そこは、他に何も見えるものがない漆黒の闇の中だった。  
何も見えないことがもどかしく、あたしはまばたきを繰り返す。  
 
そのうちに遠くにぼんやりと淡い光が見えはじめた。  
そこにはガウリイがいた。青くぼんやりと光を放つクリスタルの中に彼がいる。  
それを見たあたしの喉の奥から悲鳴に近い声がきしみ出る。  
 
あれは冥王フィブリゾのクリスタルだ! 彼は閉じ込められている。  
早く助けなければ“今度こそ”殺されてしまうかもしれない。  
慌てて駆け寄ろうとするのだが、じわりとクリスタルの根元から  
闇がにじみでてくるのが見えた。そしてその闇に侵食されるように、  
みるみるうちにクリスタルに亀裂が入っていく。  
 
―――― いやっ!  
手を伸ばそうにも暗闇の中あたしの腕は届かず、呪文で助けたくともなぜか声が出ない。  
そして、遂に亀裂は内部にまで達しクリスタルが割れ――  
 
「ガウリイッ!!」  
叫んであたしはベッドの上で跳ね起きた。ゆ、夢……?   
とんでもなく嫌な夢だった。いまだ心臓が早鐘を打っていて、落ち着くために  
あたしはベッドの傍らにある水差しからコップに水を注ぎいれ、一息に仰いだ。  
 
…………ぬるい。  
あたしは、はふ、とため息をつく。さしておいしくなかったのは確かだが、  
人心地ついてようやくあたしの中に現実感とゆーものが戻ってきた。  
 
ここはごくごく平凡な宿屋の一室である。ガウリイが、昔話のお姫さまかっ!  
てな具合に冥王フィブリゾにさらわれたのがついこの間のこと。  
色々あって何とか彼を助け出し今は彼と、失った光の剣にかわる剣を探すために  
改めて旅をする、と決めたばかりなのである。  
 
どこかに行くアテもないながら、これからの事を前向きに考えていたものの  
やはりあたしの『せんさいなしんけー』は、あの出来事を引きずっているようなのだ。  
 
それにしても、毎日こんな夢で飛び起きるのはごめんなんですけど……。  
あたしはこめかみに手をあててうなった。だがすぐに思いなおして、  
頭をぷるぷるっと振って勢い良くベッドから立ち上がった。  
なにが原因にしろ、うじうじぐだぐだ悩むのは性にあわないのだ。  
 
夢見が悪かったくらいで、いちいちこんなナーバスになっては女がすたるとゆーものっ!  
悪いことは忘れるに限るっ。……第一ガウリイは今はもうあたしの傍に、いやいや  
隣の部屋にいるのだから。  
 
えいやっとばかりに部屋の窓を開けると、ひんやりした風が顔をなぜていき、  
あたしの頭を冷やしてくれる。窓の桟に肘をかけて、ぼんやり月なんかを眺めながら  
乙女ごっこなんぞをしていると突然横から声がかかり、あたしは思わず  
びっくりしてそちらへと顔を向けた。  
 
「ようリナ、お前さんこんな夜中にどうしたんだ?」  
のーてんきな声でそうあたしに声をかけたのはガウリイだった。  
彼もまた、窓を開けて外を眺めていたようである。とんでもなく悪い夢をみた後に  
その夢に出ていた張本人を目の前にして、あたしは思わずうろたえていた。  
 
「な、な、な、なにって……あんたこそ何してるのよ!!」  
思わず怒鳴るような声をあげたのは、動揺していたからだ。  
だが彼は別に気にしたような様子もなく頭をかいて、笑みを含んだ表情で言った。  
「別に……ただなんか寝付けなかったから」  
 
「あなたにも寝付けないことなんかあるんだ」  
そう言うと、あたしの言葉にガウリイはジト目を返してきた。  
「お前さんにだけは言われたくない」  
どぉいう意味だそれは。まぁ軽く受け流したままま話題を変える。  
 
「ところでガウリイ。次に行く場所だけどさぁ、どうする?」  
「どこでもいいんじゃないか」  
そう即答されてあたしは声を張り上げた。  
「……あのねぇっ、ちょっとはあなたも考えてよ。あなたの剣を探しに行くんだから」  
「つっても別にアテがあるわけでもなし。どうしたもんか分からんだけに  
色んなとこまわってみるしかねーだろう?」  
ガウリイにしては筋の通った理屈を返されて思わずあたしは  
むーっと唇をへの字に曲げた。ガウリイのくせに生意気な!  
 
