美女と『おうぢさま』2  
 
 
セイルーン・シティの中心部。  
王宮近くにあるそれほど大きな邸ではないがつくりのしっかりとした一軒の家の中で、中年の男が二人テーブルを挟んで向かい合っていた。  
一人は髪に白いものこそ混じってはいるが、年はそれほどいっているようではなく精々四十半ばから後半くらい。  
年齢に比例した風格の持ち主で、なかなか整った容姿を持つナイスミドルな中年男性である。  
名はグレイ。此処セイルーンで神官と魔法医を掛け持ちでやっている人物だ。  
片やもう一人の男は暑っくるしーくらいの大柄で、ドワーフをそのまま大きくしたようながっちりとした体格。  
年は同じく四十代ではあるものの、繋がった濃い眉毛に剛毛としか呼べないヒゲを蓄えたその迫力ある顔から、見方によっては更に年がいっているようにも感じられる。  
アイパッチなど着けたら非常に似合いそうな、誰から見ても野盗の親分にしか見えないだろう男性である。  
しかしこの男性、断じて野盗などではない。此処セイルーン王国国王の息子であり長男にして第一王位継承権を持つ歴とした王子様なのだ。  
名をフィリオネル=エル=ディ=セイルーンといって、事実上次期国王になられるやんごとなき御方なのである。  
実はフィリオネル。グレイに相談事があって公務の合間を縫って王宮を抜け出してきたのだ。  
突然の訪問に驚いたグレイは最近フィリオネルとよく出かけている、自身の姪に当たるシルフィールを呼ぼうとした。  
シルフィールは先日の一件以来フィリオネルの話をよくするようになり、また休日などに彼が訪れた際は自分から話しかけ接するようになったのだ。  
少し前までなら彼が王子と呼ばれるたび露骨に顔を引きつらせていた彼女がだ。  
つまり相当な苦手意識を持っていたはずなのに、それが綺麗さっぱりなくなっている。  
このことは不思議に思いながらも良い変化だと考えていたグレイは、てっきり姪に用事があって来られたのかと思い口に出したのだが――  
 
「いやいや、今日はおぬしに用があってな」  
 
と止められ、態々呼んでもらってシルフィール自身の時間を邪魔したくないとやんわり断られた。  
 
「そうですか。して、私に御用とは?」  
「うむ。実はちと困っておるのだ」  
「お困りですか?」  
「うむ、実はな……見合いを申し込まれてしまったのだ」  
 
先日侍従長がセイルーンの隣国にあたる沿岸諸国連合構成国の一国から、外交官を通じて見合い話を持ってきたというのだ。  
しかしフィリオネル自身に見合いを受けるつもりはなく断ろうとしたところ、事もあろうに既に先方へと返事を出した後だったらしく、断れなくなってしまったという。  
今更断るなどとなれば理由を聞かれるのは目に見えている。場合によっては外交関係を危うくしかねない。  
 
「それに政治の臭いがな」  
 
フィリオネルの言葉に“政略結婚”という文字が頭に浮かんだグレイ。  
ヘルマスター(冥王)という大魔族が滅び、この地域を封鎖していた魔族の結界が事実上消滅したことで、結界の外に広がる世界とも行き来できるようになり、  
数々の新しい国が発見された現在でも、このセイルーンが大国と呼ばれる国々の中でも上位に位置する国であることにかわりはない。  
つまり、そこと縁戚関係を結ぶことができれば、例え小国であってもかなりの影響力を行使できるようになる。  
 
「会ったこともないわしと『結婚を前提としたお見合い』などと言われてはそれしか考えられん。かといって一度受けてしまったものを理由もなく断れば我が国の信用にも関わる」  
「それでは、殿下はどのような手を打たれようと?」  
「うむ。明確な理由を作ってやればよいと思ってな。仮にわしには心に決めた人がいて内緒にしておいたから誰も知らなかった、とでも言えば断る口実にもなるであろう」  
 
そうすれば全てはフィリオネルの交際を知らなかったが故の手違いとなり、伝えてなかったフィリオネル個人の責任となる。  
 
「し、しかしそれでは殿下が、」  
「よいのだ。こうすれば誰にも迷惑はかからん。いや、おぬしと最低でも後一人に直接迷惑をかけることになってしまうかな」  
「と、申されますと?」  
「そのな、グレイよ。申し訳ないがわしと年が近い、言うなれば我らと同年代の女性を一人、紹介してほしいのだ」  
 
