燃えるような夕日が海の向こうに沈んでいく。  
 その灼熱の色に染められたガウリイの髪がまぶしいくらいに照り映えている。  
 いつもよりかがんだような背中を飾るには、それはあまりにも豪奢で不釣合いなほどだった。  
 そう、彼は今、珍しいことに落ち込んでいる。  
 今朝、宿の食堂で顔を合わせたときに、ガウリイはいきなり何の前触れもなく落ち込んだ。  
 聞いても訳を話そうとしない彼をとりあえずほっぽって、あたしはいつもどおりの量を食べつくし、街の  
観光やショッピングにひっぱりまわしてみたものの、あまり変わりばえのないガウリイの態度に業を煮やし、  
早めの夕食をすませた後、浜辺へ散歩にと誘ったのだった。  
 潮の香りが風にのって、夏の匂いを届けてくる。  
 ……ったく、いつまで落ち込んでんのよ。  
 てゆーかここまでガウリイをへこませる出来事っていったい……?  
 ピーマンに追いかけられる夢でも見たのかしら。  
 それともまたクラゲの国に帰る夢で、それが実は正夢だったとか?  
 よせては返す波の音を聞くともなしに聞いていると、やっと観念したのかガウリイが口を開いた。  
 「オレなぁ、いつだったか、変なおっさんに説教されたんだよな」  
 一瞬だけあたしをちらりと見て、つぶやく。  
 「……悩む姿なんぞ見せるなってさ」  
 変なおっさん?  
 まあ今つっこむべきトコはそこじゃないわね。  
 「そりゃそうよ。弱みにつけこんで心の隙を狙うなんてお金儲けの基本だし」  
 あたしの善意の忠告に、なぜかジト目をむけてくるガウリイ。  
 「でもね、あんたがしょげこむほど弱ってるってーのなら、見せてもいいと思うわよ。  
 少なくとも、あたしにはね」  
 そう言ってあたしはガウリイにウィンクをしてみせた。  
 彼があたしを支えてくれたように、あたしも彼を支えたい気持ちぐらい、小指の先ほどはある。  
 「んで? なにを悩んでんのよ?   
 隠せないほど悩んでるなら、いっそのことぱーっと吐き出しちゃいなさいよ」  
 あたしの軽い口調にのせられたのか、ぽつり、とガウリイはこぼすようにつぶやいた。  
 「……夢を見たんだ」  
 あれ、やっぱし夢?  
 冗談のつもりだったんだけど。  
 しかしンなもんに丸一日落ち込むよーな繊細で長持ちする脳みそ持ち合わせてたっけ?  
 まー、ここで口を挟むのも大人げない。  
 聞いてやろうと言い出したのはあたしなんだし。  
 黙って先をうながすと、やはりぽつりぽつりとつぶやいてくる。  
 「オレの夢の中で、リナがさ……」  
 彼の瞳は遠くを見やっていて、そこには波の煌きが踊るかのようにみえた。  
 「いや……リナにさ…………」  
 言いにくそーに鼻の頭をぽりぽりと掻くガウリイ。  
 「なによ? あたしが夢にでてきたからって、なんだっていうのよ?  
 あたししか聞いてないんだし、はやくぶっちゃけちゃいなさいよ」  
 いらいらいら。  
 「んー。やっぱ言いにくいなー」  
 ぷち。  
 「もういい。飽きた。しゅうりょお〜」  
 あたしはガウリイに背を向けようとして……その手をくっと掴まれてしまった。  
 海を見ていたガウリイの蒼い瞳が今はまっすぐにあたしを見ている。  
 夕焼けにまぎれてあたしの頬が赤らむのにはたぶん気づかれてはいない……と思いたい。  
 さっきまでとは違う、はっきりとした口調で静かにガウリイが言う。  
 「オレたち恋人同士だったんだ。  
 夢の中のオレは、それがすごく嬉しくて、ふたりでじゃれあうみたいに抱き合って、朝まで一緒にいた」  
 ガウリイの言葉に、あたしは返す言葉がみつからない。  
 朝までって……それって…………  
 ちょ……ちょっと! いきなしなんでそんな夢見てんのよっ!  
 あたしは耳まで火照っていくのがはっきりとわかるのに、ガウリイの表情は変わらないままだった。  
 
