<ゼルさん逆襲END>
縋り付かせた躰を起こして、彼の腰の上、トランポリンのように跳ねさせる
と、柔らかな栗色の髪がふわふわさらさらと揺れる。
「っ、さっさと、射精しなさい……よっ」
肉がぶつかる音と、雨の音と、情欲に濡れたリナの声。二人分の喘ぎ。
「…………ッッ……!」
ぐりぐりと臀部を押しつけて、そのまま腰で円を描く。
しつこく射精を促して意地悪するが、ゼルはやっぱり――分かってはいたが
――強情だった。
きつくくちびるを噛み締めて、膣内(なか)にだけは出すまいとしているの
が傍目にも分かるのだ。
射精せと言うリナの言葉にも、彼は鋼の髪を振り乱して抵抗する。
これ以上堪えるのは、無理だ。
「もう……っ、強情、なんだからぁ……っ」
ゼルの意地に付き合って、イくタイミングを逃すのは利口じゃない。
もとより最初から、ゼルの都合など考えていなかったのだ。今更気を遣うこ
ともない。
「し、知らないから、ね……!」
ピストンが激しさと速さを増し、リナの体中が燃えそうに熱くなる。
腰で上体を支えられなくなって躰を少し後ろに倒し、背中側に手を突いた。
リナの太腿も、ベッドのスプリング同様軋みだす。
上体を倒した所為で、自分の秘所に手を伸ばしやすくなった。
片手を伸ばし、中指で陰核をくじる。
「あっ、あ、はぁ・んっ!」
陰核から奔る快感が、角度を付けて擦りあげる陰茎が、リナを絶頂へと放り出した。
光が閃いて、全ての事柄が停止したように感じる。
繋がった場所から、稲妻に貫かれたような衝撃。
イった瞬間、コップをひっくり返したように愛液が噴き出して、ゼルのズボンを汚す。
「んんっ、ああぁっ…あぁぁぁ・んっ……!!」
しなやかな躰が折れそうな程に仰け反り、迸る甘い声は楽器のように、湿っ
た空間を揺らした。
「っは……はぁ……イッちゃった……♪」
がっくりとゼルの上に倒れ込む。思い切り体重を掛けたが、頑丈な彼のこと
だ、重いとか息苦しいとか言う軟弱なことは言わないだろう。言ったところで
退くつもりもないが。
「風牙斬(ブラム・ファング)」
リナの耳許で、ぼそりと紡がれた呪文。
絶頂の余韻に呆けていたリナは、暫く、それが何を意味しているか分からなかった。
理解したのは、耳許で風が唸り、その丸い肩をがっしと掴まれてから。
「…………あ、ら?」
そぉっと顔を上げる。
視線を向けた先、うっすら汗ばんだゼルの表情は、してやったりと言わんばかり。
リナの肩を掴む彼の手首には、縛るときに使ったゼルのマフラー――の、残骸―
―が、なんとも無惨にぶら下がっている。
「随分好き勝手に犯ってくれたじゃないか」
意地の悪そうな微笑みが、いっそ懐かしい。出会った当初はこんな笑い方を
していたっけ、なんて逃避していると、天地があっさりひっくり返る。
「…………やっぱ、怒ってる?」
予想していた事態だが、いざ目の前にこの表情があるとちょっと怖い。
媚びるように上目遣いで見上げると、彼はリナの貌の横に肘を突いて、手首
に絡まる布きれを解きながら、にやりと笑う。
「当たり前だ。
マフラーを破く羽目になったのも、お前さんの所為だからな。弁償して貰うぜ。
………………勿論、躰でな」
ぱっと見はあまり怒っているように見えないが、つい半刻ほど前のリナ同様、
怒りが前面に出ないほど静かに怒っているのだろう。
「俺はまだイッてないんだからな。覚悟しろよ」
そう言って、ゼルは汗とリナの淫蜜で重くなった服を、ようやく脱ぎ捨てる。
無論、リナの中に埋没していたゼルのモノは、とっくに元気を取り戻していた。
「……あ………………v」
胎内でぴくぴくと跳ねるソレの感触が、リナの躰に燻っていた火種を燃え上
がらせる。
ゼルは表情をとろかすリナの表情に小さく笑んで、胸に手を置くと、親指だ
けで円を描くように、鴇色の乳首をこねまわしてきた。
「あ、んっv」
ひくん、とリナの顎が上がる。
岩で出来ているはずのその手は僅かに汗ばんで、人肌よりもざらつく肌に撫
で回されると、堪らない気持ちになってしまう。
「……やらしい声で啼くんだな、お前さん……昼間とは大違いだ」
散々秘所を舐らせた彼の舌が、今度は自分の意志で、リナの首筋をぞろりと
舐め上げる。
「ひゃぁ……んっ」
同時に、彼のペースで始められた腰の動きが、リナの痺れる下肢に焦げるよ
うな悦楽を生み出した。
ごりごりと擦られ、自分でシていたのとはまた違う悦楽が込み上げてくる。
ゼルの背中に腕を回そうとするとその手首を片手で掴まれ、頭の上に押しつ
けられてしまう。
「お前の好きになんて、させると思うか?」
喉の奥で押し殺した笑い声が聞こえる。
「や……意地悪……」
あれだけの事をされて黙っていられるほど、この男は寛容ではない。
その事は、リナも良く知っていた。
意地悪く言葉で、躰で責められ苛められて、リナの躰は被虐に震える。
もっと、苛めて欲しいと。
「お互い様だ」
焦げるような快楽が、体中に波紋を広げる。
それは絶妙な技巧で擦りあげられる膣からなのか、それとも繰り返しノック
される子宮からなのか、あるいは優しく、時に強く揉みしだかれる胸からなの
かも分からない。
めくるめく、とはこんな状態を言うのだろうか。
「っは、あ…………アんっ……あ、あぁ……そこ、キモチイイ……っ!」
五月蠅く軋むスプリングと自分のよがる声が、薄い屋根を叩く雨音に溶けて
合唱する。
こうなることは分かっていたし期待もしていたが、まさかこの朴念仁が、こ
んな床上手だとは予想だにしなかった。
頭の中でちかちかと光がまたたく。体中から新しい汗が噴き出てくる。背中
が熱い。
「っ……ゼ……ルぅ……」
枕の端を指先で掴む。汗ばんだ肌に長い髪が幾筋も貼り付いていたが、それ
に気を向ける余裕も奪われた。
突然、躰が持ち上げられる。
「きゃ……」
乱暴に床の上――正確には、床に蹴落とされたブランケットの上――に落と
された。繋がり合ったままで。