窓の外では、細い三日月が柔らかな光を投げかけている。  
ゼルガディスは机の隅にある小さなランプの明かりを頼りにして、厚い本を読んでいた。  
何の音もしない、世界が寝静まったような今夜は、読書に最適であろう。  
 
しかしその静寂は、隣室から聞こえた少女の高い声によって破られた。  
その声が聞こえた瞬間、読書中であった青年は突然、部屋から飛び出した。  
重厚な装丁の本が音を立てて床に落ちたが、その音は彼の耳には入らなかった。  
 
「リナ、どうした!?」  
隣室の扉を激しくノックした。  
しかし返答はなく、彼はドアノブを回した。  
ドアを開けるためではなく、焦燥感からの無意識の行動であったが、不用心なこ  
とに鍵がかかっていなかったそのドアは、あっさり彼を部屋へ通した。  
素早く部屋を見回す。  
敵襲などの変事を想像していたゼルガディスの目に映ったのは、ベッドにうずくまって身体を小刻みに震わせる、小柄な少女の姿であった。  
微かに嗚咽が聞こえる。  
いったい何があったのか想像も出来ないまま、彼はリナのいるベッドに腰を下ろし、その髪をそっと梳いた。  
リナがゆっくりと顔を上げる。不快だっただろうかと、思わず髪から手を離そうとしたが、その手をリナの小さな手が捕まえた。  
こちらを見つめる大きな瞳が潤んでいた。噛みしめていたのだろうか、半開きの赤い唇が少し濡れていた。  
「ゼル…」  
彼の名を呼ぶ声が、心なしか甘い。  
思わずリナの細い身体を抱き寄せた。  
 
「…ゼル…」  
譫言のようにリナが呟いた。  
切ない程に華奢な肢体。抱きしめる腕に彼は力を込めた。しかし、先程までは抵抗せずその腕に身を委ねていたリナが、身動きしたために少し力を緩めた。  
するとリナの細い腕が、ゼルガディスの首に巻き付いた。こうしたくて手を緩めてほしかったのか、とその瞬間彼は理解した。  
彼の耳元でリナがまた呟いた。  
「ゼル…やっと、来てくれたんだ…」  
「…呼んでたのか?」  
「…夢で…一人で…あちこち痛くて、どうしたらいいかわかんなくて…妙に心細くて…呼んでたの、ずっと…目が覚めてからも、ずっと…」  
何も言わず、ゼルガディスはリナをもう一度強く抱きしめた。  
リナも自分も柄ではないことをしている。ゼルガディスは内心そう思った。  
しかしそんな心細い時に、保護者役のガウリイでもなく、どんな怪我でも回復させるアメリアでもなく、自分を呼んでくれていたのは、なんだか頼りにされているようで悪い気はしない。  
そう思って、栗色の髪を撫で、耳元で囁いた。  
「…遅くなって悪かった」  
ほんの少しだけ紅潮している白い肌に、そっと唇で触れる。  
「…口にもしてよ…」  
言われた通り、唇を重ねた。そのままキスを深くしていく。  
「ん…ふぅ…」  
唇の隙間からリナの吐息混じりの声が漏れた。  
その声に煽られるように、ゼルガディスはキスをより激しくしていった。  
ようやく離れた二人の唇を繋ぐように、透明な糸が一瞬光って、切れた。  
 
リナを抱きしめたまま、ゼルガディスが訊いた。  
「夢で痛かったのは、どことどこだ?」  
リナには質問の意味はわからなかったが――いや、ゼルガディス本人も意味など考えてはいないだろう――、リナは熱に浮かされたように答えた。  
「全部…頭も…首も腕も…背中や脚も…」  
本当にほとんど全身だ。  
人並み以上の戦闘力を持つこの少女が、いったい夢の中で誰に何をされたんだか。肩を竦めてからそっとリナの頭を撫でた。  
首、腕、背中、脚。彼女が痛いと言った場所全てを優しく撫で、ついでにキスを落とす。  
しかし首も、胸に近い二の腕も、背中も太股も、敏感な箇所だ。撫でられる度にリナは眉を寄せたり、溜め息をついたりした。  
脚を撫で、手を離したゼルガディスを、リナは潤んだ瞳で見つめた。  
愛らしい顔が、今まで見たこともない程に紅潮している。  
小さな唇が微かに動いている。しかし声は聞こえない。  
「どうした?」  
言いたいことはある程度予測出来たが、それでもリナに言わせたい。顔を至近距離に近づけて、ゼルガディスが訊いた。  
恥ずかしいのか俯いたまま、無言でゼルガディスの手を取り、リナは自分の胸に触れさせた。  
「ここも、痛かったのか?」  
「…いま、痛いの」  
思わず苦笑すると、不機嫌そうな顔をしてリナが見上げる。  
「わかった」  
額に軽くキスをしてから、円を描くように胸を撫でた。  
「…ん…、もっと…」  
優しく撫でられるだけの感覚がもどかしく、膝を摺り合わせながらリナは言った。  
いったん手を離し、服を脱がせる。白い肌が露わになっていく。  
華奢な肢体、小振りだが形の整った胸。  
完全に一糸纏わぬ姿になった少女の姿を、ゼルガディスは眩しそうに見つめた。  
 
