ゼルガディスは浮かない表情で宿の階段を上っていた。合成生物となった体を
直すため、他の三人がバカンスのつもりで遊びまわる最中、ゼルガディスだけ
は古い寺や神殿、図書館を回っていた。結果は芳しくなかったようで、幾分普
段より垂れた頭には哀愁が漂っている。
「…と。ここか。」
宿の主から示されたのは、二階の隅の部屋だ。ガウリイとの相部屋は今に始ま
ったことではないから気にはしないのだが、如何せん寝相が悪すぎる。そんな
ところばかりリナと似なくてもいいだろうに。そういえば宿の主が、金髪長身
の男が茶髪の女を抱えてきたと言っていた。大方、怪我をしたリナに保護者っ
ぷりを発揮したってところか。リナが回復魔法を使えるってこともわすれてい
そうだ。忘れるのはガウリイの専売特許だが。
ドアノブに手をかけた瞬間、断続的に軋む音が耳に入った。その音と呼応する
ような、女の声も。
…これが何かわからない、などと言うつもりはない。
*********
「…何してるんですか?ゼルガディスさん」
一旦ロビーに戻ろうとしたゼルガディスに声をかけたのは、急にいなくなった
リナを探しに来たのだろう、アメリアだった。まだ泳ぐ気なのか、水着にシャ
ツを被った姿で小首を傾げている。海水のせいで肌に張り付いた服は、凹凸の
ある少女の体のラインを際立たせている。周囲からの視線に気付いてゼルガデ
ィスは呆れたようにため息を吐くと、自分のマントをアメリアの肩にかけた。
「あ、ありがとうございます。…で、何を?」
「ああ…リナとガウリイがな、」
そこまで口にして、ゼルガディスははたと言葉を止めた。あの状況を、この温
室育ちの子供に何と説明すればいい?いや、知識が無いとは思わないが、あい
つらが事を終えて部屋から出てくるまでの時間を居心地の悪いものにしたくは
ない。
「二人がどうしたんですか?!」
ゼルガディスの真剣な表情での考え事を、アメリアは重大な事件だと勘違いし
たらしい、鬼気迫る顔でゼルガディスを問い詰めた。
「いや……リナが風邪を引いてな。ガウリイが部屋で看病してる。」
きょとんとした瞳を向けて、アメリアはまた首を傾げた。
「リナさん、さっきまで元気でしたよ?」
「喉風邪だ。声が枯れて、それが頭痛にまで来たらしい」
「じゃあ私も看病を…」
「お前よりガウリイの方が、リナにはいいかもしれん。」
「…そうですね!愛の力で風邪も吹き飛びます!!」
突発的でありながらなかなかいい理由だ。ゼルガディスは自分を心の中で誉め
た。しかしむしろ、愛の力とやらで風邪を引く可能性の方が今回は高いのだが。
「あれ?でも、それじゃあゼルガディスさんはこれからどうするんですか?」
ここにいるってことは回り切ったんですよね?アメリアが疑問を持ってようや
く気づいたが、そもそも休むためにここに来たのだ。体の疲れはそれほど無い
が、めぼしい情報が全く得られなかったことで疲労感が増している気がする。
「…わたしとリナさんの部屋、空いてますよ。使います?」
アメリアはチャリッと音を鳴らし、鍵を見せた。女部屋は男部屋の向かい側、
廊下を挟んだ位置にある。休むとしても、向かい側の情事が漏れてくることは
ないだろう。ゼルガディスは悪いな、とアメリアに声をかけ、鍵を受け取った。
「いえ。マントを貸してくれたお礼です!…というか、わたしも部屋に戻りま
す。ひとりで海辺というのも虚しいですし」
「そうか。」
前を歩き出したアメリアの羽織るマントがひらひらと揺れる。覗く白い足に、
何故か体が疼いた。
*********
「わあっ!見晴らし最高ですよ!」
向かい部屋の声が聞こえないことを祈りつつ入った部屋は、海に近い部屋だけ
あって海辺を一望できた。子供の様にはしゃぐアメリアは、ぱたぱたと部屋を
歩き回る。
