その日、ゼルは森の奥にある遺跡に、手掛かりを捜しに。  
 そしてリナは、お宝があるかも知れないと、ゼルにくっついて遺跡へ来ていた。  
 
 遺跡はあちらこちらで老朽化が進み、風化した床が抜けた上、近くの川に一部が侵蝕されている始末。  
 天井が落ち、梢の隙間から漏れる光が水面に反射してきらきらしているのは美しかったが、探検する側にしてみると、足許がおぼつかないのは結構不安だ。  
 
「この調子だと、おたからも文献も期待できそうにないわね」  
「いいさ、もともと期待しちゃいない」  
「あたしは気にするの」  
「あ・そう」  
 ゼルはリナの愚痴には取り合わず、川の一部と化した部分をうまく避けて軽く床を蹴り、崩れた石壁の上に登る。  
 その後を追って、リナも石壁の残骸を越えようとするが、ジャンプ力もリーチも足りないので、川べりになった石畳の上を伝い、よじ登ろうと瓦礫に手を掛けた。  
 
 危なっかしい足取りのリナの前に、黙ったまま、ゼルの手が差し出された。  
 リナも何も言わず、ちいさく微笑んでその手を掴んだ。  
 
「よ・っと」  
 ゼルの手を借りて、石壁を蹴る。  
 その瞬間、彼女が足を掛けていた瓦礫ががらがらと崩れ落ちた。  
「うわぁぁっ!?」  
「リナ……っ!」  
 バランスを崩したリナを引き上げようと、ゼルは手に力を込めたが、手袋どうしの摩擦抵抗が少なすぎたのか、そのままずるりとリナの手が抜け落ちる。  
 
 派手な音と盛大な水飛沫を伴って、リナは青い水の中に墜落した。  
 
 殴られそうだな、とゼルの頭の中で警鐘が鳴る。  
 お陰で呪文の詠唱をしなければならないのに、一瞬間が空いてしまった。  
 あわをくって風の結界を張ろうとするが、呪文が完成するより早く、彼女は自力で浮き上がってきたのだった。  
 
「…………大丈夫か?」  
「大丈夫じゃないわよ」  
 頭から足の先まで濡れ鼠のリナを、ひとまず瓦礫の上に引き上げてやる。  
 落ちたときに水を飲んだか、瓦礫に手を突いて軽く咳き込んでいた。  
 ぱたぱたと滴を落とすリナの姿も、案外艶っぽいものなんだなと、ゼルは不覚にも目を奪われる。  
 細い躰全体にくまなく貼り付いた服が、その色香を更に引き立てていた。  
 
「何見てんのよ」  
 髪を絞っていたリナの手が止まり、ジト眼でゼルを睨んでいる。  
 彼女の中の『女』を発見してしまったゼルは、まだ何も悪いことをしていないのにも関わらず、妙におたおたしてしまった。  
「あ、いや、別に何でもない。本当に何でもない」  
「そーゆー言い方されると、余計に怪しいのよね。  
 さぁっ! きりきり白状して貰いましょうかっ!?」  
「だから、本当に何でもないんだっっ!」  
 言い訳が泥沼への坂道を一直線に転げ落ちているうえ、意味不明なジェスチャーまで付いていては「すけべぇな事を考えてました」と白状しているのと同じだ。  
 もっとも、後ろ暗いところが無くても、女に詰め寄られると弱いのも男の性らしいのだが。  
 
「のひぃぃぃぃぃぃっっ!!!」  
 それまでゼルに詰め寄っていたリナが、突然奇怪な悲鳴を上げて、背中を仰け反らせた。  
「ど、どうした?」  
「せ、せせせ、背中ーっ!」  
「は?」  
 リナが何に慌てているのか分からず、ぽけっとしているゼルを尻目に(と言うか、忘れているだけだろう)、リナはショルダー・ガードごとマントを外し、一生懸命背中へ手を回す。  
「背中に蛭でも潜り込んだか?」  
 横合いから掛けられたゼルの問いに、リナはこくこくと頷くことで同意を示した。  
 虚しく見当違いの場所を引っ掻く指の僅かに先、確かに不自然に盛り上がった場所がある。  
「わかったわかった、取ってやるから上着を少し捲れ」  
 そう言われ、半泣きのリナは「とにかく早く蛭を剥がしてくれ」と言わんばかりにベルトを緩め始めた。  
 
