「アメリア、スープ飲め」
「ありがとうございます・・」
言って彼女はゼルガディスからカップを受け取った。
スープのあたたかい湯気が、アメリアを優しくなでる。
二人は山中の古びた宿屋に三日ほど前から泊まっていた。
窓の外は灰色の空、雨は一週間前からやむことを知らず降り続けている。
この一室も、濡れたような空気と頼り無気な雨音が支配していた。
「ゆっくり飲めばいい。また温めなおしてやるから。・・寒くはないか?」
「大丈夫です、寒気はちょっとずつ退いてるみたいですから」
「熱はどうだ?汗かいてないか?」
「うーん、大丈夫です」
「果物でも、買ってきてやろうか」
「・・ふふ」
「何だよ」
「何だか父さんみたい」
「・・買ってくる」
恥ずかしさを紛らわすためだろうか、ぶっきらぼうに部屋を後にした彼が愛おしくて、
アメリアはくすくす笑いをとめることが出来なかった。
三日前、アメリアが風邪をひいてからずっと、ゼルガディスはこんな調子であった。
冷静沈着な彼が、落ち着き無く自分の看病をしてくれている。
そのことがアメリアには嬉しくてたまらなかった。
ゼルガディスの去ったあとの部屋は、大きく雨音が響く。
今の状況が嬉しく感じるとはいえ、やはり風邪の症状は容赦なくアメリアの身体と精神を襲う。
ふと、彼が戻ってこないのではないかという不安にかられる。根拠もなしに。
そう思った瞬間涙が出そうになり、次の瞬間にはそんな自分がおかしく思えて息をもらした。
(こんなにも風邪にやられちゃってるんだなあ、私。)
ぎゅうと瞳を閉じて、耳をすます。廊下をあのひとの早い足音が近づいてくる。
ドアの開く音、彼の蒼い瞳。
「林檎でよかったか?」
「ゼルガディスさん、来て。ぎゅうってしたい」
いつもだったら言えないようなことも、風邪に冒された口からはするりと出てきた。
涙のうすくおおう瞳と紅潮した顔で、アメリアはゼルガディスにむかい腕を伸ばす。
とまどいの色を一瞬瞳に浮かべながらも、ゼルガディスはベットに近づきアメリアが上半身を起こそうとするのを手伝う。
アメリアはベッドに腰掛け、ゼルガディスの身体に身をあずけた。
「・・熱いな、身体」
彼の冷たい身体、低く心地よい声、息遣い。
熱で朦朧とした彼女に、それらが染み込んでゆき、気付くとアメリアはゼルガディスの唇に自分の唇を重ねていた。
驚くゼルガディスの唇を執拗に追う。やがて観念したのか、彼は唇を完全にアメリアにゆだねた。
雨音と少しの衣擦れの音だけが二人をつつむ。アメリアはようやく唇を離した。
「・・・お前なあ」
「ごめんなさい、でも私病人だから」
自分でも何を言っているのか分からなかったが、今くらいわがままに振舞ってもいいだろう。
もう一度唇を重ねに、アメリアは身を乗り出した。
キスをするのは初めてだった。それ以前に男の身体をこんなに近くに感じるのが初めてだった。
男女というものは決定的に違うと思っていたが、
キスをしているこの唇と、自分の唇のこの一体感は何だろう。
夢中で唇の感触に酔いしれた。
「・・アメリア、待て、これ以上はやばい」
「え?」
唇を濡らしきょとんとした顔で、アメリアはゼルガディスを見つめた。
この少女は自覚しているのだろうか、誘っているのだろうか。
「このままだと襲いそうだって言ってんだよ」
苦し気な表情だ、とアメリアは思った。
「・・・」
無言でまた無理矢理彼の唇を奪う。長く、長く。
そのまま彼の背に腕をまわし、バランスを失った二人はベットに横に倒れた。
「・・・・この馬鹿・・」
ゼルガディスはアメリアの髪を手で梳き、ついに自ら唇を重ねた。
「・・・ん、あ・・」
唇から耳たぶ、首筋へとキスは色々なところへ落とされていった。
少しの躊躇のあと、ゼルガディスはアメリアのローブを脱がせにかかる。
「・・寒くなったらすぐに言うんだぞ」
ローブからアメリアの白い乳房があらわになり、ゼルガディスは息をのんだ。
アメリアは恥ずかしさゆえか、瞳を薄く閉じて顔を横にむける。
目を瞑った瞬間乳房に触れられて、感電でもしたかのようにアメリアは身をちぢめた。
優しく、愛おしむようにゼルガディスは愛撫を続ける。
アメリアは自分の身体がどんどんと女性になってゆくのを感じた。
「ふ・・ああ!」
うす桃色の乳首を吸われて思わずあげた自分の甘い声に驚き、アメリアは目をぱっちりと開けてゼルガディスの瞳を見た。
「そんな顔でみるな」
少しだけ口の端に笑みを浮かべ、ゼルガディスはさらに愛撫を重ねる。
「んん・・何か、変な、感じだからあ・・!」
乳房への愛撫は続けたまま右の手はゆっくりと太ももを撫でて、熱く濡れたそこにたどりついた。
切な気な目で、アメリアはゼルガディスを見つめる。
その目から視線をそらさないままで、ゼルガディスは手を下着の中へとすべらせた。
