急に風が強く吹くから、こんなことになったんだ。  
 風に髪を揺さぶられたリナが月を見上げていられなくなって、俺のほうを振りむいた。  
 俺と目が合った彼女がこちらにゆっくりと微笑んでみせたとたん、俺は強い酒を一気に浴びたときのように  
カァっと顔が熱くなってしまった。  
 たたきつけるような動悸がおさまらなかった。  
 俺は満月が照らすこの春の夜に、いかれていたのかもしれない。  
 なぜ外に二人でいたのだろう。  
 また月を見上げる無防備なリナに当て身をくらわして抱きかかえ、レイ・ウィングでかっ飛ばすことなど造作も  
なかった。リナは簡単に気を失い、俺の腕の中に捕らわれてぐったりしていた。  
 たしか出会った当時もこうやってさらっていった。  
 その時もガウリイの旦那はどこか別の場所にいたな。  
 あの時、力ずくで奪い取りたかったものは賢者の石だったが、むしろ今の俺はその時よりも強烈に、この  
女を無理やりにでも奪い取ってしまいたかった。  
 
 
 リナが目を覚ます。  
 俺は腰掛けていたイスから立ち上がり、ゆっくりとリナに近づきながら優しく話しかける。  
 「懐かしいな……あの時もこうやって縛られて、ぴーぴー泣いてたっけな」  
 リナは状況を把握するのに精一杯、という感じで黙っている。  
 「……どうした? 泣き喚いたりしないのか?」  
 リナの両手を布で縛り、それを縄でくくりつけて天井から吊り下げている。  
 あの時は古い教会だったが、場所まで再現しなくてもいいだろう。  
 ここは森の奥の東屋だ。近くに滝があるので叫んでも誰にも届かない。  
 猿ぐつわはしていなかった。  
 「……いったい何をするつもり? ゼル……」  
 ようやく現状を把握した様子でリナが口を開く。  
 鈴が転がるような、可憐な響きに聞こえる。俺は重症だ。  
 「こんな状況でそんなことを聞くなんてお前さんらしくないな……呪文でも唱えてみたらどうだ?」  
 精神統一のできない状態で魔法制御ができるならな。  
 大技は制御に失敗すれば威力は全て術者に跳ね返る。  
 かといって唱えただけで発動する小技など俺に効くわけもない。  
 それくらいこの女は承知している。  
 むしろこれからされることを思えば、そんな危うい賭けにはでないだろう。  
 案の定また黙り込んだリナに、さきほどの質問の答えを返す。  
 「そうだな……お前を俺の女にしたい、てとこか」  
 言いながら俺はリナのあごに手をかける。  
 大きな瞳を隠すように、長いまつげが震えている。  
 「冗談やめてよ……ねぇ、ちょっと、落ち着いて……」  
 「ああ、焦ってはいない」  
 俺のゆったりとした態度から滲み出る狂気が、リナの心を侵食して瞳に恐怖の色を宿す。  
 無理もない、いきなりさらわれて縛りあげられているのだから。  
 俺は狂おしいほどの激情に抗えなかった。  
 俺とは別の男にリナの心が向いているのが耐えられなかった。  
 心が手に入らないのなら、せめて身体だけでも俺のものにしたかった。  
 ゆっくりと唇を近づける。  
 あごをつかんでいる俺の手からあっさりと顔を離し、横を向くリナ。  
 気が強いところがまたいい。  
 華奢で少女のような身体をしていながら、内に秘める強さと、ときおり見せる女の表情が、何度となく俺を  
揺さぶり続けそして狂わせたのだ。  
 