(そう言えばこいつ、ナメクジ系苦手だったな)  
 実際は苦手を通り越して心理外傷(トラウマ)になっているのだが、そのいきさつについて迄は知らない。  
 ベルトを抜いて、上着をたくし上げる。濡れて重い布地をはがし、持ち上げると、白い背中に貼り付く蛭の背中に指先を押し当てた。  
「火炎球(ファイアー・ボール)」  
 指先に火の粉が生じる程度まで威力を押さえた魔法だが、ゼルの指先が蛭の背中に付くと、蛭は躰を仰け反らせてリナの肌から離れた。  
 そこをすかさず摘み取り、ぽいと投げ捨てる。  
「治癒(リカバリィ)」  
 小さな傷だが、ここは森の中。変な病原菌がいないとも限らない。  
 癒しの呪文を唱えると、瞬く間にリナの傷が塞がっていった。  
 
「はぁ。ありがとう、ゼル。  
 他には付いてないよね?」  
「ああ……これは、違うよな?」  
 空気で膨らんだ部分をついと指でなぞると、またもやリナが「ひゃあ」と仰け反った。  
「何すんのよ!」  
「蛭の形に見えたから、確認しただけだろ」  
「だからって乙女の柔肌に気安く…………っ!?」  
 リナお得意のマシンガントークが、途中で息を飲む音に変わる。  
 驚愕に染まった視線をなぞり、振り返ると、そこには。  
 
「なんだ、こいつら…………」  
 先程まで青かった水辺が、黒く染まっている。  
 それは無数の蛭の群れ。一体何処にこれだけの量が潜んでいたのやら、それらはうぞうぞと二人の方に向かってきていた。  
「いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」  
 リナの絶叫を合図に、ゼルは駆け出す。  
 右手にリナの手を引き、左手に彼女のベルトとショルダー・ガードを抱えて。  
 大群は流石に気色悪いが、蛭の足は速くない。  
 少し離れて火炎球でも撃ってやればいいのだ。  
「火炎球っ!」  
 爆音と共に、青白い炎が炸裂し、霧散する。  
 これであらかた片づいただろう―――そう思った。  
「ゼル、上っ!!」  
「っな!?」  
 リナの声に天井を振り仰ぐ。  
 僅かに残った天井を、縦一直線に貫く亀裂。その隙間からも黒い蛭がわらわらと現れ、落ちてくるのだ。  
 
 ぼたぼた落ちてくる蛭に、二人は瞬く間に埋もれてしまう。  
「いやぁぁぁああああああああああああああっ! ねーちゃん助けてーーー!!」  
 ゼルの岩の肌には歯が立たないことを知って苛立ったのか、それまで賢明に食らいつこうとしていた蛭達は、今度は彼の服に歯を立てた。  
 繊維の千切れる音が幾つも幾つも聞こえてくるが、それは彼一人分ではない。  
 リナの服もまた、蛭達によってじわじわと囓り取られていくのだ。  
 徐々に剥き出しになる肌。それでも不思議なことに、蛭達はリナの肌に傷を付けようとはしない。  
 まるで、裸に剥くのを楽しんでいるかのようだ。  
「や、駄目っ、どこに潜り込んでるのよぉぉっ!」  
 僅かに空いた隙間から柔軟な躰を潜り込ませ、大量の蛭がみっしりとリナの素肌を這い回る。  
 無数の蛭がひとつの意志を持っているかのように蠢く様は、布地越しにもはっきりと見て取れた。  
 
 焦って上着の前をくつろげようとするも、幼少期の心理外傷(トラウマ)故か、指先が震えて 
うまくいかない。  
 ゼルはとにかく、後から後から湧いてくる蛭を撃退するために、呪文を唱え始めた。  
「炎の槍(フレア・ランス)!」  
 蛭の発生源である川めがけて、炎の槍を投げ込んだ。  
 こんな至近距離で火炎球(ファイアー・ボール)だの、増して蓮獄火炎陣(ヴレイヴ・ハウル) 
のような大技を使ったら、自分たちも巻き添えなのは明白だ。威力は低いが、仕方ない。  
 
