「姫様、リナ様からお手紙ですよ。」  
「リナさんから!?」  
侍女から渡された手紙を受取って、アメリアは踊りだしたいほど嬉しくなった。  
昨日は、旅に出ているゼルガディスからの定期連絡があり、直接話すことができたし、  
今日はリナからの手紙――――嬉しいこと続きだ。  
うきうきとスキップでもしそうな足取りで、アメリアは自室に戻ると、早速リナからの手紙を開封した。  
便箋は1枚だけで、アメリアは不審に思った。  
いつもリナからの手紙は便箋何枚にもわたって書かれていたからだ。  
訪れた先のおいしい物や、面白い場所、ガウリイとのやり取りや、仕事での失敗談――――。  
読んでいるアメリアがその情景を簡単に想像出来るような詳しい描写で書かれていて、たまに、旅先の  
珍しい工芸品などが一緒に送られてくることもある。  
それが、たった1枚。  
「何かあったのかしら、リナさんたちに・・・・・・」  
アメリアは急いで4つ折りにされた便箋を開いた。  
 
 
  親愛なるアメリアへ  
 
  元気にしてる?  
  こっちは相変わらずよ  
 
  早速用件に入るけど  
  ちょっとした緊急事態の発生よ  
  ゼルと連絡が取れたら  
  出来る限り急いで戻るように伝えてほしいの  
 
  あたしたちも今からすぐに  
  セイルーンに向かうわ  
 
  詳しいことはついてから話すから  
  ゼルへの連絡お願いね  
 
          リナより ゼフィーリアにて  
 
 
「・・・・・・・・・・・・」  
どういうことだろう?緊急事態なんて。  
ゼルガディスを呼び戻すように――――ということは、何か正義が必要なことかもしれない。  
正義の仲良し4人組が何年かぶりに揃うことになる。  
アメリアはぐぐっとこぶしを握った。  
「正義の仲良し4人組――――復・活です!!」  
 
旅慣れたリナたちのことだから、2週間もあればセイルーンに到着するだろうと思っていた。  
高速飛行の呪文もある。  
それが、リナとガウリイがセイルーンに姿を現したのは、1か月近くたってからだった。  
リナは珍しく、いつものような姿ではなく、ゆったりとした黒いワンピースを着ていた。  
見慣れない姿のせいか、以前よりはるかに女性らしくなった様子に、同性ながらアメリアは少し見とれた。  
「ずいぶん、時間がかかりましたね。」  
アメリアの自室でお茶を飲みながら、3人は久しぶりに顔を合わせた。  
「うーん・・・・・・ちょっと、ね。」  
リナは言葉を濁すと、カップをテーブルに置いた。  
「それより、アメリア。ゼルはいつ帰ってくるの?」  
「それが・・・・・・リナさんの手紙が着いたのが、ちょうどゼルガディスさんからの連絡が入った次の日で。  
 次に連絡をくれるのが1か月後と言ってましたから、そろそろなんですけど・・・・・・。」  
「あちゃー、タイミング悪かったわねぇ。」  
リナは軽く眉をしかめると、ちょっと首をかしげた。  
「それにしても、ゼルってば定期的に連絡くれるの?」  
「ええ。ひと月に1度か2度。」  
「へぇー、案外マメねぇ・・・・・・」  
「約束しましたから。ひと月に1度は連絡することと、次の連絡がいつになるのかを必ず決める、って。  
 それと、予定通り連絡がない時は、セイルーンから捜索隊を派遣するって。  
 ――――もちろん、捜索費用はゼルガディスさんに請求することになっています。」  
「・・・・・・なるほど。そりゃー、マメに連絡するわね・・・・・・」  
国家予算単位の金額を請求されたら、たまったもんじゃない。  
そんな金額が個人で払えるのは、リナくらいのものだ。  
「じゃ、もうすぐゼルとは連絡とれるのね。」  
「ええ。それよりも、リナさん。緊急の事態って何ですか?」  
どことなくわくわくとした様子のアメリアに、苦笑しながら  
「まだ、はっきり決まったわけじゃないんだけど・・・・・・」  
一口紅茶を含んで口を湿らせてから答えた。  
「新しい呪文を見つけてね。ひょっとしたら、ゼルを人間に戻せるかもしれないわ。」  
「えええええええっ!?ほんとーですかっ、リナさんっ!?」  
テーブルをひっくり返しそうな勢いで、アメリアが身を乗り出す。  
「ただ、まだ未完成だし、色々準備も必要だし・・・・・・」  
「もちろん、わたしも協力させていただきますっ!」  
大興奮のアメリアにやや引きながらも、リナは笑顔で答えた。  
「ええ、そのつもりよ。」  
 