「ま、気長にやろうぜ」  
そう言って彼はあたしに向かって満面の笑みを浮かべた。  
何だかムキになるのも馬鹿らしくてあたしはため息をつく。  
しばらくそうしていたのだが、ふいにガウリイはやや目線を落とすと  
ぽつりという風に言った。  
 
「……それに、お前さんと一緒なら退屈しなさそうだしな。  
別にずーっと一生このままぶらぶら気の向くまま旅しててもいいかな、なんて……」  
 
その、思わぬ言葉にあたしは大きく目を見開いた。  
と、突然なにを言い出すのだこの男わ……。  
同時にあたしはとある事に気がついて余計に慌てるはめになってしまった。  
 
……この男、こうして改めてみていると整った顔をしているのだ。  
 
まぁ、最初に会った頃から客観的にそう感じてはいたのだが、何というか  
ガウリイだし、というのもあってあまり気にしたことはなかったのだが、  
彼がさらわれて、そして久しぶりに二人きりなものだから、おまけにおまけに  
このクラゲ男が突然変なことを言い出すものだから、どうにもその事が  
頭に浮かんでしまったのである。  
 
涼しい風が頬をなでる。風がでてきていた。ガウリイの金髪が揺れている。  
整った横顔は見慣れたもので、陽にやけた肌の色も何だか無性に懐かしかった。  
 
どうにも感傷的なのはやっぱり夢見が悪かったせいなのか。  
じっと見ていたせいか、彼は何だとばかりにあたしの顔を見返してきた。  
 
あの時、色んな偶然が起きなければあたしの傍にガウリイは、そして  
ガウリイの傍にあたしはいなかったのだ……。  
 
それが妙に強く感じられて、不意になにやら不思議な感情が湧いてきた。  
あたしはこくり、と喉をならして口を開いた。  
 
「……あのさガウリイ、そっちの部屋いってもいい?」  
その時の彼の顔。あっけにとられた人間の見本、といった風であった。  
返事をするという行為を忘れているようにも見える。  
そのため、あたしは同じことをもう一度聞いた。  
 
「ねえ、行ったらだめ?」  
「別に、いいけど……」  
ガウリイはみょーな顔をしながら、ぼそっと言った。  
 
******  
 
ノックをするとすぐに扉が開き、あたしはガウリイの部屋へと入った。  
「よお」  
なぜかガウリイは硬い表情で声をかけてきた。  
「あのさ、あたし前にもこんな風にあなたの部屋押しかけたよね」  
「……会ってすぐの時だろ」  
 
「その時あなた、あたしがベッドで寝ればいいって言ってるのに  
あたしに付き合って床で寝たわよね」  
「女の子ひとり床で寝させるわけにはいかないからな……」  
何を照れているのかガウリイは妙に歯切れが悪かった。  
 
「リナ、あのな……」  
「あたし今日は椅子で寝るから。ホントに構わずあなたベッドで寝てていいからね」  
気を遣って(あたしだって気を遣うのだ)そう言ったにも関わらずガウリイは  
ものすごく変な顔をした。渋い顔というか変なものを食べた時の顔というか。  
「……お前さん、どういうつもりでオレの部屋来た?」  
脱力したようなため息をつきながらガウリイはあたしに問う。  
 
「別に。たいした意味なんかないわよ」  
あたしは極力声に余計な感情をこめないように努力をした。  
どうして、と問われれば理由はないこともないのだが、言葉で説明できるほど  
自分の中で明確なものにはなっていなかった。あえて言うならば……もう少し  
近くでガウリイの顔を見ていたかったというか。  
だけどもこんな事、口に出して言えるはずもなかった。  
 
「ほらっ、そんな事はいいから早くベッドで寝てなさいよっ。  
別にあんたが寝てる間に変なことなんかしやしないから!」  
そう怒鳴ったあたしであったが、唐突にぐいっと腕を引かれて思わずぎょっとした。  
 