 俺はリナの服に手をかける。  
 リナがハッと息をのんだ。  
 構わずに指で軽く引き裂くと、簡単に肌を俺の目の前にさらした。  
 心の中も、こんなふうにこじ開けられたら……いや、望むべくもない。  
 こぶりな乳房をそっとにぎる。  
 リナの緊張が手のひらに伝わってくる。  
 そんなリナがもどかしくて強く揉みしだきたい気持ちになったが、あくまで優しく手の中でもてあそぶ。  
 やっと手に入れた愛しい女の身体なのだから、丁寧に扱わないとな。  
 小さく震える乳首にやわらかく舌を押し付ける。  
 俺の舌の上でぴくんっと立ち上がっていくさまに感動する。  
 「やめて……やめてゼル……」  
 やっと絞りだした制止の声が弱弱しい。  
 俺の本気を感じ取っているのだろう。  
 リナは一度仲間になった者にはとことんまで甘くなる。魔族すら自分の側にいることを許したのだ。  
 俺はその甘さにつけこんで、己の欲望を満たしていく……  
 片腕をリナの背にまわして動けないようにしておいて、片手で乳房を下から優しくなでまわし、もう片方を舌で  
なめあげていく。じゅうぶん固くなったところを口に含み、たっぷりと可愛がる。  
 喘ぎを抑えるためにリナは制止の声すら出さなくなった。  
 身体が緊張していることが手に取るようにわかる。  
 じっとりと汗ばんでいく肌がなまめかしい。  
 口の中で転がしていた乳首をすこしだけ強く吸ってみた。  
 リナは身をよじり喉をのけぞらせながらも吐息すらもらさなかった。  
 素直なようでいて強情だ。たまらない。  
 指で乳首をつまみあげてゆっくりとひっぱっていく。  
 その先をつきだした舌で小刻みになめると、かぼそい悲鳴のような声がリナの口からもれた。  
 リナが出すはずもない喘ぎに似た声に、俺は胸が焼けるように興奮していく。  
 悲鳴をあげさせるのは簡単だ。苦痛をまぜてやればいい。  
 しかし、本当に俺が聞きたいのは、快楽に溺れる喘ぎ声なのだ。  
 我を忘れるほどの快楽をあたえて、狂うくらいによがってほしい。  
 身体だけでもいいから俺を愛してほしいのだ。  
 俺は舌での愛撫をつづけながら、リナのベルトをはずし、細い腰からズボンを脚元へ下ろしていく。  
 リナは頭をぶんぶんとふっていやがっているが、無意味なことだ。  
 可愛らしい下着に年齢があらわれている。  
 しかしそれすらも俺の心に火をつけるだけだった。  
 中身は年齢よりも十分に大人なのだから、構うことはない。  
 むしろ愛撫に身悶える姿とのギャップが愉しいほどだ。  
 そっと下着の上から指でなぞり……その感触に俺は硬直してしまった。  
 濡れている……  
 それがわかった瞬間、微かに残っていたはずの俺の理性は弾け飛んでいた。  
 ありえない妄想が頭の中を支配していく。  
 感じているのではないか、本当は俺の愛撫に喜んでいるんじゃないのか?  
 いやだ違うと言われたくなくて、何も聞かず強引にキスをした。  
 片手をリナの後ろ頭にまわし、逃がさないように抑えると、むりやり舌をねじこんで、呼吸すら許さない  
ほどにむさぼりついた。  
 陵辱めいた行為をしているのに、俺は愚かにも愛を求めてしまっているのだ。救われない……  
 いまさらながら胸が悲しみに押しつぶされて苦しくなる。  
 唇を離し、リナの髪に頬をうずめるようにして強く抱きしめた。  
 このまま俺の腕の中で潰れてしまえばいい、そう思いながら。  
 
