スレイヤーズ  

 その日泊まった街は、年に一度あるか無いかの大雨に晒されていた。  
 激しく鎧戸を叩く雨粒と風と雷鳴が、他の物音を遮断する。普通に話すこと  
の方が難しくて、魔道書を挟んで向かい合うゼルとリナの声も、少しボリュー  
ムが上がっていた。酒を飲みながらだったことも、大声の一因だろうが。  

「…………今日はこの辺にしないか? こう声を張り上げなきゃならないと、  
疲れっちまう」  
 心底疲れましたと言わんばかりのゼルの口調に、同感だわとリナも苦笑した。  

 

 魔術に長け、頭の回転も速い彼と魔道書の解釈や混沌の言語(カオス・ワー  
ズ)について議論するのはとても楽しいのだが、たまにはそれ以外のことも楽  
しみたくなる。  
 ささやかな悪戯心というか、彼への興味がむくむくと湧いてきて、リナはテ  
ーブルに肘を突いて、少し身を乗り出した。  

 

「そうねぇ……じゃあさ、もっと楽しいことしようか?」  
 楽しいこと? とゼルが聞き返すより早く椅子から立ち上がって、テーブル  
越しに彼の唇をかすめ取る。  
 完璧な不意打ちで触れた彼の唇を啄んだ。うっすらと目を開けて彼の顔を伺  
うと、驚いて目を見開く端整な顔立ちが、睫毛のフィルタ越しに見える。  
 ちゅぴ、と軽い音を立てて下唇から離れると、青黒い膚と同じ色した彼のそ  
れがふるりと揺れた。  

「リ…………っ」  
「ね、しよ?」  
 魔道書をテーブルの端に追いやって、今度はリナがその上に座る。  
 実家だったら姉に「行儀が悪い」としばき倒されるのは確実だが、ゼルはこ  
の状況下で他人の行儀をどうこう言うほど、余裕のある男ではない。  
 両手で彼の頬を挟んで、悩ましげにその瞳を覗き込む。深い海の色をした瞳  
が、波立つ様が見えた。  

 石に覆われた頬の奥が、うっすら朱に染まる。  
 欲求は人並みにあっても、怖じ気づいているのか、それとも理性が止めてい  
るのか。女(リナ)から誘いを掛けているにもかかわらず、ゼルは手を伸ばそ  
うとしない。  
 仕方なしに、リナはテーブルの上に座ったままでゼルの頬から手を離し、自  
分のベルトを引き抜いた。  
 しゅる、と滑り抜けたそれを床に放り、胸のチューブトップを抜き取る。上  
着のボタンをふつりふつりと外し始めた頃になって、ようやくゼルが動いた。  
 しかし、それはリナが期待していたモノではなく。  

「っ、待て待て! 何を考えてるんだお前は!」  
 ボタンをはだけるリナの手をゼルが押しとどめたときには、上着の三分の一  
は、既にはだけられていた。  
 ムードを盛り上げようとしていたリナは、それをぶち切られて不快感を露わ  
にする。  
「何って、ここまでしといて分かんないとか言ったら怒るわよ? あなただっ  
て子供じゃないでしょうが」  
 向こうも酒の回った頭にこのシチュエーション。てっぺんまで血が上ってい  
る所為で、只でさえ打てば鳴るよな会話が熱を増す。  

「子供じゃないから困るんだろうが!」  
「子供じゃないからシたいんじゃない!」  
「それが困るんだと言っとろーが! と、とにかく、そーゆーのは自分で処理  
しろ!」  

 

 ぶっつん。  

 リナのこめかみ辺りで、血管が切れたような気がした。  

 

「あっそう」  
 みるみるうちに自分の目がすわっていくのが分かる。多分今鏡を見たら、か  
なり怖い顔をしているだろう。  
 あからさまな怒りの形相よりも、むしろ淡々としているか、笑っている怒り  
の方がよほど怖いのだ。郷里の姉ちゃんのそれと同じく。  

 そんな表情を無意識に浮かべたまま、リナはテーブルからすとんと降り立っ  
て、ゼルの手を掴む。ゼル自身もリナがキレたことを察して、硬直している。  
 その硬い手首をぐいと引くと、ベクトルに従ってゼルの躰が傾いだ。  
 リナに引き寄せられるままに立ち上がった彼を部屋の隅のベッドへ連れて行  
き、思い切りよく突き飛ばす。  

 
 

「わ、っ! お前……っ」  
 顔からベッドに突っ込んだゼルが、流石に怒って半身を起こした。  
 しかし、躰が動かないことに彼は息を呑み、続けるはずだった言葉を呑み込  
んでしまう。  