どかっとまともにベッドに引き倒されて目を白黒とさせる。い、痛いんですけど……。  
するとガウリイがあたしの傍に腰掛けて、わずかにベッドがきしむ音が耳に入った。  
 
「お前さん、無防備だよ。夜中にのこのこ男の部屋に来たりして。  
こっちはすっかり、そういうつもりなのかと思うじゃないか」  
彼は苦笑しているようだった。  
 
「だ、だって……今まで、あんた全然そんなそぶり見せなかったじゃない!  
それが突然……こんな風にされても……」  
 
あたしはすっかりうろたえてしまい、声が裏返ってしまっていた。  
ガウリイはあたしのその様子を見て、かすかに微笑んだ。  
「今まではこういう機会がなかったからな」  
そしてガウリイはそっと手をのばしてきて、びくっと震えてしまったあたしの頬に触れる。  
「……オレは、前からリナのこと好きだった」  
落ち着いた声の響き。頬に感じる骨ばった指の感触。  
それらが一つになったようにあたしは感じていた。  
 
「最初はもちろん保護者として、っていうつもりだったんだけどな」  
頬に触れていた手がさがり、肩を押してくる。あたしの体がベッドへと  
更に強く押し付けられた。彼の髪が落ちて来て周りが金色になったかと思うと  
目の前に彼の顔がせまってきた。  
吐息を感じた刹那、あたしの唇は言葉を喋るでもなく、呪文を唱えるでもなく、  
別の用途に使われたのを感じた。  
「う……」  
湿った舌同士が触れ合う感覚は、こういうことに慣れないあたしにとって奇妙なだけであった。  
 
「ん……、うっ」  
「……いやか?」  
反応を確かめるようにしていたガウリイが、あたしから唇を離すとぽつりと聞いた。  
「い、嫌っていうか……」  
あたしは転がされているのが嫌でガウリイの下から抜け出して身を起こすと、  
自分の体を抱えるようにして座った。さりげなく彼から距離をとる。  
「なんというか……ひゃっ」  
この状況についてどう言ったものか考えている所に、急にガウリイが腕を  
掴んできたのであたしはとんでもない声をあげてしまった。  
意図せず顔が熱くなるのを自覚して、あたしはガウリイに顔を見られないよう  
うつむいた。するとガウリイはベッドの端に手をかけて立ち上がり、あたしに背を向けた。  
 
「無理強いするつもりはない。……悪かったな」  
そして壁にかけた剣を掴んで腰に下げる。あたしは慌てて声をかけた。  
「ちょっと、どこいくの……?」  
「どこって……別に。ちょっとその辺まわって帰ってくる」  
低い声でそう答え、そのまま遠ざかっていこうとする。  
その背中を見ていたら、あたしは反射的に手を動かしてしまった。  
「うぉ」  
がしっと彼の服の背中をつかんだために、その反動でその場でガウリイは軽くつんのめった。  
 
「何すんだよ」  
「……別に、ここにいればいいじゃない」  
すると、彼はがくりと肩を落として額に手をあてた。そして深く息を吐く。  
「あーのーなぁ……この状態で傍にいたらお前に手を出さないでいられる自信が全くないんだよ」  
「ここ出てってどうする気よ?」  
「そんなの適当に自分でどうにかしてくるに決まってるだろ。  
……こういう事を、言わせるなよ」  
 
むっとしたように言われてあたしは一瞬腹をたてそうになる。  
あたしだって気持ちの整理はつけたいわい。  
だけど今この瞬間、あたしはガウリイに傍にいてほしかったのだ。  
ただそれが彼との一線を越えることになることとは、あたしの中では  
結びつかなかったのだが。まさかガウリイがそんな風に思っていたとは  
考えてもみなかったのだ。どうしたものか迷いに迷い、あたしはうつむいて  
唇を軽くかみしめた。しばらく頭がスパークするんじゃないかと思うほど  
悩んでから、ようやくガウリイに向かって顔を上げる。  
 
「とりあえず待って。あんたの部屋に来た理由、話すから。  
だから……ここ座って」  
自分の傍を手で示すと、彼はためらうようにしばし佇んでいたが  
あたしがもう一度その場所をばんばんと叩くと諦めたようにそこに腰かけた。  
 
「で、理由って……なんだよ」  
「あんたがちゃんとここに居るのか確かめたくて」  
「何だって?」  
いぶかしそうにガウリイは聞き返した。そりゃそうだろう。  
突然そんな事を言われたらあたしだってはぁ? と言いたくなる。  
 
あたしは彼の隣で何とか説明しようとした。  
いつもは彼がうんざりするほど口が回るのに、どうにも今夜は上手くいかない。  
「変な夢……見たのよ。あの戦いのときの夢。あんたはフィブリゾのクリスタルの中で、  
あたしは間に合わなくて……。あの時は皆に助けてもらってあんたを救い出せたけど、  
まかり間違ってたら……。そう思ってたら急になんか変な気分になっちゃって。  
だからちゃんと、あんたがあたしの目の届く範囲にいるのか確認したくなったというか……。  
それだけのつもりだったのよ。あんたの顔見れば何となく安心できるかな、と思って」  
 
