでいいので...」
そして俺は扉を開けてしまった。
こんな気持ちを抱えたまま。
あんな会話を聞いてしまってどんな顔をすればいいのか。
「ゼルガディスさん。お疲れなのにすいません。
でも、3日も別行動してたじゃないですか。やっぱりさびしくて...今日は私ずっと宿の外で待ってたんですよ!」
ニコニコ屈託のない笑顔で笑う。
昨日まではこの言葉に心が温かくなっていた。
アメリアにはもう男がいる。
それなのに夜中俺の部屋をやってきて淋しかったという。
俺を試しているのか?
俺を苦しめようとしているのか?
それならいっそ傷つけてやりたい。
そう思うと同時に俺の手が笑うアメリアの腕を力任せに引っ張った。
軽いアメリアの体は何の抵抗も出来ず俺の腕の中におさまった。
「あ、あのゼ、ゼルガディスさん...?」
上目遣いでアメリアが俺を見つめる。
「大丈夫ですか?」
俺の気持ちなど全く気づかないように俺に気をかける。
やめてくれ。
そのままアメリアの体をベッドに押し付ける。
初めてアメリアの表情が曇った。
自分でそう仕掛けたのに脅える瞳が気に食わない。
「ゼルガディスさん...ほんとにどうし...」
その言葉は最後まで紡げなかった。
その唇に口付けたから。
アメリアの目が驚きで染まる。
じっくり舌を差し入れゆっくりとアメリアのそれを味わう。
(ずっとこうしたかった...)
想いなんて伝えられるはずがなかった。
ガウリイとの関係を知ってしまった今では尚更だ。
「や、やめ、やめてください。ゼルガディスさん!」
ガウリイ以外には触れられたくないか...。
嫉妬の気持ちが俺の言葉を冷たくする。
「ちょうど退屈していた。
お前もこんな真夜中に男の部屋に来るということがどういう意味を持つか知らないわけではないだろう」
「そんな!
私はただ...きゃあ!」
俺の手がアメリアの胸に触れる。
もっと傷つけてやりたい。
他の誰に触れられても俺のことを思い出してしまうくらいに...。
一瞬アメリアと目が合う。
涙でいっぱいの目だ。
「どうしてこんなことを...」
その言葉を無視してアメリアの服を引き裂く。
そのまま舌で首から胸の突起までをなめ上げる。
「あぁ...っ!! い...いや...」
ポロポロと溢れる涙を見やる。
その目を見つめながら下着までを一気に下げ無理やり足を上げる。
「やぁ...っ!! やめてください!! 見ないで!!」
アメリアの足の震えが俺の手に伝わる。
「...怖いです。...やめてください」
一瞬俺の手が止まった。
俺のことが怖いのか...。
ガウリイの腕の中では違う表情を見せていたのだろうか...。
涙を見ないフリしてアメリアの足を抱えなおす。
そして、ゆっくりとその薄く濡れた突起に触れる。
「きゃあぁっ...!」
悲鳴が上がる前に口付ける。
真っ赤な顔で許しを請う、その言葉に驚愕した。
「...やめてください! 私...私...まだ...初めてなんです。
お願いします...もうやめてくださ...」
うそだ。
さっきお前はガウリイと...。
「嘘だな」
「嘘なんかじゃありません」
その一瞬をついて、自分自身をアメリアに埋める。
「あぁ...っ!」
(あぁ、やっと手に入れた)
ずっと欲しかった。
ずっと苦しかった。
本当は俺が最初に...優しくしたかった。
「痛い...っ! 痛い!いたぁい!」
アメリアの小さな体が痙攣する。
その反応に戸惑う。
動きを止めてつながっている部分を見た。
そこからは真っ赤な血が流れていた。
「な...っ!!」
驚いてアメリアから体を離す。
「うっ...。ふっ...くすん」
顔を両手で隠して泣き続ける。
「アメリア...初めてだったのか...」
その言葉にアメリアは俺を睨んだ。
「言ったじゃないですか!」
「でもお前はガウリイと...」
アメリアは首をかしげた。
「どうしてガウリイさんが出てくるんですか?
ガウリイさんはリナさんのことが好きなんですよ。
ゼルガディスさんだって知っているはずです」
そう。ガウリイはリナのことが好きだと思っていた。
そしてお前は俺を...。
「お前はガウリイと特別な関係だと。
それを聞いて......すまない」
「私とガウリイさんが特別な関係?
誰から聞いたんですか? リナさんに殺されちゃいますよ」
嘘をついてるようには見えなかった。
でも、俺はさっき確かにこの耳で聞いた。
「さっき、食堂でお前とガウリイが話しているのを偶然聞いてしまった。
こんなことをするつもりじゃ...本当にすまなかった。謝ってすむ問題でもないが...」
「さっき...?」
涙を浮かべたままで一生懸命考える。
しばらく考えてふと顔を上げる。
「もしかして...棘の話ですか?」
「棘?」
「はい。今朝いつものように町で一番高い木に登っていたら降りるときに棘が刺さってしまって。
ガウリイさんに棘を取っていただいたんです。
私、今まで棘が刺さったことがなくて、どうやって取ったらいいかわからなかったんです...」
小さな声で「だから、ガウリイさんとはそんな...なにもないんです」そう呟いた。
俺は頭を抱えた。
もう取り返しがつかない。
俺はアメリアを傷つけた。
それも一番最悪な形で。
罪悪感に打ちのめされる。
「アメリア...すまない」
「...ゼルガディスさん。
どうしてですか...?」
アメリアは目を伏せて俺に問う。
「私とガウリイさんが特別な関係だと想ったからこんなことをしたんですか?
どうしてですか?理由を聞かせてください」
ごまかせない。
今本当の気持ちを伝えなくてはもう二度とアメリアは俺に笑いかけてはくれない。
「...好きだ」
小さく呟いた。
決して伝えることはないと思っていた想い。
「お前のことが好きなんだ」
「え...?」
今度は俺が顔を上げられない。
アメリアが俺を見つめているのが気配でわかる。
でもその顔を見るのが怖い。
嫌悪でゆがんでいるのか、怒りを浮かべているのか。
「...本当ですか?」
「俺は嘘はつかん」
勢いで顔を上げた。
その先にはアメリアの顔。
頬を赤く染めて優しく微笑んで。
一瞬見つめあい、目をそらしたアメリアが口にした。
「...私もです。私もゼルガディスさんのことが好きなんです」
そして、俺の唇にそっとアメリアが自分のそれを重ねた。
「しかし、お前はあんなにも嫌がって...」
「当たり前ですよ!!退屈してたって言ったじゃないですか!!
私はてっきりゼルガディスさんは誰でもいいのかと...」
「お前だけだ」
きっぱりと告げた。
「お前以外は考えられない」
ゆっくりと抱きしめた。
「本当にすまない。俺はお前を傷つけてしまった」
「私は傷ついてなんかいませんよ」
そっと微笑んでアメリアが俺の耳に口を寄せる。
「でも、今度は優しくしてくださいね...」
アメリアは優しく微笑んだ。