きゅう、とアメリアは瞳を閉じた。
初めて自分以外の誰かに触られる恥ずかしさ。しかし同時に何故か安心感がアメリアを満たす。
それほどまでに、彼の行為は優しかったから。
「濡れてる・・」「・・んん・・」「あついな」「・・恥ずかしいです」
恥ずかしい、と言いながらもアメリアは脚をひろげていく。
キスすると同時に、ゼルガディスの指が中に挿れられた。
「やっ・・ああ!」
びくり、とアメリアは身を仰け反らせる。そこはきゅうきゅうと甘く鳴き、ゼルガディスの指を締め付けた。
「痛いか?」
ふるふると顔を横にふるのが精一杯だった。
必死で彼の肩にしがみつき、初めて感じるこの切なくとろけそうな感覚に、
何処か連れて行かれてしまいそうになるのにたえる。
耳もとにかかる甘い吐息に誘われるように、ゼルガディスは指の本数を増やしていった。
そのたび身体を痙攣させ、大きな声が出てしまいそうになるのに堪えるアメリア。
「声出していいんだぜ、アメリア」
「・・っふ、あ・・でも!」
「聞かせろよ」
低く囁くと、アメリアの柔らかいそこをゼルガディスの無骨な指がかきまわした。
「・・!ん・・・あああああ!!」
アメリアはひときわ大きな声をあげて脚をぴんとはると、電流が身体をかけのぼっていくのを感じた。
アメリアの汗ばんだからだを、彼女の荒い呼吸が落ち着くまでゼルガディスは抱き締めていた。
彼はものすごい葛藤の中にいた。
彼のモノはいまだいきり立ったままだったが、
風邪ひきのアメリアにその続きを要求するのはいかがなものか。
悶々としていると、アメリアの視線が自分のそこに注がれていることに気付いた。
アメリアは興味津々にそこをじっと見つめている。
「おい・・・お前なあ」
急に恥ずかしくなったのか、ゼルガディスは彼女に目隠しをした。
「いいじゃないですか、見せて下さいよう」
「見なくていい。つうかもう寝ろ」
「じゃあ、触るだけ」
「ばっ・・!」
言うが早いか、アメリアはゼルガディスのそれを両手に包んだ。
「・・かわいい」
愛おし気にそれをやわやわと撫で、何度も口付ける。
「だからっ・・ばか、駄目だっつってんだろが・・!」
しかし罪の意識に反するように、どんどんと欲望が高まってゆく。
彼女の、全てを、手に入れたい。
「・・・大好き」
うつむき加減のアメリアがその言葉をほとんど聞き取れないくらいに呟いた瞬間、
ゼルガディスの理性のたがは完全に外れた。
激しいキス。舌が押し込まれ、吸われ、二人の境目がなくなってゆく。
ゼルガディスのかたい大きなものが、自分のそこにあたっているのを感じて、アメリアは顔を真っ赤に染めた。
期待している自分が、自分も知らないような淫猥な自分がいる。
何も言わぬまま、ゼルガディスのものがはいってきた。
「んんん・・、ーーー!!」
痛みと、それから気も遠くなるような快感と。大きな波がアメリアを襲う。
「ゼル、ガ、ディスさんっ・・・!」
きれぎれに叫ぶ。彼を感じたくて。
だんだんとゼルガディスは動きを速めてゆく。
自分の中の感覚ばかりが大きくなってゆき、もはや雨音も聞こえない。
出し入れされるたびに、アメリアのそこからは赤いものの混じった透明なものが流れ出る。
うっすらと目をあけると、ゼルガディスの男の表情が見えた。
それがあまりにも色っぽいものだから、いっそうきつく彼の肩にしがみついた。
「あ、・・はあっ、・・や、やああ」
「・・アメリアっ・・」
自分のそこからは、いやらし過ぎる音。恥ずかしがるどころか逆に羞恥心が彼女の快感を増していった。
「あっ・・あっ・・や、やばい、です・・!」
「やばい、・・って?」
「なんか、なんかっ・・気持ちよすぎてっ・・・嬉しくって・・・!」
ぽろぽろと、アメリアの瞳から涙があふれた。
苦しいほどにそんな彼女が愛しく思えて、キスを一つ落とすと、ゼルガディスはさらに腰の動きを速めた。
自分の声も聞こえず、感じるのはただ彼の存在だけ。
身体をうずまく大きなうねりが、閃光が、一気に破裂して目の前が真っ白になる。
大きく響く自分の声を、アメリアは聞いたような気がした。
雨は静かに、ひっそりと降り続けている。灰色の雲は、少し青みを帯びていた。
「ゼルガディスさん、雨、やむと良いですね」
「そうだな」
「雨、だってね、雨ってね、あれですよ、晴れのほうが、良いんだもの」
「・・ああ」
「晴れはね、すーって、する、から、良いなあ」
「・・・・・うん」
ベッドに仲良く横になりながら、二人は雨の音を聞いていた。
半分眠りにかかっているアメリアは、ほとんど文章になっていない言葉をぽつぽつと呟いている。
やがて、聞こえてくる小さな寝息。
あどけない寝顔にキスをし、身をベッドにあずけてゼルガディスは小さくくしゃみをした