目を開けると、そこは見たこともない場所だった。  
 旅を続けていれば、見覚えのない場所に来るのは当然のことだ。  
 しかし、宿屋にいたはずの自分が、どうしてこんな廃墟のような部屋にいるのか。  
 しかも古びたベッドに両腕を繋がれている。  
 あげく誰に、いつ脱がされたのかは分からないが、身に着けているのは紅の上着一枚だけ。その下は 
丸裸だ。  
 恐ろしいことに、両足首は革の足枷で繋がれ、天井から吊り下げられている。足許から見られれば、 
恥ずかしい場所が丸見えだ。  
 自分の格好を知って、リナは堪らず赤面した。  
 
 
 赤く染まった貌を動かして、部屋の中を探る。  
 煤けた天井は石造り。床も、壁も同様に。  
 壊れた家具や武器の類もある。元はダンジョンのようだが、何処かの盗賊団が使っていた本拠(アジ 
ト)のようだ。  
 誰かが火炎球(ファイアー・ボール)でも放り込んだのか。  
 もしかして自分かな、とも思ったが、盗賊に真っ直ぐ道案内をさせるので、こういった余計な部屋ま 
では見た記憶すらない。  
 
「んにしても……誰が」  
 記憶に間違いがなければ、確かに宿のベッドで眠りについたはずだ。  
 リナに気配を悟らせず、最近リナの親衛隊と化したアメリアをスルーし、生きた警報装置(ガウリイ 
)さえかわして彼女を此処まで連れてきたとなれば――相当な手練れ、か。  
 
 足許に気配が生まれた。  
 今まで息を殺していたのか。  
 はっとしてそちらを見る。腕が繋がれている所為で、躰を起こすことは出来なかったが。  
 ほっそりした太腿の間から、見慣れた顔がこちらを見ていた。  
 
「よう」  
「…………何してくれてんのよ、ゼルガディス」  
 
 無意識に暗がりへ身を潜め、気配を殺す癖を持った男。  
 白ずくめなんて目立つ服装の癖に、今の今まで気付かなかった。  
 彼がこの密室に潜んでいたことに。  
 
 マントと剣を外しただけで、随分ラフな服装に見える。  
 ゼルはゆっくりとリナに近付き、その傍らに腰を下ろした。  
「何って…………拉致監禁」  
「馬鹿じゃない? なんのメリットがあって、あなたがあたしを監禁するのよ」  
 リナの腰の横に座っていたゼルガディスは、流れるような動きで彼女の上へ覆い被さってくる。  
 しゃらり、と、しろがねの髪が響いた。  
「メリットだの理由だの、そんなもんが無くちゃあ、あんたをモノにはできんのか?」  
 何もかもどうでもいいと、何処か投げやりな瞳がリナを覗き込む。  
 ゼルの大きな手が、そっとリナの頬に触れた。  
 
「モノって……あたしは、誰のモノでもないわよ」  
 彼の指は男にしては細く、間接が浮き出て、微かに筋張っている。  
 自分の指とは明らかに違うパーツに性の違いを感じて、リナは場違いながらもどきりとした。  
「わかってる。でも、そうじゃない。俺は、あんたが欲しいんだ」  
「愛の告白なら、もうちょっとましなシチュエーションでお願いしたいわね」  
「生憎と、そこまで気が回らなくてね。それに…………もう遅い」  
 
 凪の海みたいだ、といつも思っていたゼルの瞳。  
 ナイルブルーの瞳は洋燈の灯りに少し翳って、藍色をしていた。  
 いつも冷静で、滅多に揺れ動くことのないその奥に、今はぎらぎらした光と、粘っこい感情が渦巻い 
ているのが分かる。  
 ボタンひとつでようやく止められていた上着の隙間、胸へと直に、ゼルの手が滑り落ちた。  
 
「きゃ……っ!」  
 今までゼルと躰を重ねたのは、ただの一度きりだ。  
 その時だって、のっぴきならない理由があったからなのだが――別に、それ以降が厭だったわけじゃ 
ない。  
 誘われれば寝ても構わないくらいには、ゼルのことは好きだ。宿のベッドで、或いは図書館で、時に 
は森の中や路地裏で。何処で誘われたって、構わない――そんな事を考えられるくらいには、好きだっ 
た。  
 でも、なにかがおかしい。  
 本能的に不安を感じて、リナは思わず悲鳴を上げた。  
 
