この屋敷にあたしがメイドとしてやって来て、既に数日が経過していた。
メイドというのは表向きの姿、本当はこのガブリエフ家に代々伝わるという、
「ゴルンノヴァ」というお宝の場所を探り出し、持ち帰るという使命を帯びていたあたしだったが、
初日の晩を境にして、全くといっていい程進んではいない。
もちろん、メイドとしての仕事をする傍ら、調べられる場所は調べ尽くした。
後は、唯一つ、この屋敷の主人にして、目指すお宝の継承者、ガウリイ・ガブリエフの書斎だけなのだが・・。
この数日というもの、日中はほとんどガウリイは書斎で仕事をする毎日。何度か部屋の掃除と称して調べてみたが、本人が同じ部屋にいる以上、あまり大っぴらに捜索するわけにいかず、
それどころか、下手に長居すると、他に人気のいないのをいい事に、休憩や運動等と称してあたしに手を出してくる始末。
先日も服はそのままで、下着だけ下ろされ、書斎机に押し付けられた状態でされちゃったり・・。
彼が書斎にいない間は、ほとんどと言っていいくらい、あたしを傍に置こうとするから、その間にという事も叶わない。
一番動きやすいはずの夜はと言えば・・。一番拘束がキツイだろう。
せっかく用意されたはずのあたしの自室のベッドは全くと言っていい程、使った例が無い。
ガウリイの寝室で過ごす毎晩の時間にも、色々と要求をしてくるから厄介だ。
昨晩などは、ベッドサイドに腰掛けたガウリイのモノを口で奉仕することを教え込まれ、
その後、ご褒美と称して、そのベッドサイドに上半身だけ乗せられ、
メイド姿のまま、下着だけ剥ぎ取られて後ろからされてしまったのだった。
「はあぁ・・・。」
気が重い。今までの不毛な毎日を振り返り、あたしは深く溜息をつく。頭を悩ませるのは任務の進展の無さばかりではない。
もちろん、今でも心まで許したつもりは無いが、この数日間の行為によって、
いつしかそういったガウリイとの行為を、あたし自身待ち望み始めているということだった。
最初は訳がわからないうちに翻弄されて。その後も、もちろん今も本来の目的を果たす為には、
彼の機嫌を損ね、クビにされるわけにはいかなくて、
もしも、手ぶらで帰ろうものなら、死よりも恐ろしい姉ちゃんの制裁が待っているだろう。
帰らずに逃げ出したとしても、地の果てまでも追いかけられる事は、ほぼ間違いない。
だから、お宝を手にするまでは、逃げられない。そう思っての事だったはずなのだが・・・。
認めたくは無いが、今では正直、ガウリイに抱かれる事が、嫌では無くなっていた。
身体の方は、欲していると言ってもいいくらいかもしれない。悔しいが。
彼に促され、それにあまりに従順に反応してしまう身体。
心も最初こそ、それに抵抗するものの、気が付くと身体に引き摺られるように、溺れているのだ。
早く目的を果たして逃げ出さないと、自分がどうなってしまうかわからない。
それとも、もうそんな懸念こそ遅すぎるものなのか。
そんな思いに心沈む今日にも、また夜の闇が訪れようとしていた。
また今夜もここにいる。こんなことをしている場合では無いのに、心のどこかでは、待ち望んでいる。
そんな自分が、こんな状況に陥る原因である、目の前の男が憎らしくもある。
昨日の復習だと言う彼に促され、ベッドに横たわる彼を跨ぎ、逆に覆い被さる形にさせられる。
いつも彼は、ガウンの下には何も着けていない。裾をそっと捲り、それに手を伸ばす。
昨夜のように見られていないとはいえ、やはり恥ずかしい。躊躇していると、
「どうした?また教えてやろうか?」
ガウリイが言ってくる。慌てて答えるあたし。
「いえ、大丈夫です。出来ます。」
恥ずかしさを打ち消して、彼のモノに手を添え、昨夜教わった通り、舌を全体に這わせていく。
「いいぞ、リナ」
彼の身体を跨いで剥き出しになっている、あたしの太ももをさわさわと撫でながら彼が言う。
それだけで背筋が微かに粟立つ。知らず、熱い吐息が目の前の彼に吹きかけられた。
脚への愛撫に鼓動を速めながら、舌での奉仕を続けていると、
彼の手があたしのスカートの内へと潜り込み、あたしのお尻から、下着を剥ぎ取っていく。
「えっ、ちょっ、そんな・・」