つまりその女性に自分の婚約者ないし恋人という芝居に付き合ってもらえないか?ということだ。  
 
「無論このようなやっかいごとに巻き込む以上、おぬしにも、相手役の女性にも、それなりの礼はさせてもらう」  
 
そう言ってフィリオネルは頭を下げた。  
 
「も、勿体ない…、顔を上げてください殿下、」  
「そ、それでは」  
「はい、承りました」  
「おお! 引き受けてくれるのか!?」  
「ただ、ご期待に添えない可能性もありますので、そのときは御容赦ください」  
「わかっておる。元々上手くいってもいかなくても、誠心誠意、真心込めて相手を説得し理解してもらうつもりではあった。言葉を尽くせば必ずやわかってもらえるはずだ」  
 
がっはっはと笑うフィリオネルの真心込めて説得という言葉を聞いたとき、グレイの顔は引きつっていたのだが、平和とはなんぞやと語り出した彼が気付くことはなかった……。  
 
 
一通り平和について語り終えたフィリオネルが「公務が残っている故これ以上長居するわけにもいかん」と言って帰った後しばらくして部屋にいたシルフィールが顔をのぞかせた。  
 
「あの、騒がしかったようですけど誰か来られていたんですか?」  
「ん? ああ、先ほどまで殿下がお越しになられててね」  
「えっ、殿下がっ!」   
 
ついさっきまでフィリオネルが来ていたというのを知った彼女は強い口調で非難する。  
 
「どうしてわたくしを呼んでくれなかったんですか!?」  
「い、いや呼ぼうとしたのだが、殿下がシルフィールの個人的な時間を邪魔したくない仰られたのだ。それに用事は私にあってね」  
 
グレイはむくれるシルフィールにフィリオネルの相談内容を話した。  
本来第三者に話すような内容ではないのだが、少しでもなだめようと話しても問題ない部分を掻い摘んでだ。  
 
「殿下が……お見合い…?」  
「ああ、殿下自身は断ろうと思っているらしいのだが」  
 
フィリオネルが見合いをすると聞いた瞬間、シルフィールの表情が曇る。  
だが続いて断るつもりだと聞くと今度はホッと安堵の息をつく。  
表情に出ていたように彼女の心はここ最近目まぐるしく変化していた。  
切っ掛けは間違いなくあのフィリオネルが襲われた事件のあった日だ。  
 
『わしの命一つでシルフィール殿が助かるのなら、寧ろ本望なくらいだ』  
 
あのときの言葉と守るように抱き締めてくれた彼の大きな身体と匂い。そしてお姫様だっこ。  
それらが頭から離れない。  
まるでフィリオネルという存在が自分の心に住み着き、刻み込まれたかのように……。  
ここしばらくの間ずっと悩んでいたが、未だその理由がわからないでいた。  
ただフィリオネルの側にいると嬉しくなり、心が温かくなるのだ。  
故に時間さえ合えば会いたくなる。一緒に連れ立って歩いていると心が弾む。  
家に訪れて食事を共にするときなど自然と彼の隣に座ってしまい、叔父のグレイや叔母のマリアを驚かせていた。  
 
「それで実は婚約者が居るから見合いは無理だとすることにしたのだよ」  
「そう、だったんですか……」  
「ただ相手役がね。私や殿下の同年代となると大体は所帯持ちだ。それが問題か」  
 
グレイは神官そして魔法医をしているだけあって交友関係が広く顔も利くのだが、それでも同年代の女性で独身というのは心当たりがない。  
いくらなんでも結婚している女性を連れて行くわけにもいかないだろう。  
 
「患者さんの知り合いにいないか聞いてみようと思うが、どこまで力になれるか……」  
 
無論平和主義者たる彼のことだから最悪『真心込めて誠心誠意説得』することで諦めてもらうように持って行くかも知れないが。  
今回のことはセイルーン側に非があるため、いつもと同じようにいくとは思えない。  
そう悩む叔父に対し、ただ聞くだけだったシルフィールが口を開いた。  
 
「あの、グレイおじさん」  
「なんだね?」  
「その、殿下の婚約者というのはどうしても同年代の女性でなければいけないのですか?」  
「殿下御自身が仰られたことだからな。それに、その方が無理ないと思わないか?」  
「……」  
 
同年代の方が無理がない。  
そう言いきる叔父に彼女は小さく呟いた。  
 
……そんなこと……ない……  
 
それは自分でも何を言ったか聞き取れず、何を言ったか覚えてもいない無意識下で出た言葉だった……  
 
*  
 
「殿下、沿岸諸国連合○○国からの使者が目通りを願っておりますが」  
「わかっておる」  
 
見合いの正式な日取りを決めるために使者が来訪したのはフィリオネルがグレイに相談した日から僅か三日後。  
グレイの家は王宮のすぐ近くにあるので、相手側に気取られることなく素早く連絡を取ることができたのだが、さすがに三日で協力者を見つけることはできなかったらしく、  
「力になれず申し訳ありません」との返事が返ってきただけであった。  
 
「やむを得んか」  
 
この急場では他に打つ手はなく、彼は正面から向かい合うことにした。  
しかしこれで良かったのかも知れないとも思う。  
下手な小細工をするよりも寧ろ誠心誠意話し合うことこそ彼の真骨頂なのだから。  
 
