プリーストが食堂でバイトを始めてから10日ほど経とうとしていた。
1週間で食事代と(ルナによって)壊れたイスの修理代は消えていたが、プリーストは何かと理由を作り、未だにこの食堂で働いているのだった。
黒いプリーストの姿に似合わぬ白いレースの付いたエプロンを腰に巻き、白い三角巾をかぶった姿も既に見慣れた姿になろうとしていた。
「おーい、こっちに酒追加〜」
夕方の食堂は既に酒場と変わりつつあり、声のした方へと美人のウェイトレスが駆け寄っていく。
「はいはーい。」
「おー、ルナちゃん今日もかわいいね〜今晩オレと一緒に、どう?」
既に出来上がっているオヤジはいやらしい顔を浮かべながらルナと呼ばれたウェイトレスのおしりへと手を伸ばした。
と、そこへプリーストが現れ、オヤジの腕を掴んだ。
「お客様、困りますね〜?ウチのルナさんに手を出されちゃ・・・」
声の調子は優しいが、殺気がこめられた瞳をオヤジに向ける。
ごわっしゃっ!!
いきなり物凄い音と共にゼロスの後頭部にルナのきれいな回し蹴りがきまる。
瞬間オヤジを掴んでいた手も離れ、ゼロスの体は床に叩きつけられた。
「お客になんつー目してんのよ、ゼロス!ここはいいから皿洗い行ってきなっ!」
「は、はいっ!」
ゼロスが奥へ引き下がるのを横目に見つつ、ついこの前起きた事を思い出した。
ゼロスが来た翌日、ルナにちょっかいをかけた客の何人かが、何故か三日三晩寝込んだと聞いたのだ。
ルナにはゼロスが精神世界から何かしたと思った。
それにしても、ゼロスがここに来た目的がたかだか人間を精神的に痛みつけるのが目的とは思えず、それも自分にちょっかいを出した人間ばかりが被害にあったのが気になり翌日にその事だけは忠告しといたのだ。
『無闇に人間に手を出すなら、ここから追い出すわよ?』と。
それ以来、被害に会う客はいなくなったのだ。
ルナはからんできたオヤジに向き直ると、
「ごめんね〜、まだ新人で慣れないんだわ。多めに見てやってよ♪・・・で、今夜のお誘いだけど・・・」
「いいいいいい、いやいやいや、る、ルナちゃんご、ごめん。きょ、きょ、今日はうちのカミサンの誕生日だったんだ・・・あは、あはははは。ま、また、こ、今度ね」
酒もすっかり醒めたオヤジは震える声で答えたのだった。
その怯えた目はゼロスでなく、ルナに対してだったのは言うまでもない。
辺りが既に闇に包まれた頃、ゼロスとルナは夜の担当と交代し仕事を終えた。
着替えを済ませたルナが外に出るとゼロスが戸口の脇で待っていた。
「オツカレ、じゃね」
素っ気無い挨拶をして別れようとするルナにゼロスは思い切って話しかけた。
「あの、ルナさん。お暇でしたらこれから少し付き合っていただけませんか?」
「ヒマじゃないからイヤ」
「・・・いや、あの、そんな即答しなくても・・・」
ゼロスが落胆する顔を見ながらルナはため息をついた。
魔族のくせにこういう仕草をするゼロスを心の中では面白がってもいたが、それを顔に出すほど甘くない。
何せゼロスは魔族だし(しかも相当高位魔族だろう)、どういう意図があるか分からないけが10日もここに居付いている割に何をするわけでもなく大人しく手伝いをしている。
コイツの魂胆は何なのか?
