夜半過ぎ宿の一室。ふとガウリイが目を覚ますと、部屋を出て行こうとするゼルガディスの後姿が見えた。
「んー、どこ行くんだぁ? ゼル」
「………い」
「あー、何だって」
「夜這いだ」
振り返りもせずゼルガディスが答える。
「そーかぁ、がんばれよ……」
語尾はむにゃむにゃとほとんど聞こえなかったガウリイの言葉には答えず、ゼルガディスは無言でドアを閉めた。
夜な夜な聞こえるアメリアの悩ましい声に、理性やら自制心やら色んな物が擦り減っていって、
ぶっつり切れた夜の出来事だった。
短いアンロックの呪文とともに軽い金属音を立て、女部屋のドアの鍵が開く。
キィときしんだ音をたててドアが開き、蒼い闇に満たされた部屋の中にゼルガディスは足を踏み入れる。
アメリアは手前のベッドで眠っているらしく、窓側のベッドの布団からはみ出たリナの栗色の頭が見えた。
ベッドの脇まで音もなく進み、眠っているアメリアの肩に手を置き耳もとで囁く。
「アメリア」
「ん……」
眉をしかめたアメリアが身じろぎする。
「俺だアメリア、起きろ」
薄く目を開いたアメリアは目の前にゼルガディスがいることに驚き、ばねのように跳ね起きた。
「ゼルガディスさん!」
寝坊してゼルガディスが起こしに来たのかとアメリアは思ったが、慌てて見回した部屋の中はまだ薄暗い。
首を傾げてゼルガディスを見ると、ゼルガディスは思いつめたような表情をしている。
「あの、何かあったんですか? こんな時間に」
「……」
無言のままのゼルガディスに、アメリアがきょとんとした顔をする。
「どうしたんですか? ゼルガディスさん」
「う……ん、何よぉ、さっきからゴチャゴチャうるさい……」
隣のベッドのリナがむにゃむにゃと起きかける。
「あ、リナさん。ゼルガディスさんが」
アメリアの背後から、ゼルガディスの呪文の詠唱が聞こえた。
「スリーピング」
途端にぽやぽやと白い光がリナを包み込み、ぱたっと倒れこみそのまま動かなくなってしまった。
さすがに驚いてアメリアがゼルガディスを振り返ると、
術を紡ぎ終えたゼルガディスは手を下ろし、ゆっくりとアメリアに向き直った。
「ゼルガディス……さん?」
さすがに不審に思ったのか、アメリアはベッドの上で後ずさりし距離をとろうとしている。
…………。
どこかに連れ出そうと思っていたが。
どうせリナは朝まで起きないだろうし。
衝動的にゼルガディスはアメリアの手首を取ってベッドに押し付け、小さな体に覆いかぶさった。
一瞬何が起こったのか解らないアメリアだったが、のしかかる固い体と頬に感じる金属の髪に、さすがに驚き身震いした。
「ど、どうしたんですか! ゼルガディスさんっ!」
「……お前が呼んだんだろうが」
低くくぐもった声が、アメリアの肩のあたりから聞こえる。
「よ、呼んだって……?」
アメリアが戸惑っていると、いつの間にか手首から離れた手がじわりと肩を登り、もう片方はアメリアの腰に回される。
「ま、待ってください! ゼルガディスさん!」
驚いたアメリアが身をよじろうとするが、岩が乗っているようなもので身動き一つ取れない。
「俺の名前を呼んでただろう……夜になると、何回も」
ゼルガディスの言葉にアメリアは硬直した。聞かれてた。アメリアの顔から血の気が引いていく。
アメリアを抱き込んだまま、ゼルガディスがゆっくりと顔を起こした。
間近で驚くほど真摯な目で見つめられ、アメリアの頬に血が上る。
「無理強いはしない、嫌ならこのまま引き下がる。……どうする?」
闇の中、ゼルガディスがおぼろげに光っている。
(ああ、あの時と同じだ……)
ハルシフォムの館の地下で2人だけになった時と。あの時自分の中で何かが生まれた。その正体が今わかった気がする。
アメリアの両手が、すっとゼルガディスの首に回された。
「……大好きです、ゼルガディスさん」
微笑みと共に返って来たアメリアの言葉に、ゼルガディスは口の端だけで笑い、再びアメリアに覆いかぶさった。
合わせるだけの口付けの後、急いたように入ってきたゼルガディスの舌にアメリアの舌が絡まる。
「ん……く、ん」
アメリアが息を継いだのを確かめてから、ゼルガディスはいっそう深く口付けた。
歯列をなぞり、絡めとりながら甘い唾液を味わう。
初めての刺激に頭が痺れ、顔が火を噴いた様に熱くなるのをアメリアは感じた。体の芯が熱を持って疼いてくる。