「見てないで、触ってよ」  
そっぽを向いてリナが言った。  
その唇を自分のそれで塞いで、ゼルガディスは彼女をなるべく優しくベッドに押し倒した。  
彼の手には不足なぐらいの胸を、揉みしだいていく。  
しかし、意識して頂点には触れない。  
すっかりとがったそこを触って欲しくて、リナが身を浮かせるが、巧みに避けて彼は焦らした。  
「やだ…ゼル…ここも、ちゃんとっ…触ってっ」  
耐えきれなくなってリナが要求するとようやく、そこに指先で転がすように触れる。  
「…ん…っ…はぁ…」  
途切れ途切れに聞こえる声に、理性を失う。  
薄紅色の突起を口に含み、舌で撫で上げる。  
「あっ…」  
自分でも想像してなかった程の嬌声に、リナは思わず口を塞いだ。  
しかしその手はあっさり除けられてしまう。  
「聴かせろ…半ばその為にやってるんだから」  
中断した行為を続行する。  
「あぁ…んん…あっ…あ…」  
ゼルガディスは片手を降ろし、リナの秘所に這わせた。  
 
溶けるように濡れている入り口を指でなぞると、リナがくぐもった声を漏らした。  
声を上げさせたくて、蜜で濡れた指で花芽をこする。  
「や…あっ、ああっ!」  
その指の刺激から逃れようと、身を捩るが、脚を広げられてしまった。  
ゼルガディスが内股にキスをする感触に、リナが驚いた。  
「ちょっ…やだ、見えるじゃないっ!」  
「見えるってどこがだ?」  
無論、ゼルガディスには「どこ」かはわかっていた――その上実際に見えていた――が、リナの反応を少しでも見たいと思って訊いてみた。  
効果は絶大。リナは顔を見事に真っ赤にして、慌てて目をそらした。  
ついにゼルガディスの唇がリナの秘所を捉えた。  
すっかり充血しきった花芽を舌で責め立てる。  
「ああっ、だめっ…」  
「駄目とは思えんが?」  
からかうように、ゼルガディスが笑い、リナの中に指を一本、挿し入れた。しかし…  
「きゃあっ…」  
…しかし、慣れない感覚に上げた声に、驚いたのは彼の方だった。  
「お前…もしかして、初めてか?」  
息を荒げたまま、潤んだ瞳で彼を見上げ、不機嫌そうにリナは言った。  
「そうよ、悪い??」  
「いや…悪くはないが…」  
困惑してしまう。まさか処女だったとは思わなかったのだ。  
数瞬の沈黙の後、彼は少女の細い体を抱き締め、耳元で囁いた。  
「…出来るだけ優しくする。辛かったら言え。」  
 
もう一度、指を挿入する。  
「ん…ふ…」  
なるべく優しく、内壁を擦る。透明な液がさらに溢れ出す。  
その動きを繰り返しているうちに、違和感が快感に変わっていったのだろうか、リナが懇願した。  
「あ…ゼル…もっとして…」  
その声に指を増やし、かき混ぜるように動かした。  
「はぁ、あ、んっ…あっ」  
嬌声が高まる。しどけなく腰を蠢かせる。その声がゼルガディス自身をも高め、行為をより激しくしていった。  
「ああ…もうだめっ…あ、ああっ!!」  
その声と同時に、内壁がきつくゼルガディスの指を締め付けた。  
 
