「邪魔していい?どうせ起きてんでしょ?」  
 
夜も深まり、宿の中でも起きている奴はほとんどいないだろう。  
俺がなんとなく眠れずにぼーっと天井を見つめてる時に、その声はした。  
 
その澄んだ高い声は誰が聞いても女のモノ。しかも、俺はその声に聞き覚えがあった。  
なおかつ声が聞こえるまで俺に気配を感じさせないで、しかもこんな夜中に押しかけてくるような奴は俺は一人しか知らない。  
まず、あいつで間違いないだろう。  
 
「嫌」  
 
俺は声の方に背を向けたままあっさり答えた。  
俺の台詞に怒り出すかと思いきや、以外とそうでもなく、そいつは俺の部屋に入ってくる。  
 
「いいじゃない。いいお酒が手に入ったの。一緒にどう?」  
「何で俺がお前と飲まなきゃなんねぇんだよ。自分の相棒ン所いけよ」  
「こんな時間に起きてるのはあんたぐらいよ。それとも何?お酒苦手なの?」  
 
俺の抗議の声は無視して、広めの部屋に一つだけあるテーブルに酒と思われし物を置く。  
声色からして、こいつはどうも軽く酔っている様だった。  
 
「嫌だっつーの。どうせお前のことだから後で金請求すんじゃねぇの?」  
「ンな事しないわよ。どうせタダだし、一人で飲んでてもつまんないから誘ってんのよ」  
 
そう言いながら、何処から出したのかグラスに酒を注ぐ音がした。  
俺はしぶしぶベッドから起き上がり、ベッドに腰掛けたまま目の前に置かれた酒を手に取る。  
 
確かに、いい酒だった。  
香りもいいし、味も絶品と言って差し支えは無いだろう。  
アルコール度数は並と言ったところで、とても飲みやすい酒だった。  
 
「どうしたんだ?コレ」  
「もらったのよ。宿のご主人に。ちょっと気が合って話してたらね」  
 
そういいながら、そいつが俺を見る。  
普段と違う雰囲気だと感じるのは酒の所為か。  
赤い瞳はいつもより更に赤みを増し、月明かりのみの薄暗い部屋で真紅に輝く。  
服装もいつもの魔道士スタイルとは違い、宿に備え付けられていた浴衣の様なものを着ている。  
そのため、いつもは見えない白い肌があらわになっている。  
 
そして、何よりその表情は――――  
 
「何考えてんの?」  
「あぁ!?」  
 
急に声を掛けられ思わず酒をこぼす。  
そいつは笑いながら俺のこぼした酒を拭く。  
 
「凄い真剣な顔してたわ。ミリーナ?」  
「え?あ、あぁ」  
 
少々どもりながらも俺は答えた。  
まさか、本人に向かって「お前の事」なんて言えるわけが無い。  
しかも、相手がこの女だと、なおさら。  
 
そいつが俺を見て、ゆっくり笑顔を作る。  
あぁ、またこの表情だ。  
酒の所為か、薄く朱にそまった頬に、一際目立つ真紅の瞳。  
いつもとは違う様に見える。  
 
そんなもの、全部酒の所為だ。  
これから俺がしようとしてる事も、全部。  
 
―――酒の所為ということにしよう。  
 
「?どうし・・」  
 
俺が急に立ち上がったのを、不思議そうな顔で見上げて言葉を発する。  
しかし、俺はその言葉を最後まで言わせなかった。  
 
「・・んっ・・」  
 
深く、深く口付けた。理由なんて無い。酒の所為だ。  
 
こいつの表情がいつもと違い、女の顔に見えただと?  
俺は舌をそいつの舌に絡ませながら頭の隅で考える。  
 
・・・全部、酒の所為にしておけばいい。  
 
俺はゆっくり目を閉じて、更に深くキスをする。  
別に、初めてじゃない。  
街に入れば適当に女を買い抱く事もある。  
それなのに、何故かゾクゾクした。  
いつも下には回らないこいつが、今は俺よりも弱い立場にある所為かもしれない。  
それとも、普段は見れないこいつの表情が見れたせいかもしれない。  
・・・あるいは、その全てかもしれない。  
 