 ベッドに放り出してすぐ、リナが影縛り(シャドウ・スナップ)でゼルの影  
を縫いつけたのだ。  
 身動きのとれないゼルの口に手早く猿ぐつわを噛ませ、両手と両脚をそれぞ  
れベッドの足に縛りつけて、動きを封じてしまう。  
 全てを終えるとリナはライティングで影縛りを解き、リナは唇の端を吊り上  
げた。  

「お言葉どおり、一人で勝手に処理させて貰うわ」  

 くぐもった声が何事かを抗議するが、呪文を唱えられない今のゼルに、戒め  
を解く術はない。  
 リナはベッドから一歩離れた場所でゆったりと服を脱ぎ、生まれたままの姿  
を晒した。  

 南方の地方に滞在しているせいか、少し色の濃くなった日焼け跡と、白いま  
まの肌のコントラスト。  
 本人も気にしているように小さくはあるが、綺麗な形をした乳房。その上で  
つんと尖る鴇色の先端は乳輪からぷっくりと盛り上がって、スレンダーな躰故  
の色香を引き立てている。  

 するり。  
 ゼルの表情を伺いながら、自分の鎖骨から胸へ掌を滑らせる。  
 ぱんぱんに膨れた先端を軽く摘んで、そこを更に硬く尖らせて見せた。  
 じりじりと焼けつくような快感が、リナの躰に奔る。  

 それまで刺すようだったゼルの視線が、別の色を帯びてリナの肢体にまとわ  
りついてきた。  
「あたし、脱いだら結構スゴいでしょ?」  
 裸体を恥じいるでもなく、リナは手を伸ばし、僅かに膨らみ始めたゼルのソ  
コを、無造作に撫でる。  
「…………っ」  
「あ、硬くなってる……それともゼルのは、もともと硬いのかしら?」  
 ゼルの答えを待たず、彼女は布地越しにゼルのそれをゆっくりと愛撫する。  
 石人形(ロック・ゴーレム)と合成されたんだもんね、という侮辱まがいの  
台詞だけは飲み込んだ。  
 代わりに拓本でも取るかのように、それの形を浮き彫りにしようと執拗にし  
ごく。どうすれば感じてくれるか、と言う、セックスの時に誰もが思い浮かべ  
るであろう配慮も、敢えて無視した。  

 彼に言われたとおり、宣言したとおり、一人で勝手に処理するつもりだから  
だ。  
 ゼル自身を使って。  

 女から誘いを掛けたのに、あんな言い方をされれば腹も立つ。  
 屈辱を倍にして返してやるつもりで、リナはわざとこういう手段を執ったの  
だ。ゼルが後で激怒するのも覚悟の上で。  
 無論、怒り狂ったゼルに陵辱されても、それはそれで彼女を喜ばせるだけ。  
全て、計算の内だ。  

 

(これって、逆レイプよね……)  
 自分勝手な性交は、只のレイプ。  
 生物として、男が力が強いのは当たり前で、それを笠に着て女を辱めるのは  
大嫌いだ。そんなのはただの弱いものいじめ。  

 けれど、それに興奮する気持ちは分かる。  
 今こうして、力でも剣術でも体術でも、魔力容量(キャパシティ)とバリエ  
ーション以外ではありとあらゆる事に敵わないであろう男を組み敷き、辱めて  
いることに、リナはどうしようもなく興奮を覚えているのだから。  

 

 単調ではあるが、確かに与えられる刺激に、ゼルの雄がぴくぴくと反応し、  
鎌首をもたげる。  
 ちらっと彼の顔を見上げると、ゼルもリナの方を見つめていたか、視線がか  
ち合った。  
 しかしゼルのようなプライドの高い男は、立場の逆転した現状がよほど屈辱  
なのだろう。一瞬熱を帯びて絡み合った視線は、彼の方から逸らされる。  

 そんな彼を虐めてやりたくなって――男が女を言葉で責める気持ちが分かる  
気がする――ゼルの胸の上に寝そべって、その耳朶に息を吹きかけた。  
「…………ッッ!」  
 ぞくっ、とゼルの肩が跳ねる。  
(……感じてる……)  
 伸ばした脚、ふくらはぎの辺りが丁度いきり立つ彼のモノに触れて、リナは  
そっと、脚を蠢かせた。  

「…………ゼルのおちんちん、おっきいね……」  
 それだけ言うと、するするとゼルの脚の方へと躰をずらし、はち切れんばか  
りに張りつめた彼のズボンをくつろげる。勢いづいて飛び出したゼルのそれは、  
感触から想像していたよりも立派な物だった。  

