さびれた宿で食事を済ませ、じゃあまた明日、おやすみなさいと呟いたのは、いかほど前だったろうか。  
 さほど時間は経っていないような気がしたけれど、窓の向こう側には既に月が皓々と輝いて。  
 時間だ、と、リナは自尊心から来る震えに、白皙の指を強張らせる。  
 意を決して手を持ち上げ、指を軽く曲げて杉板のドアをノックした。  
 安宿らしい、くすんだ色合いの薄っぺらなドアの向こうから、鷹揚な返事が返ってくるのを確認し、その扉を開く。  
 錆びた蝶番が軋み、部屋の中からさぁっと、一条の明かりが零れた。  
 
「ほう。今日はまた、随分と扇情的な格好じゃないか」  
 ナイトテーブルに腰掛けて魔道書を読みふけっていたゼルガディスは、顔だけをこちらに向けると、リナの姿を下から上へ舐め回す。  
 茜色の上着を羽織り、胸元の隠しボタンひとつだけを留めた、なまめかしい姿態を。  
 剥き出しの白い脚から繋がる秘苑は白い下着で覆い隠されていたが、薄い布地を透かして栗色の淡い茂みがうっすら見える。  
 物理的な力など無いはずなのに、ゼルの視線による圧力を肌に感じ、寒くもないのに躰が震えた。  
 
 それでも震えを隠し、リナは素足のままひたひたと、遅い歩みを進める。居丈高な男の前に。  
 出来れば近付きたくなかった、しかし同時に、今すぐその胸に飛び込みたい、縋り付きたいという欲求もまた、彼女の中で鎌首をもたげる。  
 みだらに疼く躰を鎮めてくれるのは、この小憎らしい男ただ一人なのだから。  
 
「勃ってるぜ、リナ」  
 読みかけの魔道書を閉じたゼルガディスはそう言うと、茜色の布地の下、その形を露わにする小さな果実を捻り上げた。  
「ひっ、ん!」  
 鋭い痛み――次いで、甘い痺れ。まろやかな歓喜がリナの躰を満たし、しかしそれは飢えた喉が海水を舐めるが如く、更なる乾きをもたらした。  
 捻られたのとは反対側の果実が、刺激を求めてじんじんと疼き出す。  
「あ……あッ…………ゼル……」  
 痛みと悦楽のない交ぜになった感覚にくらくらする。  
 気付けば反射的に、乳首を摘むその硬い手の甲に自分の指を絡めていた。  
 甘えるように。縋るように。強請るように。  
 
「こんなに硬くして……俺の処に来るのがそんなに楽しみだったのか?」  
 きつく抓られた果実が、今度はうってかわって優しく撫でられる。  
 先程とはまた違う快楽の細波が、胸から躰の隅々までを震わせた。  
「ふ、ぁ……あぁ……っ」  
 ぴんと伸ばされていた背筋から次第に力が抜けて、リナは両膝をもじもじと擦り合わせ、ゼルの膝の横に手を突いた。  
「どうした? もう立っていられないのか?」  
 ゼルの手が、脚の間に滑り込む。抵抗する間もなく、指先がクロッチ越しに亀裂の上をひと撫でした。  
「あぁ、ッ」  
 ぞくんと、背筋がしなやかに仰け反る。顔を上げればすぐそこに、にやついた合成獣(キメラ)の顔があった。  
 瞳を囚われたまま布地越しに媚肉を捏ね回され、粘膜同士が粘ついた水音を奏で出す。  
 
(あたし、濡れてる――……)  
 
 自分がとてもはしたなくそこを濡らしていることに厭でも気付かされて、羞恥の赤が頬に上ると同時にリナの子宮も切なく啼いた。  
 それはゼルガディスにも分かっていたようで、彼は恥じらうリナを抱き寄せて、こう囁いたのだった。  
「お前さんの我慢汁が下着に滲んでるぞ、リナ……」  
「い、厭ッ……言わないで……」  
 自分でも分かっていたこととは言え、それを他人に指摘されるのは恥ずかしい。  
 それがおのれのみだらな、はしたない欲求に涎を垂らす浅ましさであるなら、なおさら。  
 しかしその恥じらいが、ゼルに更なる責めの糸口を与えてしまう。  
 
