見上げれば前方に山脈が見える。
あの山のどこかに、彼女が求めるものあるという。
リナは胸元に伸ばされた大きな手を押し止め、首を振った。
今夜こそ、あそこに行き着かなければならないのだ。
だが。
ガウリイの手は大きい。
その腕に肩を抱かれるだけで、彼女の全身を暖かくくるまれた心地がする。
「リナ」
そして、耳朶を擽る低い声も、身体の奥底に響くようなそれは、耳元で囁かれる度にリナの身体を跳ねさせた。
たった二音。
なのに、そのたった二音だけで、もう身体が熱くなる自分に、リナは泣きそうになる。
宝石の護符を兼ねた耳飾りの着けられた薄い耳たぶを、意味ありげにそっと口づけている金髪の男、彼女の相棒の腕から逃げ出せるものなら逃げ出したい。
だが、逃げまわった後に来るものをその身で知ってしまった今では、その時の記憶はリナの心を竦ませ身体を濡れさせた。
「ガウリイのばか」
つぶやいた彼女の声の殆どは、すでに泣き声だった。
「馬鹿でいいさ、リナが一緒だし」
涙目で見上げる少女に、言外に依存と愛情そして束縛を滲ませ、彼女の全てを支配する男は、喉の奥で嬉しげに笑った。
探求の旅は始まったばかり。
(保守完了!)