「……おいしそう」  
 ちらりとゼルの表情を伺う。  
 好き勝手に蹂躙されて、怒りにたぎった視線がリナへ向けられていたが、彼  
女はその視線を受け流しつつ、そそり立つモノを口に含んだ。  
「ん…………ふ……っ」  
 思い切り口を開けてそれを含んだはいいが、ゼルのモノはリナの口が裂ける  
のではないかと言うくらい太くて、正直驚いた。  
 それでもリナは唇をすぼめて頭を上下させる。顎が外れそうだ。  
「……っ……ぅ」  
 根本まで口に入れてやることは出来なかったが、精一杯喉の奥まで咥え込ん  
で吸い上げる。  
 淡々とした動きの中、時折テクニックを――何処で覚えたかは企業秘密だ―  
―織り交ぜてやると、腹の下でゼルの躰が波打ち、雨音に紛れて押し殺した呻  
きが聞こえた。  

 先端から絶えず溢れてくる先走りを飲み込み、そこに栓をするように舌を押  
しつける。  
 ぬるりとした感触と、どうしようもなくて身悶える彼の表情が楽しい。  
 サイドの髪がぱらりと落ちて、視界が塞がれる。丁度ゼルの顔が見えない。  
 リナはゼルのモノを咥えたままで、鬱陶しげに髪を掻き上げた。  

 クリアになった視界の中、ゼルは機械的に与えられる快感にきつく眉根を寄  
せ、猿ぐつわを噛み締め、手はギリギリと握り拳を作っている。  
 噛まされた布の奥からケダモノの息遣い。  
 喧しいほどの雨音に紛れて漏れ聞こえるそのリズムが、彼の呼吸としては聞  
いたこともないほど早くなってきた。  

 

「ふ……く……っ?!」  
 絶え間なく続けていた口唇奉仕を、リナはわざと、ゼルがイく直前で止めて  
しまう。  
 切なげな眼でリナを見る彼に、彼女は唇を濡らす液体を手の甲で乱暴に拭っ  
て吐き捨てた。  
「誰がイかせてあげるなんて言ったのよ」  
 あまりの言葉に顔をしかめる――イけない辛さもあるのだろうが――ゼルの  
顔に手を伸ばす。首の後ろで結わえていた猿ぐつわを解き、すかさず彼の顔に  
跨った。  

「っ、ぷ……!」  
 ぴったりとゼルの顔に秘所を押しあてる。たぶん口も鼻も塞がれた状態だろ  
う。  
「ほら、舐めてよ。舐めてくんないと、窒息させちゃうぞv」  
 それに生殺しは辛いでしょ? と顔面騎乗させたその部位を、円を描くよう  
に回す。  

 リナに奉仕する以外の手だてがないゼルがおずおずと口を開いたのを感じて、  
少しだけ腰を持ち上げてやった。  
 ぴちゃ、と舌先がリナの入り口に触れる。  
 ゼルのモノを咥えていたときから濡れていたそこを、彼の舌が丹念に愛撫し  
始めた。  
 入り口にあてがった先端を腹側になぞらせ、陰核の下側を探り当ててそこに  
舌を伸ばそうとしている。  
 舌を差し出すのに連れて彼の顎が少し持ち上がり、蜜壺の辺りに顎の先が触  
れた。  
「…………ん、っ」  
 ゼルの顔の、顎や眼の周りに貼り付いた石が蜜に濡れて、リナの秘所全体を  
蹂躙する。  
 乾きを、餓えを癒すかのように、舌の動きが激しさを増す。  
 舐められれば舐められるだけ溢れ出す蜜が、彼の唾液と混じって滴り落ち、  
シーツを濡らした。  
 伸ばされた舌先の、ぎこちない刺激だけでは物足りなくなって、リナは手を  
伸ばしてベッドヘッドにしがみつく。前傾姿勢をとったことで、彼女の陰核が  
ゼルの舌の届く範囲に収まり、彼は夢中になって蜜を啜り、そこを吸い上げた。  

「んっ、あ! ふぁ、あぁ……っンv」  
 陰核の根本をなぞり、先端を舌先が弾く。ざらついた舌苔の感触が堪らない。  
 周りの物音も、階下のざわめきも雨音に洗い流された室内で、リナの喘ぎ声  
と彼女の秘部を舐る音ばかりが大きくなっていく。  
 快楽を煽り立てられ、リナは片手で自分の胸を揉みしだき始める。  
 下から持ち上げるように胸を包み、先端をくりくりと指の腹で擦ると、鴇色  
の頂が僅かに長さを増した。  