そいつの手から酒のグラスが離れる。  
テーブルに落ちたグラスは転がり、床で弾けた。  
 
その音をきっかけに、俺はそいつをベッドに押し倒す。  
 
「・・っ・・はぁ・・はぁ・・」  
 
唇を離すとそいつは肩で息をした。  
 
「・・はぁ・・ったく・・あんた・・殺す気?」  
 
予想外の言葉に俺は一瞬目を見開く。  
そいつはただ息を整えているだけで、押し倒された状態から抵抗すら見せない。  
 
「お前、抵抗しねぇのかよ?」  
 
俺の言葉にそいつはその真紅の瞳を俺に向け・・笑う。  
 
「・・お酒の所為よ」  
 
・・・あぁ。そうか。  
こいつと俺は似てるんだ。  
今気づいた。だから、俺はこいつに惹かれたんだ。  
 
そうさ、酒の所為にしちまえばいい。  
酔った勢いって奴だ。よくある話だろ?  
 
「俺もだ」  
 
俺はもう一度そいつに深く口付けた。  
そいつは俺の背中に手を回し、俺を受け入れる。  
 
首筋や頬にキスしながら、俺は既にはだけたそいつの浴衣の隙間から手をいれ、その胸の先端を強めに摘む。  
 
「んっ・・ふぅ・・んん・・っ」  
 
異様に感度がいいのか。そいつは声を上げる。  
最も、大きな声を上げれば隣に寝てるこいつの相棒やミリーナを起こしかねないことはこいつ自身よく分かっているから声は押さえ気味だ。  
 
そいつの服を脱がせるのは簡単だった。  
浴衣を脱がせて、俺自身も服を脱ぐ。  
 
「・・ルーク・・」  
 
無意識か、それとも意識してか。そいつが俺の名前を呼ぶ。  
俺は、反射的にそいつを抱きしめた。  
 
「リナ」  
 
初めてそいつの名前を呼んだ気がする。いや、気じゃなく、実際始めてだ。  
今、名前を呼んだ理由なんてない。ただ、呼びたかった。  
 
 
「ん・・ふぁ・・あっ・・!」  
 
すでに濡れたソコに指を入れる。  
ソコはあっさりと俺の指を飲み込んだ。  
 
「はぁ・・あ・・んっ!・・ふぁあ・・んん・・!!」  
 
必死に声を抑えようと自分の口に手を当てる。  
俺は開いた方の手でその手をどけ、無理やり口付ける。  
 
そいつの喘ぎは俺の喉に消える。  
 
「ん・・ふぅ・・ぐっ、んっ、んんっ・・んっ、んんん!!」  
 
指を早めに動かすと、そいつは簡単にイった。  
そこで唇を離す。  
そいつは空気を求めて肩を上下させた。  
 
そんなそいつの様子を見ながら、俺はベッドの脇からハンカチを手に取る。  
 
「あー・・・悪ぃ」  
「はぁ、え?なに・・が?」  
 
まだ呼吸が整っていないのか。そいつが切れ切れに言った。  
 
「あんまでかい声出すとバレんだろ。俺のでけぇし」  
「はぁ?馬鹿?」  
「うるせぇよ。だから、ほら」  
 
ハンカチをそいつの口に押し込む。  
それと同時に、俺は自身をそいつの中に入れた。  
 
そいつの瞳が俺を見た。  
 
「入れんぞ」  
 
俺が呟くと、そいつは俺の瞳から視線を離さずに小さく頷く。  
その瞳や仕草は既に『女』のソレで。  
 
つい数時間前までのこいつに対する感情が嘘みてぇに思えた。  
 
「ふっ・・んん・・・んっ」  
 
ズプリ、と音を立てて、俺のモノがそいつに入る。  
指とは違う圧迫感のためか、そいつは苦しそうに眉を寄せる。  
そんなそいつの表情を見て。  
めちゃめちゃにしてぇとか、そういう感情がどっかから噴出してくる。  
 
