『それ』を見つけたのは、ただの偶然だった。  
 ただ、何となく夜の森を散歩し、妙な気配を感じ取り、興味半分で近づいていった。  
 音の正体がわかればよかった。ただ、それだけだったのだが。  
 
「ん…んぁ……やぁ……」  
「へっへっへ、ほらお口が留守だぜ。お嬢ちゃん」  
 
 『それ』は人間の男女間で行われる営み。本能で行われる一種の反応。  
 自分には関係ない。ただ立ち去れば済むことだ。  
 
「次は俺だぞ。たーっぷりと楽しませてくれや」  
「やっぱ幼いといいな。しまりが違う」  
 
 ――その行為が一対一ならばの話だが。  
 まだ幼い少女を、数人の男が代わる代わる犯している。  
 元は活発な少女だったのだろうが、すでに瞳には光が灯ってなく、だらしなく開いた口に新たな男根が押し込まれる。  
 こげ茶の長い髪は白い液体にまみれ、傍には千切れたであろう髪も数束あった。  
 白い身体のあちこちに、切り傷や大きなあざ。そしてやはり白濁液。  
 必死に抵抗した結果だろう。だが、この大人数にかなうわけも無く、こういう結果になったというわけだ。  
 
 ――人間の愚かな行動なんぞ、関係ない。  
 
 そう言いきってしまえばそれまで。そこで踵を返してしまえばよかった。  
 そうすれば、小うるさい部下に小言を言われる程度ですんだだろう。  
 だが……人間の血が混じってしまった結果か。人間で言う『好奇心』に負けてしまったのだ。  
 
 
「ちょい、そこの小汚いおっさんたち。俺も混ぜてくんねぇか」  
 
 突然聞こえた声に慌てる盗賊達。見上げれば、木の上に立つ赤い髪の男。  
 木から舞い降りると、象牙色のコートがふわりと風に舞う。  
 ざわめく盗賊達。  
 当たり前だろう。そこには自分たちしかいなかったはずなのだから。  
「ちっ、お前どこから!」  
「いやねぇ、面白そうな事してるじゃねーか。俺も混ぜろよ。  
 ただし、俺の相手はお前らだが」  
 その言葉により、盗賊達は男を敵と判断し、襲い掛かる。  
 しかし、しょせんは烏合の衆。男の敵ではない。力任せに振り下ろされる剣をはじき、自らの剣で盗賊を払いのけ……  
 やがて、その場に立っていたのはその男と、少女の喉元にナイフを当てている禿の盗賊のみ。  
 男に襲い掛からなかった所を見ると、この盗賊団の頭といったところだろう。  
 青ざめた顔で、ナイフをちらつかせる。動けば少女の命は無いといったところだろう。  
 もちろん、男は動く気はない。  
「へへっ、わかってるじゃねーか。悪いことはいわねぇ。とっとと消えればこいつの命は助けてやる。勝手にもって行けばいい。  
 もう俺らは十分に楽しんだしな」  
 下卑た笑い。それが妙に腹が立つ。  
「俺はそいつの命なんてどーでもいいんだよ。俺はお前が気に食わないだけだ。  
 ――ラルターク」  
「わかりました」  
 男の背後から聞こえた声。その姿を盗賊は確認しようとする。が……  
 確認できたのは、血に染まった自分の姿。手首の先には何もない。先ほど持っていたナイフすらも。ただ血が噴出しているだけ。  
 首を動かそうとするが、それすらも不可能。イヤ、そもそも、男の後ろを見ていたはずだ。なぜ、首を動かした記憶もないのに、自分の姿が見える。  
 そう、自分の姿を。首すらない自分の姿を。  
 それを理解する前に、男の身体は力をなくし、床に横たわった。  
「まったく、ガーヴ様は人使いの荒い……」  
「まあ、あんな雑魚でも飯にはなっただろ。帰っていいぞ」  
「相変わらずじゃのう。年寄りをもう少しいたわってくれると助かるんですがねぇ」  
 ラルタークと呼ばれた老年の男は一つため息をつくと、手にしていた杖を振り上げる。  
 その途中で、血の海に埋もれている少女を一瞥すると  
「ところで……不用意に人間と関わるのはどうかと……」  
「わかってる。うるせぇな。とっとと帰れ」  
「御意……」  
 杖を地面に打ち付けると、ラルタークの姿はかき消えた。  
 そして、その場に残ったのは、男と血まみれの少女と……元盗賊団だった物体のみだった。  
 