「あ、ぁっ……いい……ゼルっ……ん、んんっ!」  
 快感が腰を痺れさせる。湯に浸された温度計の赤いラインが上昇するように、  
リナの限界が近くなってきた。  
 このままイきたくもあったが、どうせならゼルと繋がってイきたい。  
 そう思い、絶頂の瞬間を逸らしたリナは、思いきって膝を立てた。  

 太腿に挟まれたゼルの顔を、ちらりと見下ろす。  
 それまで必死に続けていたのだろう、口の周りのみならず、顔中リナの愛液  
でべとべとだ。  
 突然圧迫感から解放されて、何が起こったのか分からないのだろう、呆けた  
表情で只酸素を貪っていた。  

 ゼルが呆けている隙に自分の位置をずらし、勢いを失うことなくそそりたつ  
ソレの上に膝を立てる。  
 根本を掴み、ゼルの先端とリナの入口を触れさせると、ようやく正気を取り  
戻したゼルが顔を上げた。  
 今にもリナのそこがゼルのモノを咥え込もうとしている光景を見て、ゼルは  
はっとリナの顔を見る。  

 その表情が何だか女の子みたいだ、と小さく笑って、彼女はすとんと腰を落  
とした。  
「いただきまーす」  
「……っ、リナ……っあ!」  
 熱くぬかるんだ内壁にずぶずぶと咥え込まれ、ギリギリで焦らされていたゼル  
のソレが脈打ち、滾ったモノを放出しようとした。  
「駄目よ、本番はまだまだこれからなんだから」  
 しかしリナの指が根本をきつく押さえ、射精することを許さない。  
 ゼルのソレが治まるのを待って、リナはゆっくりと、自分のペースでの律動  
を開始した。  

「ん……やっぱり……本物はいいわね……っ」  
 躰全体を揺らし、内壁を擦られる感触を楽しむ。  
 入り口近くと奥の一点からじわじわと、新しい快感が生まれてくるようで、  
艶めかしく息を乱しながら、ひと突き、またひと突きとゼルを咥え込んだ。  
「……リ、ナ……っ…………」  
 強制される悦楽に苦痛を感じているのか、抗議の声をあげるゼルの唇を塞ぐ。  
俯せたリナの躰とゼルの胸板との間で、小さくとも柔らかい乳房が少し、ひしゃげた。  
「………………黙って」  
 酷く冷たく、突き放すような声。  
 それでもリナの指先は、ゼルの銀髪を掻きむしるままに離れようとしない。  
 手指に伝わる金属の温度と、彼女の体温が混ざり合う。  
 指先ばかりがストイックで、首から下はインモラルを貪る。  
 ぬるぬるした粘液がいやらしい音を立て、紬送の合間、僅かに離れた空間に  
透明な橋を架けて煌めく。  

 ゼルの、海の色をした瞳を覗き込む血色の瞳は潤んでいる癖に何処か冷めて  
いて、リナの深紅の瞳を見つめ返すゼルの瞳は、いつになく熱情に狂わされて  
いた。  

 呼吸は荒らげながらも、自分からは動かないことでささやかな抵抗をしてい  
たゼルだったが、それもやがては陥落する。  
 苦しげに顔を逸らし、堪えきれない激情に揺さぶられて、彼はきつく眼を閉  
じた。  
「んっ、あ……あんっv……いいわよ、ゼル……っ」  
 リナのリズムがどんどん速度を速めて、それにつられる形でゼルの腰が突き  
出されてくる。  
 独りでに踊り出す腰をとどめられず、ただ躰を支配する快楽を享受するしか  
ない。  
 二人の臨界を示す砂時計の砂は、もう落ちきる寸前だった。  
「リナ、も……っ…………駄目だ……っ」  
 抜け、と言外に囁くゼルに、リナは首を左右に振る。  
 さらさらと、長い髪がゼルの胸をくすぐった。  

 リナは両のかいなを伸ばし、ゼルの首に縋り付く。  
「膣内(なか)に、出して……っ」  
 長い情交の末に掠れた声で、そう。  
「ばっ…………!」  
 言いかけるゼルの声を再度唇で封じ込んで、リナは腰の動きを早めていく。  
 唇を重ねたまま、腰ばかりを激しく上下させるものだから、ゼルの視界の端  
で、リナの白い尻が淫らに揺れていた。  

 
<ラブラブEND>  
<ゼルさん逆襲END>  
<リナ優位END>