言いながらあたしは、自分の言っていることが「こわい夢を見たからガウリイの  
ところにきた」という類の事に聞こえると気がつき、途端に恥ずかしくなってきた。  
それだけではなかったはずなのだが、言葉でまとめるとそういうことになってしまう。  
それに、顔を見てどうしようと思ったのか、なんで顔を見て安心しようと思ったのか。  
自分ですらよく測りきれない気持ちを説明するとなると、圧倒的に言葉が足りなかった。  
あたしは次に続ける言葉を失って、ガウリイの顔をただ見上げてしまう。  
ガウリイは妙に神妙な顔をしていたかと思うと、不意に口を利いた。  
「オレが死んだと思ったからか……」  
「え?」  
「いや夢の中でだけど、……オレが死んだと思って、それで……。  
そうか……そうなのか……」  
何度かそんな事をガウリイは呟く。  
「そうよ……」  
思い出しただけなのに、あたしは身を硬くしてしまう。  
もうあんな思いは二度としたくない。そう思っていると握った手が震えた。  
 
ガウリイにそれを悟られぬよう、もう片方の手で震えを押さえつける。  
だが震えは止まらずどうしようかと思っていると、横から伸びた大きな手が  
あたしの両の手を力強く握って震えを止めた。  
「オレはここにいる。心配なら、確かめてみればいい」  
「なによ、それ……」  
想定外な言葉にあたしが戸惑っていると、ガウリイはあたしの手を掴み、  
自分の顔に触れさせた。彼の頬はあたたかく、血が通っていることを  
あたしに感じさせた。青白く冷たいクリスタルではない。  
生きている。ガウリイはちゃんと、生きて、あたしの傍に――  
「オレはいるだろ。ちゃんとここに」  
 
ガウリイにそう言われた瞬間、あたしは自分自身に驚くはめになった。  
不意にぼろっと涙がこぼれたのだ。  
「……なによ、これ……やだ…」  
 
なぜ涙がでるのか自分でも訳が分からなかった。  
きっと夢見が悪かったせいで情緒不安定になっているのだ。  
ガウリイが温かかった事というだけで、何故こんなにほっとして、  
次から次へと涙があふれてくるのか、全くもって意味不明だった。  
しかも泣くあたしをガウリイはじっと見つめており、居心地の悪さは最悪レベルだ。  
とりあえず涙をぬぐおうとしたが、ガウリイはあたしの手を掴んだまま  
離してくれなかった。  
「ちょっと……っ!」  
 
抗議の声をあげようとした瞬間、あたしの唇はガウリイの唇にふさがれて  
さえぎられてしまった。ぎゅっと目をつむってしまって涙がまた頬に  
ぼろぼろとこぼれ落ちた。すると彼の唇はそのまま頬をたどり、  
あたしの涙をぬぐっていった。  
「……死んでたらこんな事もできないし。生きてるって分かって、安心できただろ」  
言葉もないとはこの事だった。ガウリイはにやにやと笑ってるし  
あたしは怒りたいのに、怒るべきなのに、なんだか怒る気になれない。  
 
なんだかもう脱力したようになっていると、彼はもう一度あたしの唇に軽く触れた。  
「いやか?」  
「……わかんないわよ……」  
聞かれても分からないものは分からない。考えても思考はただ空回転をするのみだ。  
あたしは急にやけっぱちになったような勢いで叫んだ。  
「もうこれ以上は実際にしてみてもらわないと、わからないから  
とりあえずやってみようじゃないの!!」  
 
するとなぜかガウリイは急に噴きだした。肩が震えるほど笑っている。  
 
「お前さんって、ホント……いつだって、お前さんらしいのな」  
「どういう意味よ!」  
「好きだってことだよ」  
そう言うとガウリイはあたしを引き寄せた。息がつまるほど  
強く抱きすくめられ、あたしは小さく声をあげた。  
「オレは、ここにいる。それでもってお前さんもここにいる。  
こうやってればそれは分かるだろうけど、オレはそれだけじゃ足りない」  
彼の手はあたしの服の上着を脱がしにかかっていた。  
「……ねぇ、ちょっと…」  
「傍にいたら手を出さずにいる自信がないと言っただろ。  
なのに引き止めたりして。あんな話して。今さら嫌だなんだ言われても  
オレはもうやめないから」  
 
