「彼女に手を出すな。さもないと――病気がうつるぞ」
オレの言葉に、男二人は顔を引きつらせ、あとずさった。
……リナの顔も引きつっている気がするが、しょうがないじゃないか。ここでやつらに犯されるよりはマシだろう。
しかし、危機を脱したかに思えたのは束の間。
「……へ、へん」
男の一人が引きつった顔を笑みに歪めた。
うーむ、オレに考えつく中で一番効果のありそうな脅しを選んだつもりだったんだが……
これでダメとなると、どうしよう。
「何言うかと思えば、じゃあてめえはどうなんだ。どうせその女とさんざんヤってるんだろ?」
こら待て。
ひとをお前らと一緒にするんじゃない。
からかうことはあっても、オレはリナを本気でそーいう対象として見たことはないぞ!
オレが否定の声を上げるより早く、真っ赤になったリナが暴れ出したが、
さっきから主導権を握っているほうの男――仮にAと呼ぼう――が再びリナに近づき、
「いいぜ、確かめてやろうじゃねえか」
もう一人の男――Bにリナを押さえ込ませると、いきなりリナのズボンに手をかけた。
下着ごと一気に引き下ろされ、白くて細っこい脚が露わになる。
くぐもった声がリナの喉から漏れた。おそらく悲鳴を上げたのだろう。
Aは構わず、足首を縛ったロープはそのままに、膝だけを割り開き、
リナのそこに指を這わせながら顔を近づけた。
「へえ、綺麗なモンじゃねえか。こりゃひょっとして初めてか?」
そりゃあそうだろう。
どんなにメチャばっかりして、気が強くても、リナは「人工呼吸」でからかっただけで真っ赤になるような娘だ。
男のねっとりした声音と指の動きは、こういう方面、殊に実践にかけては初心なリナを
脅えさせるには十分だったのだろう。リナは完全に血の気が引いた顔で身体を強張らせた。
それまでAに流されるまま従っていたBが、リナが動けなくなったのを見て取って、
自分からリナの胸に手を伸ばす。
「胸は小さいけど感度は良さそうだぜ」
服越しに先端を押しつぶしたりつまんだり、いじりまわしながら言う。
そのうちナイフを取り出してリナの上着を切り裂くと、じかに胸を揉み始めた。
控えめな白い膨らみが、男の手の中で形を変えられる。
ちょうど胸の上下ではさみこむような位置でかけられていた縄が、その様子を一層卑猥にしていた。
AはAでリナの股間をまさぐり、指を中に入れる動きさえ見せていた。
不意にそちらに向けられたリナの視線の端が、一瞬オレを捉えた――その瞬間。
リナは何かを堪えるような顔でぎゅっと目を閉じた。その目尻から、光るものがこぼれる。
――――っ!!
「泣いてやがるぜ、こいつ」
「は、お前らだってさんざん人様を泣かせてきたんだろうが」
お前ら……っ!本当にいいかげんにしろっ!!
「まあ、せいぜいイイ声で鳴かせてやるぜ……って、猿ぐつわされてちゃ声も出せねえか」
Aは胸クソの悪くなる笑みを浮かべ、ズボンに手をかけると、
自分のモノを取り出して、再び目を開けていたリナに見せつけるように突き出した。
「初めてならちゃんと教えてやらなきゃなあ。わかるか?コレがお前のココに入るんだぜ」
その前にしっかりほぐして濡らしてやらねえとな、とにやにや笑いながら、Aはまたリナの下半身に手を伸ばす。
すっかり興奮し、息を荒くしているBはリナの上半身を起こし、自分にもたれさせるような形で抱えると、
後ろから胸を鷲掴みにする。
「上の口を試せねえのはちょっと残念だな」
「さすがに猿ぐつわ外すのはヤバイからな……いや、どうせ塞いじまうんならおんなじか?」
下品な笑いを交わし合う。
「まあ、ちょっと我慢しろよ。こっちはちゃんと、お前にもしっかり楽しませてやるからよ」
こういうシチュエーションを好む奴もいるだろう。
だが、晒されたリナの身体はあまりにあどけなくて、こんな野郎共に弄ばれるには不釣合いで痛々しいだけだ。
腹の底から湧きあがってくるこの感覚は、怒りだ。
……それ以外のものではない。決してない。断じてない。
この間、オレだって見たくてただ見ていたわけじゃない。助けに入る隙をずっと窺っているのだが。
ふん縛られて転がっているオレには何もできないと高をくくっているのだろう、
連中の意識は完全にオレからは外れているようだが、
それでも視界の範囲内にいるこの位置で不用意に動けば、さすがにすぐに気づかれる。
慎重にやらなければ、一度失敗してしまえばリナを助けられるチャンスはほぼなくなる。
と、Aが動きを見せた。Bに指示を出して、リナをうつぶせにさせるつもりのようだが――
二人がリナを抱えるようにして、オレに背中を向ける。よし、今だ!