「あまり暴れるなよ。もう外に出ないなら着替えろ」
「はい。あ…あの、ゼルガディスさん。この水着…ど、どうでしょうか?」
荷物を下ろしていたゼルガディスが振り向くと、いつの間にかシャツを脱いだ
アメリアが不安そうにゼルガディスを見つめていた。
オレンジのツーピース型の水着は、健康的な肌を惜しげもなく露出させている。
童顔と相反した起伏のある体は、妙なミスマッチを感じさせ、大概の男ならば
目を離せないだろう。
「…布地が少なすぎるが、まぁ似合ってるんじゃないか。」
ゼルガディスがそっぽを向きながら言うと、アメリアはぱあっと表情を輝かせ
た。
「よ、よかった!リナさんとガウリイさんはかわいいって言ってくれたんです
けど、なんか他の人の視線が変な感じで…」
変な視線にどういう意味が込められているのか、この少女はわからないらしい。
余りにも無防備な少女に、ゼルガディスは急な嗜虐感のこみ上げを感じる。無
言でアメリアに近付くと、艶のある黒髪に触れる。アメリアは、不思議そうに
ゼルガディスを見上げていた。やはり無防備なまま。
「教えてやろうか?」
先ほどの体の疼きを思い出す。この素肌を、他の男も目にしたのだ。丸みを帯
びた肢体、白い肌、質量のある膨らみ、笑顔。
「え……」
何を?と言いたげな唇も、全て。ゼルガディスはアメリアの疑問に答えず背を
向ける。がちゃ、という音と共に、ドアの鍵が閉められた。再度向き直ると、
意味が分かったのだろう、頬を赤く染め、大きな瞳を見開いた少女がいた。や
はり、知識がないわけではなかったようだ。
「どうする?」
男の問いかけに、少女はこくんと頷いた。
*********
そういえば電気をつけなかったな。ゼルガディスはアメリアに覆い被さった後
でそれに気がついた。浜辺の白砂の反射で、太陽の光はより強く部屋に降り注
ぐ。幸い、ベッドは陰になる位置にあったためにアメリアからの不満は出なか
った。
「ゼルガディス、さん。わたしはどうすれば…」
覆い被さられた体勢のまま何もしないゼルガディスに、不安の色を浮かべなが
らアメリアが問いかける。それを聞いて、ゼルガディスは何も言わずに額に唇
を落とす。
「したいことがあったら言ってくれ。オレが‘教える’のがメインだがな」
至近距離で囁いて、唇を合わせると、一瞬体が強張ったが、ゼルガディスが小
さな手のひらを覆うと安心したかのように力を抜いた。水着のラインを指で撫
でると、合わせた唇の間からかすれた声が漏れる。それを逃がさないかのよう
に角度を変え、舌を追う。
「んっ、ん、ん、」
アメリアが服を掴んできたので、一度唇を離す。すると、乱れた呼吸を整えな
がら「わたしも、同じことしていいですか?」と問うてきた。ゼルガディスが
薄く笑いながら「何をしてもいい」と返すと、嬉しそうに今後は自分から唇を
寄せてきた。啄むようなキスから徐々に深く。舌を絡めるのはやはり躊躇があ
るらしく、舌先でソロソロと触れてくる。慣れを感じさせない動作にゾクリと
背を走る背徳と幸福。それに押し流される前に、ゼルガディスは膨らみを覆う
布を持ち上げた。
「ふっ、あっ!」
唇を離し、名残惜しそうにする惚けた少女から目線を逸らすと、その先端に吸
い付き指先で弄んだ。一層高い声を上げたアメリアは瞳孔を開き、両手で口を
塞いだ。その反応に満足したように攻め立てると、びくびく体を痙攣させ、そ
の感覚に耐えている。
「んぁ、っふ、ふあっ…!!」
「…声、我慢するな」
一旦唇を離し、言うと、アメリアはふるふると首を横に振った。
「は、恥ずかしいです、よ」
「…恥ずかしい、ねぇ……」
ゼルガディスは考えるように言うと、スルリとアメリアの下半身に指を滑らせ、
泳ぎだけで濡れたわけではない部分を布の上から強く擦った。
「あっ!!!や、なに…!?」