「しかし、相手のメンツも考えると難しいかもしれんな」  
 
珍しく勢いのないフィリオネルは椅子から立ち上がると、執務室を出て急ぎ足で面会室に向かった。  
 
 
*  
 
 
「フィリオネル王子はまだですかな?」  
「は、はい、もう間もなくかと……」  
 
面会室のソファでは沿岸諸国連合○○国の大使が侍従長に愚痴をこぼしながら苛立たしげにふんぞり返っていた。  
その理由は今回の見合い話をなかったことにしてくれと伝えられていたからだ。  
 
(冗談ではない! この見合いの後縁談へと持って行き、セイルーンの力を利用して国内を掌握する手筈だったというのに!)  
 
実はこの大使。外交官と大臣職を兼ねているのをいいことに、この見合いを計画して国の乗っ取りを画策していたのだ。  
乗っ取ると言っても表向きは一大臣として振る舞い、現国王や次期国王を自分の意のままに操るという傀儡政治を考えていた。  
もし意に沿わないことをされたり、事がばれたりしたら「自分はセイルーンとの関係を取り持った。自分のバックにはセイルーンがいる」とでも言って黙らせ、逆らえないようにして好き勝手しようとしていたのだ。  
それなのになかったことにと言われて、ハイそうですかと引き下がるなどあり得ない。  
だから「納得のいく説明を」「セイルーンは理由もなしに約束を破るような汚い国だと考えざるを得ませんな」と迫って国家間の問題にしようとしている。  
そこには義に熱いセイルーンという部分も計算に入れている。  
尤も彼自身は「国と国の間にあるのは利用するかされるかだ」という、ある意味政治家らしい考えを持っているため、セイルーンのことを「力持ちのバカ」としか考えていないのだが……  
 
「お待たせして申し訳ない。ちと所用が重なっておったのだ」  
 
これからどうしようかと考えていた大使の元にフィリオネルがやってきて対面する形でソファに座ると開口一番そう言った。  
 
「いいえ、フィリオネル殿下。お忙しいところを失礼したのは此方の方ですので……早速ですが」  
 
おきまりの社交辞令を述べた大使は愛想笑いを消すと早速詰問の姿勢に入った。  
 
「先達てお受けいただきました我が国の姫とのお見合いの件でございますが、お断りなされるとはどういうことですかな?」  
「うむ。それなのだがな、わし自身元より見合いなど考えてもおらなんだのだ」  
「ほーう。では、見合いする気もおなりになられないというのに、このお話をお受けになられたと?」  
「それについては返す言葉もない。明らかに我が方のミスだ」  
 
フィリオネルは説明する。見合いを断るのは自分にその意志がないこと。話が出たとき手違いで返事を出してしまったことなど、隠すことなく話した――が「それでは理由になりませんな」と一蹴されてしまった。  
 
「殿下、これは外交の話。国と国の話でございます。殿下も一国の王子ならばそこはおわかりかと」  
「当然わかっておる。だがな、その気もないというのに見合いをする方が不適切であるとは思わんのか? わしにとってというより其方の姫に対して」  
「ぐっ! しかしことはセイルーンの信義に関わってきますぞ!」  
 
そう、一般的な庶民であればその気がなかった聞いてなかったごめんなさいで済む場合もあるのだが、二国間の王族となればそれでは済まない。  
相手がフィリオネルと同じような人間であれば「という訳なのだ。申し訳ない」「うむ。誰にでも間違いはある」で終わっていたかも知れないが、彼のような人間は間違いなく少数派。  
 
「むうう」  
 
双方に非はない若しくは相手に非があるというなら彼がいつもしている話し合いが通じる。  
そして自身の己が信念をぶつけわかり合うことができる。  
だが、此方に非がある以上誠心誠意謝罪したところで相手が受け入れないとなればどうすることもできないだろう。  
まさか信念を押し通すために『平和主義者クラッシュ』を放つわけにはいかない。  
それでは自身の嫌いなただの暴力だ。  
 
「さあどうなのですフィリオネル殿下! 納得のいくご説明を! これでは外交の場でセイルーンは信義を軽んじている国だと言わざるおえませんぞ!」  
 
どうするんだと身を乗り出して迫る華奢な大使に、どう返答すべきか悩むごつい身体のフィリオネル。  
それを見守る侍従長はただオロオロするだけで入り込むことはできない。  
 
(むう、絶体絶命というのはこういうことなのかもしれんな〜)  
 
と、落ち着いているのかいないのか、よくわからない感じでどうしようかと考えていたフィリオネルの耳に、この場に相応しくないソプラノボイスが聞こえたのは正にそのときだった。  
 