 「それでさ、オレ、今朝リナの顔見たときに、なんか申し訳ない気分になっちまってなー。  
 一緒にいるとどうしても思い出すし、その度にそんな夢見た自分に自己嫌悪しててさ」  
 表情は真剣なのに、口調はいつもと同じのほほんとした感じに戻って、あたしは少しだけほっとした。  
 これって、確かにあたしには言いにくい悩みよね……無理に言わせようとしなけりゃよかった……  
 たまーに親切心だすとロクなことになんない。  
 こんな相談したこともされたこともないし、どうやって慰めろっちゅーのよ。  
 ここでほっぽっといて宿にさっさと帰るのが一番楽だけど、後味悪いことこの上ない。  
 こーいう場合はちょっとからかってみて話をそらすに限る!  
 「ふーん、恋人ね……どれくらい好きだったのよ?」  
 あわてて否定してくるかと思いきや、  
 「たまらないくらい」  
 そう即答したガウリイはまだあたしの手を握っていた。……力強く。  
 「夢……なんでしょ?」  
 波の音に消されてしまうほどに、かすれていくあたしの声。  
 聞こえたのか聞こえていないのか、返ってこない彼の返事。  
 握ったままのガウリイの大きな手が熱くなっていることに、やっとあたしは気づいた。  
 「……夢、のほうがいいか?」  
 そ……それって……その……ど、どう答えていいかわかんないわよ、そんなの……  
 つないだ手のひらからガウリイの熱が伝わってくる。  
 あたしはいったいどうしたいんだろう?……  
 あたしとガウリイの関係って、ただ単に旅の相棒っていうだけじゃダメなんだろうか?  
 一緒にいることに、意味が必要なんだろうか?  
 当たり前みたいにずっと一緒にいる、ていうだけでは続いていかないものなんだろうか。  
 あたしの不用意な親切心で、ガウリイは一線を越えようと踏み出してしまった。  
 元気づけてあげたかっただけなのに。  
 いつもの能天気で底なしお気楽な、脳みそプリンなガウリイに戻って欲しかっただけなのに。  
 「どうして黙ってるんだ?……」  
 「あ、あたしにもわかんないわよ……」  
 しぼりだすようにしてやっとひねりだしたあたしの言葉に、ガウリイはすまなそうに小さく笑った。  
 「困らせてるんだな、すまん。忘れてくれ」  
 ふっとガウリイの手から力が抜けていくのを感じた瞬間、あたしは反射的に握り返してしまっていた。  
 「え?……」  
 そう言ったのはガウリイだったか、あたしだったか……  
 なかばヤケクソになってあたしは口を開いた。  
 「夢でもなんでも、どっちでもいいわよっ!」  
 あたしの顔はきっと真っ赤で、  
 「どっちだって、あんたの気持ちには変わりないんでしょっ?!」  
 焼け落ちるような夕焼けのせいで、ガウリイの顔も真っ赤に見えた。  
 「それならそれで、別にいいじゃないっ!」  
 あたしは一息に言い終わると、彼の反応を見てしまうのが怖くなって、ぷいっと目をそらした。  
 そらした瞬間にはもう抱きしめられていた。  
 「……恋人ってのは夢だったけど、オレの気持ちは夢じゃない……」  
 自分でいろいろ言っといてなんだけど、ガウリイの口から肯定されると、急に心臓がバクバクしだした。  
 「恋人になれなんて言わない。ただ、聞いてほしい……」  
 ガウリイの声が頭の上から響いてくる。  
 力強い腕も、厚い胸板も、ほんのすこしだけど震えている……  
 「リナが好きだ。愛してる」  
 まさかまさかと思いながらも想像していたとおりの言葉だったのに、あたしはそれを聞いたとたんに  
頭の中が真っ白になってしまって、わけのわからない感情が胸の内で渦巻いていくのを感じていた。  
 考えるよりも先に身体のほうが動いていて、彼の広い背中に両手をまわしてしまうのを、あたしは  
自分をとめられなかった。  
 けれど、その手にそっと力を込めたのはあたしの意思。  
 夕日はもう沈みきっていて、かわりに星が空を埋め尽くし、満天の輝きをあたしたちに降りそそいでいた。  
 
 「リナ……」  
 「うん……?」  
 ゆっくりと囁かれるあたしの名前が、今はやけに優しく聞こえる。  
 お互いの背にまわした手をどうすればいいのか、あたしはちょっともてあましつつあった。  
 「リナはどうなんだ? オレのこと、どう思ってる?」  
 「……………………」  
 ほんとにこの男は……察しなさいよね、この希代の天才美少女魔道士リナ=インバースが、なんとも  
思ってないよーな男とこんなふうに抱き合ったりすると思う?  
 いったいどこまでクラゲなのよ。  
 もどかしくなってあたしは彼の服をぎゅっとつかんだ。  
 ガウリイの両腕は護るようにしっかりとあたしの身体をあたたかくつつみこんでいる。  
 心地良さと安心感が波の音にまざりこんで、星しか見えない夜の暗がりに、あたしは少しだけ素直になる  
ことにした。  
 背中にまわした手の指で、ひとつずつ文字を書いていく。  
 ガウリイが驚いたように身をよじらせたが、すぐに意図を察してじっとあたしの指の動きに集中しだした。  
 「リナ…………こしょばくてよくわからん。なんて書いたんだ?」  
 「……クラゲって書いたのよ」  
 「ひでーな。けどよ、お前さんが書いたのって2文字だったんじゃないか?  
 正解は違うんだろ、もう一回してくれよ。そうだヒントくれヒント」  
 本気なのかふざけてるのか、でもガウリイがいつものガウリイに戻ったみたいであたしはだんだんこの  
状況が楽しくなってきていた。  
 こうやってじゃれあって、いつもと変わらずにずっと一緒にいられるのなら、どんな関係になったって、  
それこそどうでもいいことなんじゃない?  
 あたしはガウリイから腕を離し、ぱっと顔をあげて彼の瞳を見上げながら微笑んだ。  
 「好きよ」  
 こんなにうきうきしながら言う言葉だったなんて知らなかった。  
 楽しくて嬉しくて、それはガウリイも一緒みたいで、きらめくような微笑みをあたしに向けている。  
 「キスしてもいいか?」  
 「調子にのんないの!」  
 「なんだよー。夢の中じゃ、あんなことだってさせてくれたのに」  
 「じゃあ今日のことも夢にしてあげるわよ」  
 するっとガウリイの腕の中からすりぬけると、あたしは土産物屋さんで買ったビーチサンダルを脱いで  
波の近くまで歩いていく。  
 同じく買いたての半袖シャツに半ズボンだから少々波がきても大丈夫。  
 海に裸足で入ったのは熱さましのつもりだった。  
 街の明かりの下で、この熱く火照った頬をガウリイに見られたくない。  
 「怒ったのか?」  
 あたしと似たような服装でガウリイはサンダルを履いたまま、海まであたしを追いかけてきた。  
 「ちょっと、ビーチサンダルってのは海に入るときは脱ぐもんなのよ。  
 あとで砂がじゃりじゃりにくっついておもくそ歩きにくくなるんだから」  
 「そうなのか」  
 「そうよ」  
 そういえばガウリイの故郷ってエルメキア帝国だっけ。  
 あそこは海に面してないから子供のときに遊ばなかったのかもしれないわね。  
 知らなくても仕方ないか。  
 「まぁもう入っちゃったらどうしよーもないけどね……った、いた!」  
 「何がいたんだ? クラゲか?」  
 「違うわよっ! クラゲは目の前にさっきからいるわよっ!  
 ……何かとがった石でも踏んだみたい、この辺よく見たら岩だらけじゃない、いったぁ〜……」  
 「よし、まかせろ」  
 「へ? きゃ、やだっ、ちょっと!」  
 軽々と抱きかかえられて、浜辺へ逆戻りしてしまった。  
 気持ちを静めるどころかさらに密着したせいで、心臓がまたもやばくばくしてきた。  
 「おろしてよ、大丈夫だから!」  
 「まあ待てよ」  
 ガウリイは返事をするとやおら砂浜の上にあたしを抱っこしたまま座り込んだ。  
 「血がでてるぞ。ほんとにだいじょうぶなのか?」  
 「大丈夫だってば! 離してよ!」  
 