リナ達がセイルーンに到着した2日後に、ゼルガディスからの連絡が入った。  
いつもはアメリア1人で受ける連絡を、リナとガウリイも同席させてもらう。  
「これは、レグルス盤の応用なんです。音声と映像を同じオーブを持った人間とやり取りできるんですよ。」  
アメリアがそう言って見せてくれたのは、魔導士協会が総力を結集して作り上げた手のひらサイズのオーブだった。  
「話には聞いていたけど、すごいわね。」  
リナは素直に感心してしげしげとオーブを眺める。  
「これ、もっと普及させないの?」  
そうしたら、どんなに便利か。リナは疑問に思ってアメリアに聞いた。  
「それが・・・・・・ちょっと、コストがかかりすぎて・・・・・・」  
「なるほど・・・・・・国家予算単位の経費が必要なのね。」  
「あと、使用時にも大きな魔法陣が必要になりますし。」  
リナ達3人がいる部屋の床一面には、確かに複雑な魔法陣が描かれている。  
隅から隅まで眺めながら、リナは持ち前の研究心を発揮して、もっとコンパクトにならないかと  
描かれた文字を読み取って考えるが、その複雑さにとりあえず断念する。  
「ゼルガディスさんには、同じ魔法陣の図面を渡してあります。」  
その言葉に、リナはちょっとゼルガディスに同情した。  
「――――ってことは、ゼルは、連絡の度にこれを描いてるのね?」  
「・・・・・・・・・・・・はい・・・・・・・・・・・・」  
申し訳なさそうにアメリアが答える。  
でも、まあ、当然か――――ともリナは思う。  
仮にも過去に犯罪を犯した身分で一国のお姫様を恋人にし、国家予算を投じて作られたオーブを持たせてもらって、  
おそらくは旅の資金も提供してもらっているに違いないのだ。  
そのくらいの手間はかけて当然だろう。  
「あ、来ました!」  
アメリアの言葉に目を向けると、オーブがぼんやり光って正面の壁に映像を結び始めていた。  
始めは何かわからなかったもやもやとした映像が、次第に白ずくめの青年の姿へ変わっていく。  
「ゼルガディスさん!」  
「・・・・・・アメリア。」  
アメリアの呼びかけに少しかすれたようなゼルガディスの声が答えた。  
「元気そうだな。」  
「はいっ!」  
大きくアメリアが頷いたところで、リナがアメリアのそばに歩み寄って、ひらひらと手を振ってみせる。  
「やっほー、ゼル。」  
「――――リナか!?」  
「おっひさーv」  
「・・・・・・あんたも元気そうだな。旦那はどうした?」  
「いるわよ。ガウリイ!」  
リナが呼ぶと、ガウリイがのんびり近づく。  
「よお。」  
のほほんと挨拶をするガウリイを見て、嬉しそうな表情をしていたゼルガディスの眉が一瞬寄った。  
「・・・・・・何か、あったのか?」  
自分は遠い地にいるが、この4人が揃う時にはろくなことがない。  
魔族とか、魔族とか、魔族とか・・・・・・。  
 
「それがですね、ゼルガディスさん!」  
興奮したアメリアが、鼻息も荒く力説する。  
「リナさんが、人間になれるかもしれないって!」  
「・・・・・・リナはもともと人間だと思うが・・・・・・?」  
人間離れはしているが。いや、やはり、人間ではなかったのか?  
「ああああっ!アメリア、あんたねっ!」  
興奮しすぎてわけのわからないことを言うんじゃないのっ、とリナがアメリアの口を手でふさぐ。  
そーかー、リナはようやく人間になれるのか、などとのたまっているガウリイを放置して  
リナがゼルガディスに説明する。  
「そうじゃなくって!あなたを人間に戻せるかもしれないのよ、ゼル。」  
「何!?本当かっ!?」  
「そーよ。まだ確定じゃないけど、かなり有望な呪文を見つけたわ。」  
「それは・・・・・・」  
「ま、とにかく、早く帰ってらっしゃいよ。」  
何か言いかけたゼルガディスを制してリナが言う。  
「この呪文ちょっと厄介な発動条件とかあるから、早くしないと間に合わないわよ。」  
「どういうことだ?」  
「今説明してる暇はないわ。ゼル、どのくらいでセイルーンに戻ってこれそう?」  
「・・・・・・そうだな、2ヶ月半もあれば・・・・・・」  
自分は今、いわば元結界の外にいる。急いだとしてもそのくらいはかかるだろう。  
「駄目よ。1ヶ月で戻ってきて。」  
リナがむちゃを言う。  
「おいおい、いくら俺でもそれはちょっと・・・・・・」  
「ごたごた言わない!間に合わなくてもいいの!?」  
リナがびしぃっと人差し指をゼルガディスに向かって突き出した。  
「と・に・か・く!今から1ヶ月以内にセイルーンに戻ってくること!  
 不眠不休でレイ・ウィングかっとばしてらっしゃい!!」  
 