「待ってください!」  
 
その澄んだ声に部屋の中の三人が同時に入り口を見ると、そこには薄紫色の法衣と深緑のマントを身にまとった、膝裏にかかるくらいの長い黒髪が印象的な美少女が息を切らせて立っていた。  
 
「シルフィール殿……!」  
「殿下……」  
 
その美少女シルフィールは、大使や侍従長には目もくれずフィリオネルに歩み寄ると、ソファに座る彼の身体に有無を言わさず抱き着いた。  
 
「シ、シルフィール殿!?」  
 
これには大抵のことには動じないフィリオネルもさすがに驚きを隠せない。  
こんな場面で出会すことなどないはずの彼女がいきなり現れたと思えば、自分目掛けて抱き着いてきたのだから。  
大使も侍従長も目を丸くして固まっている。  
 
「酷いです殿下! わたくしという者がありながらお見合いをなされるなどと!」  
「「はあッ!?」」  
 
大使と侍従長、二人の声がハモる。何が何だか訳が分からないといった風情だ。  
それはそうだろう。誰が四十がらみでヒゲ面のむさいおっさんと、若くて清楚な美人巫女さんがそのような関係にあるなどと考えるだろうか?  
かくいうフィリオネルも同じで目を丸くしていたのだが、顔を上げた彼女がウインクをしたことで理解した。  
その目が語っている。話を合わせろと。  
 
「う、うむ、すまん……シルフィール殿に迷惑がかかってしまうかもしれんと思い黙って居ったのだ。無論断るつもりだ」  
 
辻褄を合わせるためにそう言ったフィリオネルは、抱き着く彼女の長い黒髪に指を絡めて撫で梳いていく。  
みだりに女人の髪を触るものではないのだが、これくらいはしておかないと大使の目を誤魔化すことはできないだろうと考えたからだ。  
一方でシルフィールは髪を撫でられながら頬を赤らめ、彼の胸に顔を埋めている。  
叔父のグレイに連絡が来たとき偶然にも聞いていた彼女は脇目もふらずに飛び出して、王宮に入れてもらうとフィリオネルが居るであろう面会室に飛び込んできたのだ。  
城に簡単に入ることができたのは、最近フィリオネルと連れ立っているのを方々で目撃されていたことで門番が「殿下の親しい御友人なら大丈夫だろう」と判断して通したためである。  
来たはいいがどうすればいいのか考えてなかった彼女は、とにかく自分がフィリオネルの婚約者だと勢いのままに抱き着いたという訳である。  
後は彼に目配せをして合わせてもらえばいけると。  
フィリオネルは説明する。この人はシルフィール=ネルス=ラーダ殿といって自分の婚約者なのだと。  
彼女は一般家庭の方なので、あまり騒ぎを大きくしたくないが故に誰にも伝えていなかった。頃合いを見て発表しようと思っていた。  
そんなときにこの話が来てしまい、不幸な行き違いが重なってしまったのだと。  
 
「と、いうわけなのだ大使殿。わしはシルフィール殿を愛しておる」  
 
『愛している』と言ったとき、彼女の顔が熟れたトマトのように真っ赤になっていたのだが、幸か不幸かフィリオネルは気付かない。  
 
「彼女を裏切るわけにはいかんのだ」  
 
だからこの見合いを受けるわけにはいかない。お引き取りを。  
そう告げる彼に対し、今まであんぐりと口を開けて呆けていた大使は唇を引きつらせて返答を始めた。  
但し、それはフィリオネルが望むものとは違い、彼の返事次第で余計に話を拗らせてしまうものだった。  
 
「な、なるほど、そういうことでしたか、それならば致し方在りますまい。しかし、本当に婚約者なので?」  
 
そう言う大使は口にこそ出さないが  
(ウソつくんじゃねーッ! お前みたいなヒゲ面のおっさんとこんな美人が婚約者であってたまるか!!)  
もしこれを口にしていたところで誰も非難しないであろう。  
それこそ散々嫌みを言っていた相手である侍従長と「意見が一致しましたな」と握手していたかもしれない。  
 
「無論だ」  
「そうですか。ならばその証拠を見せていただけますかな?」  
「なに!?」  
「婚約者同士であるという証拠です。外交の場ではたまにあるのですよこういった小芝居が。ああ、何も大国セイルーンの第一王子ともあろう御方がそのようなことをなされるはずはないと確信しておりますが、念のためにです」  
 
そうすれば国への言い訳もできますからなあと言う大使に「む、むう」と唸るフィリオネル。  
もし偽りであるとバレれば本当に立場が悪くなる。かといってシルフィールを責める訳にもいかないのだ。  
彼女は彼の力になれればとこうして駆けつけてくれたのだから。  
フィリオネルがふとシルフィールを見ると、先ほどまでとは違って不安げな表情を浮かべていた。  
このままではせっかくの彼女の思いまで無駄にしてしまう。そう考えた彼は申し訳ないと思いつつも意を決して言葉を紡ぐ。  
 