 ガウリイはあたしの足の裏を手にとってしばらくながめていたが、いきなりぺろりとなめあげた。  
 あたしの文句よりも、ガウリイの「塩辛い!」という連呼のほうが早かった。  
 「リナの足、初めてなめたけど……塩よりも塩辛いんだな……  
 いや、それでもオレはリナが好きだぞ。安心しろ」  
 「おかしなこと言うなぁぁぁぁぁ! あたしじゃなくて海の水が塩っ辛いのよっ!」  
 「そうかー。海ってすげーんだなー。……オレの故郷には海なんてなかったよ」  
 ガウリイが自分の故郷の話をするときは、懐かしさというよりも、むしろ違う何かが彼を包み込む。  
 とてもそうとは見えないが、彼にもいろいろとあったんだろーな……まったくそう見えないけど。  
 ガウリイは口元をぐいっとぬぐうと、またあたしの足の裏を見つめた。  
 「傷は浅いけど砂が傷口にはいると痛いんじゃないか? 宿までおぶってってやろうか?」  
 「ありがと。でもいいわ。足が乾くまでここにいる……」  
 今までにもおんぶで戦ったりとか空飛ぶときにくっついたりとか、さしてなんともなかったのに、互いの  
気持ちを知ってしまった今となっては、身体の距離感がどうもつかみにくくて困る。  
 近づきたいのに近づけないような、もどかしくてイライラするこの感じはなんだか苦手かもしれない。  
 「魔法で治せないのか? それ」   
 「岩で傷つけちゃったでしょ。治癒の魔法は生命力を増大させるから、もしこの傷にバイキンがいたら  
そいつらまで元気にさせちゃうのよ。海での傷は怖いんだから。  
 ま、たいした傷でもないし、使うなら消毒してからね……ってちょっと!」  
 いきなりガウリイがあたしを抱えたまま勢いよく立ち上がった。  
 「消毒だな。わかった」  
 言うが早いか、あたしのサンダルをさっと器用に拾い上げ、宿目指して小走りにかけだしていった。  
 しまった! 保護者モードにはいっちゃった!  
 こんなときのガウリイはあたしが何を言っても聞いてはくれなくなる。  
 ただひたすらあたしの心配しかしなくなるのだ。  
 周りの目も、自分のことすら彼の頭からは吹き飛んでしまう。  
 ……やっぱり変わらないんだ、あたしたちって……  
 がっしりと抱きかかえられて街中を運ばれながら、顔を隠すようにうつむいて、あたしはそんなことを  
宿屋につくまでずっと考えていた。  
 
 
 宿のおかみさんに薬草をわけてもらい、部屋で手当てをしたあとに呪文を唱えると、あっさりと傷は  
ふさがった。  
 「よかったなー。リナ。どうなることかと思ったぞ」  
 「……過保護すぎんのよあんたは……」  
 「そうかー? 心配するのは当たり前だろ。保護者だからな」  
 「いつまで保護者のつもりでいる気よ」  
 あたしの低いつぶやきに、ガウリイは少しだけ考えたあと、さらりと言い放った。  
 「キスするまで」  
 こ……こやつは……朝っぱらからさんざん悩んでたくせに……とうとう開き直ったわね。  
 固まったあたしの隣にガウリイが腰をおろしてくると、安物のベッドがぎしりと鳴った。  
 「まだ……いやか? いやならいいんだ。さっきも言ったけど、リナに無理させたいわけじゃない。  
 オレがただお前さんを好きなだけなんだ」  
 言って優しげにあたしの頭をぽん、となでてくるガウリイ。  
 「リナもオレのこと好きだってわかって、すごく嬉しい。  
 でもそこまででいいんなら、それでもいい。そんなことでオレの気持ちは変わらないからな」  
 ガウリイはため息をひとつ吐き、言葉を続ける。  
 「今朝落ち込んでたのはさ……オレのこと好きでもない相手を、夢の中で、オレのいいようにいじって、  
 しかもそれを喜んじまったってのが、情けないというか申し訳なくてな……  
 どこも穢れてない、綺麗なお前さんを汚しちまった気がして……」  
 ガウリイの瞳が後悔の色に揺れる。  
 あたしはなんだかそれが気に食わない。  
 「何言ってんのよ。あたしはあたしよ。  
 あんたがあたしに夢の中で何したって、それで現実のあたしがどうにかなるわけないじゃない。  
 それに、もしあたしも望んでることなら……ガウリイが何しようが、汚れたりなんか、しないわよ……」  
 小さくなっていく声すらまるごと受けとめるように、ガウリイがまっすぐにあたしの瞳を見つめてくる。  
 
 「ほんとうか? リナ……」  
 あたしは唇が緊張して乾いてしまうのを、少しかみしめて潤し、ゆっくりと笑みの形にする。  
 それだけの動きに、とてつもない勇気と努力がいった。  
 不安か期待か、胸がありえないぐらいドキドキする。  
 ……あたしは何か間違っているだろうか? こーいうのって何が正解かもわからない……  
 「目とじて……」  
 ガウリイの声も少しかすれている。  
 彼の腕にふとふれたあたしの手に、思わず力がはいる。  
 「だいじょうぶ……約束する。何もこわいことなんかしない」  
 何かの魔法のようにガウリイの言葉があたしの心を動かしていく。  
 この心臓を壊すぐらいに高鳴る鼓動が、向かい合うガウリイからも聞こえてくることに気づいたあたしは  
そっと目を閉じて、彼のなにもかもを受け入れることに決めた。  
 