「い、やっ……あッ…………!」  
 元は天井だったであろう瓦礫の、平らな部分の上でのたうつリナの声が、僅かに艶を帯びる。  
 ぎょっとして振り向くと、既にリナの服はずたずたで、引き裂かれた服の隙間から、淡い胸の 
膨らみが覗けていた。  
 
 服と肌の隙間に潜り込んだ蛭の容量に負けて、縫い目が弾け、ボタンが千切れ飛ぶ。裂け目か 
ら見え隠れするリナの胸にも茂みにも、所狭しと蛭が這いずり回っていた。  
 ぶちぶちと衣服が裂け、リナの肢体が露わになる。  
 胸をこねくり回し、下肢の亀裂にも身を沈め、蛭達はリナの躰を好き勝手に弄ぶ。  
 彼女は必死になってそこから蛭を掻き出そうとするが、蛭が出したのか、それともリナ自身が 
濡れているのか、粘液にぬめって巧く行かない。  
 
「やだ、やだ、やだぁぁぁっ!」  
 ぐちぐちと激しさを増す水音。  
 胸を揉みしだく動きも次第に強さを増し、胸全体よりも乳首を重点的に責め立てる。  
「駄目っ、見ちゃ駄目ぇ……」  
 ゼルの視線に気付き、リナは哀願する。  
 しかしか細い懇願は彼の耳には届くものの、ゼルガディスは目を逸らすことも出来ない。  
 目の前で繰り広げられる淫猥なショーを無視できるわけがなかった。  
 
「っだ、ダメぇぇーーーーーっ!」  
 一際大きくリナの躰がのけぞり、手を押し当てたそこから透明な蜜が放物線を描く。  
 
 ひく、ひく、と間をおいて痙攣するリナを見て、ゼルは慌てて彼女の身体を覆う蛭を引き剥が 
す作業に取りかかる。  
 ぬるぬるした軟体生物の感触は気分のいいものではないが、噛まれる心配のない岩の肌故、余 
計なことを考えずにその作業に没頭できた。  
 
「ふぁっ、ん!」  
 ゼルの指が、或いは蛭がリナの敏感な場所を掠めると、イッたばかりの肢体をくねらせて、リ 
ナは訊いたことが無いほど甘い声で啼く。  
 そんな彼女を見ていると、何だか自分がリナを陵辱しているように錯覚し始めて、知らず、ゼ 
ルの呼吸も荒くなっていた。  
 
(―――ヤバい)  
 
 どさくさに紛れて、目の前で震える膨らみにそっと触れる。  
 ぴくんとリナの躰が跳ね上がったが、反応しただけで抵抗の様子はなかった。  
 右手でリナの服ごと――既に服としての役割を果たしていなかったからだ――蛭をむしり取り、 
左手で彼女の素肌を撫で回す。  
「んっ、あ……」  
 厭らしい蜜を溢れさせるリナのソコに、指を差し込む。  
 ソコは今すぐにでも雄を受け容れられる状態にほぐれていて、突然ねじ込まれたゼルの指を、 
いとおしげにきゅうきゅうと締め付けてくる。  
 ごくり、とゼルの喉が鳴った。  
 
 既にゼルの分身はズボンを突き破りそうなくらいにそそり立ち、解放されたがって疼いている。 
目の前で無防備に脚を広げる雌の柔肉に、今すぐ肉槍を突き立てたいと、躰全体が訴えかけてくる。  
 破壊衝動にも似た欲求が彼の脳を染め抜くのに、大した時間はかからなかった。  
 
 容易く折れるのではないかと常々思っていた細い足首を掴み、肩に掛ける。  
 無抵抗どころか無反応なリナを見ていると、寝込みを襲っているようで、良心がちくりと痛んだ。  
 それでも、こんな卑猥な光景を目の当たりにして置いて、何もせずにいられるほど馬鹿でも子供 
でもない。  
 びしょ濡れの入り口に先端をあてがって、リナの足を肩に掛けたまま、ぐっと身を乗り出す。  
「ゼル……っ?!」  
 リナが気付くより早く、ゼルは腰を進めた。  
 一気に最奥まで突き上げる。  
「っあ!」  
 
