――ドアについた両手が震える。  
膝が崩れそうになるが、華奢な腰を支える大きな手と、何より身体に打ち込まれた熱い楔が、彼女がくずおれるのを許さない。  
「…あっ、はぁ…っ」  
いつの間にか、彼女はドアに爪を立てていた。  
激しく打ちつけられ、花芽を指で弄ばれる快感に、目の前が白濁するような錯覚を覚える。  
「あっ…あぁ…も…だめっ…」  
「…イッていいぞ、リナ」  
ドアに爪を立てる力は先ほどより強くなり、人差し指の爪のあたりからは細い赤い筋が流れた。  
しかし、そんな痛みは感じなかった。  
背後の男がもたらす快感だけが感覚の全てだった。  
目の前の白濁が閃光に変わった。  
「あっ、はぁ…っ、あああ…っ!!」  
背中がしなる。  
首筋に熱い吐息を、体内にはまた違う熱いものを感じた。  
そのまま、リナは意識を手放した。  
 
――まだ意識のないリナを、ベッドに寝かせ、自らも隣に横になる。  
細い身体を抱き寄せ、艶やかな栗色の髪を指で梳く。  
まだそれほど体を重ねたことはなかったが、この動作はすっかり癖になっていた。  
愛らしい寝顔。先程までの扇情的な姿とは、まるで別人のように異なるその表情を、ゼルガディスは見つめた。  
「…ん…」  
リナがうっすらと目を開けた。  
別に悪いことをしているわけではないのに、髪を梳く手を、彼は離した。  
しかしリナは彼の胸元にすり寄り、彼の顔をまっすぐに見上げて言った。  
「…もっと」  
上目遣いではなく、まっすぐに見るのが彼女らしい。 微笑未満の表情を一瞬浮かべ、ゼルガディスが要求に従う。  
彼の手が髪を撫でる感触が心地よいのか、リナは猫のように目を細める。  
しかし偶然を装って、硬質の指が耳を掠めると、眉を寄せ、声とも吐息ともつかない声を漏らした。  
「…んん…」  
完全に故意なのだが、ゼルガディスはその声に初めて欲情したかのように、桜色に色づく耳を甘噛みした。  
「あっ…」  
音をたてて、耳にキスをする。  
「う…ん…はぁ…」  
「本当に耳が弱いんだな、リナ」  
耳元で囁く低い声が、酷く甘い。  
「…んん…ほっといて、よ……ひゃあっ!」  
言い終わらないうちに、首筋を舌先で舐め上げられた。 神経に直接触れられたような感覚に、声が裏返る。  
恥ずかしさのあまり逸らそうとした視線が、男の表情に釘付けになった。  
「…ゼル…んっ…」  
――なんでそんなに愛しそうにあたしを見るの…?  
その言葉を発そうとした唇は、キスで塞がれてしまった。  
 
「んっ…ふ…あ…」  
激しいキスと同時に、胸を揉みしだかれる。  
重ねられた唇の隙間から、わずかに声が漏れた。  
ゼルガディスの唇が、リナの首筋へ降りていく。  
軽いキス。くすぐるような感触に、彼女の上半身が小さく跳ねるのを二人とも感じた。  
しかしゼルガディスは構わずに――内心はともかく――、胸元に強く口づけた。  
白い肌にくっきりと、赤い跡が残る。  
「…もー…跡残っちゃったじゃない…」リナが抗議したが、  
「服を着ていれば見えないだろ」  
と、彼は意に介さない。  
男の唇が触れた場所が、まるで周辺に流れる血がそこに集まっているかのように、熱い。  
リナは細い腕を彼の首に巻き付けた。  
彼女に捕まらせたまま、ゼルガディスは小振りな胸に指を滑らせ、薄紅色に色づく先端を口に含んだ。  
そのまま舌で撫でたり、強めに吸ったり、強弱をつけて弄ぶ。  
「はぁ…あ…ん…」  
彼の首に捕まる腕に力を込め、リナは切なげな声を上げた。  
 
途切れ途切れに甘い声が聞こえる。  
ゼルガディスはそっと、脇腹をくすぐるように片手を降ろしていった。  
すでに蜜を湛えた秘所を愛撫されることを期待しているリナを焦らすように、彼は彼女の爪先に触れた。  
中指と薬指で、小さな足の人差し指と中指、中指と薬指の間をくすぐる。  
「んっ…」  
「足の指も弱いのか」  
ほんの少し、笑いを含んだ声。  
指先ひとつで自分の感覚を支配される悔しさ、してほしいことを口に出来ないもどかしさ、自分の姿に対する恥ずかしさ、そして目の前の男への愛しさ――、複雑な感情がこみ上げる。  
リナはその年齢に比して、ずいぶん多くの知識を持っていた。  
何でも知ってるとまではいかないが、何かを知らなくて困るといったことはないと思っていた。  
しかし今は、この瞬間に自分が抱いている感情を伝える術を持たない。  
彼女に出来たのは、名前を囁くことだけだった。  
「…ゼル…」  
返答の代わりに、キスが降ってきた。  
そのまま、奪い合うようにキスを続ける。  
 
