8話でワイザー達に捕まった後の話。  
 
 
 
 馬車の中は、とても静かだった。  
 それもそのはず。いつも率先して騒がしいリナとガウリィの二人  
がぐっすり眠っているから。  
 この状況でよく眠れるな、なんていうのは愚問であると、残され  
た二人は悟っていた。  
 そんな中、ゼルガディスが腹部を擦る。  
 「大丈夫ですか?ゼルガディスさん」  
 すぐに気付いたのは、向かいで膝を抱えるアメリア。目敏いとい  
うか、よく気が付く少女だ。  
 「大したことはない」  
 ゼロスに打ち込まれた錫杖は的確に鳩尾を突いていた。いくら岩  
肌といえど魔族の一撃。ダメージは大きい。  
 しかも明らかに手加減されてこれだ。腹も立つ。  
 「ちょっと見せてください」  
 狭い車内を僅かに移動し、アメリアは服の上から腹に触れる。一  
瞬痛みはしたが、すぐに幼い手の温もりと治癒魔法の効果でそれも  
薄らいだ。  
 時間にして、ほんの少し。  
 「はい、これで痛みはないはずですよ」  
 笑顔で言われ、確かめる意味を込めて再び腹を擦る。先程まで苛  
んでいた痛みはすっかり消えていた。  
 「助かった、悪いな」  
 「いえいえ」  
 素直に感謝を受け取ったアメリアが元の場所に戻っていく。  
 「お前は何ともないのか?」  
 
 今度はゼルガディスからの問い。アメリアの表情が苦笑に変わる。  
 「私は大丈夫です。手加減どころか、完全に遊ばれていましたし」  
 「アイツは魔族らしくないフェミニストなところがあるからな。  
今回はそれに助けられた」  
 ゼルガディスのセリフに目を丸くした。彼自身は痛い目にあって  
いるのに。言っていることがいまいち理解できない。  
 年相応のリアクションに、彼は安心を口に出す。  
 「お前に怪我がなくて良かったという意味だ」  
 あっ、と気付く。  
 心配、してくれたのだ。  
 ニヒルで無愛想でお茶目で、しばらく会わなかったうちに岩の体  
をフル活用するようになってしまった彼が。  
 体を元に戻す方法のことになると、アメリアが締め上げたうえ右  
ストレートで止めないと暴走してしまう彼が。  
 「ゼルガディスさん……」  
 ひとしきり感動したところだったのに。  
 「一応、親父さんから子守を任された身なんでな」  
 全部台無し。  
 「私もう子守されるほど子供じゃありません!これでも成長して  
るんですから!」  
 「その割りには、あまり背が伸びたようには思えんが」  
 「もー!ゼルガディスさんのバカ!」  
 すっかり痴話喧嘩に発展してしまい、アメリアの中にあった、ゼ  
ロスに相手にもされなかった悔しさも自分の無力さも、何処かに吹  
き飛んでしまった。  
 そこまで先を読んだ会話の流れなのかは、さすがにわからない。  
 
 
 
 そんな会話を聞かされているのが、ここに二人。  
 「……起きづらいね、ガウリィ」  
 話し声で目が覚めてしまったリナは、同じように眠っていたはず  
の男に声を掛ける。  
 しかし。  
 「……ぐー」  
 「マジ寝だし……」  
 訂正。  
 痴話喧嘩を聞かされているのは、リナ一人だけだった。  
 
 
 
おわり  
 

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