静かだった。  
薄い布地越しに触れあうお互いの心臓の音が聞こえるくらい。  
ただじっと見つめあう。  
リナの目の中に自分の姿を見ていると、ふと、色のついた鏡のようだったリナの目が柔らかくなって  
何かの感情が表れた。  
 
その瞬間、むさぼるように口づけた。  
 
 * * *  
 
遺跡から遺跡へ、街から街へ、国から国へ。  
人間の姿を取り戻すための、長く続けている旅のあいだにうっかり旧友たちに再会してしまった。  
リナ=インバースとガウリイ=ガブリエフ。  
このふたりに会うときは、何かしらトラブルに巻き込まれるものだから  
つい必要以上に周りを見渡し警戒してしてしまう。  
「……ちょっとゼル、久しぶりとか何とか言ったらどうなのよ?」  
「ああ、久しぶりだな。」  
「よお。」  
とりあえず、差し迫った危険はなさそうだと判断してゼルガディスはあいさつを交わした。  
なんとも間の抜けた再会だが、本当に久しぶりに自然に笑えた。  
 
せっかくだから、とのリナの言葉にゼルガディスはふたりと同じ宿に部屋を取った。  
この辺の交渉はリナがサービスとやらでやってくれたおかげで、今夜はまともな睡眠をとれそうだ。  
その安心のせいか、再会が嬉しかったのか、暗くなる前から酒がすすみ、会話が弾み、  
夜が始まるころにはゼルガディスもガウリイもかなりの量を飲んでいた。  
「旅ってのは、いいよな。心が洗われる……」  
遠くを見て言ったガウリイのその台詞に、リナとゼルガディスは顔を見合わせる。  
「酔ったわね。」  
「ああ、オカシク、というかマトモになってる。」  
「ちょっと、ていうかかなり早いけど、部屋に戻りましょうか。」  
「……そうだな。」  
正直残念だ。  
ゼルガディスはまだ正気を失うほど酔っていなかったし、リナもほとんど飲んでない。  
もっと一緒に時間を過ごしたい。  
無意識にそう思ったことに気づいて、心の中で苦笑する。  
自分で思っていたより、大分精神的にまいっていたらしい。  
ゼルガディスは気づかれないようにそっと息を吐いた。  
 
ひとりになるのが寂しい、なんて。  
 
 
「来ちゃったv」  
慣れた気配に扉を開けば、両手に本を抱えたリナが立っていた。  
何しに来た、とは聞かない。  
一緒に旅をしていたころから、こういったことはよくあった。  
魔道書をふたりで読み解き、意見を交わす。  
平和の証であり、至福の時間だ。  
「旦那はどうした?」  
「部屋で寝てるわよ、たぶん。」  
遠慮も何もなく当たり前のようにゼルガディスの部屋に入ると、リナは抱えていた魔道書を  
サイドテーブルに置いてベッドに腰掛けた。  
「この間手に入れたんだけど、なかなか面白いのよ。」  
そう言って手で髪をはらった姿は、いつの間にか色気を感じさせるもので、ゼルガディスはあることに思い至った。  
どうやらふたりの関係は保護者と少女、から男と女に変わったようだ。  
そう思った瞬間、ゼルガディスの中で何かがうごめいた。  
呼吸が苦しくなる。  
 
自分はひとりで旅をして、ずっとひとりで―――  
あてもなく、先も見えずに―――  
 
めまいを起こしたような足取りでゼルガディスはベッドに近づく。  
「ゼル?」  
リナの眉が訝しげに寄る。  
「どうしたの……?」  
見上げてくるリナをそのままベッドに押し倒した。  
 
 * * *  
 
静かだった。  
部屋着の薄い布地越しに触れあうお互いの心臓の音が聞こえるくらい。  
リナも風呂あがりらしく、かすかに石鹸の香りを漂わせている。  
ただじっと見つめあう。  
リナの目の中に自分の姿を見る。  
表情はわからない。  
どれくらいそうしていたのか。  
ふと、色のついた鏡のようだったリナの目が柔らかくなって何かの感情が表れた。  
 
その瞬間、許されたかのように、むさぼるように口づけた。  
 
飢えている。  
頭の片隅に残ったわずかな理性がつぶやく。  
どうしようもなく、こんなにも、飢えている。  
欲しくて欲しくてたまらない。  
下で口腔内をかき回しても、服をはだけさせても、リナは抵抗しなかった。  
もう目は見れなかった。  
何も考えられなかった。  
小ぶりな、でも柔らかい胸を揉んで、頂点をしゃぶって、自分の象徴を足にこすりつける。  
「ふ……ん、う……」  
控え目にもれるリナの喘ぎが心地よくて、体中を手と口で愛撫する。  
両足の間の敏感な部分に口づけると、びくんとリナの体がはねた。  
「ゼル……」  
自分を呼んだ声は非難も拒否もしていなくて、少しだけ甘えたような優しい声だった。  
それが嬉しくて夢中でリナを責めて、イカせた。  
 
ぐずぐずになったリナの入口に、先端をあてる。  
ゼルガディスはためらいなく一気に入れた。  
「ん、あっ」  
リナの細い両足が、一瞬硬直したように伸びてから、ゼルガディスの腰にまとわりつく。  
ゼルガディスは一度天井に向けて大きく息を吐き出した。  
リナの中はあたたかい。  
そのあたたかさを味わうように、最初はゆっくりと、そのうち余裕がなくなって激しく動かす。  
「あんっ、あ、はぁっ」  
「リナ……リナ……」  
「ああっ、あ、い、いっちゃいそう……あ、いく、いく……っ!」  
達してひくひくと動くリナの中に促されるように、ゼルガディスの射精感が高まる。  
 
このまま中に出して、もし、リナが孕めば―――  
リナは、自分のものになるだろうか―――?  
 