 
「やっ、やだ……っ、たすけ……ガウ……ぅん、っ!」  
 のし掛かってくる男の体重、触れてくる指、耳朶を掠め、髪を揺らす吐息の熱さ。それら総てに彼女 
は焦り、ゼルの腕の中でじたばたと藻掻きながら、反射的に自称保護者へ助けを求めようとした。  
 それは本当に、普段からの経験の積み重ねからで、他意はなかった。  
 単純に「自分がピンチの時、真っ先に助けてくれるのはガウリイ」という公式が出来上がっているか 
ら、だからその名を叫ぼうとしたのだ。  
 
「んんっ……ふぅ…………んむぅん……」  
 しかし呼ぼうとした名前は、最後まで音にならなかった。  
 開いた唇にゼルのそれが覆い被さってきて、リナのそれを悲鳴ごと塞いでしまう。呼吸さえままなら 
ぬほどに口腔を蹂躙されて、息苦しさに必死で足掻くが、男の手はびくともしない。  
 今更になって、自分は女で、ゼルガディスは男なのだと、痛感する。  
 
「ん……ぷはぁ……っ」  
 執拗にリナの舌を絡め取っていたゼルのそれが、ようやく抜き取られた。  
 体中で深呼吸することが精一杯で、リナには襲いかかってきた男を睨め付ける気力もない。  
 うっすら開いた視界の中で、冷たい、しかし苦しげな表情を浮かべているゼルガディスの端正な顔が、 
間近に見えた。  
 
「他の男の名前なんか、呼ばせるかよ」  
 絶対に。  
 他の誰の名前だって、呼ばせない。  
 お前が呼んで良いのは、俺の名前だけだ。  
 
 囁く声は、喉を握られているのかと思うほどに。  
 リナは何か言おうとして――喋る内容なんて、何も考えつかなかったけれど――口を開こうとする。  
 しかしどうしてだろう、いつもなら滑らかすぎるほどに良く動く舌は、先程のキスの所為か、すっか 
り痺れて動かない。  
 抵抗の言葉すらも紡ぐことが出来ず、リナはただ、首筋に顔を埋める彼の、その岩の肌を感じ取るこ 
としかできなかった。  
 
 リナの首筋に舌を這わせ、ゼルは何度も、その白い肌を啄む。  
「あ……あッ」  
 鮮やかな赤い花弁を白磁の肌に刻みつけながら、唯一留められていた上着のボタンを外そうとする。  
「…………ちっ」  
 指が縺れて、巧く行かない。ボタンはたったひとつなのに。  
 苛ついた彼は細い糸で縫い止められたボタンに手を掛けると、力任せに引きちぎった。  
 
「やぁ……ッ!」  
 鈍い音と衝撃に、リナの体が小さく震える。  
 まるで数日ぶりの獲物にありついた肉食獣のようだ、と、彼女は降りかかる愛撫に身を震わせながら、 
遠く思う。  
「っ……ゼル……ヘンよ、あなた…………」  
「俺のことよりも、自分の躰の方がヘンになってくる頃じゃないか?」  
 繋ぎ止めていた物が無くなり、解放された裸体の上を、硬質の指がなで下ろす。  
「んんぅっ!」  
 腹のくぼみをなぞられて、何とも言えない、甘い痺れがリナの躰を貫いた。  
「効いてきただろう?」  
 太腿をゆっくりと撫で回される。ぞくぞくと痺れが浮かんできて、もう少し上へ彼の指が滑り込んで 
こないかと、躰の奥が期待する。段違いの、快感。  
 
「あ・んた、何を……」  
「予想はついてるだろう?」  
 ゼルの言葉通り、リナには覚えがあった。  
 たぶん――――催淫剤。  
 一度だけゼルと寝た理由。  
 
 盗賊退治の時に見つけた香水入れ。  
 高値のつきそうな陶器の中身を確認しようと、その香りを嗅いで、香水だと思った。  
 試しにそれを耳の後ろに少し塗りつけて――……  
 
