露天風呂でのこと。
辺境のせいか、他に客が全くいない、良く言えば隠れ家的な
悪く言えば寂れた宿に一泊することに決めた一行は、
久しぶりに大きなお風呂に入れるということで
ここ最近の疲れを癒そうと、夕方の早い時間からお湯に浸かって寛いでいた。
女風呂には、屋外で、雪が降っている中入浴するというシチュエーションにはしゃぎ、
他愛ない話をしながら身体を癒している2名の姿。
パシャパシャと水面で腕を遊ばせていたアメリアは、
ふと気付いたようにじっとリナの方を見つめて言った。
「リナのおっぱいって、ちっちゃいけど綺麗な形してるよね。
肌理も細かくて色白だし…ちょっと触ってもいい?」
「はっ!?何それ…ってか、喧嘩売ってんの…?」
軽くこめかみがヒクつく。纏う怒気に怖気付くことなく、見た目に反してものすごくタフで
出たとこ勝負なお姫サマは泳ぐように近づいてくると制止する間もなく、ふにっと胸を掴んだ。
「ひゃぅ!?」
「あ、柔らかくて気持ちいー。」
「…っ」
反射的にカオスワーズを口ずさもうとすると、さっともう片方の空いている手でリナの口の端を引っ張る。
「ふぁふぃひゅんほょ」
「分かってたけど、躊躇無く攻撃呪文唱えるんだもの…自己防衛よ」
「ふぁっ」
くにっと胸の頂を指で押さえつけられて、中途半端に開いた口から情けない声が出る。
「かわいいなぁ」
胸も、これくらいのサイズの方が手にちゃんと収まるしちょうど良い、と思ったけど言うのは控えておこう。
さすがにこれ以上サイズのことに触れると、上手く怒りの矛先を野党なんかに向けさせる事ができなくなるかも知れない。
「もっ、アメリア!離してってば。恥ずかしいじゃない」
最後の方は赤面しながら、力無く言うものだから、それが可愛いのだという事に本人は気付いてないのだろうか、
という疑問が頭をもたげたりしたが、これ以上何か言ったり、やったりするのはやめておくことにした。
仕切りがあるとは言え、露天風呂の男女の距離はそう離れていない。
あちらの2人も自制心やモラルはあるものの、同行の、恐らく好意を持っているであろう女性の艶っぽい声が
聞こえたら、まあ、何があるとも限らない。
「えへへ、ごめんね。ほら、こういう女同士の触れ合いってちょっと憧れたりしなかった?」
「うぅ…ぜ、絶対、馬鹿にしてるでしょ、あんた」
「あ、リナ」
山の向こう、ゆっくりと翳る空を指差し、反対方向を見たリナに後ろから抱きつき、
つまり、彼女の背中に胸を押し付けた状態で、耳元に囁く。
「雪、降ってるのに星が見える。空が近いね」
「くっ…背中越しに感じる存在感が憎いっ…」
「そんな事言うのはこのお口かなー」
「ふみぅ、うう…」
「あっ、流れ星!」
「ふあ、…ぷは。ほんとだ」
「ほしゅ、ほしゅ、ほしゅ」
「…あたしたち何言ってんの?」
「やだなぁ、流れ星って言ったら3回願い事を言うって決まりがあるじゃない」