ベッドの中で寝返りを打ちながら、あたしは耳をそばだてた。  
薄い壁を通して、隣の部屋からは微かな物音が聞こえてくる。  
 
……ガウリイの奴、まだ寝てないでやんの…。  
 
あたしは胸中でこっそりため息をついた。  
この近くの森に、盗賊の隠れ家があるらしいことをあたしが耳にしたのは、さっき宿のおばちゃんと喋っていた  
時のことである。  
あたしたちの長話に、ガウリイは早々に部屋へ帰り、その後「盗賊が近くの森にいるらしいから、気を付けるん  
だよ」とわざわざ教えてくれたのだ。  
そんな話を聞いてしまっては、おちおち眠れるはずもない。  
ガウリイが眠ったら、こっそり抜け出そうとこうして待っていると言うのに・・・まったく、なに夜更かしして  
るのよ。  
苛立ちながら、何度目かの寝返りを打った後、隣の部屋が静まり返っていることに気が付いた。  
とうとう寝たのかしら?  
あたしは壁に耳を押し付けた。  
眠ってくれたのなら好都合。ダメ押しに『眠り』の呪文かければ、まず気付かれることもないだろう。  
別に『眠り』の呪文で寝かせてもよかったんだけど、以前それで失敗してるから、やはりここは慎重にいきたい。  
神経を尖らせて、気配を探る。  
ガウリイの部屋はあたしの部屋と対称の作りをしてたから、確かこの裏がベッドになっているはず・・・。  
 
「はあっ…」  
 
その時、こっそり聞き耳を立てていたあたしの耳に、ガウリイが大きく息を吐くような声が聞こえてきた。  
 
「あっ、はあっ、くっ…うっ…」  
 
声は断続的に、何度も聞こえてくる。  
なにこれ?運動でもしてるのかしら?こんな夜中に?  
それに、運動をしているにしては、ガウリイの荒い息遣い以外、音らしい音がほとんど聞こえないのもおかしい、  
し・・・って、これって、まさか・・・。  
 
「うっ、あ、あっ…」  
 
あたしの思考を遮って、一際大きなガウリイの声が薄い壁越しに響く。  
艶のあるその声を聞いて、あたしは瞬時に理解した。今、ガウリイが部屋で、一体なにをしているのかを。  
気付いた瞬間、カァァッと顔が赤くなる。  
うわああああ、まさか、だって、そんな…いやいやいや、ガウリイだって一応男なんだし、不能でないって  
言うならそりゃ人並によう言う欲があってもおかしくないけど、でも…だあああ、やっぱり無理!!だって、  
こんな場面に遭遇したの、初めてなんだもん!!  
混乱した頭で、色んな思考が渦巻く。  
聞き耳を立てていたことに罪悪感を感じて、でも隣の部屋で繰り広げられているであろう光景を思うと、背徳的  
な興奮も沸き上がってきて、あたしの脳内はパニック寸前だ。  
 
「っ……リナっ…」  
 
!?  
 
その時、突然聞こえた自分の名前に、あたしは硬直する。  
なに?空耳?  
頭の芯が熱でぼやけるような錯覚を感じながら、あたしはもう一度耳を澄ました。  
 
「リナっ、リナ…っはあ…」  
 
やっぱり、空耳じゃなかった!!  
えっ、待って?これって、だってあれでしょ?男の人が、自分で性欲を処理するって言う…。  
その途中にあたしの名前を呼ぶって、それって、それって・・・。  
人の話や本なんかを呼んで、知識だけは豊富なあたしの頭が、それに対する答えをずらずらと弾き出してくれる。  
 
ボンっ  
 
その、あまりにも馴染みのない知識の数々に、あたしの脳はオーバーヒートを起こして、あっさりと考えること  
を放棄した。  
 
 
*  
 
 
「くうっ…っ……っ!!」  
 
最後にリナの名前を呼んで、オレのイチモツからは白濁した液体が吐き出された。  
それをティッシュで受け止めて、オレは大きく息を付いた。  
耳を澄ませれば、さっきまで壁越しにオレの様子を窺っていたはずのリナが、すっかり大人しくなっている。  
どうせまた、盗賊いぢめにでも行くつもりだったのだろう。  
何度言っても止めないのは、なんでだろうなぁ・・・。  
ぼんやりと考えるが、もちろん答えなんてリナのみぞ知る、だ。  
オレは後処理を済ませると、そそくさと布団に入る。  
名前を呼んだのは聞こえてるだろうけど、その意味まで分かったのかなと、少し疑問に思った。  
それも、明日になったら分かるか。なんせリナは、すぐ顔に出るし。  
どんな反応をするだろうかと、明日のことを楽しみにしつつ、オレは眠りについた。  
 
 

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