 リナのソコは思ったより締め付けが強く、しかも突然の侵入に驚いて彼女が暴 
れ出すものだから、一気に登り詰めてしまいそうになって、ゼルは堪らず声をあ 
げた。  
「いやぁっ、ヤダやだぁっ! 抜いてよぉッ!」  
 躰は明らかに欲棒の侵入を悦んでいるのに、彼女は躰の欲求に正直になろうと 
はしない。  
 苛ついたゼルガディスはちっと舌打ちをし、肩の上で暴れる足首を掴むとリナ 
の方へ倒した。  
「んんぁああ!!」  
 彼女の臀部がずれた所為で、膣の上部をゼルのモノが擦る格好になる。  
 意識はともかく、既に欲情しているリナの躰は過敏な反応を示し、甘ったるい 
悲鳴が人気のない遺跡に響き渡った。  
 
「ヤだよぉ……こんな…………許してぇ……」  
 ぱっくりと濡れ開いたソコを、それもいきり立った雄を咥え込んだ様を見せつ 
けられる格好になり、あの傍若無人のリナが、羞恥に顔を背ける。  
 それが加虐心を煽るとも知らずに。  
 リナの耳許にくちびるを寄せ、そっと囁く。  
「―――厭だね」  
 
 恐怖か絶望か分からないが、はっとして彼を見上げてくる紅い瞳を真っ直ぐに 
覗き込みながら、腰を大きく引く。  
「……あァ……っ」  
 ゆっくりと引き抜かれるその動きと連動するように、リナの白い喉が仰け反っ 
た。細首を絞めてみたいという馬鹿な欲求が一瞬脳裏を掠めたが、代わりに掴ん 
だゼルの指が余るほど細い手首を掴み、怯えた顔を上げさせることでその衝動を 
やり過ごす。  
 ギリギリまで引き抜いた逸物を一気に突き込む。  
「っは、ア!」  
 子宮を突き上げられる衝撃に、リナの顔が歪んだ。否、それは快感の所為なの 
かも知れない。きつく眉根を寄せ、ゼルの手を振り解こうと藻掻いているにもか 
かわらず、その腕には大した力はなく、伏せた長い睫毛の下、ルビー色の瞳は切 
なく滲んでいる。  
 池が出来そうなほどに溢れ出した愛液の量と、螺旋を描いて雄を締め上げる感 
触。膣の上部はざらざらしていて、腰を打ち付けるたび、リナの膣がひくつく度 
にゼルを追い込んでいく。  
「ァ……っ」堪らず、ゼルの口から嘆息とも付かない声が漏れる。  
 どうにも堪えきれないほど、それ程彼女は『名器』だった。  
 
「イイぜ、リナ……お前さんのオ○○コ、大したもんじゃないか」  
 このままでは自分が先にイッてしまいそうだ。ゼルは手袋(グローブ)に包ま 
れたリナの手首を解放し、正常位の格好をとる。  
「ばっ、か……この、変態っ、スケベ……んんんっ!」  
 繋がり合った部分でゼルのそれと絡み合う、栗色をしたリナの痴毛。  
 知りうる限りの技巧を乗せて突き上げながら、薄い茂みを掻き分ける。  
 うっすらと茂みに覆われた亀裂を、指先で押し開く。  
 さっきまでは蛭、今度はゼルガディスに蹂躙されているリナは、今や腰に添え 
られたゼルの袖を掴んで目を瞑り、呪文を朗々と唱えるあの声でせつなく啼いて 
いて、不穏な動きを気に止める様子もない。  
 二枚貝の中央に、濡れてそそり立つ肉真珠を見つけ、ゼルは躊躇うことなくそ 
れに中指を押し当てた。  
「ふぁっ?! あ!! あああぁぁッ!!」  
 腰の動きは休むことなく、同時に小刻みに指を動かし、尖りきった肉芽を震わ 
せる。  
 一番敏感であろう場所を突然嬲られて、リナは眼を見開いて仰け反った。  
「だ、ダメ、そこっ……そこ、ダメっ! イっちゃう、イっちゃうのぉっ!」  
 先程までの抵抗は何処へやら。  
 まだ濡れたままの長い髪を振り乱し、ゼルの肩にかじりついて、リナは許しを 
請う。  
 