奉仕の手を休め、抗議の声を上げるが、彼は全く介した様子も無く、続けるように促す。
仕方なく向き直って、再び彼へと舌を這わす。
あたしの唾液によってぬらぬらと光るソレは、既に手の中で堅さと大きさを誇示していた。
あたしの足元の方の彼は、先程引き下ろした下着を、足からも取り去ってしまったようだ。
うう・・めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど・・。
きっと見られている。既に愛液によって湿ったアソコを・・。
いや、湿っているという形容では、物足りないくらいだということが、部屋の空気に晒されてわかる。
まだ何もされてないのに、なんであたし・・。
「やっぱりやらしいな、リナのここは」
づぷ・・。
「はううんっ!!」
いきなり指を深く突き入れられて、背を仰け反らせて喘ぐ。侵入者をぎちぎちと咥えて愛液がガウリイの指を伝った。
「舐めながら感じてたみたいだな。リナは。」
楽しそうに言いながら、指を増やしていくガウリイ。
「いや・・んっ・・はぁ・・そんなことっ・・はぁっん・・」
彼の分身に手を添えたまま、喘ぐあたしに、自分は指を止めぬまま、ガウリイが言う。
「まだ途中だろ?その後はどうだった?」
促されて、攻められる中、自分の唾液に塗れた彼を、口内へと導いていく。
「ちゅく・・ん・・ふ・・ん・・ん・・ん・・」
奥まで受け入れて、舌と唇を使い、頭を上下に動かしていく。
なんとか教わった通りに口内で脈打つそれに愛撫を続けていくが、
時々ガウリイによって下腹部に齎される刺激に、動きが止まってしまう。
それからどれくらいの時が経っただろうか。
前触れも無く、ガウリイは、あたしへの指の動きを止め、あたしの行為も止めるように言う。
「?」
どうしたのかと問う間も無く、ガウリイは、あたしを自分の方に振り向かせると、
あたしの腰を持ち上げると、こう言う。
「俺はスカートでよく見えないから、リナが誘導してくれ」
「あ、は、はい・・。」
あたしは、さっきまで口内に含んでいたものの先に手を添えると、自分の中心へとあてがう。
手の中のそれを、新しく溢れてきた、あたしの蜜が伝っていった。欲しがってる・・あたし。
そしてガウリイは、自分の上へ降ろしていく。ゆっくりと。
づちゅ・・・。
「はぁあっんっ・・・ん・・ぁあんっ・・ん・・ふぅぅん・・」
お互いに滑りきったそれらは、ぞくぞくする快感を生み出しながら、ほとんど抵抗なく繋がっていった。
最後まで降ろされて、腰が密着する。胎内で脈打つ彼をあたしの襞が纏わり付くのを嫌というほど感じて、
あたしは彼の胸に手をついて、熱い息を搾り出す。
あたしの下のガウリイはというと、あたしの腰から、背中へと手を伸ばし、腰まで続くファスナーを降ろす。
そのまま、前に剥がされるように、上半身だけが、晒される。胸を覆っていた下着も程なく取りさらわれ、
代わりに双丘は、彼の手によって包まれ、楽しみの対象となる。
「ん・・はん・・んふ・・ん・・ああ・・。」
胸への愛撫に、彼を沈めたままの身体の奥が、たまらなく疼く。
彼に促される前に、あたしの腰は勝手に動いていた。その時、彼はどんな表情をしていたかわからない。
とにかく渇きを潤したい。そんな衝動に囚われたあたしは、身体が望むまま、腰を動かしていた。
「んっ・・あんっ・・はぁ・・はぁ・・んんっ・・はぁ・・あんっあんっあんっ・・・」
熱に浮かされるように、腰を動かすのを止められないまま、あたしは自らを追い上げていく。
あたしの中の彼が爆ぜるのと一緒に、あたしも絶頂を迎え、彼の胸へと倒れ込んでいったのが、その夜の最後の記憶だった。
翌日、いつも通りの、全裸で彼に抱き抱えられ目を覚ましたあたしは、
その日、出かけるガウリイを見送るまで、何かとからかわれることになった。しかし今はそんな事で悔しがっている場合ではない。
今日、彼は遠出の仕事で、帰りは夜になるらしいのだ。やっと訪れたこのチャンス、逃すわけにはいかない。
あたしは、今までちゃんと調べることの出来なかった、彼の書斎へと向かった。
