「ゼルガディスさん?」
真夜中に部屋を訪れてきた彼が、どうにも様子がおかしかった。
不安気にアメリアが黙り込んでいた彼の腕に触れると、ゼルガディスは覚醒したかのようにやたら大きく開いた双眸を揺らがせ、彼女の体を突き飛ばした。
運よく後ろはベッドだったため、スプリングがぎしりとなっただけだった。
「…な、何するんですか…っ!」
「……ちょっと実験をしてみたくてね」
いつもと違う冷たい眼差し、あからさまな邪気を感じさせるゼルガディスにぶるりと身震いした。
下半身に襲い掛かるどうしようもない熱に何度も声を荒げる。
ぐちゅりと卑猥な音が耳に入る度に、アメリアは泣きそうな顔をしながら頭を左右に振った。
「いや…ぁ!ひっぐ…、痛いっ!」
結合部分から流れる鮮明な紅を見つけると息を呑み、物を抜くためか体勢を変えようと動いた彼女の口から悲鳴が漏れた。
見上げる双眸が恨めしそうにこちらを睨み付けている間も、喘ぐ事は忘れない。
そんな艶やかな姿に全身を奮い立たせながら、つらりと余裕のない笑みを零した。
思わず唇を近づけると、顔を背けて涙混じりに拒絶する。
「おい」
「あぅ…い、いや……です」
「……」
頑なに閉ざしていた唇を無理にこじ開けると、体内を流れる血液が更に早まってもどかしい。
「…、こんなの正義じゃないです…」
うわ言のようにそう繰り返すアメリアは華奢な腰を浮かせて、己を追い詰めていた。
「とんだ淫乱だな」
「やぁあっ…ち、違いますよぉ!」
何が違うんだ、と口角を上げて皮肉めいたように笑い、激しい律動を開始した。
すぐにでも爆ぜてしまいそうな熱に翻弄されてアメリアの頭をかき抱く。
ふと視線の先へ眼を揺らがすと、顔を朱に染めながらもアメリアもこちらを見つめていた。
全身を射抜きそうなほどの鋭い視線は、何故か怒りも悲愴も微塵に感じさせなかった。
それが無償悔しくて、何度も乱暴に突き上げる。
「早く嫌え!」
「いや、ぁ…!!助けて……ゼルガディスさ…ん…」
その言葉にゼルガディスは困惑の表情を一瞬浮かべて白くなった唇をかんだが、
すぐさま笑顔を張り付かせた。
「…もうお気づきでしたか」
一旦激しい行為を中断し、突然眼をつぶったかと思うと光の粒と共にゼルガディスの形をしたものはみるみる消えていく。
代わりに正体を現したのは…あの気まぐれな魔族だった。
今度こそ正義に仕える彼女の瞳に怒りの炎が燃え始め、許せないといった風にこちらを見上げた。
「極悪非道の最低男ですね、あなた」
「お褒めに預かり光栄です」
「……本当に、最低っ…」
怒りに満ちた顔に反し、ぽろぽろ零れていく無数の涙。
そんなアメリアの表情にゼロスはひとつため息をついた。
「仕方ないですね。バレたからには、実験は失敗です」
「実験…?」
「あなたがゼルガディスさんを嫌うかどうかの、ですよ」
折れてしまいそうな体は触れているだけで分かるほどの脱力感があった。
アメリアの驚愕した態度に満足すると、それではまた、とゼロスは闇へと解けて消えた。
ぽつんと一人取り残されたアメリアはしばらく放心状態だった。
(私がゼルガディスさんのこと好きなの知ってて、)
それを考えると悔しさと虚しさがどっと押し寄せてきて、ゼルガディスに対する申し訳なさとやる瀬のない自己嫌悪感が混同してしまう。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
絞り出した声は震えていて、心臓を掴まれるような思いでいっぱいだった。
(…本物だったら、きっともっと優しくしてくれる)
了