さすがに1ヶ月は無理だったのか、ゼルガディスがセイルーンに姿を現したのは38日後だった。  
彼にしては珍しく、まさに疲労困憊といった風情でふらふらとアメリアの自室のソファに腰を下ろす。  
「遅かったわね、ゼル。幸いセーフよ。」  
「・・・・・・・・・・・・」  
リナの文句に声も出ない。  
言われた通りにレイ・ウィングでとばしてきて、体力も魔力も限界だった。  
「じゃ、早速呪文の説明するわ。」  
「・・・・・・おい・・・・・・」  
魔導書やらメモ書きやらを取り出すリナに、恨めしそうに声を掛ける。  
聞きたいことはたくさんあるし、いつもと違うワンピース姿のリナにも疑問があるが、とにかく疲れている。  
「さすがに、少し休みたいんだが・・・・・・」  
リナはゼルガディスをちらりと見ると、アメリアに一言。  
「アメリア、リザレクションかけてあげて。」  
「はいっ!」  
「・・・・・・鬼か、お前らは・・・・・・」  
「はいはい、文句言わないの。これ終わったらゆっくり休めるわよ。」  
アメリアの呪文を受けながら、ゼルガディスはくっつきそうになる瞼を必死で押し上げる。  
「呪文は完成したわ。準備もバッチリ!完璧よ!」  
リナはやや得意げに笑う。  
「本当か!?」  
朗報にゼルガディスの眠気も一気に吹き飛んだ。  
「もっちろん!あたしに不可能はないわ。」  
「じゃあ・・・・・・」  
「ええ、あなたを人間に戻せるわ。成功すれば。」  
「・・・・・・どんな呪文なんだ・・・・・・?」  
失敗したときのことをあえて考えずに、ゼルガディスは聞いた。  
「んー、詳しく説明すると長くなるんだけど・・・・・・」  
「手短に頼む。」  
リナと初めて会った時のことを思い出しながら、ゼルガディスが懇願する。  
(コイツの長い話なんて、冗談じゃない。)  
リナはひょいっと肩をすくめると、呪文を見つけた経緯から話し始めた。  
 
 
ゼフィーリアの王宮図書館で偶然見つけた魔導書のこと。  
そこに書かれていた、今は失われた太古の呪文のこと。  
呪文を発動させるために必要な様々な条件のこと。  
使用するにあたって困難な発動条件のために、次第に呪文が歴史に埋もれてしまったこと。  
その呪文が、対象となるものをあるべき自然の姿に戻す効果を持つこと。  
 