ゼルガディスは可能性の低い誘惑にかられた。  
 
リナに自分の子供を孕ませる―――  
 
ああ、でもその時は、きっとガウリイに斬られて自分の子供を見ることなく人生は終わるに違いない。  
それも今のゼルガディスにとっては甘い誘惑だ。  
 
悪くない。  
ひとりで、ずっと、生きていくより。  
 
「リナ……っ!」  
最奥まで突き入れると、まとわりついたリナの足が離れないのに後押しされるように  
そのまま中で放つ。  
軽く腰を揺らして、一滴残らずリナの中に注いだ。  
「……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」  
ゼルガディスは荒い息を整えることもしないで、リナの上に上半身を倒した。  
リナの中に入れたまま、しばらくの沈黙。  
呼吸が落ち着いてくると、急速に頭が冷えてきて、とんでもないことをしてしまったと気づく。  
「ゼル」  
まだ熱さの残るリナの吐息が耳に触れて、ゼルガディスはようやくリナと目を合わせた。  
リナの瞳は穏やかだ。  
怒っていないし、嫌悪もしていない。  
「リナ、その……」  
「悪かった、なんて言わないわよね?」  
「…………」  
リナの小さなてのひらが、ぺちとゼルガディスのほほを叩いた。  
「イヤじゃなかったわよ。」  
「ああ……」  
 
「少しはラクになった?」  
 
ああ、やっぱり。  
 
口がうまくて、手が早くて、金銭に目がなくて、乱暴で、大食いで、盗賊いじめが好きで、  
ドラゴンもまたいで通る、世界の危険生物に指定されているけど―――  
 
リナは、情にもろくて、とことん甘い人間だ。  
 
ゼルガディスは、触れるように唇を合わせた。  
「まだ、もう少しだけ……」  
甘えるように囁くと、リナがキスを返してくれた。  
「じゃあ、もう少しだけね。」  
リナの中に入ったままのゼルガディスが、硬さを取り戻す。  
「ああ、今夜だけだ。」  
ゆっくりと動き始めた。  
 
 * * *  
 
そろそろ夜が明けるのか、東の空が白み始めていた。  
ゼルガディスは村を出てすぐそばの木に寄りかかっていたが、ひとつの気配が近づいてくるのに  
気づいて身を起こした。  
「先に言っておくが、俺が無理やりやった。リナは悪くない。」  
足を止めたガウリイは、剣を手に持ち、鎧も身に着けている。  
「後悔はしていないが覚悟はできている。」  
「そうか。」  
ガウリイにばれないはずがない。  
この金髪の凄腕剣士は、誰よりも何よりもリナを大切にしているのだから。  
「覚悟は、出来ているんだな。」  
「ああ。」  
ゼルガディスは昨日までとはうってかわって、とてもすっきりとした気分だった。  
短いような、長いような人生だったが、それなりに満足だ。  
目を閉じて、丸腰の体をガウリイに向ける。  
殴られようが斬られようがどうでもいい気がした。  
「いくぞ。」  
次の瞬間。  
 
すぱぁあん  
 
聞き慣れた音と、慣れない痛みがゼルガディスの頭を襲った。  
「?」  
ゼルガディスが目をあけると、右手に薄いものを持ったガウリイが、晴れやかな表情で立っていた。  
「……スリッパ……?」  
「そ、ゆうべリナの部屋から借りといた。」  
なんとなく痛みの残る頭をさすりながら、ガウリイを見る。  
「お前さん、今日はいいカオしてるな。」  
「…………」  
「昨日までは、この世の終わりってカンジだったけどな。」  
「…………」  
「だいたい、無理やりってことはないだろ?」  
相手はあのリナ=インバース。  
許されなければ、混沌に還されていたはずだ。  
「……いいのか。」  
「よくない。だから殴った。」  
「スリッパでか。」  
憮然とするゼルガディスに背を向けると、ガウリイは村に戻り始める。  
「あんなカオされちゃあなぁ。オレだって本気は出せないさ。」  
「そんなにひどかったか。」  
「ひどいなんてもんじゃなかったな。」  
「そうか。」  
ふたりして歩きながら会話を交わす。  
 
自分で思っていたより、大分精神的にまいっていたらしい。  
ゼルガディスは気づかれないように、夕べに引き続いて、そっと息を吐いた。  
 
「あ、そうそう。コレ、リナに返しといてな。」  
宿屋の裏庭で唐突にガウリイが右手のものをゼルガディスに放った。  
それはつまり、このままいなくなるなということだ。  
「オレにとっても、リナにとっても、お前さんは大事な仲間だからな。」  
 
だから、何か思い悩むようなことがあれば、遠慮しないで言えよ。  
オレたちこれから、ゼフィーリアで暮らすつもりだから。  
いつでも来いよ。  
 
宿に戻るガウリイの背中を見送り、手の中のスリッパを見る。  
裏に文字が書いてあった。  
 
   対ゼルガディス用魔道強化スリッパ(Ver.3)  
 
顔がゆるみ、肩がふるえるのを抑えられない。  
これを常に持ち歩いているのかと思うと、なんとも不思議なおかしな温かい気持ちになる。  
リナが寝ているであろう部屋を見上げて、感謝の言葉をつぶやいた。  
もう一度、起きたら直接言おうと決めて。  
 
ひとり、じゃなかった。  
 
 
 
終わり  
 

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