ガウリイはあたしの服を脱がしていき、自分の服も脱ぐとあたしの体を押し倒した。  
「やっ、やだ……っ!」  
下着を取り払われ胸をあらわにされて、あたしは恥ずかしさから慌てて隠したが  
ガウリイはあたしの手首をつかむと、強引に引きはがし頭の上で押さえつけた。  
……目が、こわいんですけど。  
顔をひきつらせたまま、そんな事を考えていると不意にガウリイが何事か小さくつぶやいた。  
 
「リナ……」  
 
それはあたしの名前だった。  
分かった瞬間、胸が熱くなる。この気持ちは何なのだろう。  
苦しくて、切なくて、何か無性に泣きたくなると同時に  
笑い出したくなるような変な気持ちだ。あたしは彼の目をじっと見つめた。  
彼の目にはこれまで一度も見たことのない熱がある。  
ガウリイはこんな顔をしていただろうか。  
ガウリイの瞳は、こんな色をしていただろうか――  
 
彼の手が伸びてきてあたしの胸をまさぐった。  
「あ……」  
胸の頂をこねくりまわされ、そこに甘い痺れが走る。  
その痺れの余韻も覚めぬままに、彼の指と手のひらはあたしの体から  
更に何かを引き出そうと弧を描きやわらかく触れていった。  
くすぐったさが先にたつものの、ところどころでびくりと体が  
反応してしまうのは意志の力では止められなかった。  
「う……ん、んっ」  
震えるたび、鼻にかかったような声がでてしまいこれは本当にあたしが  
出している声だろうかと自分の中の冷静な部分が不思議に思う。  
そして彼の指はあたしの、他の誰にも触れさせたことなどない場所に  
到達したのだった。  
「あっ……ふ、ああっ」  
指とはいえ中に挿入され、あたしは声をあげてしまう。  
「リナ、もう少し力を抜いたほうがいい」  
「そ……んなこと言ったって……ああっ、あんっ」  
だけれども、彼の指で自分の中を広げられながらキスを受けていると  
少しずつ快感があたしの体を浸していき、理性の境目をあいまいにしていく。  
 
「もう……そろそろオレも限界、……入れる、から」  
「ん」  
ガウリイはゆっくりとあたしの中へと入ってきた。指よりもずっと大きな質量を  
受け入れるのは入り口を広げられ、慣らされていたとはいえかなりきつかった。  
「う……、い……」  
正直激しく痛くてあたしは眉を寄せながらうめき声をあげてしまう。  
 
「大丈夫か?」  
そう問われあたしは思わず涙目でガウリイをきっと見る。  
「だいじょうぶ、じゃ、ないっ! ……いたいっ!!」  
言ってしまった。でも痛いものは痛いんだから仕方がない。  
前にも言ったかもしれないが、あたしは痛みに対してこらえ性がないのだ。  
まぁいばれる事じゃないけれど。  
ガウリイは笑いながらぽんぽんとあたしの頭をなでた。  
「じゃあゆっくり動くから。もう少し我慢してくれな」  
まだ笑っている。こいつ……他人事だと思って。  
 
「ん……んっ」  
彼の腰が動き、更にあたしを深く穿つ。すべてがおさまったらしく  
ガウリイは息を吐いて一度あたしの額に口付けた。  
そのままゆっくりと動いて引き抜かれ、そしてまた奥まで彼を感じさせられる。  
「う〜〜……あっ、んんっ」  
最初こそ異物感がすごかったが、段々と変な気分になってきた。  
穿たれた場所が痺れたように熱くなっていき、全身が過敏になってくる。  
そしてなんというか段々と音が……。なんだか耳障りに響くのがどうにも  
いやらしい感じがして、あたしはすごく気になってしまう。  
それを気にしていると、不意に耳に触れられてあたしは身を震わせた。  
「あっ、」  
「……よくなってきたか?」  
「ば、ばか……っ、そんなこと、聞かないでよ」  
ほっぺたが熱い。こっ恥ずかしくてあたしはガウリイの肩を押した。  
 