「具体的に、その発動条件って何なんだ?」  
ようやく少し体力が回復したゼルガディスが、視線だけでアメリアに礼を言う。  
「いくつかあるんだけど、一つはまず、人並み外れた魔力容量が必要ってことね。」  
「なるほどな。で、あとは?」  
「呪文を発動させるための大きな魔方陣と対象者の心理状態。」  
「・・・・・・心理状態?」  
なんだそれは、とゼルガディスはいぶかしがる。  
それには構わずリナは言葉を続けた。  
「呪文を使用する魔導士が女性であることと、それに伴ったもう一つの条件。」  
「よくわからんが・・・・・・」  
「ま、とにかく、発動させるには厄介なのよ。」  
リナが不敵に笑う。  
「でも、その条件が今なら全部そろってるわ。今なら、あたしがあなたを人間に戻せるのよ。」  
「成功すればな。」  
ゼルガディスが歓喜と興奮を押し殺して言う。  
本当はもっと喜んでリナに礼を言いたいが、自分のちょっとばかりひねくれた性格がそうさせない。  
「そうなのよねー、成功すればね。試すことも出来ないし・・・・・・」  
リナは気にした様子もなく、考えるように手をあごにあてて首を傾ける。  
「・・・・・・ちょっとまて。いきなり実践なのか、その呪文は!?」  
「言ったでしょ、発動条件が困難だって。おいそれと試せないのよ。」  
「・・・・・・・・・・・・」  
不安だ。ものすごく不安だ。  
「だいじょーぶよ。あたしを誰だと思ってるの?天才美少女魔導士リナ=インバースよ!」  
「美少女っていうのはそろそろ無理だと思うけどなぁ、年齢的にも。」  
ぼそっと呟いたガウリイをスリッパで黙らせてから無意味に胸をそらしたリナを見て、ゼルガディスは覚悟を決めた。  
「・・・・・・そうか、頼んだぞ。」  
無意識のうちにゼルガディスの手がソファの上をさまよい、アメリアの手を見つけて握り締める。  
それを優しく握り返しながらアメリアもリナに頭を下げた。  
「お願いします、リナさん。ゼルガディスさんを人間に戻してあげてください。」  
「まっかせなさい!」  
そんな二人を見てリナが優しく微笑む。  
「呪文を使うのは3日後の夜よ。それまでゼルはゆっくり休んでちょうだい。」  
「言われなくても、そうするさ。」  
「あと、今からその時まで、アメリアとゼルは顔を合わせちゃダメよ。」  
「ええっ!?どーしてですか、リナさん?」  
アメリアは不満げだ。せっかくゼルガディスに会えたのに。  
ゼルガディスも不満げだ。せっかくアメリアに会えたのに。  
「それも発動条件の一つよ。呪文の発動には、アメリアにも手伝ってもらうから。」  
「・・・・・・そうですか。それじゃあ、仕方ないですね。」  
しょぼんとうつむいたアメリアの頭をゼルガディスがそっとなでる。  
「アメリア、お前にも迷惑をかけるな。」  
「そんな!迷惑だなんて、全然!ゼルガディスさんが人間に戻るためなら何でもします!」  
「そうか。悪いな。」  
素直にありがとうと言えばいいのに、とリナは苦笑した。  
「じゃ、そーゆーことで、3日後にね。」  
話が終って与えられた自分の部屋へと向かったゼルガディスを、リナとアメリアは見送る。  
ガウリイは叩かれた頭をさすりながら、穏やかにリナを見つめていた。  
 
 
「夕食後、禊をすませてから神殿に来て頂戴。」  
その日――――ゼルガディスとアメリアそれぞれにリナからの伝言が言い渡された。  
2人がやや緊張しながら訪れた神殿の中央には大きな魔方陣が描かれていて、その中心にはベッドが置かれている。  
魔法陣の周りにはいくつもの香炉が置かれ、甘酸っぱいような香りを煙とともに漂わせていた。  
「来たわね。始めましょうか。」  
リナは準備を整えていた。  
セイルーンに到着してから愛用していたワンピースではなく、ゆったりとした黒いローブ姿で魔法陣の外側に立っている。  
リナのカラーはピンクじゃなかったか?と思いつつも、ゼルガディスは初めて見るリナのローブ姿に  
落ち着いた大人の女を感じて、少しだけ目を奪われた。  
いつの間にこんなに色っぽくなったのか。  
「ガウリイの旦那は?」  
「部屋にいるわよ。連れてきても邪魔なだけでしょ。」  
「リナさん、わたしは何を?」  
アメリアが胸の前で手を組む。  
「こっちに来て。ゼルも。」  
ひょいひょいっと二人を手招きすると、リナはそれぞれに小さなカップを渡した。  
「これ飲んでちょうだい。」  
カップには得体のしれない液体が入っている。  
「・・・・・・なんだ、コレは?」  
においをかぐと甘ったるい。  
「毒じゃないわよ。発動条件の一つだから、ぐいっと飲んじゃって。」  
「・・・・・・」  
「・・・・・・」  
ゼルガディスとアメリアは大丈夫か?とばかりに顔を見合わせたが、ためらっても仕方ないので一気にあおる。  
「う・・・・・・」  
喉を通った瞬間、焼けつくような感覚があったが、すぐになくなった。  
「飲んだぞ。」  
ゼルガディスの言葉にリナは頷くと、  
「じゃ、二人とも服脱いで、ベッドに入って始めて。」  
魔法陣の中央のベッドを指さす。  
「・・・・・・・・・・・・は?」  
「・・・・・・リナさん?」  
二人ともわけがわからない。何を始めるのだ?  
「いいから服脱いでベッドに入って始めるの!」  
やや早口でリナがまくしたてる。  
「始めるって・・・・・・何をだ?」  
ゼルガディスの疑問にそっぽを向きながらリナが答える。  
「男と女が服脱いでベッドで始めるなんて、一つしかないでしょ!」  
「はああああああっ!?」  
「リ、リ、リ、リ、リ、リ、リナさんっ!?」  
 
