ろくでもない依頼。信頼できない依頼主。言い分より少なかった報酬。  
 さんざんだった一日だったが、とりあえずあぶく銭が手に入ったので、あたしとナーガは居酒屋で思い思いに好きなものを注文して憂さを晴らしていた。  
 あたしは主に食べ物。ナーガは、ゴブレットに何杯も強い酒を飲んでいる。  
「ねえ、リナ……」  
「何よ。自分で飲んだ分は自分で払いなさいよ」  
「私たち、いつまで一緒にいられると思う?」  
「さあね。あんたがあたしに金魚のウンチみたいに着いてくるのを止めれば、あっという間に答えは分かるんじゃない?」  
 ナーガは、ゴブレットをあおる。そして、酔いに霞んだ目であたしを見つめる。  
「私はあんたについて行ってるつもりはないわ」  
「よく言うわね。いなくなったと思ったら、なんだかんだでいっつも姿を現すくせに」  
「たぶんね、もうすぐあんたは私じゃない人と旅を始めるような気がするのよ」  
 あたしは、チキンナゲットを口に放り込む。  
「ふーん。どんな人と?」  
「そこまではわからないわ。単なる予感よ」  
「女の勘、ってやつ?」  
「まあ、そんなものね」  
 少しだけ、胸の当たりが痛む。これは、寂しさ? いつまでも女二人で気楽にやっていけると思っていたのに。  
「ナーガは、あたしから離れたいの?」  
「そんなわけないわ」  
 妙に真剣な口調でナーガは言った。  
「そんなわけ、ない」  
 
 
 その日の深夜。あたしは、ふと目を覚ましたらそのまま寝付けなくなって、何となく鏡に向かっていた。通り過ぎていく、14歳の季節。やがてやってくる、15歳の明日(みらい)。  
「いつまでも、ナーガと一緒にはいられないのかな」  
 声に出してみて、気づく。それが、あたしの胸を確実に痛ませることに。  
 あたしは、たとえ誰と一緒に旅することになっても、ナーガのことは忘れないだろう。忘れられるはずがない。あそこで奢らされたディナー、あの街で彼女が逃げて、結局払うことになった宿代、あの時あたしを巻き込んで霊氷陣(デモナ・クリスタル)を放った……  
「だめだ、恨み節になる」  
 あたしは、何となく髪をすいていたブラシを投げだし、ベッドに横になった。  
 その時、部屋のドアが優しくノックされた。  
「ナーガでしょ、入ってきなさいよ」  
 案の定、パジャマに着替えたナーガが入ってくる。  
「起きてたの?」  
「何となく目がさえちゃってね。それで? こんな夜更けに何か用?」  
「まさか起きてるとは思わなかったから、決意が鈍りそうだわ」  
「決意? なんだか、やな予感がするんだけど」  
「リナ」  
ナーガは、ベッドに横たわったあたしの近くに座った。そして、自分もベッドに身を投げ出す。  
 
「なあに? お化けが怖いから一緒に寝て欲しいとでも言うの?」  
「お化けは怖くないけど……一緒に寝て欲しいのよ」  
「ま、いいけど。この宿、どう言うわけかベッドだけはだだっ広いし」  
「それはそうよ。ダブルを頼んだんだから」  
「ほえっ? 宿取りはあんたに任せたでしょ。あたし、一人部屋の料金しか払わないわよ」  
「ええ、部屋代はあたしが持つわ。その代わり……」  
「代わり?」  
「もうすぐ行ってしまう、あんたをちょうだい」  
「何言ってるの、意味がわからな……」  
あたしの唇を、ナーガの柔らかな唇が塞いだ。温かな舌が、あたしの口の中に入り込んでくる。舌をからめ取られ、飲み込みきれない唾液が頬を伝う。  
「……るし……」  
「……なあに、リナ」  
「苦しいから、放して!」  
 あたしは、ベッドの上を転がるようにして、ナーガから離れた。  
「何するのよ、ナーガ。酔ってるの? お酒飲み過ぎじゃないの?」  
「リナ、私を拒むならそれでもいい。ただ、私の気持ちを伝えておきたかった。もうすぐ、お別れが来るから」  
「縁起でもないこと言わないでよ。あたしとあんたは腐れ縁でしょ。この先も、ずっと、ずっと一緒よ。だから、今日はおとなしく寝て。ね? さっきのことは、レッサーデーモンにでも噛まれたと思って忘れてあげるから」  
「忘れないで。忘れさせない」  
 ナーガの腕が、あたしをベッドに縫い止める。その瞳は、酒に霞んではいない。  
 