「お……お願いっ、あた、あたしっ、もぉ……許してっ…!」  
 悦楽の所為で頭に血の上ったリナの言葉は要領を得ず、ただ舌に上った言葉を 
発しているだけに見える。自ら腰を振り、ゼルに縋り付く様はただの女であり、 
あれが噂に名高い『リナ=インバース』だとは思えない程だ。  
 逆に、あのリナがこれほど乱れる様は、男の征服欲をこれでもかと刺激する。 
いっそ、このまま身も心も犯し抜いて、猛獣並みに扱いづらいこの女を何処にも 
離さず閉じこめ、飼い慣らしてみたいと思うほどに。  
 
 知らず、腰の動きが激しさを増していて、ゼルは繋がったままでリナの躰を横 
向きに寝かせた。裸同然の躰に残された、ストイックな手袋とブーツとのコント 
ラストがいやらしい。  
 脚を高々と上げさせ、ラストスパートをかける。リナの手で脚を押さえさせ、 
溢れる蜜が飛沫となるまで、激しく。  
「いやぁッ、あ、あぁっ、イ、いっ……イクぅぅぅっ!!」  
 リナが達すると同時に膣がぎゅうっと収縮し、射精を促す。しかしゼルは嵩を 
増した蜜の滑りにも助けられ、すんでの処で自身を引き抜いた。  
「…………っ、う!」  
 堪えていた白い欲望が、勢いよく飛び出す。それは弧を描いて、小さな身体を 
痙攣させるリナの上へと降り注いだ。  
 
 自分の出したモノが、リナを汚している―――  
 
 その光景に、これ以上ないほどの達成感、否、満足感とでも言うべき感覚が、 
ゼルガディスの中に生まれていた。  
 
「…………やっちまった」  
 目の前に横たわるリナは、凄惨という以外に言いようのない姿だった。  
 下半身を起点に、髪にまでも精液が飛び散り、服は糸屑も同然。垂れ流した淫 
蜜は肉襞のはみ出しかかった秘部だけでなく、崩れ落ちた石材迄もを濡らして、 
小さな水溜まりを作り、流れている。  
 
 半分以上はあの奇妙な蛭の所為だとは言え、リナを裸に剥いて強姦(後半は和 
姦だと思うが)したとなると、流石に命の危険を感じる。  
 しかし、だからといってこのままとんずら出来るほど、ゼルは落ちていない。  
 殴られるか、それとも攻撃魔法か。  
 リナの瞳に光が戻ったのを見て、彼はハンカチを取りだした。  
「……痛かったか?」  
 謝罪はしない。謝ったら間違いなくリナの逆鱗に触れるだろうし、ただの衝動 
で、性欲の解消にしたわけではない。  
 行為そのものに同意はなかったが、ただ女を蹂躙するためではなく、『リナを 
抱きたい』という思いは確かにあったのだから。  
 
 リナは静かな眼差しでゼルガディスを見、それから差し出されたハンカチで体 
を拭いた。  
「謝らないのね」  
「後悔は、してないからな」  
「それであたしがモノになるとでも思った?」  
「そんな短絡思考じゃないつもりだが」  
「馬鹿ね」  
「ああ」  
 躰からも、髪からもどうにか残滓を拭い取り――それでも、水浴びでもしない 
限りは臭いがこびり付いたままだろう――リナは掌にハンカチを載せ、呟く。  
「火炎球(ファイアー・ボール)」  
 一瞬にしてハンカチは白い灰になる。  
「あなたのしたこと、許せるわけじゃないんだけどね」  
 リナは突然ゼルの胸ぐらをひっ掴み、先程とは一転、ぎらぎらした瞳は炎の如 
き眼差しで彼を射抜く。  
「猶予をあげるわ、ゼルガディス。  
 あたしを服従させてごらんなさい―――出来るもんならね」  
 言いながら、視線は寸分も外されることなく、リナの指先はゼルのマントを外 
す。  
 脱がせたそれを立ち上がり際、ばさりと翻して身に纏いながら「一週間じゃあ 
辛いでしょうから、そうね、一ヶ月。一ヶ月以内にあたしをモノにしてみなさい。 
そうしたら、許してあげる」  
 微笑うその瞳の色は、まさに肉食獣のそれ。  
「あとで吠え面かくなよ、リナ」  
 この猛獣の如き女を、飼い慣らしてやろうじゃないか。  
 ゼルの面にも、深い笑みが刻まれる。  
 それは猶予の安堵からではなく、この女を征服する、その暗い願望からの笑み 
だった。  
 

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