幸い、こちらの離れには、元々使用人自体が非常に少ない。メイドとしての仕事としては、面倒な事が多いが、今、この時には、有難い事である。
「ここに無かったら、ふりだしね・・。」
呟いて手をかけたドアのノブは、しかし回ってくれなかった。鍵が掛かっているらしい。
他の部屋で通常鍵がかかっている部屋など、あたしの知りうる限りは無かったはずだ。
「ますます怪しいわね。」
にやりと笑みを浮かべながら、あたしは、鍵を開けにかかる。この程度のものなら、チョロイもんだ。
難なく室内へと入り込んだあたしは、部屋の鍵を閉め、庭に面した窓を開けておくと、まだ調べていない室内を探り始めた。
範囲が狭かったせいか、思ったよりも早く、それは見つかった。
今まで触らずに終わっていた、本の内の一冊、その後ろの棚の裏板が、あたしの目には異質な物に映った。
案の定、裏板のその部分がスライドするようになっていて、その後ろからスイッチが姿を現した。
「これね」
押すと、隣り合った本棚が静かに動き、その床に新たな扉がそこにあった。
「うっしゃ!」
喜んだのも束の間、ここにもご丁寧なことに鍵が掛かっている。
しかも、こいつはなかなかの強敵で、さすがのあたしでも、開錠するのに、かなりの時間を要してしまった。
「ふぅ・・。この先にもこんな鍵があったら、怒るわよ」
言いつつ、やっと開けたその扉の向こう、降りた階段の下には、鍵どころか、何も無かった・・・。
何も無いというのは、合っていないかもしれない。何か特別な材質の物を使っているのだろうか?
地下にありながら、壁自体が微かに光り、部屋の内部を照らしている。
そのがらんとした部屋の中央、そこには、立派な台座のような物が据えられている。
よく見ると、以前、その上には、確かにかなりの長い間、何かが置かれていたと思われる跡が残っていた。
他の場所に移されたってことだろうか・・?それとも、この部屋のどこかに隠し扉が?
一応調べてみるかと思ったその時、背後から聞きなれた声が聞こえて、あたしの背筋は戦慄した。
「探し物はここには無いぞ。」
振り向く時に、自分の首が軋むのが聞こえたようだった。なんで?こんなに早く?
内心の焦りを押し留め、余りにも早い帰宅をした、屋敷の主に、こう告げる。
「ちょうどいい所へ、ガウリイ様。あたしが庭を散策していたら、書斎の窓が開いていて、
入ってみたら、書斎がこんなことに」
「そうか、それは大変だな。通報しないと」
その言葉とは裏腹に、涼しい顔で、ガウリイが言いながら、あたしの方へと足を進める。
「そ、そうですよ。早く通報しないと・・」
思わず後ずさるあたしだったが、先程の台座のような物に、退路を阻まれる。
そのまま近づいてきたガウリイに、あたしは抱き締められる。
「ガ、ガウリイ様?一体どうし・・」
彼の手によって、目の前に突きつけられた物を見て、あたしの言葉が詰まる。
それは、あたしの服のポケットに入れていた、鍵を開ける為の道具だった。
「そ、それは家に伝わるお守りみたいなもので。」
実際嘘でも無いのだが、ちょっと苦しかったか。彼が信用した様子はその表情には無い。
「ゴルンノヴァは、ここには無い。リナがここに来た時からな」
「えっ?」
腕の拘束を緩めないまま、言った彼の言葉の意味がわからず、あたしは聞き返してしまう。
「リナのお姉さんの所の情報網もかなりのもののようだが、うちの所もなかなかのものでね」
もしかして、最初からバレていたってこと?
「ぅきゃっ!」
嫌な汗が伝った背中が、彼によって後ろにあった台に押し付けられ、脚が宙に浮く。
「最初は、情報収集だけのつもりだったらしいぞ。リナの役目は」
台の上にあたしを押し付けたままで、彼が言う。
「どういう事?」
きっと顔色が変わっていたと思う。なんでそんな事を?
「雇い入れる者の素性を前持って調べるのは、通例の事でね。
お姉さんの所は、表向きは普通の大企業だが、調べてみるとどうにも見えない所があるのがわかって
再調査した結果、今回の目的がわかって、こちらから、話を持ちかけたのさ」
「な・・?」
覆い被さり、耳元で囁くように、彼が言った言葉に、あたしは驚きを隠せなかった。『話を持ちかけた』?
