ハルシフォムの館の天井裏から、なめくじだらけの地下水道にまっさかさまに落とされた。
リナとガウリイが光とともに消えた後、暗がりの中でゼルガディスと2人きりになり、
じっと見つめられて心音が跳ねた。
実はゼルガディスが見ていたのは後ろの蜘蛛だったのだけれど、それはちょっと置いといて。
その時アメリアの中に未知の感情が生まれた。
その感情が何なのか、アメリアはまだ知らない。
早寝早起きがモットーのアメリアだったが、ここ最近なかなか寝付けない。
灯りを落としてからずいぶん時間が経った部屋の中、隣のベッドのリナはぐっすり眠っている。
眠ろうと一応は目を閉じるのだが、まぶたの裏にぼんやりとある男の姿ばかり浮かんで、
頭はどんどん冴えていく。
「ゼルガディスさん……」
無意識に名前を呟いた。
途端に胸がぎゅっと痛いくらい締め付けられ、口から息が漏れる。
布団の中で背を丸め、両肩を抱きしめた。
苦しくて、熱い。
胸の内は苦しいけれど体の中心が熱を帯びて、出口を求めて体内をぐるぐる駆け回っている。
そんな夜。
アメリアは最近覚えたある行為をしてしまう。
その行為の名と意味を、アメリアはまだ知らない。
布団の中でもぞもぞ手を動かし、パジャマの上からそろそろと豊かな胸を覆う。
そして頭の中で自分の手と岩肌の手をすり替えてしまう。
ゆっくりと力をこめる。
「ん……」
柔らかさを感じながら、指がふにゃと胸に沈む。
触れている手がゼルガディスのものだと想像するだけで鼓動が早くなり、
触れた部分が熱くなってくるような気がする。
「……あん」
思わず出た声に、慌てて口を塞ぐ。
リナはすでに眠りに落ちているが、万が一にもこんな声は聞かれたくない。
隣のベッドの主が起きた気配はなく、アメリアは再び胸の手を動かす。
手に余る大きさを回すように手を動かしていくと、中心が少しずつ固くなり立ち上がってくる。
(アメリア……)
頭の中のゼルガディスが優しく語りかける。
「ゼルガディスさん……」
すっとパジャマの裾から手を滑り込ませ、直に裸の胸に触れる。
「ん、ふ……ん」
声を殺しているつもりだが、少し開かれた唇から小さな喘ぎがつい漏れてしまう。
そのまますくい上げるように揉みしだくと、アメリアの手の中で白い乳房が淫らに形を変えていく。
目が潤んできて、顔が熱くなるのは羞恥心ばかりではない。
「ん……あ、あ、はぁん……っ!」
喉を反らせてアメリアが喘ぐ。
声を殺す気は失せてしまい、もう片方の手も空いている乳房に吸い寄せられるように愛撫を続ける。
強く、弱く。
肌が汗で湿り気を帯びていき、両方から与えられる快感と、
手に感じる柔らかい心地よさを同時に味わう。
指の腹ですっかり固くなった頂を潰すと、弱い電撃のようなものが背筋を走る。
「ひゃん!」
思わず喉の奥から高い声が出てしまう。
こりこりと、こねるようにリズムカルに刺激を与えていく。
「あ、あん、あ、ああ……」
ぞくぞくと体中に快感が走る。
片手をそっと胸から下ろし、腰の線をなぞる。そのまま腹を円の描くように撫で回す。
「ふぁ……っ!」
体がぶるっと震える。
腰や腹、首筋や太ももを撫でまわしていくと、ゼルガディスに体中を愛撫されてるような気分になる。
声も聞かれ全て見られていると思うだけで、火を吹くように顔が熱くなる。
「あ、だ……め、です……」
下着の中に手が入り込んでくる。
柔らかな茂みを越えて、幼さの残る亀裂に指を伸ばす。
そこはすでにすっかり潤って開かれており、暖かいぬめりが指にまとわりついてくる。
「いや……もう」
もうやめよう、やめたいと思うけれど止まらない。
急いたように指を差し入れると、何の抵抗なく飲み込まれていく。
「あ、あ、ああ……」
中で指を動かす度に、いやらしい水音が聞こえる。
乳房と秘所の同時の攻めに、背筋が反り返って腰が浮く。
「ふぁ……あ、だめ、あんっ!」
いつの間にか2本の指がアメリアの中をかき回している。
秘所からあふれ出したもので、下着はもちろん内股までぐっしょり濡らしながら、
アメリアは首を振って喘ぎ続けた。
「あ、あ、ああああ……」
覚えたばかりの快感がアメリアを翻弄し、絶頂へと導いていく。
「ゼルガディスさんっ!」
登りつめた瞬間頭の中が真っ白になり、アメリアは快感に飲み込まれた。
嵐のような高まりが過ぎても、アメリアは快楽の余韻に漂っていた。
心地よい陶酔感は去ると、喪失感と気だるさ、誰に対してかわからない苦い罪悪感と、
冷え冷えとした空しさがアメリアの心を苛む。
体を起こして汚れた下着を替え、パジャマのボタンをはめ直す。
ぽとっと涙が落ちた。
「わたし、どうしちゃったんだろう……」
どうしてこんなことを繰り返してしまうのだろう。
ゼルガディスへの思いと一緒に生まれた欲望と、それを満たすための行為。
リナやいなくなった姉ならわかるのだろうか。
乱れたシーツを整えると、すばやく布団に潜り込む。
「ゼルガディスさん……」
混乱した心を抱えたまま、アメリアは眠りに落ちていった。
一方、こちらは女部屋と、壁一つ隔てたゼルガディスとガウリイの男部屋。
ゼルガディスは起きていた。
ここは安宿にしては壁が厚く、防音効果はしっかりしていたのだが、
性能のいいキメラの耳にはアメリアの声は丸聞こえであった。
数日前、夜遅くに魔道書を読んでいて気がついたのが初めだった。
その時はアメリアとは思わず、声が似ている別の誰かだと思っていたら、名前を呼ばれて驚いた。
「まいったな……」
ゼルガディスは文字通り頭を抱えた。
アメリアのことは嫌いじゃない。出会った頃はまるっきり子供だったが、
あれから背も伸びてずいぶん女らしくなっている。
リナとは違って持ち物も立派なものだし。
キメラにされたとはいえ性欲は人並みにあるし、心まで石になった訳ではない。
夜な夜な聞こえる誘うような悩ましい声に、いっそのこと理性も自制心もかなぐり捨てて、
あっちに行ってやろうかと自棄になったこともあるが、リナがいるからそれも叶わない。
悶々とした気持ちを抱えたまま、ゼルガディスはため息をついた。
今夜も眠れそうにない。