できれば関わり合いになりたくなかったルナは、この10日間ほど一緒の間は仕事以外の話は一切しなかった。
『そろそろコイツの話を聞くほかないかな・・・』
振り返ると、いつの間にかしゃがんで地面に『の』の字を書き始めたゼロスに話しかける。
「ホラ、行くよ。」
ゼロスが顔を上げ「えっ?」と言う顔をする。
ルナはまた前に向き直り先に歩き出す。
「少し、付き合ってやるって言ってるの。そこらの酒場いくよ。」
「は、はいっ」
さっさと歩くルナの後ろから嬉々とした声が付いてきた。
「で、何?」
ルナが声をかけたのは店に入ってから頼んだ酒の6杯目が半分ほどなくなった頃だった。
ゼロスの前にはすっかり冷めてしまったホットミルクが口をつけずに置いてある。
ゼロスはそれまでに何度も話しかけようと努力したのだが、口を開こうとすると何故かルナから異様なオーラが溢れてくるので黙っていたのだ。
「えーと、もう話してもいいんですか?」
恐る恐る聞いてみると、ルナの瞳がギロリとゼロスを睨み、机をだんっと殴る。
「聞いてるんだから、話しなさいよ」
また酒を口に含み始めたルナの目が少しすわっているように見えるが、この際見なかったことにしようと自分に言い聞かせ、真面目な顔で話し出したのだ。
「一緒に滅んでくれませんか?」
ぶしゃ。
ルナの含んだ酒は飲み込まれること無くゼロスの顔にぶちまけられた。
「な、な、なに言ってるの?突然・・・あー!!お酒もったいないじゃないのよっ!」
どこからか取り出したハンカチで顔をぬぐいながら、ゼロスは考えていた。
理不尽な事を言われても反論すらできずにいる自分の気持ちに確信を持った。
たかが人間ごときにこれほどまで自分が従っているのは何故なのか、それを知る為に、上司の命令にも従わずにルナの傍にいたのだ。
初日に会った時に感じたあの気持ち。
確認の為にわざと皿を割ったりして殴られること数回・・・
快感だと気づいた自分を半信半疑でいた。
それが、今やっと確認できたのだ。
認めたくはないが、自分はこの人間に惚れていると・・・
人間の恐怖や苦しみを糧にしている魔族(自分)がまさか、糧にしているものに快感を覚えるとは。
魔族にとっては滅びこそが最高の極みである。
それ故、ルナとの滅びを望んだのだ。
「人間(あなた達)風に言えば、プロポーズです」
ニッコリと微笑んでルナを見つめる。
「ど・・・どこがぷろぽぉずなのよ?あんた、私の事好きだったわけ・・・?」
ルナはゼロスに向き直ると、テーブルの上に両肘をついて掌を組んだ上に自分の顔を乗せ、引きつった笑いを浮かべた。
「ええ、まぁ・・・気づいたのは最近ですけど、一目惚れってヤツですよ♪」
フフと笑い、ルナの真似をしてテーブルの上に頬杖をつく。
傍から見たらテーブル越しに見つめ合うラブラブカップルのような図柄だが、よく見るとルナの額には血管が浮き出ていた。
そして、これはゼロスにしか見えないが、あの異様なオーラもだんだん大きくなりつつあり、それに比例してゼロスから大量の冷や汗も出ていた。
「死ぬのはごめんだわ」
先に口を開いたのはルナだった。
「・・・でも、人間同士の付き合い方でなら、一回くらい相手してあげてもいいわ」
ゼロスを威嚇していたオーラもだんだんと小さくなっていく。
「人間同士の付き合い方・・・ですか?」
「そう。人間(私たち)の方法でなら付き合ってやってもいいっていってんのよ。ちなみに、アンタの選択肢にはさっさと自分の世界に帰るってのも残ってるけどね。他はないわよ?」
力のこもった瞳で念を押す。
ゼロスは本気で戦ったとしてもルナに勝てないことは分かっていた。
それがルナに惹かれる理由の一つだとも思っていたのだ。