 リナが叫ぶ。  
 「ゼルっ……ほどいて……!」  
 俺は何を言われているのかわからなかった。リナは言葉をつづける。  
 「逃げないからっ!……ちゃんと、抱いてっ……」  
 思わずリナの目を見た。  
 頬が赤くなって、少し潤んでいるように見えた。  
 「あたし、あなたのこと…………きらいじゃないの……」  
 ……俺は無言でリナを吊り下げる縄を横なぎに切り、片腕で崩れ落ちる腰を抱き寄せる。  
 聞き間違い、なのか?   
 いやしかし、確かにリナは抱いて、と言った……  
 縛り上げられている両手首が行き場を探すように戸惑うように揺れ、いくぶん迷いながら俺の頭を抱える  
かたちに降りてくる。  
 俺たちは初めて正面から抱き合っていた。  
 「……ガウリイの旦那はいいのか?」  
 俺は混乱しているのだろうか、聞かなくてもいいことを聞いてしまう。  
 リナは困ったような顔をして、それでも答えを返してきた。  
 「まあ、操を立てたいっていうのはあるわよ。でも、魔族にまで狙われて、こんないつ死ぬかもわからない  
 状況だとね……あたしはしたいことは生きている内に全部やっておきたいのよ」  
 賛同は得られないだろうが、リナらしい言い草だと思った。  
 「むしろ、尻軽だって呆れてやる気なくしてくれるのが、一番ありがたいんだけど」  
 そう言って笑いかけるリナは、まるでいたずらをみつかった子供のように、ぺろっと舌を出して肩をすくめた。  
 「たしかに、そのほうがお互いにとって賢明だな……」  
 俺は己の内を荒れ狂う獣が少しもおさまらないことを棚にあげて、希望論を述べたが、これで終わらすつもり  
には到底なれなかった。  
 男と女として、抱き合えるのだ。  
 このまま終われるわけがない。  
 俺はリナを抱きしめたまま、壁際のベッドに移動すると、片手で自分のローブをばさりと投げ敷き、リナを  
うつぶせに寝かす。すぐには逃げられないように。  
 リナの言葉を信じていないわけではないが、自分に自信がもてないというのが正直な気持ちだった。  
 いざとなってリナの気が変わることがあったら、今の俺ではそれを許してしまいかねなかったからだ。  
 「……やる気まんまん……てわけね……」  
 「……少しは色っぽいこと言ってみたらどうだ……」  
 うつぶせにさせたまま、腰だけを持ち上げて、つきださせる。  
 下着をつけたままの秘裂に軽く口付けをする。  
 確かに熱く湿って、濡れている。  
 女の匂いが微かに漂う。  
 指でそっとなぞりおろし、クリトリスの上でとめる。  
 「くぅ……」  
 小さく声をあげるリナ。  
 いじらしくもまだ耐えるようだ。まあいい、時間はまだある。そのうちたっぷりと喘がしてやるさ。  
 爪を少し立てて触れるか触れないかぐらいの微妙さで刺激すると、腰がぷるぷると震えだした。  
 じんわりと下着が濡れていく。  
 「ほう……やはり感じやすいんだな……ガウリイの旦那にも可愛がってもらってたんだろ……?」  
 「……こらっこんなときにそんなこと言わないのっ!……」  
 リナがキっとこちらを睨みつける。  
 その目が潤んでいるのがはっきりと見て取れた。  
 どうしてこうもいじめたくなってしまうのか。俺はガキか……  
 リナは縛られたままの手を前方に投げ出して、俺の敷いたローブを握りしめている。  
 まるで子猫が伸びをしているような格好だ。  
 俺が動かす指にあわせて、腰が震え背がのけぞる。  
 
 ゆっくりと下着を脱がしていく。  
 小さく縁取られていたフリルにまで愛液が染み渡り、細く糸をひいていく。  
 脚から取るのも面倒だったので、膝の辺りでとめておく。ズボンもそうしておいた。  
 「……きれいだな……」  
 つややかなピンク色をしていたので、思わず口に出していた。  
 全体的に充血して赤くなってはいたが、形も整っていて、崩れもなかった。  
 「……じろじろ見ないでよ……」  
 リナが小さく言う。  
 泣きそうになっているのか、声がか細い。  
 「そうか……」   
 要望通り、俺は濡れそぼったリナの秘裂に舌を這わしていく。  
 「あっ……はぅ……はぁっ……」  
 堪えているのだろうが、それでも喘ぎを隠すことなど出来ずに、身悶えしながら快楽を受け入れていく。  
 そんなリナを見ながら、俺は胸の内が満たされていくのを感じていた。  
 ちゅぷっと音を立ててクリトリスに吸いつくと、痺れるような細かい震えがリナの全身をかけていく。  
 「感度がいいんだな、嬉しいぜ……」  
 口を離してそうつぶやくが、リナは羞恥に肩を震わして黙っているだけだった。  
 滴る愛液を舌でからめとり、クリトリスになすりつけ、尖らせた舌でいじめていく。  
 軽く触れる程度の力で上下にこすりつけると、リナの喘ぎが一段と大きくなり、長い髪が背で揺れる。  
 「イクときは教えろよ」  
 リナは意地でも言わないだろうが、もっと羞恥心を煽りたい。  
 寸止めしようかともふと思ったが、やはりイク声を早く聞いてみたい。  
 俺はあぐらをかいた姿勢で片腕をリナのふとももにまわし抱きかかえ、もう片方の腕は上からまわして指で  
秘裂をやわらかく広げる。  
 俺の目の前でひくつく様が過激なほどいやらしい。  
 もっとしてくれと誘ってくる。  
 俺はクリトリスを吸い上げてから唇全体で押しつぶし、剥けたところを舌で容赦なく責めていった。  
 リナの腰が暴れだすが、俺の腕でしっかり掴まえられていて逃げ出すこともできずに追い詰められていった。  
 喘ぎ声が高くなっていき、それにあわせて背中が弓なりにのけぞっていく。  
 脚が緊張で硬直し、ローブを掴む手の力がより強くなっていった。  
 イク瞬間など隠せるわけもない。  
 それでも口で言わないのはせめてもの抵抗なのか照れなのか。  
 可愛い女だ、と思いながら俺は舌の動きを止めずに中指を秘裂に差し込んでいく。  
 イきながら入れられると頭の芯が焼けつくような快感が襲うのだと、昔の女が言っていた。  
 リナがそう感じてくれていることを願ってゆっくりと指を奥へすすめる。  
 細い腰をくねらせ、深く息を吐くように喘ぎがもれでる。  
 快楽に声を出すことに慣れていないのか。  
 濡れてはいるがぎゅうぎゅうに締めつけてきて奥まで指がはいらない。  
 無理強いはせず、そのままゆるゆると探るようにかきまぜると、卑猥な音をたてて俺の指に絡みついてきた。  
 どくどく脈打つ小さなクリトリスに舌を押しつけてイった余韻を楽しませてやりながら、そっと指の出し入れを  
する。痛がってはいないようだ。  
 ただ、使い込まれていない感触が気になり、リナに問いかける。  
 「あんまり旦那とはしてないのか? 毎晩抱かれているもんだと思ってたが……意外と性欲薄いのかね」  
 剣をカモフラージュにして毎日夜中にふたりして宿からでかけるのだ。  
 次の日の朝には決まって、身体が痛いと言うリナと、上機嫌なガウリイの旦那……  
 毎晩毎晩、まったく、剣術修行なわけがない。  
 しかしやつはいつものほほんとしているが、この現場を見たらならきっと問答無用で叩っ切られることだろう。  
 まさか3Pしようとは言い出すまい。  
 「だからっ……ガウリイことは……言わないでったら……」  
 ふたりの関係はわかっているつもりなのに、リナの口から名前が出ると、胸が締めつけられてしまう。  
 思春期に戻ったかのような不思議な感覚だった。  
 俺にも青臭いものがまだ残っていたなんて。  
 