 おびえるようにガウリイの唇があたしにふれて、とまどうような数秒のあと、一気に強く押しつけられた。  
 抱きしめてくる両腕にも力がこもり、痛いぐらいにしめつけられてしまう。  
 熱くてやわらかくて強くて、優しい……彼そのものみたいなキスだと思った。  
 「っはぁ……」  
 ガウリイの唇が離れた瞬間にあたしの唇から吐息がもれる。  
 息の仕方がわからなくて、ちょっぴり苦しかった……  
 「夢じゃないんだな……」  
 ガウリイが瞳を輝かせて熱っぽくあたしを見つめる。  
 「まだそんなこと言ってんの?……」  
 「ああ……ずっと、こうなるのを待ってたから……」  
 「ずっと、っていつから?」  
 「もう忘れた」  
 あっさりと言って小さく笑う彼は、ホントにいつも通りだったので、あたしもなんだかおかしくなって、  
しらず顔がほころんでしまった。  
 また彼の唇が近づいてきたので、あたしはもう一度目を閉じる。  
 今度はゆっくりと、ふれては離して、唇の感触を楽しむように何度も何度もキスをしてくる。  
 不思議とキスされている時は、される前よりも鼓動が落ち着いていて胸が苦しくならない。  
 「ん……んんっ……!」  
 油断していると、唇を押し開けられてガウリイの舌があたしの中にすべりこんできた。  
 あたたかくて、すこしざらつくような、初めて知る感触にとまどいを隠せないあたしを、ガウリイは  
慈しむように抱き寄せ髪をなで、腰を抱く。  
 ガウリイの舌があたしの逃げる舌をなでるようにして追いかけ、からみつかせて、ふっと離れる。  
 かと思うと、舌の裏側にもぐりこんで、自分でも届かないやわらかいくぼみに差し込んで、熱い感触を  
送り込んでくる。  
 浮き上がった舌を吸われてひっぱりだされると、彼の口の中に誘いこまれてしまった。  
 「ふぅ、んっ……ん、ん……」  
 あたしはもうどうしていいかわからなくなって、いたずらに声をもらすだけしかできなかった。  
 ガウリイの口の中で彼の舌とからみあっていると、身体の奥がなんとなくうずうずしていくような、変な  
気分になっていく。  
 やっと解放されたときには、ガウリイの唇とあたしをつなぐ細い糸が弧を描いた。  
 これって……?   
 ふたりの交わした唾液だと思い至るまで、あたしはぼーっとそれを見ていたが、  
 「リナ……べーってして」  
 ガウリイが言うままに、あたしは濡れたままの舌をちょろっとだしてみる。  
 その真ん中にガウリイが吸いつくようにキスをしてくると、身体が思わずびくっと反応していた。  
 ガウリイの唇がやわらかくて、舌の動きがいやらしくて、うずくようだった身体の奥が明確に熱をもって  
あたしを内側から責めてくる。  
 自分自身の反応にとまどい、ガウリイの腕にきゅっと力をこめてつかまると、さっきよりも強く抱きしめ  
返してくれた。  
 あたしの舌の上をガウリイの舌がすべりあがり、歯の裏にまではいってくると、あたしはぶるぶる  
ふるえだして、もう口を開けてすらいられなくなった。  
 我慢できなくなって目に涙がにじんでくると、もう一度舌をきつく吸われ、刺激に背がのけぞる。  
 
 翻弄されてしまった……  
 キスって唇がふれるだけじゃ終わんないんだ……  
 やっと唇を離したガウリイは、あたしのおでこにコツン、とおでこをくっつけて、  
 「リナの顔真っ赤だ。からだも火照ってきてる……」  
 うれしそーに言わなくていいことを言ってくる。  
 「うっさいわね……初めてなんだから仕方ないでしょ……」  
 「……ファーストキス?」  
 「そうよ。悪かったわね」  
 「いや、わるくない……むしろオレは嬉しいけどな」  
 最後はちゅっと音がするようなふれるだけのキス。  
 「……ありがとな」   
 「なにがよ」  
 照れてしまっているあたしとは対照的に、心底嬉しそうに優しく見つめてくるガウリイ。  
 「オレのこと、受け入れてくれて……」  
 
 
 そっと服を脱がされていく。  
 肌があらわになる度に、ガウリイはそこに口づけをしていった。  
 思い切って目を開けてちらりと見ると、赤く印みたいにあとが残っていたので、あわててしまう。  
 「ねぇ、これ、人に見られたら恥ずかしいんだけど……」  
 あたしの抗議にガウリイはさして気にせず手の動きをとめない。  
 「見せなきゃいいだろ。オレだけがリナの裸見るんだから」  
 「お風呂はいるとき他の女の人の前で服脱げないじゃないの」  
 はた、とガウリイの動きがとまり、自分が散らしたキスマークをしばし見つめると、  
 「それもそうか。すまんすまん」  
 とお気楽に笑いながら謝ってきた。  
 そのころにはもう下着だけにされてあらわになった胸を両手で隠していたので、彼をどつきたおす余裕は  
あたしにはなかった……   
 ガウリイが一気に服を脱ぐ。  
 鍛えられた剣士の身体にあたしはおもわず見とれてしまう。  
 下半身に目がいきそうになって、焦って顔をそらしたけど、ガウリイがにっと笑ったのが見えた気がした。  
 み、みてないみてない……あー、顔が熱い……  
 丸裸のガウリイがベッドに腰掛けてあたしを見つめる。  
 「リナ、脱いで……」  
 まぶしそうにあたしの下着姿を見ながら、優しく甘い声で言うガウリイ。  
 脱がされるのも恥ずかしいけど、目の前で脱ぐのもそうとう恥ずかしいんだけど……  
 しかし、ここまできて後には引けない……わよね、覚悟ならとっくに決めてるんだし。  
 あたしはベッドの上に立ち、指を下着にひっかけると、そっとずらしていった。  
 ガウリイの視線が痛いほど肌にささってくる……指がふるえてなかなか動いてくれない。  
 目をぎゅっとつぶり、ふとももまで気合をこめておろすと、ねばつく感触が音とともに伝わってきた。  
 びくり、と身体がかたまってしまう。  
 ガウリイが動く気配がしたので、おそるおそる目を開けると、指を下着と身体の隙間にいれて引き抜い……  
 って?! 彼の指にてらてら光る何かがひっかかって……どーいうこと?!  
 「……もう濡れてる」  
 わ、わかるわよ、あたしにだってそれくらいっ!  
 キスされて脱がされて……それだけで、こんな?!  
 もうだめ、もう脱げない、ここで終わりにして。  
 あたしの羞恥心がギブアップ宣言してくるっていうのに、ガウリイがあたしの手をやさしく掴んでそのまま  
下着を足首までおろしてしまった。  
 恥ずかしさがあたしを突き動かして、ガウリイの目から自分の身体をかくすようにしてがばっと抱きつき、  
勢いのままふたりしてベッドに倒れこんだ。  
 「スケベ……」  
 「リナもな」  
 あたしの文句ももはや説得力のかけらもなく、ガウリイにさらっと返されてしまうのだった。  
 