荒い呼吸を繰り返すリナの中から、ゼルガディスは指を抜いた。  
「あっ…ん…」  
小さく開いた口から声が漏れた。  
一度絶頂を迎えた今の彼女には、指が抜かれる感触すら性感に繋がるのだろう。  
その声は決して大きくはなかったが、彼女の様子を見つめるゼルガディスの耳には届いた。  
軽いキスをすると、続きを求めるように、リナが彼の左右の頬を両手で柔らかく挟んだ。  
再び、キスを交わす。  
軽く啄むようなキスを繰り返した後、舌をリナの口腔内に侵入させる。  
舌をからめ、歯列をなぞり、上顎をくすぐると、リナが声を漏らし、身を捩らせた。  
どちらのものかわからない唾液が、リナの顎を伝う。その光景が酷く扇情的に映る。  
時間の感覚がなくなった頃、ゼルガディスはようやく唇を離し、リナの顔を覗き込んだ。  
緋色の瞳を、相変わらず潤ませている。  
そして、拗ねたような表情も相変わらずだった。  
「ご機嫌斜めだな、リナ。気持ちよくなかったか?」  
「…ゼル…あたしに言わせる気でしょ?」  
何を、と言おうとしたが、その唇はリナの手に塞がれてしまった。  
「言ってあげるわよ……ゼル…来て…」  
「見透かされていたらしいな」  
微かに笑って、栗色の髪を撫でた。  
そう。リナが言った通り、彼女から求めさせたかったのだ。  
 
ゼルガディスがリナの濡れた入り口に自身をあてがう。  
熱い感触に、リナはぎゅっと両目を瞑った。  
その姿が愛らしくてつい焦ってしまう。「…たっ…あ…っ…」  
裂けるような痛みにリナが声を上げた。  
「悪い、大丈夫か?」  
「大丈夫じゃ、ない…っ、でも…抜い、たらっ、承知しな…から、ねっ…」  
「…わかった」  
リナを抱きしめ、額にキスをする。  
背中に小さな痛みを感じたが、完全に無視して奥へと進む。  
そしてゆっくりと抽送を開始した。  
ゆっくりした動きが、却ってモノの存在感をリアルに感じさせた。  
侵入を阻むように締め付ける感触、退く時も絡まる襞が彼を甘く苛む。  
ゼルガディスはその感覚に狂わされ、次第に抽送のペースを上げていった。  
 
「や…ん…くっ…あ…あぁ…」  
彼が動くごとに、リナが短い悲鳴をあげる。  
しかし次第にその声には艶が混ざっていった。  
もっと声を聞きたくて、腰を軽くグラインドさせるように動かした。  
「あっ、ああっ…」  
一際高い声が上がり、白い首筋が露わになった。  
ゼルガディスがそこに強く口づけると、鮮やかな桜色の花びらが残った。  
抽送のリズムに合わせて、その花びらが艶めかしく動くように見えた。  
それに視点を固定したまま、限界が近づいてきたのを感じつつも、動きを激しく  
していく。  
「あっ…あん…はぁ、あ、あぁっ…ゼルっ…」  
リナが背を弓なりに反らした。  
ゼルガディスを締め付ける場所が、さらにきつく締まる。  
「………っ!!」  
凄絶なまでに甘いその刺激に、彼自身もまた絶頂を迎え、リナの中を熱で満たした。  
 
……決して広くない宿屋のシングルベッドで、二人は微睡んでいた。  
ゼルガディスは左腕にリナの頭を載せ、右手で栗色の髪を撫でていた。  
リナが閉じかけた瞳を開き、彼の目を見て言った。  
「さっきから思ってたんだけど、あんたって人の頭撫でるの好きね」  
表情の選択に困る。  
間を持たせるために、小さな頭を自分の胸に凭れさせた。  
「ねーってば」  
不機嫌そうな少女の声が呼びかける。  
観念したように、彼はつぶやいた。  
掠れた低い声が、どこか照れくさげだ。  
「…誰にでもこうするわけじゃない」  
リナがぱっと顔を上げ、ゼルガディスの顔をのぞき込んだ。  
「じゃあ、あたしだけ例外ってこと??」  
目を逸らして、答える。  
「…お前は、特別だ」  
リナが強引に彼に自分の方を向かせる。  
驚いて何かを言おうとしたが、言葉を発そうとした唇は、小さな柔らかいリナのそれに塞がれた。  
何も言わず、黙って身を委ねる。  
もう言葉は、要らなかった。  
 
 
 
 

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