「証拠を見せればよいのだな?」  
「はい」  
「わかった。ならばお見せしよう……」  
 
フィリオネルは小さな声で呟いた。  
『すまんシルフィール殿』  
 
「へ?」  
 
シルフィールが間の抜けた声を上げた瞬間髪を撫でていた彼の手にグッと力が入り、彼女を身体ごと引き寄せると――  
 
「んうッ!?」  
 
その瑞々しい唇を豪快なヒゲを蓄えた唇によってふさいだのだ。  
 
「んンンン――ッッ!?」  
 
突然行われたフィリオネルからの口付けに、シルフィールの瞳が大きく見開かれる。  
何が起こったかわからないといった感じだ。  
だが、確かに自分の唇はふさがれている。何に? 感じるのは湿り気を帯びたぬめった感触……これはなにか?  
自分の目の前にいる人物のなにかだ。  
アップになった厳ついヒゲ面の男の顔、ともすれば精悍な顔つきにも見える顔は目と目が僅か数センチの距離。  
鼻は僅かに触れ蓄えられたヒゲに至っては彼女の鼻や頬、口周りにちくちくした感触を与えていた。  
 
(くち…びる…ッ、で、殿下の……わた…くしの……唇…が…ッ)  
 
思考が混乱する中、自身とフィリオネルの唇が重なり合っていることを認識させられたシルフィールは、突然の事態にその身を硬直させながらも彼の口付けをただ受け入れるだけで抵抗しない。  
 
そしてフィリオネルの方もこうしてキスをしているからこそ間近にある彼女の目が驚愕に見開かれているのがよくわかったが、彼は心を鬼にして触れ合わされたままの唇を啄んでいく。  
仕方がないとはいえこのようなことをしてしまい非常に心苦しかった。  
止めてしまえば彼女に望まぬ接吻を強要し続けることもなくなるし、直ぐさま謝ることもできる。  
謝ったくらいで許されることではないが、この“悪いこと”を続けるのは彼の正義の道に反している。  
これ以上娘のように可愛いシルフィールを、信頼できる友人である彼女を傷つけたくない。  
だが現実は非常だ。中途半端に止めてしまえば大使の疑念を晴らすことができないため彼は止めるに止められないのだ。  
 
「ふっ…んうっ……っ」  
 
そうやってフィリオネルの心に罪悪感が蓄積していく一方で、シルフィールは全く違う反応を見せていた。  
唇を啄みながら粘膜同士の触れ合いを楽しむかのように行われる口付けに、驚愕に固まっていたシルフィールの身体から力が抜けていく。  
暖かな彼の唇が自分の唇を貪る感触が酷く心地いいものに感じ、拒否しようとか逃げようとかいう気にならない。  
彼の想いと彼女の想いが逆方向に向かいながらもキスは続く。  
そんな口付けが一分と少しに渡って行われた後、フィリオネルはシルフィールの唇を舌でこじ開けた。  
 
「ンンっ!?」  
 
そして彼女の口内へ舌を差し入れるとまずは下の歯茎をなぞり、続けて上の歯茎、口の中全体、最後に彼女の舌に絡ませて慈しむように味わう。  
フィリオネルの舌に自らの舌を絡め取られているシルフィールは力の入らない手を動かして、彼が彼女の身体を抱き締めるのと同じように彼の広い背中に腕を回して抱き着いた。  
 
「んっ…あむっ……んちゅ…ちゅっ……ちゅる」  
 
そして彼女自身も自ら唇を押しつけ粘膜の暖かさを求める。  
 
「ンンっ、はむっ、ちゅっ、ちゅぱっ……」  
 
絡み合う舌を伝ってフィリオネルの唾液がシルフィールの口の中へ、シルフィールの唾液がフィリオネルの口の中へ次々と流れ込み、混ざり合っていく。  
混ざり合った唾液はそのまま喉の奥へと入っていき、食堂を通って胃の中へ。  
互いの身体を優しく抱き締め合い続く、深くそして熱い口付けは始まってから三分……いや五分は続いていただろう。  
顔と唇の角度を変えながら幾度も幾度も繰り返される四十がらみのヒゲ面のおっちゃんと、長い黒髪の美人巫女さんの口付けはある種背徳的な光景にも見えた。  
当初は呆気にとられてそれを見ていた侍従長(男)がエッチなものさえ感じさせる二人の口付けにゴクンと生唾を飲み込んで見入り始めた頃、一人状況に取り残されていた大使の肩がぷるぷると震えだした。  
それを横目でちらりと見たフィリオネルは大使の様子に気付き、シルフィールの唇からゆっくりと離れ解放した。  
 