 お互い裸でぎゅーっと抱きしめあっていると、ふんわりとした心地よさが頭の中をからっぽにしていく。  
 ガウリイの肌にほっぺをくっつけて、彼の心臓が速鳴るのを愛おしく聞いていた。  
 あたしだけじゃなくて、ガウリイも緊張してるんだ……そう思うと、未知の怖さも少しだけやわらいでいく。  
 「リナ……」  
 やさしく手を腰にすべらせながら囁いてくるガウリイ。  
 「なに?」  
 あたしはいまだ恥ずかしくて顔を上げられない。  
 「リナ……」  
 けれどガウリイはあたしの名前を呼びながら、確かめるようにいろんなところをなでていく。  
 弱くも強くもない力加減が、こそばゆさを感じさせずに、むしろ気持ちがいいほどだった。  
 きゅっとおしりをつかまれ首筋にキスされて、あまりの唐突さに鳥肌がたつ。  
 「やっ……ガウリイ……?」  
 「こんな華奢な身体で、ずっと戦ってきたんだな」  
 「いまさら何よ」  
 「もう戦わなくてもいいって言ったら、お前さんは嬉しいか?」  
 「戦いたくて戦ってきたわけじゃないわよ。でも盗賊いぢめはやめないけどね」  
 ガウリイはあたしの言葉に苦笑する。  
 「オレの、故郷にこないか?」  
 「へ?」  
 「ばあちゃんに紹介したいんだ」  
 「……………………」  
 確か遺言がどうとか言ってたあの『ばあちゃん』?  
 「お墓の前で、一緒に手を合わせてくれないか。  
 オレ、家から飛び出したまんまだから、実家には近寄りづらいんだよなー。だからこっそり」  
 ふむ、ガウリイの生まれ育った所を知るのも悪くないわね。  
 あんまり自分のことべらべら話してこないので、あたしもすすんで聞き出そうとしたことはなかったから、  
ほとんど何にも知らないのよね。  
 「行ってもいいけど、どうしてまた急に?」  
 あたしは身体をおこしてガウリイの顔を見ると、何の迷いもない澄んだ瞳に射抜かれた。  
 「オレの嫁さんだって報告するんだ」  
 ぶわっと全身が熱く火照る。  
 これ……プロポーズ……よね?  
 いつものおちゃらけじゃないわよね……  
 視線をそらさずこちらを真摯に見つめるガウリイの表情が全てを物語っていた。  
 て、展開が早すぎない?……でも順番としてはこれがマトモな気もするし……  
 男は白馬の王子様に限るっ!なんて思ったこともあったけど(冗談よ)、でも目の前にいるこの男だって  
それなりに、それなりの……  
 「えーいもうっ! 考えないよーにしてたわよ、いっつもはぐらかされたり冗談にされたり、そんなんじゃ  
 身が持たないから深く考えないことにしてたのよ、悪い?!  
 あたしだって、あんたのことずっと……」  
 そこであたしは喉を詰まらせてしまった。  
 今までの想いがどんどんあふれてきてしまって、胸が苦しい。  
 返事の代わりに逆切れしたあたしを、ガウリイは落ち着かせるように抱きしめて、  
 「一緒に来てくれるか?」  
 と、ためらいもなく囁いた。  
 あたしは彼につつまれながら、身を任せて小さくうなずくだけでよかった。  
   
 あたしの柔らかいところを、そっとなでられた。  
 大事にされているのが痛いほど伝わってきて、恥ずかしいけれどガウリイのその手をとめることは  
できなくなっていた。  
 「リナ、綺麗だ。すごく……」  
 歯の浮くような台詞も、今は素直に受けとめられる。  
 「ありがと……」  
 ガウリイはあたしの言葉にやわらかく微笑んで、あたしの小ぶりと言えなくもない胸を手の中におさめた。  
 ちゅっと先端に軽くキスをされただけで、痺れるような震えがきてしまう。  
 「素直なリナも可愛いな」  
 嬉しそうに言いながらガウリイは舌をだしてピクンと立ってしまった胸の先端をぺろぺろなめていく。  
 「あっああ……あっあっ……」  
 声をおさえなきゃ、とは思うのに、未知の快感がたまらなくてあたしはガウリイにしがみつく。  
 いつのまにかガウリイの片手がふとももをなでていて、すっと上に指をすべらせてきたと思ったら、  
とろけるように熱くあふれる感触をさぐりだされて、びくっと身体がおびえた。  
 そのままガウリイの指がぬるりとからみつく。  
 あたしの敏感になってしまった固いふくらみをそっと辿ると、やわらかくこすりあげてきた。  
 優しい感触なのにそこから与えられる快感は容赦なくて、ますますガウリイにしがみついてしまう。  
 身体の奥からかけめぐってくる何かに逃げるように背がのけぞり、理性を保っていられない……  
 指で挟まれたままプルプル揺さぶられ、濡れた指でしごかれ、あふれる蜜をすくいとられて突起に  
なすりつけられ、また容赦なく責められる。  
 「や、いやっなにかきちゃう、ガウリイ! なにやだこれっガウリイっきちゃうよぉ……! ガウリイっ……」  
 頭の中にまで快楽がおしよせてきて、あたしの意識を飛ばそうとしてくる。  
 得体の知れないその波に、あたしはこわくてあらがってしまった。  
 「ああっいやぁっ……!」  
 「リナ、だいじょうぶ、だいじょうぶだ……気持ちいいって思ってみな」  
 「や、やぁぁっいやっ……きもち……い……ああああだめぇぇっ……」  
 意識がどこかにつれていかれる、勝手にどっかにいっちゃう、だめっ! いっちゃうぅぅっ!  
 身体がきゅーっとそりかえり目の前が一瞬真っ白に弾けた。  
 あたしのその動きに合わせてぎゅっとガウリイの指が強くこねるように動き、快感の波をおいたてる  
ように散らしていく。  
 信じられないくらい絶妙な力加減であたしの芯をもみこんで、じんじん痺れるような余韻を楽しませて  
くれるような……指の角度がかわるたびにびくり、と腰がびくつくけど、それすらも気持ちよかった。  
 ああ、そっか。ほんとだ……気持ちいい……  
 息が荒くて恥ずかしい。あたし、なんか色々叫んでた気がするけど……思い出したくない。  
 「かわいかった……リナ……」  
 ガウリイの言葉に素直に喜べずに、あたしは腕をのばして彼に強く抱きついて赤らむ頬を隠した。  
 ふわり、と頭をなでられる。  
 「感じてることぜんぶ聞かせてくれ……声にだして……我慢しなくてもいい」  
 涙目になってしまったあたしの頬に手をそえて、ガウリイはそっとキスをしてくれた。  
 あたしに抱きつかれたままガウリイは器用に身体をずらし、首筋から胸へと、つーっと舌をはわす。  
 おもわず腕の力がゆるんで、自由になった彼の身体がゆっくりと下へさがっていった。  
 胸をやさしくつつみこみ、また先端にちゅっと吸いついて、口の中でころがしてくるから、あたしはすぐに  
身体を熱くさせてしまって、もれでる吐息すらおさえられなかった。  
 胸の先でつんっと勃っているような感覚が、ガウリイの舌になめあげられるたびに響いてくる。  
 横から手で胸をよせて、交互に口に含まれやわらかい舌でねぶられる。  
 その刺激があたしの疼く芯にまで響いてきて、たまらず両手をガウリイの手に重ねてお願いした。  
 「それ、へんな感じなの……もう…………」  
 もうなめないで、と言おうと思ったのに、よけいにいやらしい感じになりそうで言えなかった。  
 それなのにガウリイはそっと唇を離してくれたので、ほっとしていると、おへそのほうに舌をはわし  
ながらあたしの腰を抱きかかえ、ちろちろとした短い毛を舌先でさぐり、湿る奥まではいってきた。  
 「やっちが……ああん……!」  
 