「これだけぐちゃぐちゃ言わせておいて、濡れてるのか分からないのか?  
 だったら下着を横に引いて見せろ。俺がこの目で、ちゃあんと確認してやる」  
 それまで乳首を捻り上げていた手が離れ、その手にぐいと腕を引かれると、じっとりと湿った熱を帯びる秘部へ、自らの指をあてがわされた。  
「やだぁ……恥ずかしい……ッ」  
「こんな『襲ってください』って主張してるような格好で男の部屋に忍んでおいて、恥ずかしいなんて言うのはどの口だ?」  
 逆らうことを許さぬ力で顎が持ち上げられ、羞恥に荒らげた息を吐き出すその唇の隙間に、無骨な男の指がねじ込まれる。  
 硬い岩石に覆われた指はざらざらしていて、人より長いその指は、逃げ惑うリナの舌を易々と捕らえ、摘んでしまった。  
「んあ…………ッ!」  
 親指と人差し指でもってぎりぎりと捕らえられた舌が、ひくひくと震える。  
 紅い舌を伝って、リナの顎とゼルの指を、唾液が濡らした。  
 口を閉じることも、舌を引っ込めることも叶わなくて、喉の筋肉がひくひく震える。  
 リナは苦しげに、舌を挟むゼルガディスの手を、掴む。  
 
 口を封じられたリナの窮地は、更に続く。  
「それとも何か、リナ? お前さん、もう前戯はいいから突っ込んでくれって言いたいのか?  
 ここに来る前に旦那に出くわしても、廊下で見境無く股座開いて×××強請るのか? あぁ?」  
 低い、恫喝じみた声。責められる、その事にリナの躰は震え、また濡れた。  
 しかしひとつだけ、リナが否を唱える言葉があった。  
『旦那(ガウリイ)に出くわしても』  
 それだけはあり得なかった。まるで子供みたいな、天真爛漫とでも言えば聞こえはいいが、要はただの脳みそスライムに、こんな恥ずかしい、浅ましい姿など見せられるわけがない。  
 誰彼構わず発情できるような、落ちた牝ではないのだから。  
 
(ちがう、ちがう―――……!!)  
 
 ゼルにだけ、と言いたくても、その言葉を紡ぐ舌は彼の指によって絡め取られたままだ。  
 咥内の乾燥を防ごうと溢れ出した唾液を飲み下せずに、唇の端からだらりと垂れた。  
 恐らく、彼には何もかもお見通しなのだろう。  
 リナがゼルガディス以外の男にこんな真似が出来ようはずもないこと、彼の前だからこそ秘所を濡らし、慈悲を求めて跪くのだ。  
 この我が儘で尊大な、女魔道士が。  
 
「んぁっ……!」  
 ずるんと指が滑り、リナの舌先が自由を取り戻す。  
 見上げれば、彼は飽きたような眼差しでリナを見下ろしている。しかし、それはけして飽きたのではない。  
 ゼルガディスは軽やかにナイトテーブルから降り立つと、乱暴に剣帯を外し、一気に上着を脱ぎ捨てた。  
 鍛え抜かれた上半身が、岩に鎧われたその素肌が、露わになる。  
 床にへたり込んだリナの腕を掴んで無理矢理立たせると、年季にくすんだベッドへ、彼女を放り投げた。  
「きゃ……!」  
 ばふ、と顔から布団に突っ込んで、それから背中に重みを感じる。  
 あっと振り仰げば、リナの背中を押さえ込んだゼルガディスが、今まさにリナの下着へ指をかけるところだった。  
「や、ゼル……!」  
 制止の声――――しかしその声の何処か深いところで、リナは続きを期待している。  
 無論ゼルガディスもリナの静止如きでその手を止めるはずもなく、尻肉を指で押し開き、下着を剥き出しにした。  
 案の定、濡れた下着は女の匂いを沸き立たせ、布地はひらいた媚肉を透かして見せている。  
「ゼ、ル……やめ……っ!」  
 絞れそうに濡れた下着を、ゼルの指で脇へ退かされた。  
 剥き出しにされ、視線に晒されたリナの秘部は美酒を湛えててらてらと艶めき、薄い恥毛の縁飾りをしたクレバスは、疾うにぱっくりと口を開けている。  
 そそり立つ陰核も、淫蜜を溢れさせる秘孔も。そして陵辱紛いの行為におびえてふるえるその肢体全てが、男を誘い、待ちかねていた。  
 
