彼女がやってくる。  
サイラーグへ向かう道中にある小さな宿場町、  
糸のような細い月が浮かぶ深夜の宿。  
聞きなれた足音がドアの向こうで止まり、遠慮がちなノックの音が聞こえる。  
「開いてる」  
灯りを落とした薄暗い部屋の中、ベッドに腰掛けぶっきらぼうに答える。  
軋んだ音とともにドアが開き、現れたのはシルフィールだった。  
「眠ってましたか?」  
「いや、起きてた」  
「……今夜、よろしいですか?」  
返事はしない。いつものことで、それを了解ととったシルフィールは背を向けてドアの錠を落とし、  
乾いた金属音がカチャリと鳴る。  
ドアを向いてるシルフィールの表情はわからないが、黒髪がかかった細い肩がまるで泣いているように見えた。  
こちらを向き、慣れた仕草で服を脱いでいくシルフィールを見ると、少し胸が痛む。  
するりとスパッツを下ろして椅子の背にかけ、下着だけのシルフィールがゆっくりと近づいてくる。  
視線が絡む。  
シルフィールはべッドに手をついて屈みこみ、細い指が岩肌の頬に添えられる。  
感情の見えない翠の目で見つめられるが、自分を見ているわけではないのは承知の上。  
唇が重なる。  
深くない触れるだけの、啄ばむように何度も繰り返される口付け。  
柔らかい感触に、全身から血が集まって来る。  
湧き上がって来る欲望のままに細い腕を取り、乱暴にベッドに組み敷いた。  
ベッドのスプリングがぎしりと音を立て、長い黒髪が舞う。  
シーツに押し付けられたシルフィールの目がゆっくりと閉じていく。  
「………ア」  
「…………さま」  
お互い、目の前にいる相手とは違う名を呟いた。  
 
きっかけがなんだったのか、どちらから誘ったのかもう覚えていない。  
ガウリイがフィブリゾにさらわれたこと、かなわないとわかっている敵に戦いを挑むこと、滅んだはずの町の噂、  
仲間としての信頼と愛情、そして決して叶うことのないそれぞれの相手への想い。  
行き場のない感情が体の中をぐるぐる回り、日に日に膨れ上がりこういう形で現れた。  
そういうことなのだと思う。  
お互い代用品であることを承知の上で、肌を重ね慰めあう。  
 
「んっ……、んんっふ……、んん」  
ベッドの上に座って、足の間でうごめくシルフィールの頭を見下ろす。  
シルフィールの細い指が、立ち上がってきたものを強く弱く撫ですさり、唇が尖端に向けてゆっくりと這い上がっていく。  
頂点に軽く口付けてから、小さな唇が開きそっと咥えこむ。  
シルフィールの口内で舌がうごめき、絡み付いてくる。  
「んくっ、ん……っ」  
シルフィールのくぐもった声が響く。  
闇の中、肩甲骨がくっきり浮き出た白い肩だけが目に映り、  
体を屈めて柔らかくて感触のいい乳房を手探りで揉みほぐしていくと、シルフィールの肌が次第に熱を持ち始める。  
「ふっ、ふぅん……んくっ」  
乳首を摘むように擦ると、ぴくと肩が揺れた。  
そのままこねる様に弄ぶと、荒い呼吸が甘い喘ぎに変わっていく。  
 
「……もういい」  
「あ、はぁ、ああぁ……」  
艶を帯びた声をあげながら、シルフィールの口から唾液の糸が引く。。  
そのまま糊のきいた安物のシーツに、シルフィールをうつ伏せに押し付けた。  
後ろから抱きすくめて背筋に舌を這わすと、跳ねるように弓なりになり、頭を振って声を上げ続ける。  
最中に顔を見ないのは、どちらからともなく決めたルールのようなものだった。  
黒髪が散らばる白い背中を眺めていると、本当にアメリアを抱いているような錯覚に陥る。  
「……っは、あん、ガウリ……さま……ん」  
向こうも同じらしい。  
俺とガウリイが似ている所など、どこにもありはしないだろうに。  
 
身を起こし、シルフィールの腰を抱えてあげさせる。  
「あ……いやぁ……」  
小さくシルフィールが身じろぎするが、言葉とは裏腹に白い双丘から見える秘所はすっかり潤っていて、  
紅く誘うようにてらてら光っている。  
後ろから指を差し入れると、小さな水音をたてて抵抗なく指を飲み込んでいく。  
「あ……」  
内壁を擦るように動かすと、シルフィールが切ない声を上げた。  
「……っああ、だめ、です……ん」  
中で指がうごめくと白い喉を反らせて首を振り、ぎゅっと締め付けてくる。  
さらに指を増やして、少し力をこめて責めてみる。  
「はぅ!」  
さすがにシルフィールが苦痛の声を上げた。秘所から指を伝って蜜が滴り落ちる。  
指の動きにあわせて、シルフィールの尻が揺れる。  
 