やっと開放され、ぼうとしたアメリアの目に、パジャマの合わせ目にかかる岩の手が見えた。
「あ、あの、自分で脱ぎますから」
「いい」
押し止められ、前のボタンが一つづつ外されていく。
白い豊かな胸が外気に晒された刺激に、アメリアはかすかに震えぎゅっと目を瞑った。
ゼルガディスが小さく息を呑んだ気配がする。
ざらついた冷たい指が乳房に触れると、びくと小さくアメリアが跳ねた。
「痛かったら、そう言え」
なるべく加減するから、と低い声がアメリアの耳に囁かれ、唇が首筋に降りてくる。
初めは遠慮がちだった手の動きが徐々に大胆になっていき、すくい上げるようにこね回し、肌を貪る。
静かだったアメリアの呼吸が、荒いものに変わっていく。
固くなった頂を摘まれると、痺れたような甘い快感が背筋を走った。
「あ……あん……ゼルガディス、さん」
切れ切れの声がアメリアの口から漏れる。
ゼルガディスが与える快感に翻弄されるアメリアがうっすらと目を開けると、銀の頭が視界の下にぼんやりと見える。
自分の胸にゼルガディスが顔を埋めているのだとわかり、アメリアが慌てる。
「ゼ、ゼルガ……っ! ……あ、はぁん!」
先端を口に含まれ、舌先で弄られる。
「あああ、ああん。ダ、ダメ……っは、あぁん!」
悲鳴のような嬌声をアメリアは上げ続けると、ゼルガディスがくすりと笑い声をたてた。
「そんなに大きな声出すな、リナが起きるぞ」
「だ、だって……あうっ!」
きつく吸われ、歯を立てられると、アメリアの体がいっそう大きく跳ねた。
そのまま肩や胸元、乳房を吸われていき、花びらのような紅い跡が点々と付いていく。
「はぅ、あん……あぁん……」
いつの間にかパジャマのズボンが下着ごと取り払われていることにも気付かず、
アメリアは甘い嬌声を上げ続けた。
ふと、ゼルガディスの体が離れた。
見あげると、上着を脱いでいる蒼い背中が見える。
石片が浮き出た蒼い肌が柔らかな白い肌に覆い被さる。肌と肌が密着し、何もしなくても抱きあってるだけで
お互いの熱が混ざりあい、体の奥から何かが高まってくる。
「ん、んく、んん……?」
何度目かの口付けの途中で、ゼルガディスの手がするっとむき出しの腿の隙間に入ってきた。
覚悟はしていても無意識に力が入るのか、アメリアの体がぎゅっと強張る。
「念のため聞くけど、お前、知ってるよな?」
一瞬、きょとんとしたアメリアだったが質問の意味がわかると、真っ赤な顔でぶんぶん頭を縦に振る。
(そういやこいつ自慰は知ってたんだな……)
馬鹿なこと聞いたと、ゼルガディスは苦笑した。
膝を割って内腿にゼルガディスの手が添えられると、かすかにアメリアは息を呑んだ。
濡れそぼって誘うように赤くてらてら光るそこに、静かに指が触れる。
「……んっ!」
「痛かったか?」
「痛くはないですけど……、なんか変な感じがして……うっ!」
ざらついた指が確かめるように、潤った部分の周辺をなぞるように、入り口をほぐしていく。
「あ、あ……ふぁ、ああん、はあん」
(自分で触るのと、全然違う……)
すがるものを求めて、アメリアの手がゼルガディスの肩にかかる。
ほぐされて、熱く溶けている部分に、ゆっくりとゼルガディスの指が入ってきた。
指が中で動く度に、恥ずかしい水音がアメリアの耳をつく。
「あ、あ……ん、ゼル、ガディス、さん……っ!」
肩の手にぎゅっと力がこもる。
柔らかい茂みの中に隠れた小さな芽を岩の指が探し出し、親指の腹で押すとアメリアの体が跳ねた。
「ひぁ!」
弱い電撃のようなものが体を走り、アメリアの頭の中が真っ白に弾け、全身からがくんと力が抜ける。
「イったか?」
「っは、ふぁ……」
大きくアメリアの肩が上下する。
なんだか楽しそうな声のゼルガディスに尋ねられても、
足を大きく広げられそのまま腰を抱え上げられても、アメリアは返事をすることもできなかった。
「挿れるぞ」
熱く溶けている中心に固いものがあてがわれると、アメリアの顔がさすがに少し引きつる。
「力抜け、ゆっくり行くから」
「は、はい……」
言葉通りゼルガディスがゆっくりと腰を進めていくと、肉が裂けるような痛みと共に、
異質なものがアメリアの中に入ってきた。
「っう……! い、いたっ!」
今まで感じたことの無い衝撃にアメリアの顔が歪む。シーツを掴んだ手が白くなるまで握り締められ、必死に痛みに耐えている。