向けられた視線に満足そうに微笑むと、耳元に唇を寄せ、囁く。
「恥ずかしがってもいられないぞ。」
「ふぁっ!!」
耳を攻め立てながら、秘部を覆った布を下ろす。粘りのある糸を引いたそれは、
アメリアが幼いながらに感じていることを表しており、ゼルガディスはほっと
息を吐いた。
「あっ、やぁっ…!んんっ…!」
「…なんだ、耳弱いのか」
「しゃべらな、で…っ!!」
必死の声にゾクリと頭から爪先まで駆け巡る。下半身が熱い。それに呑まれな
いように、ゼルガディスはアメリアの全身に唇を滑らせながら下降していく。
既に力の入っていない膝を割ると、蜜の滴るそこに迷わず舌を伸ばした。
「ひっ…!!ゼル、ガっ…!何して…っ!」
恐らく引き離そうとしているのだろうが、ゼルガディスの頭に添えた手は全く
力がこもっていない。しかしそれでも、ゼルガディスの髪は針金でできている。
一旦頭を上げると、アメリアの手にはやはり傷が付いていた。
「アメリア。俺の髪に触るのは止めておけ」
「…だ、って…」
シーツを弱く掴み、アメリアは視線を自分の下半身へ向け、すぐに逸らした。
挙動不審に瞳を動かし、ゼルガディスと視線が交錯すると恥じらうように俯い
た。
「ああ、なる程な…どうしてこれをしたかわからないってことか」
ゼルガディスがチラリと舌を覗かせる。それを目にしたアメリアは、ついさっ
きまでの行為を思い出し、体を熱くし、壊れた人形のように首を縦に振った。
それを目にしたゼルガディスは、おもむろに腰のベルトを緩めた。
「う、わっ…」
アメリアは思わず声を漏らした。その初々しい反応に満足しながらゼルガディ
スは聞く。
「初めて見るのか?」
「そ、うです。」
言いながらも視線はゼルガディスのモノに釘付けだった。はちきれんばかりに
立ちあがったそれは、初めて見るアメリアにさえ「苦しそう」という感想を持
たせるものだった。
「これを、お前のココに入れる」
「ひゃあっ!!」
不意打ちに近い刺激に高い声が上がる。聞こえないフリをして、ゼルガディス
は熱い内壁を優しく撫でた。指で触れるたびに体を反らせ、涙を散らせた。
「あっ、あ、」
「わかるか?ここにオレのモノを入れるんだ。相当慣らさなきゃならん。慣ら
しても痛みを感じる」
「で、もっ」
「?どうした」
刺激に呼吸のタイミングを奪われ、苦しそうにしているアメリアを開放してや
ると、虚ろな中に少しの決意を交えた瞳がゼルガディスを見据えた。
「ゼルガディスさんも、痛そうですから…無理しないで下さいね。」
痛くても平気です!場にそぐわないガッツポーズに目を見張りながら、しかし
心の全てを持っていかれた。怖いのも痛いのも、全てアメリアに比重がかかる。
分かっていないのかもしれない。けれど、覚悟ができた。アメリアの全てを攫
う、覚悟。
「なにか、してほしい事はあるか?」
優しい声に、アメリアは力を抜いた。そして、綺麗な笑みを浮かべ、口を開く。
「ゼルガディスさんがしたいことでいいです。」
*********
辛そうなのに気遣ってくれる。そうだ、彼はいつも優しかった。仲間のために
傷付いた。だからわたしも、彼の代わりに傷付くことを厭わなかった。守りた
かった。それは仲間だから、だろうか。
「は、っ…!」
「っ…!アメリア……痛くないか?」
「だ、い、じょぶです、けどっ…!」
しつこすぎる愛撫を受け、アメリアは殆ど痛みを感じずにゼルガディスを受け
入れた。既に下半身に力が入らず、秘部の周りに妙な圧迫を感じる。皮膚に、
唇に触れられるだけで体が震える。触れてくるのは目の前の彼だ。それだけで
こんなにも。
動きが止まった時、ふとゼルガディスを見上げると、眉間に皺を寄せていた。
「ゼルガディスさん?!!何かありましたか?!!」
「いや……」