ルナと滅べなくとも、ルナの望む方法でルナを愛せるならそれでもいい。
ゼロスは席から立ち上がると、指をパチンと鳴らした。
途端に、周りの景色が止まる・・・ルナとゼロスを残して。
「これでいいですか?」
「ふぅん。本気なんだ?じゃ、とりあえず二階行きましょ。」
ルナもテーブルに手をつき立ち上がる。
「二階、ですか?」
「そ。ここ、二階は宿屋なのよ。一部屋くらい空いてるでしょ。こんな所でするなんてヤダもの。」
「分かりました・・・・けど、なんでお酒も持っていくんですか・・・?」
ルナは周りが止まってるのをいい事に他のテーブルの客の酒を両手にいっぱい抱えていた。
「・・・ナイトキャップは乙女のたしなみじゃないのよ。それにね、魔族とエッチするのに酒でも飲んでなきゃやってらんないっつーの」
「いや、まぁ、いいですけど・・・」
「じゃあ、行くわよ」
持てるだけの酒を持ち二階へと続く階段に歩いていくルナをゼロスは急いで追っていった。
ルナは空いてる部屋を見つけると酒をテーブルに置き、さっさとシャワーを浴びに行ってしまった。
ベッドに座って待っていたゼロスは考えていた。
魔族には誰かを愛するなどという考えはない。
ルナを好きになってしまったゼロスは人間同士の愛し方など知らない。
「・・・ルナさんの言う人間同士の付き合い方ってどうすればいいんでしょうねぇ〜」
独り言を言ったその瞬間、シャワールームの方から声がした。
「なんだ、アンタ、セックスの仕方も知らないの?」
「え、ええ、まぁ。」
「そ、じゃあ、教えてあげるわよ」
ルナはテーブルまで来ると乗っていた酒のジョッキを一つ一気に空けると、バスローブを脱ぎテーブルの上に乗せる。
露になった白い肌を気にもせず、そのままゼロスの座るベッドの脇までくるとプリーストの服へ手をかけた。
「あの・・・キスって言うのはしないんですか?」
「私はね、エッチの安売りはしても、キスの安売りはしないのよ」
ルナはゼロスのゴテゴテと着込んだ服を丁寧に剥がしていく。
「ところで、アンタ、人間の体を忠実に再現してるんでしょうね?」
しゃがんで下着をめくりながら、ゼロスの下半身をむき出しにする。
「ええ、大丈夫です。」
何をするのか・・・と疑問に思いながらもゼロスはルナのするままに従っていた。
「あら、結構リッパなモン持ってるじゃないの。人間の男はね、ここが一番敏感なのよ?」
ゼロスの肉棒を手に取り、ルナはそれを手でしごき始めた。
するとゼロスのそれはどんどん自分を主張するかのように大きくなり始めた。
「ふふん。なんか感じる?」
「え・・・ええ、気持ちいいですね。ゾクゾクします」
「そう、じゃあ、問題ないわね」
そう言うと、ルナはゼロスをベッドに押し倒し、彼の肉棒を口に含んだ。
「あっ」
思わず声が漏れるゼロス。
今までに感じたことのない感覚がゼロスの体を捕らえた。
ルナの咥えている部分に、次第に意識が集中していく。
ルナの口は肉棒を咥えながら上下に動き、舌をうまく使いながらゼロスを初めての絶頂へ導いたのだった。
「・・・こ、これがセックスですか・・・?」
ルナは口の中に放たれた液をゴクリと飲み込むと、唇の端からこぼれた液を舌で舐めとった。
「何言ってるのよ・・・まだまだこれから!ま、元気になるまで、今度は私の番ね」
ルナはゼロスの体の上に跨ると、ゼロスの片方の手を取り自分の胸にあてた。
ゼロスは恐る恐るルナの胸を揉んだ。
「やわらかい・・・これは?」
乳房の中の硬くなった乳首を見つけるとゼロスがつまんでみる。
「いたっ・・・ったく・・・女の体はもっと優しく扱うものよ」
「すいません」
今度は優しく指先でそれを弄る。
「ん、んっ〜・・・そう、そんな感じ。口でやってもいいのよ、さっき私がやったように、舌を使って、優しく、ね」