「さーて、どうすっかな」  
 血の中から少女を抱え起こす。  
 まだ幼さの残る体つきから判断するに、12.3歳という所だろう。  
 いたるところにつけられた陵辱の痕が痛々しい。  
 とりあえず、身体に残された男たちの形跡を消そうと、湖へと向かった。  
 膝丈程度の湖だが、水さえあれば用は足せる。  
 まだ春先だから、少々水は冷たいが、気つけにはなるだろう。  
 まずは手先に水を絡ませる。冷たさに反応したのか、指先がかすかに動いた。  
 指先から、徐々に身体全体に。全体の赤色は取れてきたが、独特の血の匂いと精液の匂いは取れそうに無い。  
「しゃーない。ついでだ」  
 男も衣類を脱ぎ捨てると、少女を抱きかかえて湖の中へと入った。  
 肌に突き刺さるような冷たさ。それ以上に柔らかな少女の身体。  
 首筋から優しく指先でなで上げ、膨らみかけの胸をゆっくりと揉む。  
 ずり落ちそうになる少女の股の間に足を入れると、少女は甘い声を上げた。  
 男たちにやられた後遺症か。あるいは、変な薬を使われたのかもしれない。  
 うっすらと瞳を開け、刺激を求めるかのように身体を摺り寄せてくる。  
 ――空ろな瞳のままで。  
「普通の男ならば、『据え膳』って奴なんだろうが。俺はそんな趣味ねぇよ」  
 苦笑してつぶやくと、荒々しく少女の唇を奪う。  
 絡めてくる少女の舌を払いのけ、ただ自分だけの動きで口の中を蹂躙しつくす。  
 どれくらいの時間が過ぎた頃だろうか。男は唇を離すと、湖へと何か吐き捨てた。  
 湖に広がったのは黒い液体。すぐに清らかな水に溶けて、跡すら残らない。  
「さ、これで薬は抜けたはずだ。次は……」  
 身体に残っている傷跡に唇を落としていく。  
 肩、首、胸元、腹、足。  
 男の唇が触れるたびに、ぴくりと反応し甘い声をあげる。今度は薬で支配された快楽ではない、自然な快楽だ。  
 だが、それと同時に、男たちにされた恐怖がよみがえりつつあった。  
 
「んぁ、あぁぁ……やぁだぁ……」  
「……大丈夫だ。もう怖いことは無い」  
 瞳からこぼれる一筋の涙。それも唇で掬い取ると、大きな手で頭をなでてやる。  
 大きくて無骨な手。それは父親を思い出させたのか、幸せそうに瞳を閉じると、男に身を任せるかのように寄りかかってきた。  
「さあ、とっとと終わらせるか。こいつが完全に目を覚ます前にな」  
 傷跡はずいぶんと消え、元の白い肌に戻りつつある。  
「女の身体に傷はのこせねぇからな。こんなもんか」  
 身体の隅々を確認する。こげ茶の長く柔らかな髪、触ったら壊れてしまいそうな華奢な身体。  
 発展途中だが、やわらかく整った胸。そして、まだ生えてもいない秘所……  
「んじゃ、最後の仕上げだ」  
 少女の股を開くと、あふれ出している愛液に自らの肉棒を絡める。できる限り痛みを与えないためにだ。  
「すまねぇな」  
 耳元でそっと呟くと、一気に奥まで貫いた。  
「んんんんぁっ!」  
「くっ……あれだけやられてもこんなとはな。こいつの初めてを奪う奴が羨ましいぜっ!」  
 締め付けてくる快感に流されぬよう、意識を集中する。  
 あれだけ乱暴にされていたのだ。中にも多数の傷がある。それを自らの男根によって接触し、治療しようとしているのだ。  
 ここで快楽に流されていては、盗賊たちと何の代わりも無い。  
 
