「なぜ俺に毎晩抱かれにくる?」
裏寂れた宿屋の一室でゼルガディスはそう呟いた。
いくら治安のいいセイルーンとはいえ、高い金を払えばどんなやばい人でも泊めてくれる
宿屋はあるもので。彼の止まっているここの宿屋もそういう類のものだった。
そして、その言葉を受け取るものは───
「あなたが好きだからです。ゼルガディスさん」
この国の王女アメリア。この薄汚れた宿屋の一室と王女という取り合わせはあまりにも不釣り合いだ。
「お前は王族だぞ・・・わかってるのか・・・」
「ええ、わかっています・・・私はこの国の王女です。いずれ国が決めた人の元に嫁がなければなりません、
国の、ために」
「だったら、なぜ───・・・」
吐息とともに吐き出すように。
「だから、です。だから、せめて今だけは」
それ以上なにも言えなくなるように、アメリアはゼルガディスにキスを送る。
柔らかな舌がゼルガディスの口腔を蹂躙してゆく。拙いながらも熱情を感じられるキスは、
乱れつくし、熱がさめるのを待っていた二人の体に再び火をつけた。
「ん・・・ふぅ・・・っ・・・」
アメリアを膝の上にのせ、肉付きのいい体をまさぐりだす。口づけはそのままに。
丸をおびた背中をなぞり、双丘から脚の付け根へとゼルガディスの手は移動してゆく。
唇と口腔を充分に味わうと二人は唇を離した。飲みきれなかった唾液がアメリアの唇を端を伝う。
ゆっくりと彼女を持ち上げ、豊かな胸に口づけをした。
薄紅色の先端を口にふくむとそこはすぐさま濃く色づく。
「ぁっ・・・はぁっ・・・」
跡をつけぬように軽く、けれども執拗に柔らかな膨らみに口づける。
彼自身の針金の髪で体を傷つけぬように気をつけながら。アメリアの体はうっすらと熱を帯び湿っていった。
太股をまさぐっていた手をアメリアの脚の付け根に滑らせ、秘所に指を侵入させる。
そこは既に熱く潤み、蜜があふれ出していた。シュプシュプと蜜の溢れる音に続いてアメリアの喘ぎが
大きくなった。あふれ出す蜜は指を蜜壺に抵抗なく飲み込ませていく。
「やっ・・・ゼルガディスさんっ・・・もっと・・・」
快感にうかされたアメリアはうわごとのようにねだった。
焦らすことなくゼルガディスは指を増やし、花芯をねぶる。
「あっあっ・・・ダメですっ・・・はやくきてっ・・・」
身をよじらせ、首をふりアメリアは早々と上り詰めることを拒んだ。
「一緒に・・・いきたいです・・・」
顔を赤らめ、うつむきげにそう言うアメリアにゼルガディスは愛しさを募らせた。
更にアメリアの体を持ち上げ、自分自身をはいりこませるようにする。焦らすように花弁の回りを
勃立したゼルガディスのモノでなぞり、一気に貫く。
「あああっ!」
快楽の奔流が二人をおし流す。
快楽に流されながらゼルガディスは思う、アメリアが自分の上でこんな風に乱れるようになってからどれくらいたった
のだろうと───最初はとても後ろめたかった。でも、拒めなかった。恥ずかしげに自分に抱きついてくる
アメリアの背に手をまわしたのは他でもない彼自身で。毎夜こうやって尋ねてくるアメリアを抱くのも
彼自身で。セイルーンはとうの昔に調べ終わった街なのに、訪れてしまったのも彼の意志だ。
彼女の気持ちに甘えて、いるのだろう。
けれども、その腕のなかに自ら墜ちてきた彼女を確かに愛おしいと彼は思う。
聖女を黒く汚していく、背徳感とともに。
───気持ちに答えることができなければ、こんな関係やめなくてくては。
なんどもそう思った。だがそのたびにアメリアは彼を引き留めた。愛しているから、と。
そうやってかれこれ長い間この街にとどまってしまった自分自身をゼルガディスは疎ましく感じる。
きっと、アメリアは全てわかっているのだろう、彼自身のこの気持ちも。
いずれ別れなくてはいけないことも───だから、だからこそ、早く。
「セルガディスさんっ・・・」
ぎゅっと、締め付けるようにアメリアはゼルガディスに抱きついてきた。
「よせっ、アメリア───!」
思わずゼルガディスは快楽を忘れて大声をだした。
だが、それを塞ぐようにアメリアは激しいキスを仕掛け、腰を振り彼を再び快楽の波を突き落とす。
柔肉が彼のモノを絡め、搾り取るように動く。
肌と肌がこすれあう───セルガディスの肌は岩だ。それとアメリアの柔肌がこすれあえば・・・。
白い肌に血が滲む。痛々しい傷がアメリアの肌を彩った。
ずっと、ずっとこうなるのを避けて、ゼルガディスは行為の最中にも細心の注意をはらって、
アメリアと彼自身の肌が触れあわないようにきをつけてきたというのに。
「いいんですっ・・・このままでっ・・・あああっ!」
優しく包み込むように、アメリアは彼をかきいだいた。更に白い肌が赤く染まっていく。
腰をふり、髪を振り乱し、彼に考える隙をあたえないといわんばかりにアメリアは激しく動く。
ゼルガディスは快楽に突き動かされた本能を止めることはできなかった。
彼もまた、突き上げるように激しく越しを動かし、アメリアと一緒にのぼりつめていく───。
「だから、いいんですこのままで」
二人、共に登り詰めたあと、アメリアの肌についた傷を治そうとした彼をアメリアはそう制した。
「すまない・・・アメリア・・・」
「どうして謝るのですか?こうしたのは私の意志ですよ?」
「けど、俺がこんな体じゃなかったら───」
「そんな体だからです、ゼルガディスさん。だから、私もあなたを愛したんです」
「───!」
何も言えなくなる。彼女の強さと優しさに。
だから、だからこそ、このままではいけないとゼルガディスは思う。
「俺は明日、昨日いったとおりこの街をでる・・・」
「───知ってます。もう、調べ尽くしたんですよね」
「ああ、もう多分、この街に寄ることはないだろうな・・・」
「・・・お別れですね」
「もし、俺が───」
───もし、俺が人間に戻れるようなことがあったら、またこの街を尋ねきてもいいか?
言いかけてゼルガディスは止めた。それを最後まで言い終わるのは卑怯な気がして。
アメリアはきっと、ずっと待っているだろう。
そして、アメリアも言葉を飲み込む。
───もし、あなたが人間に戻ることができたなら、またこの街にきてくださいませんか?
その願いは吐き出されることはない。
お互いがお互いに新しい道を歩き出すために。
最後に二人はキスを交わした。触れるだけの別れのキスを。
次の日、セイルーンからでる一つの影を木の上から見守るアメリアの姿があった。
その表情はとても満ち足りた聖女と見まごうほどの笑みで──────。