スレイヤーズ  

「───・・・ガウリイ様、いらっしゃいませんか?」  
意を決してノックした扉はしばらくまっても返答はない。  
確かに少し前までこの部屋から物音と話し声が聞こえたというのに、おかしい。  
───まさかなにかあったのではないか。不安がシルフィールの中を駆けめぐる。  
「ガウリイ様・・・開けますよ」  
カチャリ。ノブはなんの抵抗もなく動く、鍵はかかっていない。  
躊躇しながらもシルフィールは部屋の中へと足を進めた。  
「・・・いらっしゃらない・・・」  
ランプの灯りに薄く照らされた部屋はどこまでも生き物の気配はしない。誰もだれもいない部屋。  
「あ・・・」  
もしかして、とシルフィールの中にはある一つの可能性が。  
きっとあの人は彼女と一緒に盗賊いじめというものに行ったのではないか?  
いや、性格にいうと追いかけていったのであろう。食事時、周りの人が噂していた「盗賊のアジト」  
その言葉に彼女の瞳が爛々と輝いたのを、見て取ったあの人はこっそりと顔を顰めていたはず。  
そうか、きっとそれなら大丈夫だ───・・・心配するべきことじゃ、ない。  
一般の人なら大丈夫とも言えないのだが、すっかり毒されてしまったシルフィール、安堵のため息をついた。  

人心地ついて、周りを見回すとベットの上には少し、乱れた後。  
彼女によって妨げられなければ、今頃ここにはあの人が眠っていたのかもしれない。  
そう、あの人が、ここに。さっきまで。  
自覚したとたんシルフィールの心臓は跳ね上がった。  
熱に浮かされるかのように、ベットに腰掛ける。指でなぞるとうっすらと温もりが残っていた。  
本当に、つい、さっきまでいたのだ。あの人が。  
顔が赤らみ、体に熱がこもるのがシルフィール自身にもはっきりとわかった。  
止められない、止まらない。主のいない部屋でなにをするつもりなのか、という理性の叫びは  
どこまでも弱々しい。フラフラと倒れ込むように温もり残るベットにシルフィールはつっぷす。  
今、シルフィールには情欲の炎が宿り、体を支配しようとしていた。  

シーツをたぐり寄せ、その香を嗅ぐ。夢にまでみた香り。ずっとずっとこの香に包まれたかった。  
「ガウリイ様・・・ぁ・・・んっ」  
薄い布地で阻まれた乳房をそのシーツにこすりつけた。尖りだす先端。何度かこすりつけると  
布地の上からでもわかるほど堅くひきしぼられてきて。そこを指できつく摘む。  

この指は決してあの人にはならない。なぜなら、なぜならば、あの人はもう彼女のものだから。  
「・・・っ・・・ぁ・・・がうりぃさま・・・がうりぃさまっ」  
好きだった。愛していた。あの人のものになれるならなんでもしたかった。  
「ぁっ・・・・ふっ・・・うっ」  
いつのまにか涙があふれで、頬を濡らしていく。  
下肢のうずきに導かれるように、シルフィールは手を秘所へともっていく。  
自分でも驚いてしまうほど、そこは濡れそぼっていて。シルフィールは腰をわななかせた。  
シーツに乳房を擦りつけながら、指は秘所を這う。花芯を指の腹で潰すとじわりとあふれ出す蜜。  
「ぁああんっ・・・がうりいさまぁ・・・」  
何度も何度も名前を呼ぶ。愛しい名前をいくら呼んでも、声は帰ってこない。  
だからだろうか、どこまでも切なく悲しく。  
「───あっ・・・んっ・・・がう・・・りぃ・・・さま・・・ごめんな・・・さいっ」  
あふれ出た蜜が、太股をつたい、シーツを汚す。それでも止められなかった。  
指は蜜壺へと侵入し、最奥を目指す。淫らな蜜音が一人の気配しかしない部屋にむなしく響く。  
「ぅっ・・・ぁあ・・・どうしてっ・・・」  
───そう、どうして?どうして私じゃいけなかったのですか?  

必死で聞き出したあの人の好み。  
清楚で大人しめの女性が好みだと言っていた。だから自分は必死でおしとやかを勤めていた。  
───どちらかというと自分もヤンチャで、それは随分苦労したのに  
彼が誉めてくれた、すきだといってくれた黒髪もずっとのばしつづけている。  
胸だって、おおきなほうが好きかもとか言っていたから、自分の胸がふくよかになるにつれ  
それは本当に本当に嬉しかったのだ。次、再会したときあの人はなんて言ってくれるのだろう。  
なんて、くだらなくも楽しいことを考えたりしたいたのに。  
なのに、なのにあの人が好きになったのは全然違う人。  
思いが保護欲から恋にかわるのを間近に見せつけられて───  
「ふぁ・・・っあ・・・ガウリイ様・・・ああああっ」  
その好きだといっていた漆黒の髪は、今は、乱れシーツに広がっている。  
指はせわしなく動く、蜜を掻き出していた。一心不乱に一番自分が感じるトコロを刺激しながら。  
指の数は三本にふえ、脚はだらしなく開かれてしまっている。  
シーツを汚す蜜は大きなシミを作っていた。  
それすらもはやシルフィールをかき立てるものにしかならない。  
「んっ・・・あああっ・・・ガウリイさまぁぁぁっ!」  
名前を呼んだ瞬間に、指は強くシルフィールの蜜壺に潜り込んだ。  
ナニカに浮かされるかのように身を仰け反らせ、涙を流しながら彼女はじけた。  

 

瞼を閉じると優しい大好きなあの人の笑顔。その笑顔は出会った頃のものとは違っていて。  
出会った頃の笑顔は少し、ニセモノくさかった。  
でもそれは彼女に逢って変えられた。そう、自分が彼女によって変えられたように。  
心の底から輝いた笑顔。見てるコッチが照れくさくなるくらい。彼女に向けられた笑顔。  
悔しかった、どうして自分じゃないのかと───でも、同時に嬉しかった。  
やっと見つけることができたのだろう、あの人が長らく求めていたものを。  
「・・・がうりぃさまぁ・・・」  
薄れゆく意識のなか愛しいあの人の名を呟く。  
───明日さよならをしよう  
もとよりそのつもりだった。今夜この部屋を訪れたのは一種の賭のようなもので。  
あの人が自分を受け入れてくれるかどうか知りたかった。  
焦がれている彼女じゃなくても抱いて、欲しかった。  
ほとんど諦めていたけれども。それでも少しは賭けたかった。  
───だから、明日さよならしよう  
そして、今度は自分も探しに行くのだ。  
───自分が輝いてみえる人やモノを。あの人のように。  

「ごめんなさい・・・ガウリイ様・・・」  
淫らな夢想にあの人を使ってしまったことをシルフィールはひどく恥じた。  
だが、その顔は幾分かすっきりしているようにも見え、凛々しくも見えた。  

 

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