「んふぅ……」  
 
ゆっくり離れる彼と彼女の唇の間を混ざり合った二人の唾液が伸び、架け橋となって繋いでいる。  
粘り気があるため中々切れずに糸を引いて伸び続ける。  
シルフィールはその糸の先にある精悍さを持つ顔をジッと見つめていた。  
彼女の頬は上気して紅く染まり、目は熱に浮かされ潤みきっている。  
名残惜しげに伸びていた唾液は切れてしまったが、二人は互いの背に腕を回して未だ抱き合ったままだ。  
 
(殿下……)  
 
ドキドキと早鐘を打つ心音が耳に聞こえてきそうであった。  
 
*  
 
「わっはっは、見せつけてしまったかのうシルフィール殿」  
「は…はい……」  
 
小芝居を再開させるフィリオネル。  
彼の様子だけを見れば茶番に感じただろう小芝居も、彼の胸に寄りかかったまま抱き着くシルフィールの熱に浮かされた表情を見れば『婚約者同士』というのが本当なのだという十二分の説得力を持たせるものになっていた。  
 
「さて大使殿、今ごらんになられた通りなのだが……これでもまだ納得いきませんかな?」  
「い、いえ、た、大変仲がお宜しいようで、言葉もございません……」  
「それでは見合いの件、なかったということで宜しいか?」  
「は、はい、わかりました……」  
(く、くそ、ふざけるな! こ、この私をコケにしやがって!)  
 
だが『婚約者』というのが本当だとわかったところで、納得いかないのが大使だ。  
なにせこれで国の乗っ取りが全ておじゃんになってしまったのだから。  
 
(こ、こんな、こんな品位の欠片もないような強烈なヤツに私の計画が……!)  
 
それ故、原因を作った(と勝手に決めつけているだけ)フィリオネルを逆恨みしてしまった大使は、即興で思い付いたことを実行しようと考えた。  
 
「フィリオネル殿下」  
「なにかな?」  
「実はこの話とは別に内密の御相談がありまして、この後お時間があれば付いてきていただくわけにはいかないでしょうか?」  
「ふむ。まあ此度のことは此方に非がある故、都合は付けさせてもらうが」  
「では後ほど……くれぐれもお一人で願います」  
「うむわかった」  
 
そう言い残して大使が出て行くと同時にフィリオネルはシルフィールの身体を離すととても綺麗な、これぞ完璧なお辞儀というくらいに頭を下げて謝罪した。  
 
「申し訳ないシルフィール殿!事もあろうにおぬしの唇を承諾もなく奪うなどと許されぬ、卑劣な行為をしてしまった!」  
 
とんでもないことをしてしまった。如何様な罰も受けようと捲し立てるように言うフィリオネルにシルフィールは慌てて彼の肩を掴むと、グッと力を入れて押し上げた。  
 
「シルフィール殿…?」  
「あ、あの、わたくし本当に気にしていません……お、お役に立てて光栄なくらいですッ、」  
 
にっこりと優しげな笑顔を浮かべるシルフィールの頬は未だ紅くキスされたことを気にしていたが、それは嫌だったからではない。  
寧ろとても嬉しかった。未だわからないのだが、フィリオネルになにかをされて嫌な気になることはないのだ。  
特に今の口付けは……。  
それを彼にわかってもらいたいと必死に言い含める。  
 
「ふ〜む、そうか。しかし詫びを」  
「いりません! そんなこと言う殿下はキライです!」  
 
何かある度に詫びだ謝罪だ、そんのものはいらないのだ。  
ただ今まで通り側にいてほしいだけなのにわかってくれないフィリオネル。  
 
あーでもないこーでもないと続けるむさいおっさんと美人巫女さんの遣り取りを見ていた侍従長はため息を付きながら――  
 
「痴話げんかはお部屋で願います」  
 
一言呟き応接室で何をやっているんだと二人共叩き出した。  
 
 
その後、話は平行線をたどったもののフィリオネルの「それでは今度温泉にでも招待しよう」というところで決着した。  
その際顔を真っ赤にして「お、温泉… 殿下と温泉…」と恥ずかしそうにしていたのだが、そうかと思えば一転目を細めて  
「またお詫びですか?」と迫ったシルフィールが異様に怖く感じたフィリオネルはただ行きたいだけと言って、実際は詫びの部分もあったが誤魔化すのだった。  
 