「お願い。返事を聞かせて。私のこと、どう思ってた?」  
「……どうって」  
「詳しいことは言えないけど、」  
 ナーガは、動けないあたしに言う。  
「私は、ずっと何かから逃げていたの。寂しかった。独りぼっちだった。そんなとき、あんたは私の明かりになってくれた。私はあんたといると楽しかった。逃げていることを、忘れさせてくれた」  
「ねえ、それって……あんたのお母さんの形見だっていう、いつものカッコと関係あるの」  
「まあ、あるわね」  
「ナーガ」  
 あたしは、ほんの少しだけ素直になった。  
「あたしも、あんたといると退屈しなかったわ。あんた絡みではさんざんひどい目にもあったけど……一仕事こなして、あんたと手を打ち合わせるとき、あたしはきっと、幸せだったんだ、と思う」  
「リナ……ありがとう」  
 ナーガの爪の長い指が、そっとあたしの頬に触れた。そして、唇が降りてくる。あたしはもう、逆らわなかった。  
「んっ……ふう」  
 あたしの初めてのキスを。あたしの初めてのときめきを。ナーガが奪っていく。ナーガの指が、あたしの髪を梳く。そして、そっと胸に触れられたとき、あたしは自分でも驚くくらい恥ずかしい声を出してしまった。  
「いや……あんっ」  
「リナ、パジャマを脱がせてもいい?」  
「いいけど……何だか、怖い」  
「大丈夫。私はリナの嫌がることはしないわ」  
 
前ボタンを外され、あたしの胸が夜気に触れる。そこへ、ナーガがキスを落とす。  
「ああっ……」  
「リナの小さな胸。可愛くて、いつもこうしたかった」  
 胸を小さいと言われて腹が立たなかったのは初めてだ。ナーガの舌が胸の突起をつついたとき、あたしはびくん、と身体を振るわせてしまった。  
「感じてるのね」  
 ナーガの声にも、微熱が混じる。そこに軽く歯を立てられ、あたしは全身の力が抜けていった。ナーガの指は、脇腹をそっとたどって、パジャマの上からあたしの両足の間に触れた。  
「やああっ!」  
「可愛い、リナ。ほら、自分で触ってみて。パジャマの上まで、沁みだしてきてるわよ」  
「やだ、そんなこと、恥ずかしいよ……」  
抵抗する手を引っ張られる。さわってみると、確かにそこは、あたしの知らない液体で濡れていた。  
 
「私も脱ぐわね」  
ナーガは、片手であたしを愛撫しながら、片手でパジャマのボタンを外した。迫力のある  
乳房が現れる。ナーガはあたしに覆い被さり、大きな胸とあたしの小さな胸を擦り合わせ  
た。なめらかな皮膚に包まれた、柔らかな、本当に柔らかな、胸。  
「リナ……いいわ、あたしも感じる……」  
「ナーガ……ナーガ、お願い……あたし、もう」  
「なあに、おねだり? まだ14なのに、いけない子ね」  
ナーガは、あたしのパジャマのズボンをはぎ取った。そのままショーツに手をかける。恥  
ずかしいけど……あたしはもう、逆らえない。  
「リナ、びしょびしょよ」  
脱がされるときの感触であたしにも分かった。あたしは、生まれて初めて、……濡れてい  
る。脚の間がもどかしくて、膝をすりあわせる。  
「なんか……変。どうにかなっちゃいそう。ナーガ、あたし、変……」  
「リナ。すぐ気持ちよくしてあげる」  
そしてナーガの細い指が、すっとあたしの脚の間をなで上げる。あたしはまた、びくんと  
震える。  
「どこが気持ちいいか、言いなさいね……」  
ナーガは、あたしの濡れたそこをゆっくり指でなで回す。その指がある一点に触れたとき、  
あたしは電流のような快感を感じて声を上げた。  
「あ、あっ!」  
「やっぱりここがいいのね」  
ナーガは、中途半端に脱いでいたパジャマと下着を脱いで、全裸になる。そして、あたしの身  
体の上に上下逆さまにのしかかった。  
 