『こちらから』?一体どういう事なの?パニック寸前のあたしに構わず、耳元で話は続けられる。
「こちらとしても、長年手元にあるとはいえ、その謎の真髄を解明することは出来ていなくてね。
そっちの研究施設との共同研究という形でなら、有難いことでもあったんだ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。それって、ゴルンノヴァは、今うちにあるってこと?」
「そうだ。今、リナの所の研究所で、うちのスタッフと共に研究が続けれられている。」
信じられない発言に、思わず問い返す。じゃあ、あたしは何の為に?
その問いが表情に出たのだろうか?心の問いに、彼が答える。
肩を押さえていた片方の手が、いつの間にか胸へと下りているのが気になったが、あたしはされるがままになっていた。
「共同といっても、完全に信用出来るわけでもないからな。こちらとしても、保険というか、条件を提示したんだ。
ちょうど調査の間に、気に入ってしまったものがあってね。それと交換ならと。リナのお姉さんもよほど研究対象として、魅力があったらしい。快く条件を飲んでくれたよ。」
「こ・・交換って・・。もしかして、あたし・・?」
「当たり」
「ふざけんじゃないわよっ!!何が当たりよっ!!あたしは物じゃないっ!!」
あたしの怒りのスクリューアッパーが、ガウリイの顎を捕らえ、仰け反るガウリイ。
冗談じゃないわ。今までのあんなことやこんなことは、何だったのよ!
台の上、起き上がり、怒りに震えるあたしの視界を、ガウリイが遮る。げげ・・効いてない・・。
「ということだから、研究が終わるまで、リナは帰れないからな」
何事も無かったかのように、彼が言う。
「ちょっと、何脱がそうとしてんのよっ・・へっ?」
研究が終わるまで帰れない?さっきは怒りに我を忘れていたが、今までの話を総合すると・・・?
「そうそう。お姉さんからの伝言だ」
ガウリイが、自分のポケットから、二つに折られた紙片を出してあたしに手渡す。
そこに書かれていた筆跡は、間違いなく、姉ちゃんのものだった。
『条件を承諾した以上、こちらとしてもプライドというものがある。くれぐれも、それに泥を塗る真似はしないように』
ルナ
固まったあたしの手から、紙片がひらひらと舞って、床へと落ちた。呆然としつつも、ガウリイに問う。
「研究結果ってどのくらいで出そうなの・・?」
「さあな、うちだけでも、今までに何年もかかっているからな。現時点では、更に数年は要するだろうということだったぞ」
「す・・数年・・・。(汗)っていつの間にっ!んんっ・・」
再び台座の上に押し倒されたあたしは、ガウリイによっていつの間にか下着だけの姿にされていた。
キスによって言葉も、やがて抵抗も奪われていく。深く口内を弄られながら、力の抜けていくあたしの身体を、彼の指が、余すところ無くざわめかせていく。そして、次第に熱く火照りゆく身体を彼に委ねていく。
やがて、下着さえも取り払われ、すっかりそれを待ち望んでしまっている場所へ、彼が割り込むように繋がっていく。
「あああんっ・・はぁ、はぁ、ん・・ふぅ・・あっ・・だめぇんっ!」
楔を打ち込まれるかのように、奥まで貫かれて、あたしは叫ぶ。この台座に釘付けにされてしまいそうだった。
更に打ち付けるような、彼の律動が、あたしを揺さぶり、翻弄される。
「あんっ!あんっ!んっ!んっ!んっ!・・・くはっ・・んっ!あんっ!」
狭く薄暗い地下の空間に、肌のぶつかり合う音と、卑猥な水音、あたしの嬌声とガウリイの吐息とが混じり合う。
今までに無いほどの激しい抽挿に、身体も、心もバラバラになりそうなのを、彼にしがみついて堪える。
激しく何度も突かれた奥が、まるで痺れたように感じられる。
「んっ!あぁんっ!〜〜〜〜!!だっ・・めっ・・こわれちゃうっ・・!」
そんなあたしの叫びは聞き入られず、激しい打ち付けは続き、あたしは降り注ぐ火花の中にいるようだった。
最初は、あたしが奪うはずだった宝物が眠っていたはずの部屋で、もう今日何度目かわからない、絶頂と、
やっと訪れた彼からの熱情を胎内へと受け入れながら、意識を手放すあたしには、
これからも毎晩行われ、そしていつまで続くともしれない狂宴について、考えを巡らせる余裕はまだ無かった。
<了>