「じゃあ、もうすぐお客がここに来るから初仕事がんばってね。
教えたとおりすればいいから、フィリアちゃんならきっと売れっ子になれるからね〜」
「は、はい……」
言うことだけ言って軽薄な店員はぱたんとドアを閉め、部屋にはフィリアだけがぽつんと残された。
自分が今いる部屋を、フィリアはゆっくりと見回してみる。
小さな部屋に不似合いなやたら豪華なベッド、あとは小さな椅子と水差しや簡単な手桶。
早い話がここは、お金を払えば女性とエッチができる男性のための店の一室で、
この安っぽいピンクにまみれた部屋が、今日からフィリアの仕事場である。
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……。
フィリアの口から長い長いため息が漏れた。
何故、こんなことになってしまったんだろう。
骨董品店は初めはうまく行っていた。フィリアが選んだ茶器類は評判もよく、遠方からもよくお客がやってきた。
が、昨今の大陸を襲った大不況は、フィリアの想像を絶してした。
人間の店でさえばたばた潰れていく中、所詮素人商売のフィリアたちにはなす術もなく、
あっという間に借金まみれになってしまった。
今月中に金利だけでも返さなければ店は人手に渡ってしまうところまで追い詰められてしまい、
にっちもさっちもいかなくなり、なんとかしなければとフィリアが選んだ仕事がこれである。
覚悟はしていたものの、ひらひらした衣装を着て部屋でぽつんと待っていると、どうしようもなく不安になってくる。
握り締めた手が白くなり、胸のあたりから緊張がこみ上げてくる。
思い立ってキッと顔をあげ、ぴしゃりと両頬を叩く。
(しっかりしなければ……。私ががんばらなきゃ、ヴァルやジラスさんたちが路頭に迷ってしまう!)
「待っててねヴァル、お母さん(自分のこと)お金沢山稼いで帰るから!」
籠の中の卵を思い浮かべ、フィリアは拳を振り上げ気合を入れる。
「ご指名の娘はこちらです。フィリアちゃ〜ん、お客様だよ〜」
どきん、とフィリアの心音が跳ねる。
ドアが開き客が入ってくる気配がして、フィリアは深々とお辞儀をした。……とても顔なんか見ることができない。
(がんばるのよ、ヴァルのために……!)
「い、いらっしゃいませ、お客さま……」
引きつった笑みを浮かべたまま、フィリアは顔を上げた。
「今日お相手を勤めさせて頂きますフィリアです。よろしくおねが」
「ああーっ、やっぱりフィリアさんじゃないですか!」
一番会いたくない人物(人じゃないけど)がにこやかに笑って立っていた。
「あの〜、僕こういう店初めてなのでよくわからないんですけど、その逆立ちはサービスですか?
パンツ丸見えなのはいい眺めですけど」
「な……な、な……」
ひっくり返ったフィリアだったが慌てて起き上がってスカートの裾を整え、目の前の生ゴミ神官をびしっと指差す。
「なななな何故、あなたがこんな所にいるんですかぁぁーーーっ!」
「何故って、給料出たから遊びに来たんですよ」
しれっと答える獣神官ゼロス。
「ま、魔族がなんでこんな店に来るんですかぁぁーーーっ!」
「実を言うと、同僚から黄金竜の嬢がいるらしい店があるって聞いたもんで、もしかしたらと思って来てみたんですよ。
やっぱりフィリアさんでしたかー、はっはっは。
どーせ空いた時間に簡単にできて高給が取れるとか、そーゆーチラシ真に受けたんでしょ?」
「ほっといて下さい!」
「……図星ですか。まあいいや、早くサービスして下さいよ」
いそいそとマントを脱ぐゼロスに、フィリアの血管はブチ切れそうになる。
「何のサービスですか! 何の!」
「ええー、ここぱそういうお店でしょー。舐めたりしゃぶったり、あんなことやこんなことしてくれると思ったのに」