 熱くてざらついた感触がいまだに疼いているあたしの芯にからまるように動き、腰がくだけるような快楽を  
おくりこんでくる。  
 「あ……ああ…………」  
 とぎれるような吐息が口からもれるたびに、あたしの理性も一緒にこわれていった。  
 「いい……きもちい……」  
 おしあげられるような快楽の波がガウリイの容赦ない責めからおくりこまれ、あたしはその凄さに  
ただ翻弄されるしかなかった。  
 「ガウリイ…………」  
 あたしは愛しい男の名を呼んだ。何度も。  
 そのたびにガウリイの舌が激しさを増す。  
 なめあげて転がして押しつぶして吸い上げて、ぬるぬるになった唇でしごかれて……  
 お尻にきゅっと力がこもり、とろけるような快感があたしをどこかに押し流そうとするけど、あたしにはもう  
これが何かわかっていた。  
 「……あたしもう……もういっちゃう…………ガウリイっ……」  
 意識が果てるような、白く焼きつくような、あらがいようのない何かに腰が悶えて身体がのけぞる。  
 それでもあたしはガウリイの名を呼びつづけて、悦楽の波に身を任せた。  
 ……きもちいい……  
 痺れといっしょに震えまできて、手も足も、腰も背中も、全身くまなくおかしくなっていく。  
 頭の中がふわふわとしたままで、でもガウリイの舌に責められているところはどんどん何かがあふれ  
だして、身体がまるで浮いてでもいるみたいにずっと快楽の絶頂を感じつづけていた。  
 「すご……い……ガウリイ……いいの……いい……きもちいい……」  
 わけがわからなかった。  
 でもあらがうのをやめたら、どこまでも快楽がつづいていって、意識の向こうまで…………  
 
 
 あたしは唐突に目が覚めた。  
 「あ、え? ここ、どこ……?」  
 ベッドの上であたしはガウリイと裸でシーツにくるまっていた。  
 「気づいたんだな、よかった」  
 ほぅっと息をついてガウリイがあたしを抱き寄せてくる。  
 どーやらあたしは自分が気を失ったことにすら気づかずにいたらしい。  
 そんなふーになっちゃうんだ……  
 「……どれくらいあたし気失ってたの?」  
 「ほんの少し、な。ほら、まだ身体火照ってるままだろ?」  
 そう言ってガウリイはあたしをぐっと強く抱いた。  
 う……なんか太ももに当たってる……熱くて固いのが……  
 おそるおそるガウリイの顔を見上げると、彼は照れたようなまなざしでこっちを見やり、  
 「いや、いいんだ。我慢するから」  
 とあたしのおでこに軽くキスをした。  
 「……なによ、我慢って」  
 「ん、だってリナ、はじめてだろ? それに痛いの苦手じゃねーか」  
 ガウリイのこーいう優しさは、なんていうか……ときどきあたしのことを理解しそこねていると思う。  
 「いつまで我慢するつもりなわけ?」  
 これにはガウリイは何も答えられず、困ったような顔をして頭をぽりぽりとかいた。  
 与えられるだけなんて、じょーだんじゃない。このあたしが。  
 自分のことぐらい自分で決める。  
 「あんまりナメないでよね」  
 きっぱりと言い切ったあたしに、ガウリイは嬉しそうというかなんとも複雑な顔をして口を開く。  
 「もっと色っぽく言ってくれると燃えるんだが」  
 それでも態度をあらためないあたしの上に覆いかぶさって、  
 「そこがリナの魅力でもあるんだけどな……」  
 言ってそのまま唇を深く重ねてきた。  
 ふふ、勝った。  
 なんの勝ち負けかはあたしにもわかんない。  
 あたしはいたく満足しながらガウリイのキスを受けいれた。  
 