あんまりな答えにゼルガディスもアメリアも目が点になる。  
「何でそうなる!?」  
「うるさいわね!それが発動条件の一つだからに決まってるでしょ!」  
キレぎみのリナは、よく見ると首筋まで真っ赤だ。  
「何だそれは!」  
「仕方ないでしょ!」  
「そんな発動条件があるかっ!」  
「あたしに文句言わないでちょうだいっ!」  
「・・・・・・・・・・・・」  
言い合いをするゼルガディスとリナの横で、アメリアは硬直したままだ。  
「とにかくっ!人間に戻りたくないの!?」  
「うっ・・・・・・」  
それを言われると弱い。  
戻りたいに決まってる。そのために今まであちこち放浪していたのだから。  
「いや・・・・・・しかし・・・・・・その・・・・・・」  
ここでしろと?リナの目の前で?それが発動条件だって?  
「アメリアも!」  
「ええっ・・・・・・で、でもぉ・・・・・・そのぉ・・・・・・」  
「じゃあ、あたしとゼルがシてもいいの!?」  
「そっ、それはっ!」  
うろたえるアメリア。  
どうしてそうなる、と思いつつも、何となく、というか反射的にゼルガディスが自分の体の下で  
喘ぐリナを想像してしまったのは、悲しい男の性というものだろうか。  
「あたしだって、あんたたちの色事なんて見る気無いわよ!」  
恥ずかしさの余り、リナを含めて3人の顔は真っ赤だ。  
神殿が薄暗くなければ、お互いの顔色を見てさらに恥ずかしくなったに違いない。  
「でもそれが条件なのよ!だから、四の五の言わずにやんなさい!」  
あたしだって大変なのよ、とリナは思う。  
すぐ近くで色事を繰り広げる二人を無視して、呪文に集中しなくてはならないのだから。  
「・・・・・・・・・・・・」  
「・・・・・・・・・・・・」  
「・・・・・・・・・・・・」  
 
しばらく続いた沈黙を最初に破ったのはゼルガディスだった。  
「・・・・・・わかった。」  
「ゼルガディスさん!?」  
「俺は人間に戻りたい。リナの言う通りにしよう。アメリアさえよければ、だがな。」  
「・・・・・・ゼルガディスさん・・・・・・」  
アメリアは戸惑っていた。  
ゼルガディスが人間に戻れるのなら、何でもする気でいた。しかし――――  
やっぱり恥ずかしい。  
ゼルガディスとは何度か体を重ねたことはあるが、たとえ親しいリナとは言え人前でなんて。  
いやそれよりも、何よりも神聖な神殿でなんて!  
「アメリア」  
リナが優しく話しかけてきた。  
「あんたが出来ないとなると、本当にあたしがゼルとすることになるのよ。そーゆー発動条件だから。」  
もちろん、とリナが苦笑する。  
「あたしが相手じゃ、クスリでも使わなきゃならないでしょうけど。」  
「・・・・・・リナさん・・・・・・」  
「出来れば避けたいわ。そんなことしながらじゃ、呪文に集中できないし。」  
リナはアメリアの手を柔らかく握る。  
じんわりと、つないだ手からリナの思いが伝わってくるようだ。  
「アメリア、大丈夫。あたしは呪文に集中してるし、終わったら忘れるわ。」  
最近ガウリイに似てきて記憶力がないのよ、とリナがウインクをする。  
「アメリア・・・・・・」  
ゼルガディスが余り使わない、対アメリア用の殺し文句をアメリアの耳にそっと囁いた。  
ぼんっ、と音がしそうな勢いでアメリアの顔がさらに真っ赤になったが、幸い明るさが足りずに  
二人には見えなかった。  
「わっ・・・・・・わかりましたっ・・・・・・!」  
まるで出来の悪いゴーレムのようにカクカクとアメリアが頷く。  
「不肖アメリア、正義の名の下にやらせていただきますっ!」  
ヤルだなんて、俗っぽい言葉を使うんじゃない――――とゼルガディスは思ったが黙っていた。  
ゼルはなんて言ったのかしら?――――とリナは思ったが黙っていた。  
「じゃあ、始めて。二人とも遠慮せずに思う存分して頂戴。」  
リナは言うと魔法陣のすぐ外に座り込み、目を閉じて精神を集中させながら、半分ヤケになって言う。  
「あ、それと、イクときは出来れば同時にお願いね。」  
「・・・・・・・・・・・・」  
「・・・・・・・・・・・・」  
もう何も言えない。  
「・・・・・・その、なんだ、始めるか・・・・・・?」  
ゼルガディスが不器用にアメリアをベッドに誘った。  
「はいっ!」  
「・・・・・・」  
やれやれ、とゼルガディスは心の中で苦笑した。  
(こんな状況でちゃんと出来るのか?)  
 