「はぁ……ん、やだ……動いてぇ……」  
「馬鹿! お前を気持ちよくさせる気はねぇよ。おとなしくしてろ」  
 快楽を自ら求め始め、身体を動かす少女。その激しい刺激に耐えようと、少女の身体を抱きしめるが、それは逆効果だった。  
 身体に触れる少女特有の柔らかさ。汗と愛液の混じった濃厚な香り。どれも刺激だらけだ。  
「やぁだっ! ずる……ぁっ、あたしも……はぁ、気持ち……ん、よくしてぇよ」  
 愛嬌に混じるはっきりとした自我。目が覚めるのもそろそろだろう。それまでに終わらせないと。  
「ん…ひゃっ、あっ、いいよぉっ! こすれてぇ気持ち良い!  
 あっ、くっあぁっ……と、ところで、んっ、おじさんだれ……ああっ」  
「おじさんはねぇだろ。たく、萎えるぜ」  
「まだおっきい……ん、じゃ……ない。んっ!」  
 一足遅かったらしい。もうすでに少女は自我を取り戻していた。  
 しかし、この状況に取り乱しもしないところを見ると、かなりの大物か、淫乱なのか、それとも男を信じきっているのか。  
 まあ、どれでもいい。とっとと終えてしまえば、もうこの少女と会うことはないのだから。  
「俺の名はガーヴだ。くっ……手前の名は?」  
「ふぁ……あ、あたし……んぁ……リナよ。んぁ、もうダメもう飛ぶ!!」  
「リナ……か忘れてやるよ。んな名前。行くぞ!」  
 少女……リナがイクと同時に、男も精を吐き出した。  
 とろりとした白濁液が少女の中へと進入し、奥底に侵入していた盗賊どもの精液を食い尽くす。  
 男根を引き抜くと、中の大きな傷……破壊された処女膜すらもゆっくりと回復していき……  
 
 
 そう、これが目的の一つ。――そして――  
 惚けた顔で寄りかかってくる少女を抱きとめる。  
 乱れた髪をなで上げると、頬に優しくキスを落とした。  
「んじゃあな。もう会うことはないだろうがな。リナ……」  
「はぁ……リナ=インバースよ。これから有名になるつもりだから、覚えておいて損はないわよ」  
「そうか、リナ=インバースか。まあいい、大事な事、教えてやろう」  
 おでこをこつんと少女にくっつけると、瞳をまっすぐに見つめる。  
「俺のような男はな、忘れるのが一番だ」  
「おじさんを? なんで……んっ」、  
 深い深い口付け。今度は彼女に快楽を与えられるように。  
 突然の口付けに一瞬動揺を見せるが、瞳をつぶり、快楽を素直に受け入れる。  
 水音だけがあたりに響きわたり、不意に音が途切れた。  
 男の腕に力なく横たわる少女。男は優しい一人で唇を指でなぞる。  
「俺に関わると不幸になるからな……じゃあな。リナ……」  
 何故か寂しげに呟く男の声が、冷たい空気の中に溶け……消えた。  
 
 
 
「さーて、どこ行こうかしら」  
 少女は地図をひろげ、この先に行く場所を確認する。  
 この間、郷里を出発したばかりなのだ。だから、何もかも新鮮で。  
 ――そう、盗賊なんかにまだ出逢ってもいないし、何も痛いこともなかった。  
 そう思っている。そう思うしかない。あの記憶は無いのだから。全てあの時の前に戻ったのだから。  
 
「それでいいんだよ。お前は何も出会っていない……ただ、悪夢を見ただけだ」  
 遠くから見つめる一人の男。表情はわからない。だが、声はひどくさみしげで。  
「んじゃ、ラルタークにお説教でもされに帰るとすっかな」  
 大きなあくびを一つ。そして、男は姿を消した。  
 
 ――遠い昔の小さな出会い。それを覚えていたのは男のみ。  
 再び邂逅したも何も言えずに、言う気も無く、ただ敵対し……そして――  
 

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