――この世界には相反する二つの種族が存在している。
存在することを望み続ける人間と、滅びを望んで止まない魔族。
人間は様々な動植物を口にしてエネルギーを得る一方、
魔族は、生きとし生けるもの―つまり人間の生み出す負の感情を生きる糧としていた。
すなわち、不幸にも魔族の標的(ターゲット)とされた人間は地獄すら生ぬるい絶望の淵を彷徨うことになるのである。
その日、リナはいつものように仲間とたっぷりの夕食を摂り、自室へ下がって寝台に潜り込んだ。旅の疲れもあってか程なく微睡んだ頃、ソレは現れた。
――ぞくり、と身体中の毛が逆立った。
冷たく凍てついた何ともおぞましい気配、それが自分に向けられている。
そう、これは魔族の気配。殺気とも瘴気とも言い表せないもの。
とっさにリナは寝台から飛び起きて、そして目に映ったものに全身を凍らせた。
かつて一緒に旅をしたこともある謎の神官ゼロス、その彼がいつものように微笑みながら部屋の片隅に立っていた。
「こんばんは、リナさん」
高位の魔族でもある彼は、姿形も気配も完璧に人間に似せることを容易としていた。リナ達に正体がバレた後も飄々と人間のように振舞っていた。
その彼が、自分の気配を本性を何も隠さずにリナの前に現れる。
これが何を意味するのか、リナは考えたくなかった。
ただ本能的に察していた。『――殺(や)られる』と。
「…一体何しにきたのよ、ゼロス」
今にも震え出しそうな身体を抑えて、リナは声を絞り出した。
「何って――わかっているでしょう?」
その顔から笑みを絶やすことなくゼロスは淡々と言う。
「…誰の命令なの?」
どうせ死ぬ身ならば、あれこれ聞いておこうと思った。
今まで色々色々とあったせいで魔族から命を狙われる理由なんて掃いて捨てるほどある。
まさかゼロスが来るとは思わなかったが、妙にしっくり来る気もした。
黙って大人しく殺されるつもりはないが、ゼロスの実力はとっくに知り尽くしている。
自分と仲間の三人を合わせても、ゼロスからしたら子猫を相手にするようなもんだろう。
しかしゼロスは自分の言葉にきょとんと首を傾げた。
「…ああ、なるほど。リナさんは何か勘違いしていらっしゃるようですね。
僕は貴女を殺しにきたわけではありませんよ」
意外な言葉にリナは混乱する。
リナを殺しに来たわけではない―ではこのおぞましい気配は何なのか。
納得の行く答えが欲しくて、なおも問い掛ける。
「…なら、なんであんたはここに来たの?」
「僕は、ご馳走は最後までとっておく主義なんです」
さっぱり意味がわからない。
「どういう―」
意味よ、と言おうとしたその時、リナの両手両足に何かが絡みついた。
両手は上へと持ち上げられ、足はギリギリ床に着くか着かないかで縫い止められる。
透明な、触手のようなものがリナの動きを拘束していた。
「な、何よこれ…!?」
そしてゼロスが片手を振ったと思ったその時、リナの寝間着が音も立てずに切り裂かれた。
一片の穢れもない白い肌が、月光を照らして淡く光る。
言葉も出ないリナに、ゼロスは静かに近付いた。
「ずっと、我慢していたんです。
こんなに美味しそうなものを見るのは初めてでしたから。
食べたいけど食べられない。そんな気持ち、分かりますか?リナさん」
ゼロスの手がリナの顎を掴んで上向かせる。
リナはびくんと身を震わせ、ゼロスの冷たい瞳を見返した。
「でも、もう我慢するのは止めました。リナさん達人間の命はあまりに短い―。
一番美味しいときを逃したら、それこそ勿体無いですからね」
果物は旬を逃すと美味しくない――まるでそんな世間話をするかのようだった。
「ああそれから、無駄な抵抗は止めたほうが良いですよ。
結界を張りましたから、何を叫んでも喚いてもお仲間には届きません。
…まぁ、わざと聞こえるようにしてお仲間さんの負の感情を食べるのも
面白そうなんですが、折角のリナさんとの食事を邪魔されるのもつまらないですからね」
「…っこの、外道っっ…!」
リナは強く蔑んだ目でゼロスを睨んだ。