ゼルガディスの心配は杞憂に終わった。  
お互いの体には1年近く触れていないし、この3日間そばにいるのが分かっていながら会えなかった。  
その事実があっという間に二人を燃え上がらせる。  
服を脱いで下着姿になり、ベッドに入って唇を合わせた瞬間、一気に欲望が溢れ出した。  
「あふ・・・・・・ゼルガディスさん・・・・・・」  
アメリアの目はすでにとろんとして、うるんでいる。  
(なるほどな――――)  
ゼルガディスは納得した。  
おそらく、このためにリナは3日間二人を会わせなかったのだろう。  
お互いの気持ちを高ぶらせるために。  
ゼルガディスの体力が完全に回復するのを待つために。  
そしてさっき飲んだあの液体。  
あれは軽い崔淫剤ではないだろうか?  
そうでなければ、いかに親しいリナとは言え、人前で自分がこんなに燃えるなんてありえない。  
ゼルガディスの男の象徴は、アメリアとの深い口付けに反応し、すでに硬く張りつめていた。  
すぐにでも入れたいという欲求を無視して、ゼルガディスはアメリアの豊満な胸をもみしだき、先端を口に含んだ。  
「あんっ!」  
まだ少女の面影を残した貌とは裏腹に、そこは十分成熟した女性のそれだ。  
ゼルガディスの手のひらに余る大きさで、柔らかく揺れている。  
その二つのふくらみ間に顔を埋めると、帰ってきたんだな、という実感とともに、何とも言えない安心感があった。  
「あ、ゼルガディスさん・・・・・・」  
先をねだるようにアメリアの体が揺れる。  
ゼルガディスは左右の乳房をぐっと寄せると、両方の先端を同時に舌で舐め、音をたててしゃぶった。  
「あっ!ああああん!」  
アメリアは目を閉じて体を震わせていたが、さざめくような快感に耐えられずに思わず膝を立てた。  
「っ!」  
その膝が自身の象徴に触れて、思わずゼルガディスは息を詰める。  
「アメリアっ」  
そのまま開き気味になったアメリアの秘部に男根をこすりつけると、もうそこはぐちょぐちょになっていた。  
「ふあっ!あっ!あ、イイですぅっ!」  
アメリアの花芯に引っ掛かるように男根を動かしながら、両手でたわわな乳房を揉むと  
快感にのけっぞたアメリアの首筋に強く口づけてあとを残した。  
「あ、もう、もう、来て下さいっ!」  
アメリアが自分の手で入口を押し開き、ゼルガディスを招き入れようとする。  
「ん・・・・・・」  
久し振りでキツイ、と思ったのも最初の一瞬だけで、にゅるりと抵抗なくすべてが収まった。  
「あああああ」  
「く、う・・・・・・」  
ぞくりとする衝撃をこらえてやり過ごす。  
「あ、あ、ゼルガディスさぁん・・・・・・」  
うっすらと涙を浮かべたアメリアが、ゼルガディスにささやいた。  
――――お帰りなさい。  
 
さっき飲まされたのは、どうやら崔淫効果だけではなく、強壮効果もあるらしい。  
久しぶりの交わりにすぐに達してしまうのではないかと思いながらも、二人ともかなりもった。  
「あああああんっ!そこイイですぅっ!」  
「あっ!もっと、もっと、奥に!」  
「ぐちゃぐちゃにかき回してくださいぃっ!」  
ほとんど無言で腰を振るゼルガディスに比べて、アメリアはひっきりなしに喘ぎ啼いている。  
正常位から後背位に体制を変えた時に、ゼルガディスはわざとスィーフィード像が見える位置にした。  
「アメリア、ほら、見てみろ。」  
「あふぅ?」  
目をあげると、そこにはスィーフィード像。  
何よりも、神聖な。  
「あっ、ああっ!」  
アメリアの目が驚きに見開かれる。  
淫猥な行為に没頭して忘れていたが、ここは神聖なる神殿内。  
神の御許でこんないかがわしい行為をしているのだ。  
なんて、背徳的。  
「いやらしい、巫女のお姫様・・・・・・」  
ゼルガディスが耳に吹き込んだささやきがとどめになり、アメリアの中がぎゅうっと締め付けられる。  
「あああああああああああああっ!」  
「ん、く・・・・・・」  
アメリアの最後を感じてゼルガディスも射精感をこらえることなく、二人同時に達した。  
 