 指だけでは快感を得られるほど開発されていないのか、喘ぎもせずリナは言葉を発し続ける。  
 「……あたしたち……なんにも……ないんだからっ……」  
 苦しそうに言うリナの顔が快楽以外の何かに彩られていく。  
 俺は思わず指の動きをとめていた。  
 「何もない? …………何が?」  
 「……ちょっと……! 何がって……ナニが、よ……言わせないでよバカっ!」  
 こいつには色気という概念はないのだろうか。  
 いや待て、ナニがない…………?  
 処女?!  
 俺は改めてリナの秘裂を見つめる。  
 そうだ、確かにこのくすみのない色といい、濡れているのに少し固いような感触といい、男を受け入れた  
ことのない証とも言える。  
 背筋が震えるのを俺は感じていた。  
 なにもない……そうか、そうだったのか……  
 魂の底から湧き上がってきたものは、まぎれもなく歓喜だった。  
 今のこの有り得ない展開は、リナの、男を知ってみたいという好奇心が俺の味方をしてくれていたのだ。  
 死ぬ前に男に抱かれてみたい、とそう思っていたということか。  
 そして俺は「男」の候補に入っていたのだ。  
 きらいじゃない、そう言っていた本当の意味がようやく理解できた。  
 「光栄だな……俺を初めての相手に選んでくれたのか……」  
 「……むりやり拉致っておいて、よく言うわ……」  
 リナの言葉に俺は苦笑するしかなかった。  
 「初体験がSMまがいの陵辱じゃあ、トラウマになりそうだからね……」  
 何かの言い訳のように、リナがつぶやく。  
 そして覚悟を決めた女の声で、消え入りそうにささやいた。  
 「……やさしく……してよね……」  
 俺は返事の代わりに、リナの両手を縛っていた布を取りさると、そのまま身体をかがめてリナの額に  
キスをした。  
 唇へのキスは、リナの愛情を手に入れてからだ。  
 さっきのように強引にしても満たされない。  
 身体を許してもらえただけで満足せねば、混沌の海に落とされそうだ。  
 