「あぁ、良いですね。貴女のそんな目も感情も、とても良い。
もっとです、もっと僕を憎んでごらんなさい」
うっとりした口調で、耳元で吐息と共に囁かれた。
そのまま耳朶を舐め上げられる。
とっさに身を捩るがどこもかしこも固定されていて、微かに首を動かせただけだった。
ゼロスの舌は意外にも暖かかった。
ゆっくりと文字通り嬲るように動き、首筋、鎖骨、わずかな胸の膨らみへと移動していく。右の胸の頂きをペロリと舐められて、リナは息を詰めた。
「…っ…!」
赤い小さな小さな果実を、ゼロスは優しく愛おしむように舐める。
口に含んでころころ転がし、軽く歯を立てた。
「…っは…」
散々弄んでから口を離した。
唾液に濡れた頂きを指で挟んで擦り、ふうと吐息をかけた。
その微妙な感覚にリナは身をよじる。
指はそのままに、ゼロスはもう片方の頂きに吸い付く。
「…ぁ…っ」
強く吸ってから舌でイジり倒す。
あまりに強い感覚にリナは眩暈がした。
声を漏らすまいとしても、手で口を塞ぐこともできない。
こんな腐れ外道魔族に好きなように弄ばれる屈辱と、そんな魔族から与えられる刺激に反応してしまう自分の身体が、たまらなく悔しかった。
ようやく満足したのか、ゼロスは頂きから口を離した。
「やはり思った通り、リナさんは感度が良い」
どこか嬉しそうに呟く。
「このまま僕の手練手管を教え込むのも面白そうなんですが…」
そう言ってゼロスの手元に何かが出現する。それは小瓶だった。
キュポッと蓋を開け、リナの身体へその中身を傾けた。
淡いピンク色の液体がてらてらと光って、鎖骨から胸、下腹部へとゆっくり流れて行く。
「…ちょっ、何よこれ…!?」
「媚薬です」
さらりと言い放つ。
一通り全身にかけてから小瓶に蓋をして仕舞い、そして自分は寝台へと腰を下ろしてリナをとっくりと眺める。
「リナさんには、まず僕の触手と遊んでもらいましょうか。先ほどから貴女を縛り付けているもの、それも僕の一部です。僕に見られながら、僕に犯(おか)される。――素敵なシチュエーションでしょう?」
ゼロスはにっこりと笑った。
その時、リナを拘束したきり動きを見せなかった触手がざわざわと蠢いた。
「…いやっ…!やめて…っ!!」
リナの懇願も空しく、その細い肢体に触手が絡みついた。
白く半透明に光るソレは子供の手首ほどの太さで、四肢の拘束はそのままにリナの全身をゆっくり這い回る。触手が動くたびにピンク色の媚薬が身体に擦り付けられ、余すことなく塗りつけられていった。
「…っや…っ…ああ…っっ…!」
リナは身を捩って声にならない声を上げた。
即効性の媚薬なのか、身体中の感覚が高まっていく。
それを更に肌に塗りこまれて、その上を触手がぬるぬると動き回る。
高められる感覚と、与えられる刺激と、全身を覆うそれはリナをどこまでも責め立てた。
「…っは…っ……んぅ…!」
それはなんとも淫靡な光景だった。
まだ少女の域を出ない今にも折れそうな小柄な肢体の白く輝く肌の上に、何ともいやらしい色の液体がてらてらと光ってその身体を濡らしている。その上を触手が這い回り、それが透明なせいで、触手に覆われた部分のリナの肌色も塗られた媚薬の色も、見る者の目によく写った。
「ああ、とても綺麗ですよ、リナさん。貴女のそんな姿も素晴らしい」
「…っ…ぜろ、す…っ…やめ…っ…、んっ…ああ…!」
言葉を紡ごうにも今まで感じたことのない刺激に邪魔されて口が回らない。
ゼロスはそんなリナを恍惚な表情で眺めた。
自分に陵辱される屈辱と、今にも落ちてしまいそうな理性を必死に繋ぎとめる精神力と、彼女の感情はやはりとても美味しかった。
彼女は強い。それが故に生み出される精神(こころ)もまた強烈にゼロスを魅了した。
数多の魔族が彼女を殺そうとし、しかし果たされなかったその理由が分かる気がした。
殺すにはあまりに勿体無いと、心のどこかで思ってしまうのかもしれない。
リナは気がおかしくなりそうだった。
触手は身体中を這い回っているのに、わざと敏感な所を避けているのである。