指を引き抜いてシルフィールの腰を抱えあげ、とろとろに溶けた部分に尖端をあてがう。  
「……いいか?」  
「はい……来て、下さい……」  
腰を落として一気に貫くと、小さな悲鳴を上げてシルフィールが喉を仰け反らし、髪が広がって揺れる。  
そのまま腰を進めていくと、白い肌が揺れる。  
「あ、あん、はああ……」  
シルフィールは歌うような嬌声を上げ、シーツを手繰り寄せて衝撃に耐えている。  
シルフィールの中はいつも温かく、内壁が柔らかく絡み付いてきて心地よく、  
包み込まれているその瞬間だけは、何もかも忘れられる。  
「あっ、んんっ、んあぁ!」  
抜き差しの動きに合わせて、シルフィールの体が仰け反って跳ねあがり、湿った水音が耳をうつ。  
揺れる影、軋むベッド、肉のぶつかる音、悲鳴のような喘ぎ。  
打ち付ける腰を深く受け入れるように、シルフィールの尻が動く。  
「はっ、あああ……ガウリイ、さまぁっ!」  
「アメリ……ア!」  
欲望の塊をシルフィールの中に吐き出し、お互い繋がっている相手とは違う名前を呼びながら、果てた。  
 
「時々、思うんですよ。私の方が先にガウリイ様に会ったのに……って」  
毛布を掛けて横たわったまま、ベッドに腰掛けているゼルガディスの背に向けて話かける。  
「順番なんか関係ないのに、莫迦みたいですよね」  
「気持ちはどうしようもないだろう」  
「それはそうなんですけど」  
町が伝説の魔獣に襲われ、なすすべもなかった時に現れたのは、光の剣を携えたガウリイだった。  
長い金髪をなびかせた光り輝くような姿で、強くて憧れて、彼が去ったあともずっと好きで思い続けていた。  
もう会いないと思っていたら、再び町が危機に陥ったときに、助けにきてくれた。  
嬉しかった。  
しかし、再会したガウリイの傍らには見知らぬ少女がいた。  
共に死線を乗り越えてきたという2人の間には、見えない絆のようなものが感じられて、  
入り込めないと思った。  
彼の隣に自分が立つことは、もうないのだと。  
 
「アメリアさんは」  
ぴくとゼルガディスの肩が小さく動いた気がした。  
「ゼルガディスさんのこと好きですよ、きっと」  
ゼルガディスの姿を目で追って、見えなくなると理由をつけて探し回り、男のささいな言動に喜んだり落ち込んだりする、  
可愛い王女の姿が目に浮かぶ。  
「知ってる」  
意外にもきっぱりした声が返って来た。  
「だから困るんだ」  
壁際を向いているゼルガディスの表情はわからないが、痛いほどの想いは伝わってきた。  
「……難しいですね」  
 
 
次の朝、自室のベッドで目覚めた。  
さすがにゼルガディスのベッドで朝を迎える訳にはいかず、深夜のうちに自室に戻ったのだが、  
昨夜見た夢のせいか頭がはっきりしない。  
「夢……ですよね」  
不思議な夢だった。  
夢の中でシルフィールは何故かセイルーンの王城の大広間にいて、広間の中央でゼルガディスがフィリオネルの前に跪いていた。  
フィリオネルは剣を構え、ゼルガディスの肩におごそかに剣を添える。  
自分は魔道士隊の末席でこの光景を見ていて、ふとアメリアはどこにいるのかと周りに目を走らせた。  
アメリアはすぐ見つかった。中央の2人から少し離れた上座でこの儀式を見ていた。  
彼女によく似合うピンクのドレスを着て嬉しそうに微笑み、涙ぐんでいた。  
 
セイルーンの王城には行ったことはないし、ましてや騎士の儀式など見たこともない。  
フィリオネルおう……殿下にも一度だけ会ったきりだ。  
ただの夢と言ってしまえばその通りだけど、それにしてはリアルで細部まではっきり思い出せる。  
とはいっても、  
「ゼルガディスさんがセイルーンに仕えるなんて……、まあ夢なんですけどね」  
自然と笑みがこぼれた。  
窓を開けて外を見ると、もうすっかり日が昇っている。  
景色の向こうに、滅んだはずの巨大な木がうっすらと見えた。  
あそこにガウリイがフィブリゾに捕らえられている……。背筋がぞくりと震える。  
 
皆でサイラーグへ行く。  
そしてガウリイさまを助け出す。  
今は、それだけを考えよう。  
 

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