 
 俺は片膝を立てて、張り詰めた俺自身を熱い蜜であふれる秘裂にあてがう。  
 濡れてひくつきながらぬりゅっとした感触で俺を誘い、狂わせていく。  
 「いいか、いくぞ……」  
 どうしてこうも言わなくていいことを口走るのか、もう俺にも自分がわからなくなっていた。  
 ここまでしておいて、止める、などという選択肢があるわけがないのに。  
 処女を抱くなんて、俺の初めての時以来だ。  
 当然余裕もなく、ただただ突いていただけで、相手のことなど構う気すらなかった。  
 リナの細く引き締まった腰に添える手が少し震えている。情けない。  
 十分に濡らして馴らして、指で掻きまぜてほぐしたのだから、大丈夫だ。  
 俺が迷ってどうするというんだ。  
 迷いを振り切るように頭を一度強く振り、腰に力を入れて、ゆっくりとリナの中へ入っていった。  
 とろけるような淫靡さで俺のものをじわじわ飲み込んでいく。  
 腰に震えがはしり、頭の中が馬鹿になっていく。  
 ……ああ、このまま俺ごと全部、飲み込んでくれればいいのに……  
 そんな俺の願望を無視して、リナの中は熱く絡みつき押し戻し、俺の侵入を拒んできた。  
 
 そうだな、こんな感じだったな。  
 俺は処女膜の抵抗を突き破りさらに奥へと力を込めて挿入をつづける。  
 強い呻きがリナからもれる。  
 必死で耐えているのか、身体全体を震わせながらじっと動かない。  
 ぎゅうぎゅうとした締め付けがきつくてやはりなかなか奥まで進まない。  
 「力抜け、痛いだけだぞ」  
 痛みのためか返事をしてこないリナの背をそっとさすると、びくりと身をふるわせてから、我に返ったように  
こくんとうなずく。しかし中の具合が変わるわけではなかった。  
 痛いのだ、仕方ない。  
 いかに強力無比な魔法を操るといっても、肉体的にはただの女なのだから。  
 長い時間をかけてやっと奥まで届いた。  
 リナは深い呼吸を繰り返して痛みをそらそうとしている。賢い女だ。  
 こちらからは顔は見えないが、おそらく苦悶の表情をしているのだろう。  
 それでもじっと耐えていた。  
 痛いとも止めろとも言わない。  
 行為そのものを受けとめようとしている。  
 俺はリナの熱く火照る身体を思い切り抱きしめたいと切に思った。  
 だが俺の岩のような肌がリナのなめらかな肌に傷をつけることを想像すると、寒気すらする。  
 それにしても初めてがバックとは、少々ケモノじみているな……  
 無理矢理さらってきたのだから、俺にはお似合いか……  
 下腹までびっしりと覆っている岩肌がリナを傷つけないように、と考えると、正常位という選択肢はなかった。  
 ましてや裸で抱き合うなど論外だった。  
 リナの震えがおさまってきたので俺は声をかけてみる。  
 「……痛いか?」  
 間抜けな質問だ。  
 痛いに決まっているのに。  
 「ええ……痛いわよ……思ってたより、ね……」  
 そう答えるリナの声は、大人の女の声をしていた。  
 ああ、なんて強い女なんだ。  
 俺はこの身体をめちゃくちゃに抱きつぶしたくなった。  
 激しく突いてねじこんで、壊してしまいたいとすら思った。  
 俺は後ろから覆いかぶさり、下から腕をまわして乳房を手の中におさめる。  
 ふんわりと刺激してから、指で固くなった乳首をはさみこみ、くゆらすように動かすと、快楽の色をまじらせた  
吐息をはいて頭をのけぞらせる。  
 その動きにあわせてリナの中が痛いくらいに締めつけてきた。  
 片手をリナのあごにかけ、顔をこちらに向かせる。  
 「そんなに締めつけるな……」  
 俺の言葉にリナはバッと顔を赤らめ、きつく唇をかしみめる。  
 どうやら痛みよりも羞恥のほうが耐え難いらしい。  
 「俺のがちぎれちまうよ。力抜け」  
 リナの肩がふるふると震えだす。  
 うまく力をコントロールできないようだ。  
 まあ初めてだしそんなもんだろう。  
 しかしこのままだと、動かすこともままならない。  
 俺は両手で乳首をいじくりながら思案にくれていた。  
 面白いほど中が反応してうごめいてくる。  
 これはこれで気持ちがいい。  
 ふと見ると、赤い色が脚へと垂れていた。  
 リナだ、破瓜の血だ。  
 