さすがはゼロスの分身というべきか、この上なく意地悪な所はそっくりだった。
ただでさえ媚薬で全身の熱は高まっているのに、本当に欲しいところには何の刺激も与えられず、
腕、背中、首筋、鎖骨、下腹部、内股、足首と触手は焦らすように優しく撫でていく。
「…っ…はぁ…っ…っん…」
高まった感覚と共にもたらされた貪欲な渇きが、じわじわとリナを侵食する。
そんな自分を見据えるゼロスの視線もリナを一層嬲った。
こんな生ゴミ魔族に身体を弄ばれて、好きなだけ視姦されて、でもそんな屈辱すら上回ってもっともっと強い刺激を求める自分の身体がここにある。
「…っ、ぜろ…す…っ」
微かにその名を呼んだ。
「…とりな、さいよ…っ…これっ…!」
最後の理性を振り絞って、男に命令した。
ゼロスはただ笑むだけである。
「…なんで…っ…なんで、こんなっ…っぁ…!」
その時、触手の一本がリナの胸の頂きを掠めた。
しかしすぐにまた離れていく。
なぶり殺し――そんな言葉が頭に浮かんだ。
「…おね、がぃ…っ、やめて…っ」
最早限界だった。
イくことはおろか敏感なところは触っても貰えず、じわじわと微妙な刺激を全身にくまなく与えられるだけ。
リナの瞳には涙が浮かんでいた。
突然ゼロスが立ち上がった。同時に触手の動きも止まる。
リナに近付いて、その瞳から零れる涙を舌で舐め取った。
意外なゼロスの行動に、リナは目を見開いてその顔をまじまじと見た。
ゼロスの指がリナの秘所へと伸びる。
そこは既に溢れた蜜と媚薬が混ざって、ぽたぽたと床を濡らしていた。
指が一本、ゆっくりと埋め込まれていく。
「…っぁああ!」
ぐちゅ、くちゅ、にちゃ、と淫らな音を立てて泉がかき回された。
やっと与えられた刺激にリナは高い嬌声を上げる。
「ああっ…んっ、…っは、ぁあんっ!!」
「…イきたいですか?リナさん」
ゼロスは囁いた。
リナは目を瞑って首を左右に振った。
本当は今すぐにもイきたい。でも、その問いに首を縦に振ったら、自分の中の何かが崩れる。そんな気がした。
「リナさんもなかなか強情ですね」
ゼロスは微かに苦笑した。
それでこそ嬲(なぶ)りがいがあると、内心で舌なめずりをする。
指を引き抜いて、泉へその唇を寄せた。
ペロリとその滴る蜜を舌で掬い取った。
「…っぁあ…!!」
「ほら、こんなに蜜を溢れさせて…本当は辛いのでしょう?」
「…っんん!…っは、…っぁあん…っ!」
花びらを一枚一枚丁寧に舌でなぞった。
舌が熟れた真珠のそばを掠めて、リナはびくんと身を奮わせる。
そのまま真珠の周りを行ったり来たりして、その蜜を舐め取っていく。
(――もう…むり…っ!)
「…おねがぃ…っ、イかせて…っ!」
ついにリナはゼロスの前に屈服した。
その時、ゼロスはその顔に禍禍しいほどの笑みを刻んだ。
そして泉の入り口へ唇を寄せ、音を立てて蜜をすする。
「…っっああああ!!」
リナの口から悲鳴のような喘ぎが上がる。
ひとしきり啜ってから、絶え間なく蜜が滴る泉に舌を差し込んでかき回す。
「は…っ、ぁあっ、…っんんっ」
散々味わってから唇を離し、代わりに指を二本差し込んだ。
蜜をかき出すように何度も抜き差しさせる。
「っん…っは、ぁ…っ…ああ!」
リナの身体がびくびくと震える。焦らされ続けた身体はゼロスの刺激を歓喜で受け止めた。
「っああ、…もう、っ…!!」
ゼロスはリナの熟れた真珠にその唇で吸い付いた。
「……っっああああああああ!!」
その途端、たまりにたまった快感が、リナの身体を嵐のように駆け抜けていった。
四肢は突っ張り、背を弓なりに反らして全身を震わせる。
泉はきゅうきゅうとゼロスの指を締め付け、ぽたぽたと蜜をこぼす。
ゼロスは指を引き抜き、そこについた蜜を愛おしそうに舐めた。
「…はぁ…っ、っはぁ…」
ようやく嵐が終わり、ぐったりと全身の力が抜ける。
肩を上下させて激しく息を吐くリナを見やって、ゼロスは冷淡に言い放った。
「まだまだ、これからですよリナさん――」
リナの本当の絶望は、まだ始まったばかりである。
<つづく>