ゼロスはルナの下に潜り込むと白くやわらかい乳房に顔を近づけ、ルナの言うとおり舌でそっと舐めてみた。
ルナの体からは甘いような、なんとも言えない香りがゼロスの鼻をついた。
「はぅっ・・・猫、みたい・・・」
ふふっと笑い、ルナはゼロスの手を下半身へと導く。
「口はそのまま、ね。手はこっち。」
既に蜜が零れ始めている方へゼロスの指を押し付ける。
「なんとなく・・・要領が分かったような気がします。私の思ったようにしてもいいですか?」
「ん・・・んふぅ・・・い、いいわ」
ルナの教えた場所が人間の感じる場所だと理解すると、ゼロスは上に乗っているルナごとゴロンと向きを変えると、今度は自分が上になった。
片手でルナの乳首を弄びながら、体を少しずつ下にずらしていく。
濡れた部分まで辿り着くと、ゼロスは突起している肉芽の部分を舐めてみる。
びくんっ
ゼロスはルナの反応を見て肉芽を攻めてみたり、蜜の流れる中に舌を入れてみたりした。
探りながらもゼロスはルナの敏感な場所を見つけ出し、ルナの声に反応して自分のモノがまた膨らみ始めた事に気づいていた。
「ア・・んん〜・・・い、いい・・・」
肉芽の下からはどんどんと蜜が流れ出してベッドに染みができ始めていた。
「ぜ・・ゼロス、ゆ、ゆびいれ・・・て」
「いや、こっち入れます」
ゼロスは既に復活している肉棒を差してニッコリと笑った。
「!! って、いきな・・・アッ・・ンン〜・・・」
ルナが驚いて起き上がろうとした瞬間、両足を取られルナの中にゼロスの肉棒が突き上げられた。
十分に濡れていたそこはゼロスの肉棒をしっかりと咥え込んだ。
「ふ、ふつうはぁ〜・・・さ・きに・・指入れて、ならすもんなのよぅ・・・」
「ルナさんの中は拒否してませんよ。それに、すごく気持ちいいです。」
セックスの仕方なぞ知る筈もないゼロスが、ゆっくりと腰を動かし始める。
両足を腕で挟み、手は胸を揉みしだく。
だんだんと早くなっていく腰の動きにルナはよがり始めた。
「やぁ・・・ン・・・はぁっンン・・・気持ち、いい。も、もっと奥まで・・・」
「くっ・・・ル、ルナさん・・・」
「ンっ・・・ふあぁっっ・・・」
激しい腰の動きにルナは頂点に達し、ゼロスもルナに続いて中に放出した。
「ま、初めてにしてはまぁまぁな方だったわね」
バスローブを羽織りベッドに腰掛け、テーブルの上ですっかりぬるくなった酒を飲みながらルナが言う。
「ありがとうございます・・・。最初で最後ですが、あなたとセックスできてよかったですよ。人間同士の愛し方があんなに気持ちの良いものとは知りませんでしたよ」
ゼロスはベッドに寄りかかったまま、ルナの後姿を見ていた。
「あ・・・?何言ってるの?後5回はするわよ?」
振り返ったルナの顔がニヤッと笑う。
「ぇ!?ご、5回・・・ですか?で、でも、『一回だけなら』って言ってませんでした?」
「一回って言うのは一晩って事よ。さ、まだまだ勉強させてやらないとね♪」
そう言うとベッドに寄りかかるゼロスに近付き、顔を覗き込むとゼロスの唇に自分のそれを重ねた。
「キスの安売りはしないんじゃなかったんですか?」
「もちろん、安売りはしてないわよ」
ニコっと笑ってルナはゼロスの乳首を弄りはじめた。
結局、合計8回もヤった二人は翌朝、目にクマを作って一緒に仕事へと出かけたのだった。
ルナ達が泊まった宿屋では時間が止まったままの客が、翌朝混乱に陥っていた。
ゼロスの止めた時間はどうやら宿屋だけだったとルナが知った時、ゼロスの腹に強烈なエルボーが落ちるのだった。
「今日はお仕置きね・・・」
耳元で囁かれた言葉に思わず冷や汗が流れるゼロスだった。
<Fin>