「凄かったよな……夜中に窓から転がり込んでくるなり、しがみついてきて」  
 耳許で囁かれ、自覚と共に感度の高まりつつあった躰が細かく震え出す。  
 蜜が溢れ出して、ソコがひくついているのが自分でも分かる。  
 あの時以上に頭の中が淫らに染まっていく。  
「俺のにしゃぶりついてきたかと思えば自分から脱ぐわ、デカイ声でヨガるわ……あげく、潮まで吹い 
てたよなぁ」  
「ぃや……あっ!!」  
 くちゅ、と、ゼルの指がソコに沈み込む。触れられることを望んでいた場所に。差し込まれた指の腹 
に、リナの膣壁がきつく噛み付く。  
 けれど、まだ足りない。足りないのが何であるかは、分かってる。  
 あの時と同じように、もっと奥深くまで、熱と質量を持ったモノが欲しい。  
 
「指じゃ足りない、ちゃんと――――を突っ込んでくれって、可愛くお強請りしたろ?」  
「やめ…………ッ!」  
 耳朶に舌を、胸の頂きに左手を、そして秘所には右手を這わされて、躰の内側からじりじりと焦がれ 
ていく。  
 低い、癖のある声に卑猥な単語を吹き込まれる。脳が、犯される。  
 頭の上で両腕を括る革手錠と、それを繋ぐ鎖を揺らす。指先が意味無く踊り、否定や拒絶だったはず 
の単語は縺れ、男を誘うだけ。  
 
「欲しいんだろ、リナ……もう一度、ちゃあんとお強請りしてみろよ」  
 低く喉を鳴らしながら、彼は指先の動きひとつでリナの脚を解放した。  
 重力に引っ張られて、血の気の引いた足が粗末なベッドに落下する。  
「……欲しくなんか、な・い……っ!」  
 言葉でいやらしく責められて、頬が熱い。  
 自由になった脚で蹴り飛ばしてやりたいが、足が痺れてそれも出来ない。  
 第一、ゼルのの岩で出来た躰に、リナの蹴りなどどれだけ通用するだろうか。  
 こんな事なら、アメリアから霊王結魔弾(ヴィスファランク)でも習っておくんだった。  
「こんなに濡らしてるのに? ……じゃあ、欲しがるようにしてやるよ」  
 どう足掻いても、リナに決定権は――否、権利と名の付くものは、恐らく何一つ無い。あるとすれば、 
この強制的な快楽を甘受し、思いのままに啼くことだけだろう。  
 この奥深い迷宮に囚われたのだ、と、遅まきながら気付いた時には、二人の躰はひとつに繋がってい 
た。  
 ろくに愛撫なんて、されてないのに。  
 
「あ……あぁッ……」  
 熱く滾る根が、リナの中を貫く。そこから見えない根が分岐して、快感となって彼女の体を内側から 
蝕んでいくようだ。  
 すぐに激しく動き出すのを期待していたソレはしかし、リナの中に収まったままぴくりとも動かない。  
「ゃ、あ……ア……」  
 じくじくと子宮を焦がす熱がはらわたを染める。  
 子宮と膣壁がきゅんきゅん啼いて、自然と腰が揺らめき出す。止められない。  
 
「ぁ……ぅン」  
「どうした? 自分から動き出すなんて……欲しくないんじゃなかったのか?」  
「う、るさ……あッ」  
 一度箍の外れた躰は本能という暴れ馬に振り回されるばかりで、激しく、そしていやらしくくねる腰 
を制御できない。  
 複雑に腰を上下させ、ただそこに差し伸べられた男根で内壁を擦る。  
 
(これじゃ、まるっきり……ひとりえっちじゃないのよ……)  
 動きなさいよこの朴念仁、くらい吐き捨ててやりたいのだが、『要らない』と啖呵を切った手前もあ 
る。  
 それに機嫌を損ねて抜き取られても困るし。  
 強制されてそれに従うしかない現状が口惜しくて堪らなくて、しかもそれに感じてしまう自分の性癖 
にも憤りを感じて、リナの目尻には涙が滲んだ。  
 