 
*  
 
 
シルフィールを家まで送り届けたフィリオネルは、大使との約束通り指定された場所に来ていた。  
そこはセイルーン郊外にある人気のない森の中だ。  
 
「お待ちしておりましたよフィリオネル殿下」  
 
鬱蒼と茂る木々の奥から件の大使は姿を見せた。  
 
「そこに居られたか。いや〜このような森の中だと聞いたので場所を間違えたかと思ってしまったわい」  
 
脳天気に笑うフィリオネルに大使は表の顔を捨て、邪悪な笑みを浮かべるとなにやら呪文を唱え始める。  
周りの木々がざわめき、地面に魔方陣が描かれていく。  
 
「こ、これはッ!」  
「殿下、いやさフィリオネル! 貴様には我が野望の生贄となってもらおう! いでよ我が友レッサーデーモンベルロッグ!!」  
 
大使が叫ぶと魔方陣が一層の輝きを放ち、その中心から頭部に大きな角を二本持った三メートルを超える巨体を誇る悪魔のような獣が姿を現した。  
大使にベルロッグと呼ばれたこの巨大な魔物はレッサーデーモンといって、最下級とはいえ本来人間には太刀打ちできない魔族である。  
そこそこの実力を持つ魔道士でも苦戦することがあるというのに、碌に魔法も使えない者では話にならない。  
 
「ふはははッ、驚きましたかな?」  
「ぬううう〜ッ、このような化け物を呼び出すとは、おぬしなにを考えておる!」  
「簡単です。殿下にはここで死んでいただく、それだけですよ」  
 
大使は語る。  
曰く今回の見合いはセイルーンと関係を持つためのもの。  
「縁談をとりまとめた自分にはセイルーンがバックについている」と言って、自国を裏から支配するつもりであったこと。  
それをフィリオネルに邪魔され(思い込んでるだけ)破綻したこと。  
ならばと彼を郊外に誘い出し、復讐も兼ねて殺害したのちレッサーデーモンには帰ってもらって「襲われていた王子を助けようと化け物を倒したが手遅れだった」と宣伝することにしたというのだ。  
 
「王子を助けようと果敢に戦った私は英雄となり、地位も名誉も約束される! という寸法です。そういうわけで我が野望の礎となってください」  
 
彼が手を動かすと今まで立っているだけだったレッサーデーモンが動き始めた。  
ゆるりゆるりと、フィリオネルの方に歩いてくる。  
 
「恐怖で声も出ませんか?」  
 
わはははと勝ち誇り、微動だにしない彼を嘲笑する大使――だったが。  
 
「おのれッ! もはや勘弁ならーん!!」  
 
突如声を張り上げるフィリオネル。  
 
「己が贅をつくすという、ただそれだけのために自国の民や王、姫君まで利用し、更には我がセイルーンすらも利用しようとしたあげくに失敗したとなればこのような化け物の力を借りようなどとはッ!  
 如何にわしが平和主義者で暴力が嫌いとはいえもはや許せぬッ! 成敗してくれるからそこに直れいッ!」  
 
一気に捲し立て、怒りを露わにした平和主義者フィリオネルは、恐ろしいデーモンに向かって駆け出すと――  
 
「平和主義者クラァァァーッッシュ!!」  
 
と叫んでデーモンの懐に飛び込み、その太くたくましい腕を力の限り振りかぶって強力なパンチを繰り出した。  
 
『ガァァアアッッ!』  
 
そのパンチは少々の打撃など物ともしないはずのレッサーデーモンの骨をまるで陶器のようにたやすく打ち砕いた。  
 
「んなアホなァァァ!」  
 
自分が思い描いた結果とはまるで違う光景に悲鳴を上げる大使。  
当たり前だ。どこの世界に武器も装備していない素手でレッサーデーモンの肋骨を砕いたりできる人間がいるというのか?  
それは既に人間ではない。  
混乱をよそにフィリオネルは助走を付けて跳び蹴りを放つ。  
 
「人畜無害キィィィーック!!」  
 
強烈な蹴りが突き刺さったデーモンの身体が勢いよく後ろに吹っ飛び、斜線上に居た大使の身体に激突。  
大使を巻き込みながら背後の大木に激突したデーモンは事切れ、押しつぶされた大使の身体はトマトをつぶしたように赤い物やピンク色の物などをまき散らしてぺしゃんこになっていた。  
その様子を目にしたフィリオネルは  
 
「愚かな、悔い改めずに自決するとは……」  
 
などと言い実に残念だと呟くのだった……  
 
 
*  
 
 
その日の夜。  
シルフィールは久しぶりに子供の頃の夢を見ていた。  
その夢は彼女が父エルクに怒られ、泣きながら家を飛び出して帰れなくなったときのものだった。  
 
「お父さま〜、お父さま〜、」  
 
ひっくひっくとしゃくり上げながらこの場に居ない父を呼ぶシルフィール。  
もう町は夕暮れ時で、あと30分もすれば日が落ち真っ暗になるだろう。  
一人取り残される寂しさに涙をこぼして泣き続ける彼女の滲む視界に、大きな手が差し伸べられたのはそのときだった。  
 
「お父さま〜ッ」  
 
父の身体に泣いて抱き着いたシルフィールは、頭を撫でる父の手の温もりに次第に涙が引いていく。  
そして父におんぶされて共に家路についた。  
 
オレンジ色の西日の中、ふと気がつけば今まで子供だった自分の身体が大人になっていた。  
服も当然子供の頃着ていた可愛らしい物ではなく、薄紫色の法衣と深緑のマント。  
そして気付く。父の背中はこんなに大きかっただろうか?  
 