ボッ、とフィリアの顔が一気に茹で上がる。
「だだだ、誰があなたなんかに! チェンジですチェンジ! 帰って下さい!」
「チェンジって客の方がするんじゃないんですか? まあいいや、フィリアさんがやりたくないなら、僕がしてあげましょうか?」
「え?」
急展開にとまどうフィリアの腕を、ぐいと引っ張るゼロス。
「な、何するんですかぁぁーーー!!」
「何って、ナニする所でしょ? ここ」
「い……、いやです! 絶対イヤーーーっ!」
猛然と暴れまくるフィリアだがゼロスに抱え込まれ、身動きが取れなくなる。
「ゼロスいいかげんに……あん」
ひらひらしたピンクの上から柔らかい乳房を背後から揉まれて、思わず声が出てしまう。
「感じやすいですねえ、可愛いですよ、フィリアさん」
「……ふぁ、や、やめてゼロス……はぁん」
薄い布地は手の感触をそのまま伝える。すくい上げるように揉みしだかれ、固く立ち上がった乳首を強く摘まれた。
「あうっ!」
喉を仰け反らせて喘ぐフィリアに、ゼロスはくすくすと笑い声を上げて、むき出しの肩に舌を這わす。
「あ、ああん、だ……め、あん」
足に力が入らず立っていられなくなり、フィリアはゼロスの腕の中にくたりと倒れこんだ。
「おや、ずいぶん積極的ですねえ」
「ち……が……」
わざと音ををたててうなじを嘗め回され、フィリアの肌が泡立つ。
硬直するフィリアにお構いなしに、ゼロスは肩紐を解いて器用にフィリアの衣装を剥ぎ取っていく。
「や……めて、ゼロ……ス」
「いいじゃないですか。久しぶりに会ったんだし、楽しみましょうよ」
めったに見えない瞳を見せて、肉食獣の顔で笑う。
「ずいぶん大人しくなりましたね」
ベッドに横たわったフィリアを手のひらで乳房をこねる様に弄びながら、顔は胸元に面伏せながらゼロスが尋ねる。
ゼロスの吐息が乳房をくすぐり、そのわずかな刺激にも思わず体が震え、声が上がる。
「うっ、は、ああん、やめて……」
ふいに乳首を口に含まれる。
「はうっ!」
飴を舐めるように舌で転がされ、きつく吸われ歯を立てられ弄られて、フィリアは髪を振り乱して喘ぎ続ける。
引き剥がそうと肩に手を掛けても力が入らず、肩にすがることしかできない。
「あ、ああ……はぁぁん……」
「いい声で鳴きますね、素敵ですよ、フィリアさん」
手が乳房から離れ、滑らかな腹を撫でてから、するりと下へ降りていく。
「あ? だ、駄目、やめてゼロス!」
「止めろって、誰に言ってるんですか?」
弱々しく止めた手は突破され、あっさり膝を割られて足を開かされた。
「……っ!」
足を閉じようとフィリアはもがくが、わずかに身をよじることしかできない。
秘所がゼロスの視線に晒され、恥ずかしさに顔に血が上る。
「形は人間と同じですね。人間に化けてるんですから当然ですか」
くすくす笑いながら、ゼロスがちろと唇を舐めた。
「じゃ、味見といきますか」
「! や……嫌! お願いやめて! はう!」
ゼロスの頭が足の間に埋まり、ぴちゃぴちゃと卑猥な水音が聞こえてくる。
入り口を丁寧に舐めまわされ、花弁を甘咬みされて、突起を強く吸われる。
「も、もう……あ……、あう、あああーーっ!」
ゼロスの舌がフィリアの中に入り込んでくる。
「はぁん、あん、くっん、あああーっ!」
がくんっとフィリアの体が崩れ落ちた。大きく肩を上下させ、目は潤んで頬は上気している。
「へばるのはまだ早いですよ、フィリアさん」
抱き上げられてうつ伏せにされ、腰を上げられても、フィリアはされるがままになっていた。
「は、はぁ、はぁっはぁぁん……っ! もう、やめてゼロス、許して……」
後ろから何度も貫かれて揺すぶられ、顔をシーツに面伏せたまま涙声でフィリアはゼロスに訴えた。