 自慰同然の行為。両脚の向こうから、ゼルが冷淡な眼差しでリナを見つめている。  
 ビジネス以外で誰かに傅くのが大嫌いなリナにとって、この上ない屈辱。  
 支配される側にいることが頭の中では悔しいのに、躰の芯は歓喜に震えている。支配され、陵辱され 
ることに悦んでいる。  
「ふぅ……あァ……ン……はぁ・アんっ……」  
 肌の上を、ちりちりとゼルガディスの視線が這い回る。  
 放置されたままの乳首に触られたくて仕方ない。  
 躰の中に迎え入れたゼルの分身が、脈打つのが分かる。  
(だめ、こんなんじゃ、足りないよぉ……)  
 プライドと欲求のバランスが崩れてきて、リナは知らず知らず、指先が白くなるほど掌に爪を食い込 
ませた。  
 
 膝だけで体重を支える無理な姿勢に、リナの脚がぷるぷると震え出す。  
 それを見計らったかのように、ゼルの手が動いた。  
「あァ…………っ!」  
 ゼルガディスの掌が、そっとやわらかな胸に触れる。  
 降って湧いた刺激に、胸の先端から痺れにも似た快楽が、細波のように体中に押し寄せた。  
 がくんと膝から力が抜けて、これ以上動けない。  
 腰を動かすことは出来ないが、このまま、彼を受け容れたままで静止していられるほど限界は遠くな 
い。  
 あと少し、あと少しの絶頂への距離が、リナの理性を壊しにかかった。  
 
 自分を監禁して、薬漬けにして、その上でこんな真似をするこの男に屈してしまうのか。  
 リナの矜持が崩壊する。  
 そのきっかけは、やはりゼルガディスの囁き。  
「…………素直になれよ、リナ」  
 ぷつり、と、糸が切れた。  
「も、駄目……ぇ……」  
 頭の中では悔しいと喚く自分が居る。でもそれを押し退けて、動いてと、抱いて、滅茶苦茶にしてと 
狂いそうになる自分が居た。  
「シてっ……好きなようにしていいから、あたしを……犯してぇっ!!」  
 
 陥落の言葉に、ゼルガディスは深く微笑んだ。  
 暗い、何処か狂ったような光を宿した瞳が、満足げに目の前の奴隷を見る。  
 彼はリナの脚を脇に抱えるようにして、ぐっと身を乗り出す。  
「ああ…………たっぷり可愛がってやるよ」  
 オリジナリティのカケラもない台詞。  
 そんなことなど気に掛ける余裕もなく、いきなり大きく動き出したそれの感覚に、リナはひたすら声 
をあげた。  
「ひゃア……あ、あぁあっ!! きゃ・あ……あぁぁッ!」  
 待ちこがれた悦楽。貶められる屈辱。  
 首筋に掛かる吐息は炎のように熱くて、同じくらい自分の息も熱い。  
 耳朶を舐り、声さえ貪ろうとするかのように、ゼルの舌が奥深く絡み合わされた。  
 
「誰かの事なんて、考えられなくしてやる」  
 顎のラインをぞろりと舐め上げ、ぞくぞくと背筋が戦慄く。熱く込み上げてくる快楽に子宮が敏感に 
反応して、膣内を蹂躙する欲棒の輪郭までもが伝わってくる。  
「っあ、あああぁあァああンっ!!」  
 一際強く突き込まれると同時に、頭の奥で光が弾けた。  
 強烈な快楽の爆発に四肢が張り詰めて、抱えられた両脚を、自然とゼルガディスの腰へ絡みつかせる。  
 躰の奥に注ぎ込まれる熱。灼けてしまう。  
 壊れそうな意識。かぶりを振って、脚だけで男にしがみついて正気を保とうとするが、オーバーヒー 
トした思考回路は、既に焼け落ち始めていた。  
 
「――――、だ……リナ」  
 薄れゆく意識の中で、最後に呟かれた言葉。  
 力尽きてリナの上に覆い被さってくるゼルガディスの唇が、リナの頬に触れたままで囁く。  
 それを、リナはちゃんと聞いたかどうかも良く分からなかった。  
 もしかしたら、誰かに囁かれたときの幻聴だったのかも知れない。  
 彼にそう言われたいと思うが故の。  
 欲しいのは、本当はひとつだけだったのに。  
 そのたったひとつの言葉があったら。自分も必ず『好き』だと言えるのに。  
 
 

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