 邪魔な下着を、ゼルは思いきって引きちぎる。  
 ぶちんとゴムが弾けて、下着はいとも容易く、リナの細い腰にまとわりつくだけになってしまった。  
「ほら見ろ、やっぱりグチョグチョに濡らしてやがる。リナのスケベな匂いがここまでしてくるぜ?」  
「やめてぇ……ッ!!」  
 遠慮無く吐きかけられる淫語に加え、尻たぶを掴まれ、秘苑を更に広げられるのを感じて、リナは耳を塞いでかぶりを振る。  
 恥ずかしい。  
 自分からこんなはしたない格好で男に抱かれにきて、下着が透けるほどいけない蜜を垂らして。  
 それをこんな風に広げられ、奥の方まで見られてしまうなんて。  
 濡れた場所がどんな風に見えているのだろうと思うだけで、顔から火が噴き出しそうだ。  
 
 頬を真っ赤に染めたリナの肩を、ゼルが引き寄せる。  
 リナの視界が強い力に引かれて反転し、何処か薄ら寒い、残忍ささえ漂う笑みを浮かべたゼルガディスと視線がかち合った。  
「恥ずかしいか、リナ? だが、お前さんが恥ずかしいなんて言うのは、ちゃんちゃらおかしいぜ。  
 なにせ野宿だろうが宿だろうが、盗賊退治の後だろうが、夜な夜な俺の名前を呼びながら自分で自分を慰め――……」  
「やめてよぉッ!!」  
 
 そうだ。  
 リナはいつも、ゼルに抱かれることを想像しながら自慰に耽っていた。  
 最初は、宿の部屋の中で。  
 アメリアと一緒の部屋であればシャワーを浴びながら、声を殺して。  
 やがて野宿の時でも我慢できず、ひとり離れた場所でみだらな遊戯を繰り返した。  
 それは遂にゼルの知るところとなったのだが、その場所が最悪だった。  
 リナは盗賊を叩きつぶしたその拠点(アジト)で、していたのだから。  
 
 リナの悲鳴は、陥落の証。  
 罵られ続ける女はせめてもの抵抗に、饒舌な男の口をおのが唇で塞いだ。  
 
「アッ! あ、あぁ、ん!」  
「俺のことが好きで好きでしょうがないんだろう、ん?」  
 言いながら、ゼルは膝に乗せたリナの腰を掴んで上下に激しく揺さぶりを掛ける。  
 剥き出しになっていた肉槍が、引きちぎられた下着の残骸をすり抜けてリナの膣内へ呑み込まれ、引きずり出されては、淫蜜を絡めて卑猥な音を紡ぎ出す。  
「す、き……好き……っ、あ、あぁッ……あぁ―――……!」  
 肉槍が喉から突き出すのではないかと思うほど、下からの圧迫感がリナを仰け反らせる。  
 背中を向けた側の壁が見えるほど反り返り、リナの長い髪がざらりとシーツに流れ落ちた。  
「ふん……相変わらずキモチイイ躰しやがって……」  
 ゼルガディスの肩に指で掴まり、どうにか倒れ込むのを堪える。  
 挿入されただけなのに息苦しささえ覚えるほどの圧迫感とじわじわと沸き上がる快感に、淡い乳房とその胸の頂がふるふると慎ましく震えた。  
「うン、あッ!」  
 上下に跳ねる度ぷるぷると震える可愛らしい胸の頂を、ゼルが唇で咥え込んだのだ。  
 じん、と痺れて、思考が官能の渦に流される。  
 ゼルの腰に両脚を絡ませ、目の前にある男の首筋に舌を這わせ、空いた指先でその硬い胸板をまさぐった。  
「気持ちいいか? いいよな、リナ? お前さんの垂らした汁が、俺の足まで垂れてきてる……××××もきゅうきゅうむしゃぶりついてきて、×××を離したくないとさ」  
 舌で乳首を転がしながら、ゼルは彼女をそのまま、ゆっくり抱き上げる。  
「んっ、あ……やぁん……!」  
 繋がったまま立ち上がられて、リナの最奥が擦られ、押し上げられた。  
 一歩踏み出すたびにずんと奥を突かれ、更に不自然な体勢への恐怖に、リナは男の肩へ必死になって縋り付く。  
 