「お父さま…?」  
 
呼びかけるシルフィールの声に振り向いた顔は父ではなかった。  
ヒゲを蓄えているところは父と同じなのだが綺麗に整えられた父のヒゲに対して、振り向いた男性のは豪快な伸びっぱなしのヒゲだったのだ。  
風貌も優しげな父とは違い、一言で言えば厳つく怖い。  
だが、そんな外見にもかかわらずとても暖かな目をしている。  
 
「もうすぐつくからな」  
 
声も酷いだみ声だ。だけどその声がとても優しい。  
この人は誰なのだろう?  
知らないおじさんだというのに、自分はこの人を好ましく思っている。  
さっきまで自分と居た父はどこへ?  
シルフィールが西日の差す方向、オレンジ色の光を振り返ると――――そこに父は立っていた。  
父は此方を見て微笑みながら手を振っている。  
彼女が手を振り替えすと父は一層笑みを深めて自分たちを見送っている。  
自分と、自分をおぶっているおじさんを。  
 
「おじさま」  
「んっ?」  
「おじさまはお父さまですか?」  
 
変なことを聞いている。自分でもそう思う。  
だが父のようでいて、それでいて父とは違う暖かさを持ったこのおじさんのことをどうしても知りたかった。  
 
「わはは、わしにはもう二人の娘がおる。だが、お嬢ちゃんが望むのなら父になってもかまわんぞ?」  
 
そう言って笑うおじさんの言葉はとても嬉しく思えたし、魅力的にも感じた。  
だが――  
その魅力的な言葉に返事をすることはなかった。  
自分の父は、あのオレンジ色の暖かな光の中にいる父だけ。  
その代わりは誰にもできないし、求めてはいけない。  
その代わりに別の質問をしてみた。  
 
「おじさんにはお嫁さん……いますか?」  
「居る……というよりも居った。今はもうゆっくり眠っておるよ……」  
 
おじさんはそう言って少し寂しげに微笑んだけど、やはり優しく温かい。  
昔は居たけど今はもう居ないというおじさんに、彼女は思い切って聞いてみた。  
 
「それじゃ……わたしがお嫁さんになってもいいですか?」  
 
するとおじさんは先ほどとは違って明るく豪快に笑う。  
彼女はこの笑い方のほうが好きだ。  
 
「おぬしがか? わはは、これはよい! ずいぶん小さくかわいらしいお嫁さんじゃわい!」  
 
小さいと言われてムッとする。自分は大人になったはずなのにと。  
だが、この人の前では小さいのかも知れない。  
ドワーフをそのまま大きくしたようながっしりした体格に、倍以上も年が離れているこの人にとっては。  
 
「すまんすまん、おぬしは立派な“れでぃ”だ」  
「なんだかバカにされてるような気がします」  
「そうかの?ならばお詫びに」  
「お詫びなんかいりません!」  
 
したことなんてないはずなのに、つい最近したかのような話を変だな?と思ったシルフィールがもう一度後ろを振り返ったとき、そこに父の姿はなかった。  
 
 
翌日、なにか大切な夢を見たはずだというのにすっかり忘れてしまったシルフィールが町を歩いていると、最近仲良くなったヒゲ面で大柄のおっちゃんが酒場の前で女性に話しかけられているのを目にした。  
 
「寄ってってくださいよ〜」  
「いかんいかん。昼間から酒を飲むのはわしの正義に反する」  
「そんなこと仰らずに〜」  
 
客引きの女性は彼の腕に自分の腕を絡めて引っ張っていこうとしている。  
相手が女性であるというのもあって無理に引きはがせないでいる彼の姿は、シルフィールの目から、いや離れた位置にいる者の目からは「入ろうか? どうしようか?」と迷っているようにも見えた。  
それも女性に手を引かれてデレッとしながら。尤もこれは彼女の思い込みなのだが。  
 
「……」  
 
それを見ていたシルフィールは意識してなのかどうか、早歩きでおっちゃんに近づくと――  
 
「なにしてるんですか!?」  
 
と客引きの女性から強引に引っぺがして彼の手を取って引きずっていった。  
 
「シルフィール殿、今日は別に用はないのでは……」  
「なんですかッ!?」  
「い、いや、なんでもないぞ……」  
 
約束はしていないというのに強制的に引っ張っていく彼女の妙な迫力に押されて黙って従うおっちゃんだったが、何故自分に対し怒っているのかわからないため、  
宥めようとしてまた怒らせるという悪循環に陥った散々な一日だった。  
 
 

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