 ……俺はリナに苦痛だけを与えているのではないか。  
 そう思うと、急にリナの締めつけがゆるんだような気がした。  
 いや、これは俺が萎えてしまったのだ。  
 好都合だ。  
 俺はそれ以上考えるのをやめ、腰を動かしはじめる。  
 少しだけ小さくなった俺のものをリナは熱い肉壁でからめつけて離そうとしない。  
 ひきずりこまれて締め上げられて、俺は再び硬度を取り戻す。  
 またリナの呻きが大きくなった。  
 しかし今度はさっきとは違う。  
 ようやく中が慣れてきたのだろうか、口からもれる吐息が艶っぽい。  
 俺はゆっくりと腰を動かしながら、その喘ぎに耳をすませていた。  
 「……ねぇ、子供ってできるの?」   
 唐突な問いかけだった。  
 あまりにも今の状況にそぐわない質問だったので、思わず動きをとめてしまう。  
 こども、という響きがどこか異質の世界の単語に聞こえて、俺は少々困惑しながら答える。  
 「さあな……キメラとのハーフか。……試してみるか?」  
 「あんまし楽しい想像じゃないからやめとくわ……」  
 「卵でも産んでくれたら試せるんだがな……」  
 「湿ったところに置いといてウン十日、てやつね」  
 俺たちは繋がりながら、今はもう俺たちふたりにしかわからない会話をした。  
 しかし、昔のリナなら、即座に「産めるかぁぁあああっ!!」と叫んでいただろうに。  
 あの頃と今とでは、何かが決定的に違っていた。  
 色んな出会いと別れが、俺たちを否応なしに違うところへと連れて行く。前へ前へと。  
 少しだけ空気が和んだような気がした。  
 ただの気のせいかもしれないが。  
 痛がるばかりの女々しい女ではないのだ、リナは。  
 こいつは、生きることを優先し、いつも前ばかり見ている。  
 今のこの陵辱と呼べる状況も、自分で道を探り、俺を受け入れることで凄惨な現状を打破してしまった。  
 この何気ない会話で主導権を握り、俺が中で出さないようにと、暗黙の了解をつくりあげやがったのだ。  
 リナは俺にさらわれながら、俺に条件つきで交わることを許したのだ。  
 こちらが上だったはずなのに、口先だけで対等な立場にもっていってしまった。  
   
   
 リナの乳房は小さいくせにやわらかい。  
 俺の手の中にすっぽりとおさまり、火照った熱と激しい鼓動を伝えてくる。  
 挟み込んだ乳首をひねったり転がしたりしながら、あたたかいリナの中をじっくりと堪能していたが、急に  
股のほうから快感がじわっと込みあげてくる。  
 慎重に奥までねじこんで、ぐるりと掻き回しながらその高まる波を必死で抑え込む。  
 まだだ、まだ出せない。  
 リナのことだ、2回戦をやらせてもらえるとは限らないのだ。  
 限界まで耐え抜いてやる。  
 しかし、出しはしなかったものの、いくらかは滲み出たはずだ。  
 こいつは知っているのだろうか、たとえ微量でも上手くいけば、いや下手をすれば妊娠するということを。  
 結婚前の性交渉が火遊び、と呼ばれるわけだ。  
 まあいい、俺にとっては願ったり叶ったりだからな。  
 せいぜい知らないふりでも貫くさ。  
 
 汗で湿ったリナの髪を横からかきあげて耳をさらす。  
 悩ましいほどつややかで官能的な耳だった。  
 俺はかじりつきたくなる衝動を覚えた。  
 そのほんのり色づくヒダに向かって、そっと息をふきかけ、リナの意識を耳に集中させてから小さく囁く。  
 「……初めてはどんな感じだ?」  
 かすかに触れる唇と、耳元に直接送り込まれる言葉と吐息が、リナを真っ赤にさせてのけぞらせる。  
 我を忘れかけていただろうに、羞恥が彼女を責めていくのが伝わる。  
 「ばかっ……前言撤回、きらいよっ……」  
 これが本心ではないのが俺は何故わかるんだろうな。  
 「そうかい……」  
 ゆっくりとそれだけ囁くと、リナの耳の中にも俺はぬるりと侵入した。  
 びくんっと大きく震え、大きな喘ぎをあげるリナが愛おしくて、俺はそのまま執拗に舌をはわして、ヒダの  
すみずみまでなめまわし、ふるえる耳たぶを優しく噛んだ。  
 俺の目の前で見事に鳥肌がたっていく。  
 嬉しくなってもう一度舌を差し入れると、リナがまた震えた。  
 「いやぁ…っあぁ……」  
 締めつけてきておいて何がイヤなんだか。  
 喜んでるようにしか見えないぜ。  
 ああそうか、喜んでる自分を認めるのがイヤなのか。  
 耳の中にさしこんでいた舌をねっとりとはずしてから息とともに言葉を吹きかける。   
 「教えてやるよ……」  
 快楽ってやつがどんなものなのかをな。  
    
