平和な夜に魔道書を抱えたリナがゼルガディスの部屋にやってくるのは日常茶飯事だ。
巫女のアメリアもクラゲなガウリイも魔道談義の相手には向かない。
いつものように二人で精霊魔術や黒魔術について意見を交わしていたが、
ふとゼルガディスがリナのおかしな様子に気づいた。
時々頬に手を当てながら、口をパクパクさせている。死にかけの魚みたいだ。
「おい、口どうしたんだ」
「え?」
「さっきから気にしてるだろう」
「あ、なーんか、痛むのよね。今朝からなんだけど……」
「見せてみろ」
心もち身を乗り出してリナの顔を覗き込むが、腫れている様子もない。
「ひどいのいか?」
「ううん。ちょっとした筋肉痛みたいな感じなの」
「筋肉痛?」
ちょっと考えてから、ゼルガディスは呆れたように笑った。
「また旦那相手に、無茶な大食い早食い競争でもしたんだろ」
「へ?」
「長時間大口開けてるから、そんなところが筋肉痛なんかになるんだ」
特別心配するようなことではないだろう、とゼルガディスが体を戻したとき
―――― がたんっ!
椅子を蹴倒す音が響き、リナがうつむいたまま勢いよく後ろを向く。
「え、おい、どうし―――― 」
「あたし帰るっ!おやすみゼルっ!」
「リナ?」
―――― ばたんっ ばたばたばた がんっ
ゼルガディスの部屋の扉をたたきつけるように閉め、続いて廊下を走る音、
そしておそらくはリナの部屋の扉を閉める音が続く。
「……何なんだ、一体……」
残されたゼルガディスは首をかしげながら、リナが置いて行った魔道書を片づけた。
何てこと、何てこと、何てことっ!
部屋に戻ったリナはベッドにダイブして頭から毛布をかぶる。
気づかれたろうか?ゼルガディスは勘がいい。きっと気づいたに違いない。
「あああああああああああああ」
顔中、どころか全身がが熱い。鏡なんか見なくてもわかる。きっと真っ赤だ。
筋肉痛だなんて。
アレのせいだ。
ぜったいアレのせいだ。
昨日から月のものが来て、いたすことが出来なかった。
だから、初めて口でした。
ガウリイの、超ビッグなモノを。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
思い出して身もだえしながら、頭の片隅では冷静につぶやく。
(慣れれば平気かしら……?)