頭がくらくらする。  
何かに酔ってるような心地のまま、舌を絡め合う。  
ようやく唇が離れた時、濡れた小さな唇が再び、名前を呼んだ。  
「…ゼル…」  
その名は呪文ではない。口癖でも挨拶でもない。  
しかし、彼女の知る限りでもっとも自然に口に出来る言葉に、いつしかなってい  
た。  
その言葉を口にし、彼女は二人が関係を持って以来初めて、自らほんの少し膝を  
開いた。  
顔を赤らめて、自分の身体の左右にあるシーツを掴む。  
ゼルガディスの手が秘所にたどり着く。「あぁっ…」  
すっかり濡れたそこは、容易に彼の指を飲み込んだ。  
そのまま指を出し入れした。  
「はぁ、あ、んっ、あぁ…っ…」  
リナが嬌声を上げる。  
指の動きを止めず、花芽を舌で激しく擦る。  
「あぁ、あんっ、はぁっ…」  
二か所を同時に責められて、リナが腰を浮かせた。  
「あぁっ、ゼル…もう…」  
もう駄目、と言おうとしたのだろう。  
しかし、最後まで言い終わらないうちに、全ての動きを止められた。  
 
「…なんで……?」  
彼女が絶頂を迎えるその直前に、わざわざ行為を止めた。  
「イカせて欲しかったか?」  
からかうように、ゼルガディスが言う。  
リナが睨みつけたが、紅潮した顔に潤んだ瞳では、効果は薄い。  
むしろ、逆効果だ。  
いじらしく映るだけ。  
彼は先程とは異なる種類の笑みを浮かべ、いつものように栗色の髪を撫でようとした――が、出来なかった。  
リナの頭の位置が変わったのだ。  
「リナ…!?」  
両手でゼルガディス自身を捕まえ、先端を小さな口に含む。  
慣れないためか、あまり口の奥までは入れられない。  
代わりに彼女は入りきらない部分――大半だが――を手で愛撫することにした。  
愛撫という言葉通り、ほとんど撫でているだけに近い。  
口での行為に夢中で、手にまで注意を向けられないのだ。  
ディープキスの要領で、そこに舌をからませ、軽く吸う。唇を使って上下する。  
されているのはその程度、しかも巧みとは到底言えない。  
だが、それをしているのがリナであるという気分的な要素も加わって、彼は確実に上り詰めていく。  
声を上げそうになったが、栗色の髪をいつもよりやや不器用に撫でて堪える。  
「…っ…リナ…」  
限界が近づいてくる。  
しかし、もう少しで、というところでリナは口と手を彼から離した。  
こちらを見つめ、言う。  
「イカせてあげないから」  
緋色の瞳にいたずらっぽい光が踊っている。仕返しをしたと言いたげに。  
ゼルガディスは愛しい少女の華奢な身体を抱き締め、囁いた。  
「…一緒に……」  
続きを言葉にせず、リナを押し倒した。  
 
額にキスをした後、彼は彼女の中に分け入った。  
「あぁっ…んっ…はぁ…っ…」  
リナの声、二人の吐息、ベッドのきしむ音、衣擦れの音、二人の結合部がたてる水音…彼らのいる部屋だけが夜の静けさから切り取られているようだ。  
リナはゼルガディスの顔が見える体位で交わる時、時折少し目を開けて、彼の表情を見るのが好きだ。  
しかし今夜はいつになく激しく彼が動くため、きつく目を閉じたまま、押し寄せる快感の波に身を震わせ続けた。  
突然、上半身を起こされ、より深く繋がった。  
「あぁっ……!?」  
対面座位の状態にされてしまった。  
いきなり何するの!?と言おうとしたが、唇を塞がれ、言葉にならなかった。  
キスをしたまま、彼女の腰を支え、ゼルガディスが突き上げる。  
「んん、んっ…」  
状態が状態なので、くぐもった声しか出ない。  
ようやくキスから解放された頃には、彼女は自分から動いていた。  
抑制がきかない。  
「はぁ、あっ、あぁっ…!」  
膝の上に乗せたリナの身体が震えるのを、ゼルガディスは見た。  
 
少女の身体から力が抜けるのを感じながら、彼自身も果てた。  
 
 
空が明るくなり始めた頃、リナは目を覚ました。  
身動きしようとしたが、思うように動けない。  
「…?…ゼル…?」  
傍らの男は、彼女の細い身体に両腕を絡ませるようにして眠っていた。  
リナは自分の上に乗っている彼の右腕を、そっと撫で、再び目を閉じた。  
その直後、自分の下敷きになっている左腕が痺れているのでは、と一瞬気になったが、疲れにひきずられるように、眠りに落ちていった。  
 
リナが起きた瞬間に反射的に寝たふりをしていたゼルガディスが、うっすら目を開けた。  
そして彼女が眠ったのを見て、栗色の長い髪に唇で触れた。  
 
 

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