「私がしてあげることを私にもして。いい?」  
そしてナーガの顔があたしの濡れたところにうずまる。さっき触られて敏感になったとこ  
ろに、柔らかな舌を感じて、あたしは背筋をのけぞらせた。  
「はあ、あ……」  
「リナ、さあ、舐めて……」  
ナーガのそこが、顔に近づく。あたしは舌を突きだして、ナーガのあそこを舐めた。大人  
の女の香りがする。  
「上手いわよ、リナ。もっと良くしてあげる」  
ナーガは指と舌を同時に使って、あたしの敏感なそこを責め立てた。あたしは、ナーガの  
そこを舐めるのも忘れて、快楽に身を任せた。  
「ああ、ああ……あっ!」  
……なに……これ。脚の間から、背筋をかけ登る激しい快感。あたしは為すすべもなく、  
ただ身体を震わせるだけだった。  
「イッたみたいね。どう?これが大人だけが知ってる秘密の悦びよ」  
「あ……やあ、もうそこ触らないで。また変になる」  
「じゃあ、私を同じくらい気持ちよくして……」  
あたしは、ナーガのその植物の芽のような部分に、舌をこすりつけた。たちまちそこは、  
あたしの唾液とナーガの蜜で、ぐしょぐしょに潤う。  
「ああ……リナ……愛してる……あああっ!」  
ナーガは、自分で自分の乳首をくわえながら、快楽の頂点に達したらしい。より味の濃い  
蜜が、ナーガのそこからあふれ出して、あたしの顔に滴った。  
 
「リナ……」  
ナーガは、指をあたしの中へ一本だけ入れてきた。  
「ナーガ、うあ、いや、止めて! 痛い……そこ、痛いのっ!」  
濡れた指はあたしの奥までかき回す。  
「いたい……いた……ううん……」  
「痛いだけ?」  
「うん……痛い……それは、やめて」  
「あんたの処女を奪ってやろうと思ったのに」  
「なっ……」  
たぶん青ざめたあたしの顔を見て、ナーガはため息をついた。  
「うそよ。バージンは、あんたが初めて愛する人のためにとっておきなさい。その代わり、もう一度、  
忘れられないくらいイカせてあげる……」  
ナーガの舌と指が、あたしのあそこでまた動き始めた。もう、あたしに逆らう術はなかった……。  
 
 
目を覚ますと、広いダブルベッドの上で、あたしは一人きりだった。ちゃんと、あたしは下着もパジャマもつけている。  
「ナーガ……?」  
さては、あいつ……  
「あんなことしておいて、宿代踏み倒す気ね!」  
普段着に着替えたあたしは一階に駆け下りる。  
「あのっ、いかにも悪の魔導士ですっていわんばかりのカッコした、背の高い女が……」  
「ああ、その人なら、あんたの部屋の宿代を払っていったよ。ずいぶんと早い出立だった」  
「え……」  
「それから、朝食代も置いていったから。あんたは好きなだけ食べなさい」  
ナーガ。どうして。何だか永遠の別れみたいじゃない。  
奢りの朝食を食べながら、あたしは少し泣いた。  
「この先誰と旅をしても、あんたのこと、忘れない。忘れてやらないから」  
こころなしか塩辛いスープを飲み込んで、眼の縁を拭った。  
 
彼女の言ったとおり、あたしは15歳になってすぐ、長い長い一緒の旅をする、金髪の剣士と  
出会う。  
 
でも、あたしはナーガのことを忘れない。  
 
あの夜のことを忘れない。  
 

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