音を立てないようじりじりと這って近づき、射程圏内に入った瞬間、
肩を支点に身体全体を旋回させて、後ろからBの脚をすくうようにひっかけ転ばせる。
倒れたところへ、こめかみめがけて両足で蹴りをぶち込む。Bは白目をむいて動かなくなった。
これでまず一人。
間髪いれず、リナを嬲るのに夢中になっている間にBがうかつにも放り出していたナイフを口で拾い上げ、
こちらを向いていたAに向かって投げつける。
ナイフはAの腿のあたりを掠めて転がった。
本当なら奴のナニにぶち当ててやりたかったが、さすがにこの体勢ではそこまでのコントロールは難しい。
……ちっ。
ともあれ、Aをリナから離れさせるのには成功だ。
ひるんだ奴が反撃に出る前に、床を思いきり蹴って、滑るように頭から奴の足元にタックルをかます。
Bと同様、倒れたAのこめかみを蹴りつけ、ついでに金的にも一撃。
……なんとか、決定的なところに行き着く前にカタをつけることができたな……
ほっと息をつきながら、落ちているナイフの刃に縄をこすりつけ、自分の縄を切る。
手さえ自由になればあとは楽だ。足の縄も切ると、リナのほうを振り向かないままで声をかけた。
「リナ。縄切ってやるから……体、起こせるか?」
もぞもぞと動く気配がした。頃合を見計らって振り返る。リナはこちらに背を向けて座っていた。まあ、当然だ。
それでも下半身は脱がされたままだし、腕は後ろに回されて縛られているから、
胸だってどうかすると背中側からでも見えてしまう。
それらを極力目に入れないように、縄を切ることに集中する。
手が自由になると、リナは自分でズボンを上げ、比較的無事に済んでいたローブをきっちりと体に巻きつけた。
リナが足のロープを切っている間に、オレは猿ぐつわを外してやる。
リナはしばらくそのままじっと座っていた。
呼吸が浅い。猿ぐつわを外してやった時、ついた息に熱いものが混じっていたし、体も小さく震えていたから、
あんなことをされた恐怖ももちろんだろうが、中途半端に高められてしまった身体が辛いのだろう。
かといって、この状況で、オレがどうにかしてやるってわけにもいかないしなあ。
変な薬とかを使われなかったのが救いか。おさまるまで待つのが一番いいだろうな、うん。……お互いに。
ややあって、なんとか落ち着いたのだろう、リナが口を開いた。
「……忘れて」
思っていたよりしっかりした、気丈な声だった。
「今見たことは、全部忘れて」
背中を向け、うつむいたままではあったが。
「まあ、オレの記憶力はお前さんも知っての通りだからなあ」
努めて明るい声で、のほほんと言ってやると、リナが呆れた顔でオレを見上げた。
「……自分で言ってどうすんの。偉そうに言うことじゃないでしょーに」
……良かった。まだちょっとぎこちないけど、笑ってくれたから、大丈夫だろう。
何事もなかったように立ち上がる。
「さて、まずは剣をとりもどさなきゃあな」
「それに事情の説明をしてもらわなくちゃなんないしね」
――とは言え、本当に、都合よくすっぱりと忘れることなどできるはずもなく。
オレはうかつにリナをからかうことができなくなり、
本気でリナに惚れてしまってからも、手を出すのがためらわれて、
ずいぶんと長い間、忍耐を強いられることになったのだった。