言い淀むが、アメリアがそれを許さない。ゼルガディスは観念したように口を
開いた。
「……お前が辛いとこ悪いが、気を抜くと危なそうでな。」
「…………きもちいい、ってことでいいですか?」
弱々しく頷くゼルガディス。予想外の可愛らしい面を見て、アメリアはゼルガ
ディスの首に腕を回した。体勢が変わり、アメリアの体がビクンと揺れる。ゼ
ルガディスは真意を掴めず固まっていた。
「じゃあ、ゼルガディスさんとわたし、両方を気持ちよくさせてください」
アメリアの大胆な申し出に一瞬呆けた後、ゼルガディスは不意にアメリアの秘
部に指を這わせ、腫れた突起を強く擦った。
「ひあぁああっ!!あ、あっ…や、いきなり…!」
「……悪いが、我慢できそうにない。」
先ほどまでの緩慢な動きと打って変わって、ゼルガディスは激しく腰を打ちつ
けだす。その衝撃と快楽に、首に回された腕が解ける。手を伸ばす余裕も無く、
衝動に耐えるようにシーツを固く握る。
「っあ!」
ここか。ゼルガディスは小さな声で言った。そこを攻め立てると、アメリアは
抗うように首を振る。
「あ、あっ、だめ、へ、ん…!!」
「変で、いい」
「はぁ、あ…!!!」
快楽に支配される中、アメリアはひたすらに幸せだった。この人のモノになれ
る。いつも隣にいてくれた。守ってくれた。わたしも、守りたかった。だから
伝えなければ。一言、いつも不安そうにしている彼に。
(すきです、)
伝わったのか確認する余裕も無く、アメリアは意識を手離した。
*********
「え?気付いてましたけど。」
ケロッと言う少女はベッドから起き上がりもせずに言う。薄いブランケットに
くるまりながら寝返りを打つと、衣服を整えたゼルガディスが目を大きく見開
いていた。
「……旦那とリナのことか。」
「はい。ガウリイさんとゼルガディスさんの部屋の前を通るとき、急ぎ足にな
ってましたよ」
ゼルガディスさん、わかりやすかったです。アメリアはにこり、と普段と変わ
らない笑顔で答えた。日は傾き、部屋に注がれる光は白から橙に変わっている。
ゼルガディスは一瞬よろけながらもどうにか踏みとどまり、ベッドに腰掛ける。
「ということは、わかっててオレを部屋に呼んだのか?」
「…?どういう意味ですか?」
「誘ったのか、と聞いている。」
「…えっ?!うわっ、そんな…!!……そうですね、そういうことになっちゃ
うんですかね」
実際この状況ですし。アメリアはゆっくりと上半身を起こし、弱い笑顔を向け
る。反論しようとしたことは見て取れたが、どうやらその元気も無いようだ。
ブランケットから覗く白い肩は、想像以上に細く、弱弱しい。そんな子供相手
に何をしたんだか。ゼルガディスは本日何度目かもわからない溜息をついた。
今回は自分自身に対してだが。
「あっ、まーた妙なこと考えてますね?」
「さあな。」
「謝ったら許しませんよ。」
アメリアのまっすぐな眼がゼルガディスを射抜く。気押されたゼルガディスは、
その言葉の真意を見抜けないまま無意識にシーツを掴んだ。
「受け入れたのはわたしです。ちゃんと、わたしの意志です。自分だけ悪役に
なってしまおうだなんてずるいと思いませんか?」
逃げるな、と。子供だと思っていた少女は瞳で語りかけた。謝罪を述べて、こ
の行為を無かったことにするな、と。
「……そうだな。オレも、自分の意志だ。」
自分でもわかる。頬どころか体全体が熱い。柄にもない、とゼルガディスは一
人ごちた。
「あは、照れてますねぇゼルガディスさん。」
「うるさい」
「大丈夫です。」
わたしも恥ずかしいですし。子供ではない、女の顔でアメリアは言った。他の
誰でもない、ゼルガディスのためにだけ向けられた笑顔。ゼルガディスは照れ
たように笑うと、傷ついた少女の手を取り、そっと口づけた。
終わり