・・変態かよ、俺は。  
 
自分の感情に馬鹿以外のなんでもねぇと苦笑した。  
――あぁ、いいさ。こいつ相手に限定しちまえば。  
 
「んっ!?んっ・・んん!!ふぅ!んっっ!!」  
 
入れてすぐ、いきなり激しく動き出した俺に戸惑いが隠せないのか、そいつは一瞬目を見開いて、苦しそうに閉じる。  
後はひたすら、そいつを攻め続けた。  
 
「ん・・っ・・ふぅ・・っっ・・ん・・んんっ!んんんっっ!!!!」  
 
何度目だろうか。  
そいつが達すると同時に俺もイった。  
 
「はぁ、はぁ・・ん・・はぁ」  
 
動きを止めると、そいつは空気を求めて口のハンカチを取り上げた。  
頬を上気させ、その瞳から透明の液体が流れる。  
 
「泣いてんのかよ」  
「うっさいわね。別に泣きたくて泣いてる訳じゃないわ」  
 
ゆっくりと身体を起こし、そいつが手の甲で涙をぬぐう。  
俺はその光景を、ただ黙って見つめた。  
 
「あんた、激しすぎんのよ」  
「お前さんの相棒もこんなもんだろ?」  
「・・・馬鹿言わないで」  
 
いつもの挑発的な笑みとは違う、どこか遠くを見つめてそいつは笑った。  
 
「どういう意味だ?」  
「・・あいつは・・ガウリイはあたしの事、壊れ物かなんかだと思ってんのよ」  
「壊れ物?お前が壊れるようなタマかよ」  
「あいつに言ってやってよ、ソレ。あたしも、何度も言ってんだけどね。あたしは別に壊れたりしないから、って。  
 でもさ、あいつはあたしを抱く時、本当に優しく抱くの。ちょっとした事で壊れるガラス細工みたいに、さ。」  
「防弾ガラスのくせしてよ」  
「うっさい!」  
 
俺の言葉にそいつは怒って俺に蹴りを入れる。  
 
「ってぇな。それでも女かよ」  
「はいはい。あんたの麗しのミリーナと違って悪かったわね」  
「けっ、俺のミリーナと比べること自体が間違いなんだよ」  
「相手にされて無いくせに」  
 
そいつは笑った。  
いつもの笑顔で。  
 
「あ!もう夜明け!?あたし部屋戻るわ」  
「あぁ」  
 
先ほどまでの行為が嘘みたいに、俺達はいつもの『俺達』の関係に戻る。  
日の明かりに照らされたこいつはやっぱりガキで。  
 
「・・・・・ねぇ、ルーク」  
「なんだよ」  
 
不意に。  
 
「また一緒にお酒飲もうね?」  
 
本当に不意打ちだった。  
唇に当った物が何か分からず一瞬固まる。  
 
「んじゃ。また後でね」  
 
パタン  
 
静かな音を立てて、扉は閉まった。  
俺は未だに固まったまま。  
 
「・・・反則だっつーの」  
 
『また一緒にお酒飲もうね?』  
 
そう言った時のあいつの表情は、昨日の表情とまるで同じ物。  
 
「あいつの前でその表情したら、『壊れ物』なんて思わねぇよ」  
 
 
俺は誰もいない部屋で小さく呟き、あと数時間後、ミリーナが起こしに来るまで眠りに着く事に決め、ベッドに寝転がって瞳を閉じる。  
 
 
果たせるとも限らないあいつの約束の言葉が何度も耳に木霊した。  
 

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