 「最後までするんなら、もうちょっとほぐさないとな」  
 ガウリイはそう言うと、あたしのふとももに手をはわし、ぐっと一気に脚を抱え上げて身体をくの字に  
押さえつけてきた。  
 顔の横に自分の膝があたっている……ていうか、丸見え……!  
 「やだっこれ嫌! 離して!」  
 あたしは脚をばたつかせて抵抗するも、力で押さえつけられては敵うはずもなかった。  
 「どうなるか知ってるほうがリナも安心だろ?」  
 どーいう理屈?!  
 「ここにオレのが入るからな……」  
 あたしの見てる前でガウリイの小指が入っていき、微かに粘る音がした。  
 あまりの恥ずかしさに目をぎゅっと閉じて顔をそらすが、ガウリイのたてる卑猥な音がいやに大きく聞こえる。  
 「痛くないか?」  
 ひどいことをしている自覚がないのか、優しくきいてくるガウリイ。  
 「……なんともない」  
 あたしの返事にガウリイはほっとするというよりも、小首をかしげたようだった。  
 「なんともないのか……これも?」  
 いきなり電流がはしったような刺激にあたしは驚き目を開くと、小さくとがっている突起を指でつままれていた。  
 「あ…それは……」  
 なんともなくない、とはさすがに口に出して言えずにいると、ガウリイは何を誤解したか、  
 「これはクリトリスっていうんだ。リナがさっき気を失うぐらい感じてたところだ」  
 そんなこと聞いてないっての! なにこれ羞恥プレイ?! 言葉責め?!  
 いや……もしかしたらガウリイは天然のS?  
 「はは、リナの顔また真っ赤になってる」  
 ガウリイはのほほんと笑ったあとにふと黙り込んで、あたしをじっと見つめると、  
 「なんかいじめたくなるな……」  
 とんでもないことを口走る。  
 あわてるあたしに無理な姿勢でキスをしてくると、体勢を整えて小指を抜いて、じわっと中指を入れ込んだ。  
 少し太くなった感触に思わず呻いてしまったが、その指が中でくっとまげられると、そこからじんじんとした  
快感が腰に広がっていった。  
 ガウリイがクリトリスと呼んだそこもつまみなおされて、ゆるゆると揺さぶられる。  
 そのたぶん裏側あたりをガウリイの指が中から押し上げるように優しくなぞり、無防備なクリトリスを表からも  
裏からも長い指でいじめられてしまう。  
 「ああ、はぁっ……ああ……」  
 深いところから湧き上がる快感が、何度も絶頂にのぼったはずのあたしの身体を、とろとろにとかして  
いく。  
 「すごく気持ちよさそうな顔してるぞ、リナ」  
 ガウリイの言葉にハッと我にかえったあたしは、胸が焼けつくみたいな羞恥で身悶えした。  
 「ばか……みないで……」  
 ガウリイの顔は優しげだ。  
 どうしようもないくらい、残酷なまでに優しげに微笑んであたしを見続けている。  
 「みないで……みないでぇっいっちゃうぅう……」  
 激しい快感が脳天どころか脚のつま先まで貫いていく。  
 絶頂に喘ぐあたしを見据え、ガウリイが一瞬だけ雄の顔をしたのがわかる。  
 本気だ。この男、本気だ……  
 身体がどんなにびくついても、ガウリイの指はためらうこともなくあたしをいじめぬく。  
 「皮もむいておこうな。ほら、中に芯があるんだ」  
 器用に指でめくりあげるような動きをすると、小さな尖りがさらけだされてしまった。  
 何をされているのかうまく理解できない。  
 自分の身体にそんなところがあるなんて初めて知った。  
 湧き上がるこのどうしようもない恥ずかしさはなんなんだろう。  
 目を閉じてもいいはずなのに閉じれない。  
 垂れそうになるほど溢れるぬめりをねっとりと芯に絡ませ、やらしい音をたててなでまわしてくる。  
 中に入っている指も、あたしをゆっくりとめちゃくちゃにしようとする。  
 ガウリイが見ている前であたしは何度も絶頂に達し、喘ぐそのたびに理性が焼かれ目眩がする。  
 
 でももう、これ以上は……  
 「ゆるして、ゆるしてぇ……おかしく、なる……」  
 涙でにじんだ視界の先に、ガウリイの上気した顔がぼんやり見えた。  
 その唇がすこしだけ開いて、濡れた舌がゆっくりとあたしに近づき、むきだしになっている芯をねらって  
躊躇なくねぶりだした。  
 とろけて死んじゃうような快楽に耐え切れず喘ぎ泣いても、熱い舌先が容赦なく蠢きつづける。  
 痺れるようにジンジンするクリトリスをガウリイはさらに舐め上げてこねまわして、指を抜き差しする。  
 お尻がきゅーっとなって訳がわからないほどのイキ方をしてしまい、よだれが出るのをとめられなかった。  
 唐突に舌の動きをとめたガウリイは息ひとつ乱してない。  
 「指一本だけなのにきついなー。ほぐすどころか締まってきてるし。もっと奥までいれるからな」  
 ガウリイが愉しげな顔を隠そうともせずにまた卑猥な音をたててあたしを犯す。  
 「いやぁ……いや………」  
 あたしはウソをついた。  
 せめてもの恥じらいを彼に見せた。  
 あたしのそのウソまでガウリイはつつみこんで終わりが見えない悦楽の全てをあたしに教えてくれた。  
 喘いで叫んで飛んでいってしまいそうな意識の中で彼の瞳が凄絶なまでに笑みを浮かべているのが見えた。  
 あたしをいじめて悦んでいる、悶えておかしくなる様をいつまでも愉しんでいる、最高にサディストな彼の  
一面を、あたしも本当は悦んでいた。  
 身も心もおかしくなってガウリイの執拗な愛撫を悦びながら受け入れていった。  
 もっと、とか、いい、とか、すごい、とか、そんなことだけしか口からは出てこなくなった。  
 きつくクリトリスを吸われ指で中をしごかれ、極限まで快楽だけを与えられ、何も考えられなくなって、  
しまいには彼の名前だけをずっと叫びつづけていた。  
 