 ようやく迸り感がおさまった俺は、ゆっくり引き抜いていく。  
 惜しむように絡めつけてきながらも中を狭めて閉じようとした瞬間に、またゆっくりと挿入する。  
 リナは俺の白いローブを掴みながら悶えるように身をよじらせ、小さな呻きを間断なくあげ続ける。  
 勢いに流されることなく、女の部分に送り込まれる感触のみにじっくりと向き合わさせて、自分が男に何を  
されているのかを否応なしにつきつけてやる。  
 何度か繰り返すと、奥を突くたびに、抑えてはいるが甘い声が混じるようになってきた。  
 激しくしたくなるのをぐっと堪え、腰をおさえつけていた両手を胸にまわし、きゅっと乳房をもみあげながら  
倒れこむようになっていたリナの上体を抱えあげ、強く突き上げた。  
 背筋がふるえてのけぞり、汗が散る。  
 乳首をもみしだく俺の手にリナが手をかけ爪を立ててきた。  
 大丈夫だ、痛くはしない。  
 だがそれを口に出してやるほど俺は優しい男ではない。  
 腕の力と腰の動きでリナを揺さぶり突き上げ、リナが絶頂の仕草を何度見せてもやめなかった。  
 俺とて必死でこらえていた。  
 蠢き締めつけて搾り取ろうと絡みつくリナの極上さに酔いしれて溺れるわけにはいかなかった。  
 片手を下におろしてクリをさぐりあてると、あふれる蜜をぬりつけて、やわらかくなぶりあげる。  
 指をやさしくそえて転がすように弾くように愛撫をくわえたまま、容赦ない突き上げをしつづける。  
 声が、変わった。  
 悦楽の悲鳴だった。  
 とうとうリナは快楽に溺れた。  
 全てを忘れてよがり、喘ぎ、身悶えして、俺の腕にしがみついて、女の声で叫んで深く果てた。  
 「……どうだ?」  
 俺の息もあがっている。  
 腰を打ちつける速さを少しゆるめて問うと、羞恥で震えるでもなくこちらを見返してリナが口を開いた。  
 「──気持ちいい──」  
 意外なほどにはっきりと、そう告げた唇を濡れた舌がちろりと這い、舐めさえした。  
 俺は悟った。相手をなめてかかっていたのは俺のほうだったのだ。  
 苦い笑いが俺の顔にひろがる。  
 リナはそれを見ても臆することなく妖艶に微笑んで見せた。  
 
 限界が近い。  
 何度も押し寄せる波に耐えてはいたが、もう我慢が効きそうにない。  
 小さく腰を動かして奥を小刻みに突くことでごまかしていたが、一転、ストロークを長くして激しく突いていく。  
 ……リナの中に出してしまいたかった。  
 いいじゃないか、拉致までしておきながら、今さら何を迷うことがある?  
 さきほどの、ガウリイとはなにもない、と言ったときのリナの表情が頭の中にちらつき主張する。  
 リナがガウリイに抱かれたがっているのは間違いない。操を立てたいとも言っていた。  
 それなのに俺の子を宿してしまって、それでリナは幸せになれるのか?  
 今なら好奇心が起こした小火騒ぎだと片付けられるのに。  
 リナも俺を信じて身を任せているのに。  
 心の中で欲望と理性がせめぎあっていた。  
 その狭間で俺の良心が悲鳴をあげる。  
 腰を打ちつける濡れた音がリナの喘ぎと俺の荒い息を掻き消すように部屋に響く。  
 股から這い登る快感が勢いをつけて飛び出そうとしていた。  
 リナが何度目かもわからぬ悦楽の声をあげて達し、容赦なく俺を絞り上げようとする。  
 俺もきつく呻いて射精に身を任そうとした。  
 頭の中が白く弾ける。  
 自分の女にしたいと、あれほど望んで馬鹿げた行為に及んだというのに、俺は出る瞬間に身を引いて、  
リナの尻にぶちまけていた。白濁が飛び散りリナの肌を犯すのをながめながら、俺は荒い呼吸を整えも  
せず軽くしごき、最後まで出尽くすと天井を仰いで安堵のため息を吐き出していた。  
 なぜか頭の中が妙にすっきりしている。  
 ……俺は結局、どうなったんだ?  
 ガウリイに対するリナの気持ちを再確認してふたりの関係を見守る側に立ってしまったのか?  
 奪い取るはずじゃなかったのか?  
 俺は自分のしたことに整合性が見出せないでいる。  
 しばらく考え、やっと言葉が見つかった。  
 なんだ……要するに俺は、リナにはガウリイの旦那とくっついてほしいのか……  
 惚れた女には、一番大切に想っている相手と幸せになってほしい、か。  
 俺もヤキがまわったもんだ。  
 こんな無茶でもしなけりゃそれに気がつかなかった、なんて。  
 その結論に達する頃には、乱れまくっていたリナの呼吸も整いつつあり、意外と元気な声で服が汚れた  
だの破れただの、文句を言ってくるほどに回復していた。  
 俺は自分の出した結論に呆然としながら、後片付けをはじめていくリナを淡々と見つめていた。  
 