真白な、光、光、光――――  
かすかに聞こえる“力ある言葉”――――  
 
それを最後に二人の意識はぷつりと途絶えた。  
 
 
「いやー、良かったなー、ゼル。」  
「ああ、本当に世話になった。」  
さすがに天才を自称するだけはあり、リナの呪文は効果を発揮して、ゼルガディスは人間の姿に戻った。  
しばらくは慣れない体に戸惑っていたが、1週間たった今はもとの体にすっかり馴染んでいた。  
「リナさん、本当にありがとうございました!」  
「もー、いいってば。何十回も聞いたから。」  
「いえ!何百回でも言わせていただきますっ!」  
それは、アメリアの本心だ。自分たちが気づいたとき、リナは魔力を全て使い切った証として  
髪を銀色に染めてぐったりと倒れていたのだ。  
それから昨日まで、リナはずっと臥せっていた。  
アメリアの自室でお茶をしながら、体調の整ったゼルガディスと、魔力が完全に回復したリナが  
ようやく顔を合わせたところだ。  
「そういえば、まだ呪文について詳しくは聞いていなかったな。」  
ゼルガディスがリナに顔を向ける。  
「ん?んんー、そうねー・・・・・・」  
「黒魔術ではないだろう?」  
「そうね、精霊魔術の部類に入ると思うけど・・・・・・」  
「具体的には何の力なんだ?」  
「うーん・・・・・・精神、かなぁ・・・・・・」  
「・・・・・・何だ、ずいぶん歯切れが悪いな・・・・・・?」  
いつものリナならこの手の話題を振ると喜々として飛びついてくるはずなのだが。  
「そ、そう?」  
怪しい。  
ゼルガディスは半眼でリナをにらむ。  
「おい、何か隠してるのか?」  
「べべべべべっつにぃー」  
あからさまに怪しい。  
じっくり追及してやろうと、ゼルガディスが改めてリナに向き直った時に、のほほんとした声が聞こえた。  
「あれだろ?愛の力ってヤツ。」  
「・・・・・・・・・・・・」  
「・・・・・・・・・・・・」  
「・・・・・・・・・・・・」  
三人そろって硬直したのち、ゼルガディスとアメリアは顔を真っ赤に染めてリナに詰め寄った。  
「おいっ!旦那に話したのかっ!?」  
「リナさん約束が違いますっ!」  
あわててリナはぶんぶんと両手を振る。  
「ちっ、違うわよっ!話してないわよっ!」  
「じゃあなんで、旦那の口から・・・・・・あ、愛の力なんて言葉が出てくるんだっ!」  
「そ、それはっ・・・・・・」  
「あれ、リナ、お前さん二人には話してないのか?」  
「うっ」  
今度はリナ一人が硬直する。  
「・・・・・・何だ?」  
「リナさん・・・・・・?」  
しばらくリナはうーっと唸っていたが、三人の視線に耐えきれないように溜息をついて肩を落とした。  
「まあ、なんてゆーか、今回の呪文が完成したのは、ガウリイのおかげなのよ・・・・・・」  
「「えええええええええっ!?」」  
アメリアとゼルガディスの声がハモった。  
 
まだ、ゼルガディスがセイルーンに到着する前のことだった。  
「ううーっ、うーっ、ううーん・・・・・・」  
魔道書を片手に頭をかきむしるリナを見ながら、ガウリイがいそいそとお茶の支度をしている。  
「おーい、リナ。あんまり無理すんなよー。」  
「うううううーっ・・・・・・ああ、もう、わかんないっ!」  
「ちょっと休憩しようぜ。」  
「何なのかしら、もう。」  
魔道書をばさりと投げ捨てて、天井を仰ぐ。  
「ほら、部屋付きのひとからハーブティーもらったぞ。」  
「身も心も・・・・・・身も心も・・・・・・」  
「何をさっきから悩んでんだ?」  
その言葉にようやく視線をガウリイに向けながら、用意されたカップを口に運ぶ。  
「あんたに言ってもしょうがないけど、発動条件の一つがどうしてもわからないのよ。」  
「はつどうじょうけん?」  
「・・・・・・考えなくていいから。」  
ハーブの香りに落ち着く気分になり、リナはほっと一息ついた。  
「身も心も愛で満たされたとき――――って、なんなのかしらね。」  
ほとんど独り言のような言葉に、ガウリイは反応する。  
「身も心も愛で満たされたとき?」  
「そ、身も心も愛で満たされたとき。」  
心が愛で満たされるならわかる。だが、身も心もというのがどうしてもわからなかった。  
体が愛で満たされるとはどういうことなのか。  
「あー、そりゃー、アノときじゃないのか?」  
「は?何よ、あのときって。」  
「だからアノとき。オレは身も心も愛で満たされるけどなー。」  
「?」  
「リナとエッチして、二人で同時にイクとき。すっげー満たされるけどなー。  
 嬉しいし、すごい気持ちいいし、ココロもカラダも最高だよ。」  
「!!!!!!!」  
 