 ひたり―――と、背中が厭に、冷たいものにぶつかる。  
 背中へ直に伝わる温度と感触に、リナはそれが何であるか、即座に気付いた。  
「や……だめだったら、ゼル……!!」  
「誰も見ちゃいないさ……見られたところで、本当は嬉しい癖に」  
 窓ガラスに剥き出しの尻を押し当てられたのに気付くと、今度は躰をぐるりと反転させられる。  
 背中を押し当てていたその場所に、今度はリナの淡い胸がぴったり通し当てられ、たわんで歪んだ。  
「……やだ、こんな……っ、く」  
 なおも喚くリナの顎を、ゼルが背後から引き寄せる。  
 のし掛かってきた体の温かさと、胸に押し当てられたガラス越しに伝わる外気の冷たさを同時に感じながら、ぬめる舌を絡み合わせた。  
「んっ……………ふゥ……ん」  
 
 窓枠に乳首が擦れる。  
 ゼルの抽送と相まってそれから生じる快感は大波となり、リナの頬は外気に触れるガラスさえも温めてしまう。  
 近付いてきた絶頂を感じ取り、リナの吐き出す吐息で、窓ガラスは白く曇った。  
「あぁっ、イイ! イイよぉ、ゼルっ……気持ちいい、ゼル……!!」  
 これ以上ないほどに凝り固まった乳首を自ら抓り、曇ったガラスを舐めて、リナは絶頂への階段を駆け上がる。  
 
(見て、誰か。  
 あたしがゼルに犯されてるの、見て。  
 あたしはゼルのものだって、ゼルはあたしのものだって、知って……!)  
 
「んあぁぁあぁあ――――………!!」  
 膣がぎゅうと収縮して、内部に収められた肉槍を締め上げた。  
「んっ、あ……!!」  
 背後から筋張った男の腕が伸びてきて、リナの躰をしっかりと抱きしめる。  
 リナは腹の奥で肉槍が膨れ上がるのを――白濁が注ぎ込まれるのを感じ取って、眼を閉じた。  
 
 
「弁償してくれるんでしょうね?」  
「……………は?」  
 ベッドの上に戻り、余韻を味わいながら微睡んでいたゼルガディスに、リナは現実を突きつけた。  
「は? じゃなくて。  
 さっきあなたが破いたあたしの下着。弁償して頂戴ね」  
「……替えくらい持ってるだろ?」  
 先程までとはすっかり逆転した、いつもと同じような、軽いやり取り。  
「それはそれ。下着だってタダじゃないのよ? ともかく、明日にでも買いに行くから、付き合いなさいね」  
 それはもしかして、婦人用下着売り場にまで付き合わされると言うことかとゼルガディスは突っ込みたかったが、例え小一時間説得したところで、こうなった――情欲を昇華した、普段通りのリナに敵うわけがないのだ。  
 些か硬すぎる腕枕をしてくれる男が、諦めたような表情で溜息をつくと、リナは柔らかに笑った。  
「ああ、それと。これ、借りるわね。こんな格好じゃ、部屋に戻りづらいし」  
 と、ゼルガディスご愛用のマントを、椅子の背もたれから持ち上げ、示してみせる。  
「そんな格好で来たんじゃないか」  
「穿いてるのと穿いてないのとじゃ、かなり違うの。あなたも一度試してみる?」  
「……分かった分かった。俺が悪かった。だからその摘み上げたのを返してくれ」  
 リナの手の中でひらひらと揺れる下着をひったくり、ゼルは油断も隙もありゃしない、と苦笑した。  
「じゃあね。また明日。おやすみなさい」  
「ああ、おやすみ…………また明日」  
 二度目の挨拶を交わしてゼルのマントを羽織り、リナは自分の部屋へ戻っていく。  
 
 そうしてようやく、二人に安息の夜が訪れるのだった。  
 

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