 
 結局、だ。  
 無理矢理とはいえ合意で抱いたのに、処女まで奪ったってのに、リナは俺のものにはならなかった。  
 彼女は悠然と、月夜の下で、ひとりまっすぐに立っていた。  
 強引にさらって縛り上げて衣服を破き、身動きできない状態で秘部をいじりまわし、挙句の果てに獣みたい  
にバックから何度も犯したのに、いま俺の目の前に立つ彼女は、咲きたての白い花のように、どこも、何も、  
穢れてはいなかった。  
 後悔も罪悪感も逡巡も、その強い眼差しの中には何ひとつ感じられない。  
 生きることに正直で、度がつくほどのお人好しで、そんな自分自身を全て受け入れて、大人になることに  
すら恐れを抱いていない。  
 憎悪と復讐心を生きる糧として半生を送り、その後も己の存在に多大な疑問符をつけたまま生きる俺とは  
まるで違う。  
 元の身体に戻りたいと足掻く俺を、リナの気高い魂が圧倒する。  
 生まれ持ってしまった強大な魔力とキャパシティで魔族からも命を狙われて世界の運命の渦中にうっかり  
巻き込まれているくせに、少しの悲壮感すら漂わせず真っ向から立ち向かっている。  
 そんな俺の思いとは裏腹に、リナはいたって気軽に口を開く。  
 「帰ろっか、ゼル」  
 
 俺は肩を抱くことも手をつなぐこともできず、歩き出した彼女を見つめることしか出来なかった。  
 人間の姿に戻ろうが戻るまいが、リナと俺との関係には何の変わりもないのではないか、と思う。  
 妙な脱力感が俺を襲う。  
 何故もとの身体に戻りたかったのかさえ思い出せなくなっていく。  
 とんでもない女だ。  
 俺の存在意義すら消し去ってしまいそうなぐらいまばゆい光で存在する。  
 伝説の光の剣の戦士がそばを離れず、千年かけて復活を果たした魔王ですら滅びを受け入れるわけだ。  
 あー……負けだ負け、俺の負け。  
 破いた服さえ平然と縫い合わすような女だ、俺の手には負えない。  
 ふぅっとため息をついて、肩をすくめ歩き出す。  
 やれやれ。  
 ローブについたリナの血が俺の足取りを支える。  
 俺が彼女を征服した唯一の瞬間の証だ。  
 こんなものガウリイに見られたら、あっさり殺されるかもな。  
 ときどき妙に鋭いところがある男だ。  
 しかしなんだってやつはリナに手を出していなかったのか、不思議でならない。  
 大切にしすぎて自ら動けなくなってしまっているのか、それとも、本当に保護者なだけなのか。  
 リナはそれをどう思っているのだろうか。  
 だが俺にはあえてつっつく気にはなれなかった。  
 ふたりの問題だ。これから先にどうなろうと、リナとガウリイの間でしか解決できないのだから。  
 今宵の狂気に引きずられて暴れ狂ってみたものの、終わってみれば俺は、ただの部外者になっていた。  
 笑いがこみあげてくる。  
 これでお仕舞いだと思っていたのに、全てを捨てる覚悟でリナをさらって逃げたのに、またあいつらの  
ところに戻ることになるとはな……可笑しくて仕方がない。  
 声をあげて笑い出した俺を、振り返ったリナがびっくりした顔でながめてくる。  
 俺は初めて真正面から名前を呼んだ。  
 「……リナ……」  
 なんだか照れくさい。  
 あんただとかお前さんだとか、いつもぼやかして避けてきていたのに。  
 「リナ……」  
 もう一度呼んでみる。  
 俺の愛しい女は何の疑問も持たずに、いつものように俺を呼び返してくれた。  
 「なーに?ゼル」  
 心が躍る。  
 こんなに楽しい夜はキメラになってから初めてだった。  
 「いや、なんでもない」  
 そう、本当に、なんでもない。  
 この狂気の夜は、今やもう、ただの夜に変わっていた。  
 
    ...end.  
 
 

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