 
「・・・・・・なるほど・・・・・・」  
話を聞いたゼルガディスが渋面を崩さずに、それでも納得したかのように頷いた。  
「それであの発動条件・・・・・・愛の力ってわけか。」  
なんだかちょっと馬鹿馬鹿しいような気になってくるが、実際人間に戻れたのだからそうだったのだろう。  
アメリアとゼルガディスがそれ以上追及してこないようなので、リナは内心ホッとしていた。  
それを打ち砕いたのはガウリイだ。  
「ん?いや、そっちの話じゃなくて、リナの――――」  
「ガウリイ!」  
あわてて口をふさごうとするリナの手を制して、ガウリイがいつになく真面目に言う。  
「隠すことじゃないだろう?言った方がいい。」  
「う・・・・・・」  
「何だ?」  
「何です?」  
「・・・・・・うう・・・・・・」  
顔を赤くして俯くリナの頭をガウリイがなでる。  
「オレから言った方がいいか?」  
ふるふると頭を振ると、リナが顔をあげてあちこちに視線をさまよわせた。  
「ええーっと、ほら、発動条件の一つで、術者が女性でそれに伴ったもう一つの条件って・・・・・・」  
「ああ、そういえばそんなことを言っていたな。」  
「それなんだけど・・・・・・その・・・・・・術者が・・・・・・」  
ぼそぼそとだんだん声が小さくなっていく。  
「に、妊娠してるっていう条件で・・・・・・」  
「「ええええええええええええええええーっ!?」」  
アメリアとゼルガディスの叫び声がハモった。  
 
再び赤くなって俯いたリナと、にこにこと嬉しそうなガウリイ。  
その二人をしばらく呆けたように見ていたゼルガディスがようやく声を絞り出した。  
「つ、つまり、だ。リナは、妊娠してるのか・・・・・・?」  
「リナさん・・・・・・」  
だからセイルーンまで来るのに時間がかかったのか。だから急がないと間に合わなかったのか。  
だから体に負担をかけない服装だったのか。だから――――  
アメリアが歓喜に体を震わせる。  
「リナさん、リナさん、リナさん、リナさんっ!」  
両手を広げるとリナの体に負担をかけないようにふわっとリナを抱きしめた。  
「おめでとうございますっ!本当にっ!リナさん・・・・・・」  
なんて素敵なの!  
アメリアの目には涙が浮かんでいる。  
リナはちょっと照れて苦笑しながらもアメリアの体を抱き返した。  
「ありがとう、アメリア。」  
喜んでいる女性陣とにこやかなガウリイとは別に、ゼルガディスは今更ながら恐怖にかられた。  
そんな身重の状態でリナは魔術を使ったのだ。魔力容量を全て使い切るような大技を。  
「リナ・・・・・・よく、無事で・・・・・・」  
さすがのゼルガディスもそれ以上言葉が続かなかった。  
対してリナは、軽い調子で笑う。  
「大丈夫よ。もう安定期に入ってるし。自分の限界くらいわかってるし。」  
「リナ・・・・・・」  
ゼルガディスは心の底から感謝と尊敬の気持ちがわきあがってくるのを感じた。  
リナに対して。そして、それを許したガウリイに対して。  
きっとガウリイは心配だったに違いないのに。  
それだけリナを信頼しているのか。  
リナは、それだけ俺たちを思ってくれているのか。  
「ガウリイ・・・・・・」  
ゼルガディスは出会ってから初めてガウリイの手を取った。  
「ありがとう、ガウリイ。」  
そして深々と頭を下げる。  
穏やかに優しく微笑むガウリイの手に、ぽたりと一滴だけゼルガディスの涙が落ちた。  
 
 
しばらくして――――  
セイルーン第二王女と黒髪の騎士の婚礼の儀が、国をあげて大々的に行われ、  
そこに参列したセイルーン宮廷魔道士の腕には赤ん坊が抱かれ、そばには金髪の近衛隊長が控えていた。  
 
 
終わり  
 

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