すると彼は笑ってあたしの手を取り、自分の首にまわさせた。  
「こういう時はこうするんだよ」  
……この男、みょーに手慣れてないか?  
だが、あたしが冷静にものを考えられたのはそこまでだった。  
ガウリイが腰の動きを早くしてあたしを更に深く突きはじめたからだ。  
「やっ、ちょっ……あっ、んん……ぁ」  
彼の首にまわした腕に力が入り、自然と彼の体を自分の方へ引き寄せる形になる。  
「ガウリイ……っ! ああ、んっ。もっと……もっと、ガウリイぃ……」  
意味のない言葉が喉からこぼれでて、あたしはガウリイにしがみついた。  
「リナ、リナ……」  
あたしの名をなんども呼びながらガウリイはあたしの中を貫いていく。  
その表情はとても真剣で、切実であった。  
「出す、……から……」  
かすれた声でそう言われたが、その頃のあたしにはろくに返事もできなかった。  
何度かうなずくが、また快楽の波に流されそうになってあたしは吐息をかみしめる。  
だが穿たれたその場所に脈動と、熱いものが放たれたのをはっきりと感じ、あたしは  
体の芯が震えるほどの波を迎え、そのまま脱力したのだった。  
 
******  
彼は事がすんだあと、あたしを抱き寄せると何も言わずに微笑んだ。  
なんだかそれはとても満ち足りた笑顔で、何だかあたしまで  
嬉しくなってしまったのだった。色んな所が痛いし、ものすごく体力を使ったので  
温かいガウリイの腕の中にいると、すぐに眠気がやってきた。  
 
彼の胸に額をすりつけるようにしてむにゃむにゃとしていると  
子どもか、という声がして笑う気配を感じたが、もう反論する気力もなかった。  
今はただ、眠い。  
 
そしてその後はもう、あたしは夢を見なかった。  
 
******  
 
窓から入る朝日に照らされてあたしはぱちりと目をあけた。  
全身がみょーにけだるくて、寝起きは最悪だ。なんだかのどは渇いているし。  
水差しを探して手を伸ばし、ふと窓の所によっかかりながら既に水を  
飲んでいるガウリイを見てあたしは混乱した。  
「あれ……」  
「あ、起きたか」  
 
なんでガウリイがここに……? と寝ぼけた頭で考えていたが、ふと  
自分が裸であることに気付き、とたん急激に昨夜のことがぐぁーっと  
脳裏を駆け巡った。うわあああああっ、あたし、あたしっガウリイと!!  
頬に両手をあててしばし狼狽するあたし。  
 
「良かったよ、覚えてるみたいで。一瞬何も覚えてないような顔するからあせった」  
こくこくと喉をならしてコップを傾けていたガウリイはのんきな声でそんなことを言う。  
「な、な、な……」  
「はいよ」  
新しく注がれたコップの水を渡され、それをあたしは一息に飲みきる。  
 
「なんであんたはそんなに落ち着いてるのよ!!」  
「いやあ」  
「照れるな!!」  
あたしは思わずベッドの上で頭を抱えてしまう。昨夜の事を  
思い出すだけで顔から火が出そうだ。彼の前で泣いたり、キスされたり  
そしてそのままとか……。あああああっ!!  
悶絶しているあたしを見てガウリイは不安そうな顔をした。  
 
「………後悔、してるのか?」  
「べ、別にそーゆーんじゃないわよっ。  
あんたに全部見られたことに色々思うところがあるだけ」  
ずいぶんと深刻めいた声でガウリイが聞くので、あたしは慌てて  
否定する。すると彼は安心したように息を吐いた。  
 
「ああ、そんな事。だいじょうぶだって。  
胸ならオレは別に絶壁でも気にしないし」  
 
ぷちっ  
胸のことに言及され、あたしの額に青筋がたつ。  
ガウリイはそれに気がつかないのか妙に上機嫌で手をわきわきさせた。  
「まぁ、それに胸のサイズならこれからまた変わるんじゃないかな」  
 
あたしは口の中で小さく≪混沌の言語(カオス・ワーズ)≫をつぶやき始める。  
ガウリイはまだ色々と言っていたが、あたしがさっきからぶつぶつ唱えているのが  
何らかの呪文だという事に気がついたのか、途端慌て始めた。  
「お、おい、リナ! ちょっとまて。落ち着けって」  
だが遅い。呪文はもう完成している。  
あたしは胸の前で両手を合わせると、高らかに唱えあげた。  
 
<<――火炎球(ファイヤーボール)!!>>  
 
怒りに任せたあたしの呪文は部屋の壁を吹っ飛ばし、その後宿屋のおっちゃんに  
こってり絞られることになったのでした。  
 
おしまい。  
 
 
 

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