「まだまだこれからですよ」
「む、無理……だ、だって私、壊れちゃ、う……あ、あ、あ……っ!」
「何言ってるんですか、竜のくせに」
容赦なく腰を叩きつけられて、何度も果てて意識が飛んでは引き戻され、そんなことが繰り返され長い時間が立っている。
玉の汗が飛び、湿った肉のぶつかる音が部屋に響く。
「あ、あ、あああーーーっ!」
喉を晒して髪を振り乱しながら、何度目かわからない絶頂をフィリアは迎えた。
くたりと崩れ落ちたフィリアをゼロスは膝に抱き上げた。
顔を向けさせ、何度か頬を叩くと焦点の合わない目がうっすらと開く。
「聞こえてますか? フィリアさん」
「う……」
「はした金のために、誰かれ構わず抱かれようと思ったんでしょう? ヴァルガーヴのために」
靄がかかったような意識の中で、フィリアはゼロスの声を聞いていた。
「あなたはね、僕にだけに抱かれてりゃいいんですよ。僕が飽きるまでね」
くっくとゼロスは喉の奥で笑い、フィリアの意識は黒い闇に飲まれていった。
「では、金貨4枚下さいね」
意識を取り戻したフィリアに開口一番そう言って、手を差し出すゼロス。
「は? な、なぜ私があなたに払わなきゃいけないんですかぁぁーーっ!」
「だって結局フィリアさん何もしてませんし、サービスしたのは僕の方ですよ」
「あ……、あんなことしておいて、何がサービスですか!」
「えー? だってフィリアさん何回もいきまくって喜んでたじゃないですか。あんな大きな声出して、気持ちよかったでしょ?」
「…………っ!」
ぶちん。
「? 何の音ですか?」
「ぜぇぇーーーろぉぉーーーすぅぅーーー」
低い叫びと共にフィリアの体がまばゆい光に包まれる。見る見るうちに体が巨大化して、雄たけびは竜の咆哮になり、
フィリアは巨大な黄金竜に姿を変えた。
瞳は怒りに赤く光り、土ぼこりをたてて建物が瓦礫と化していく。
「あ、切れちゃいましたか」
「ぜぇぇーーーーろぉぉぉーーーーすぅぅーーーっ!!」
どぉぉん。轟音を立ててリボンのついた尻尾が、ゼロスの上に振り下ろされる。
が、寸前でゼロスは瞬間移動し、フィリアの鼻先にしゅいんと現れ、にこにこと手を振っている。
「やることやったし、そろそろ帰りますね。また遊びましょうねー、フィリアさん」
「まーちーなーさーーーい、ぜーろーすぅぅーーーーッ!」
飛んでいく黒い円錐を追うべく黄金竜が飛び立つ。空の彼方をどこまでも追いかけていき、
やがて黄色い点になって見えなくなった。
後日談。
「あああああ、私達のお店があああ、ゾアナ復興のための資金源があああ」
破壊つくされたえっちなお店「ゾアメルグスター」の前で、マルチナはぺたりと座り込んだ。
「泣くなマルチナ。元気を出せ」
帽子ともしゃもしゃ頭がトレードマークのゾアナ国王が、妻を慰めるべく声をかける。
「だ、だってダーリン。外の世界と交易するために借金して買った船も、変なドラゴンに壊されちゃったし(TRY1話のアレ)、
もう私、どうしたらいいのか……」
さめざめと泣くマルチナの肩をザングルスがぽんと叩く。
「大丈夫だマルチナ、幸いにも死傷者は1人も出なかったし、
もう新しいエステサロン(とマルチナには言ってある)を借りる準備はしてある。
今度はエスティシャンには巨乳の上玉……腕のいい職人たちを揃えたから、また繁盛するぞ! なんといっぺんに10人だ!」
「わぁ! さすがはダーリンだわん」
「紹介するぜ、新しく雇うエスティシャンたちだ!」
「おーーーーーーっ、ほっほっほっほっほっほっほっほっ」×10
その後、フィリアは馬車馬のように働いて、骨董品店はなんとか持ち直すことができたが、
ゾアナはずーっと貧乏だったそうな。