まだ成熟しきっていないアメリアの中はきつくて狭かったが、それでも熱く飲み込むようにゼルガディスを迎え入れていく。
「……入ったぞ」
最奥まで来てゼルガディスは一旦大きく息をついた。
自分の下で歯を食いしばっているアメリアの額の汗をぬぐってやると、涙に濡れた目がゼルガディスを見る。
「痛むか、アメリア。もう少しで終わるから、我慢してくれ」
「…………さんは」
「アメリア?」
「……ゼルガディスさんは、気持ちいい?」
一瞬の沈黙の後、ゼルガディスの心に暖かいものが流れ込んでくる。
「……そうだな、とても気持ちいい」
「よかった、うれしい……」
起き上がったアメリアの腕がゼルガディスに巻きつき、口付ける。
舌が絡まり、唾液が混ざり合う。
繋がったままゼルガディスはアメリアを向かい合って膝に抱え、そのまま突き上げる。
「っは、は、はぁ、い、痛い、ああっ!」
激しい動きにアメリアはゼルガディスにしがみ付いた。岩の肌でなければ傷つくほど強い力で指が食い込み爪が立つ。
アメリアの体が跳ねる度に、ベッドが大きく軋む音をたてる。
荒い呼吸に混じったアメリアの声に、かすかに甘い声が混じる。
「あああ、ああん、ゼ、ゼルガディ……ス、あううーーーっ!」
ゼルガディスの動きがいっそう速くなり、揺さぶられて動くたびに、痛みも快感も体の奥で一緒くたに溶けて混ざり合っていく。
限界が近い。
「ああ、ああん、ゼル、ガディス、さん……っ!」
「アメリア、アメリア……」
お互いの名を呼びつつ登りつめ、ゼルガディスの欲望がアメリアの中に放たれた。
「あの……ゼルガディスさん?」
ことの後、毛布から首だけ出したアメリアが、傍らで頬杖を付いてるゼルガディスに尋ねる。
「ゼルガディスさんは……わたしのこと、少しは好きですか?」
ぼふっとゼルガディスの顔が枕に沈む。
「ゼルガディスさん?」
「お前……」
枕に面伏せたままの聞き取りにくい声に、アメリアは首を傾げる。
「……俺がどれだけ悩んでここに来たと思ってるんだ。しかもリナに魔法までかけて……。
言っとくが、俺は嫌いな奴のために、こんなみっともない真似しないぞ」
アメリアの顔が見る見る輝いてくる。
「じゃ、じゃあ、ゼルガディスさん。わたしのこと、好きなんですか!」
枕から上がったゼルガディスの顔が、少し赤らんでいる。
「……かもな」
「嬉しい!」
「お、おい」
飛びつくように首に抱きついてきたアメリアに、押し倒されるような格好になる。
「嬉しい、ゼルガディスさん大好き、大好き、大好き……」
涙声になっていくアメリアに、ゼルガディスの心が甘いもので満たされる。
そっとアメリアの頭を抱きかかえ、耳元でそっと囁いた。
「俺も……」
その言葉にアメリアは嬉しくて幸せで、涙がこぼれた。
高位魔族も裸足で逃げ出すような、こっぱずかしい会話が繰り広げられている隣のベッドで、
ぐっすり眠っていたはずのリナだったが、実はしっかり起きていた。
(あ、あ、あ……あいつら、一体なにやってるのよーーー!)
幸運か不運かゼルが放ったスリービングの掛かりが何故か悪く、リナしばらくして目を覚ました時は、
隣のベッドですでに激戦が繰り広げられていた。
傍若無人のリナといえどもさすがに起きるに起きられず、
布団を被ってひたすら終わるのを待つことしかできなかった、という訳である。
(……まあ、アメリアは嬉しそうだし、そういえば楽しそうなゼルの声って聞いたの初めてかもね。
ま、いいか。今夜くらいはね、許してやりましょ)
1時間経過……。
(一体いつまでいるのよゼル! 終わったんならさっさと帰りなさいよ! いちゃつくなら明日でもできるでしょーが!!)
「1人でするのと、どっちがいいんだ?」
「(ぽっ)ゼルガディスさんの指、全然違います……気持ち良くて溶けそうですっ!」
「こいつぅ」
(だ〜〜〜〜っ! ぬわ〜〜にぐぁ残酷な魔法剣士よ、このエロキメラ!!
あんたなんか女装してオカマにだまされて恥かきゃいーのよ!!)
何故か、実現率のやたら高そうな呪いの言葉を吐くリナであった。
結局、ゼルガディスが帰ったのは、空が白み朝が来る前のぎりぎりの時間。
「お〜い、リナ。目が赤いけどどうしたんだ?」
「うるさいわね、なんでもないって言ってるでしょっ!」
結局一睡もできなかった。