 
 「ちから抜いて、そう……さっきみたいにオレのことだけ考えて」  
 長すぎる愛撫から解放されたあたしは言われなくとも、もう他にはなにも考えられなくなっていた。  
 火照りとろける身体をぐったりとベッドに預けて、彼の手にうながされるままに脚を開いた。  
 ガウリイの熱くて固いものが、ひくついているあたしの中心にあてがわれ、ぐっと中に入ってこようとする。  
 たまらないほどの圧迫感に息がとまりそうになるあたしの頭をガウリイはぽんぽんとなで、髪をひとふさ  
もちあげると、そこにそっとキスをした。  
 「先にあやまっとく。たぶん痛いだろうから」  
 彼にしては神妙にそう言うと、ごめんな、と小さくつぶやきながら奥まで深く入ってきた。  
 焼けるような熱さと太さに思わず目をつぶり身悶えしたけれど、あたしが想像していたよりも痛み自体は  
少なかった。  
 だけどそれをガウリイに伝えられる余裕はなくて、勇気をふりしぼって目を開けて、彼の蒼い瞳に応える  
だけで精一杯だった。  
 それでもガウリイには伝わったんだと思う。  
 ガウリイは安心したような笑みをみせて、あたしの腰をつかむと、荒い息をはきながらあたしを徐々に  
揺さぶりだした。  
 乱暴ではないが激しいその動きにガウリイの必死さが伝わってきて、あたしはなんとなく嬉しかった、  
ような気がする。  
 あたしは終始、冷静さなどかけらもなく声をあげてよがりながらガウリイにしがみついて身悶えして、  
言葉に出来ないほどの悦楽に頭がイカレていたからだ。  
 何がどうなっているのかもよくわからなかった。  
 熱くて硬くて激しくて……気持ちよかった。  
 そして泣きたくなるほど愛おしかった。  
 彼の額に汗がにじむのも、指に絡ませてきた熱い手も、あたしの全てを求めているのが伝わってきて  
胸の内があふれるほどに満たされていく。  
 
 今まで感じたことのない、自分のなかで暴れだす狂おしいほどの愛情の強さにとまどいもしたが、  
それ以上にガウリイから感じられる愛が激しすぎて、いろんなことを凌駕していってしまう。  
 だからガウリイが苦しそうに呻いたときも、何の不安も感じなかった。  
 「くっ……リナっオレ……もうっ……!」  
 喜びしか感じなかった。  
 わかってる。なにもかもわかってる。  
 それでも構わなかった。  
 ガウリイに求められていることが、この上なく幸せだった。  
 何もかも失っても、もし魔力すらなくなっても、彼に応えたかった。  
 「……きて………なかに……だして」  
 あたしのかすれるような小声に、ガウリイが熱い息をはく。  
 ぎゅっと目をつぶり、苦しげな呻きをあげながら、あたしの愛しい男はあたしの中で荒く果てた。  
 ガウリイの切ないような声があたしの名を呼ぶ。何度も何度も。  
 どくんどくん、と注がれるたびにあたしはびくびく震えながら受けとめた。  
 何回、そうされたんだろう。  
 3回目までは数えていられたけど。  
 「リナっ……!」  
 ガウリイが切実な声をだしてあたしを突き上げ、身じろぎひとつせずに奥の奥まで注ぎ込む。  
 熱くてたまらない。  
 汗ばみ火照る身体をおもいっきり抱きしめられ、激しい呼吸のまま唇を奪われ、まるでむさぼるようにして  
舌をからませあった。  
 お互いの鼓動が落ち着くまでずっと、そうして絡みあって、顔が見たくなった頃にそっと離れた。  
 照れたような顔をしているのはまたあたしだけで、ガウリイは当然のように幸せそうな顔をしてあたしを  
見つめてきた。  
 「オレ、気持ちは変わらないって言ったけど、変わった……」  
 「なによそれ……変わったって、どんなふうに……?」  
 「ああ、もっと好きになった。好きで好きで……たまらん」  
 ガウリイは宝物のようにあたしを抱きしめ、苦しいぐらい力をこめると、深くて長いため息をついた。  
 「リナ最高……」  
 熱い吐息がくすぐったい。   
 「ばか……」  
 やっぱり素直になれないあたしだったけど、もう今までのあたしじゃない。  
 こんなに人を愛おしいと感じたことはなかった。  
 永遠を信じる気持ちが心地良い。  
 もう言い切ってしまおう、これは運命なのだと。  
 「……おやすみガウリイ」  
 あたしは生まれて初めて自分からキスをして………ガウリイは優しくそれを受けとめてくれた。  
 窓から見える星がそんなあたしたちを祝福するかのように、穏やかに瞬いていた───  
 
 
 朝になって宿屋を出ると、広がる草原に白い一本道がまぶしく光っていた。  
 夏の陽光をうけて輝くなにもかもに眼を細めていると、唐突にガウリイが口を開く。  
 「ずっと悩んでたんだ……でも探したら見つかった」  
 そう言ってガウリイはあたしだけを見つめる。  
 なんのことかわからないけれど、そのまなざしに胸が痛む。  
 彼が探したものってなんなんだろう。  
 この広すぎる世界に彼が望むもの。  
 答を聞くのがこわい。  
 それなのにあたしは聞いてしまう。平気なふりをして。  
 「何をよ?」  
 そうして照れることも臆することもなく、当たり前のようにガウリイは小さく笑う。  
 「お前さんだよ。リナ=インバース」  
 泣くところじゃないのに。  
 浮かれて有頂天になって照れ隠しに彼の背中をバシンバシンと叩いて笑うところなのに。  
 胸の苦しさが消えずに切ない痛みが喉まで広がりこみあげてくる。  
 あふれてこぼれおちた涙はとても甘くて苦くて、そして胸の痛みと一緒にすぅっと消えていった。  
 ガウリイは嬉しそうにそれを見届けると、きらめく世界に眼を向ける。  
 「ゼフィーリアはどっちだ?」  
 「あっちよ」  
 指差す先には白い雲、青い空。  
 どこまでも続く道。  
 「いこうか」  
 ガウリイがさしだした大きな手をあたしは少し誇らしげに握った。  
 「その次はエルメキアね」  
 「おう。その次は……」  
 途切れることのない会話。  
 行きたいところは全部行く。  
 やりたいことも全部やる。  
 それでこそあたしたちだと繋いだ手が喜んでる。  
 あたしとガウリイはそんなふうにして歩き出した。  
 
 
    ...end.  
 
 

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