ゼフィーリアの食堂にて。
「いらっしゃい。なんにします?」
短いスカートに胸を強調する格好のエプロン姿の女性が、新しく席についた客に声をかけた。
「ええ、それじゃあ・・・ここのおススメを・・・・あれ?」
メニューから顔を上げた黒いプリーストは驚きの声をあげた。
かつて関わりをもった人間の少女に似てる気がする。
「なにか?」
ウェイトレスの女性は怪訝そうな顔をして聞き返した。
直感的に、嫌な感じがした。
プリーストの格好をしているくせに黒い衣装とはどうなのか?
不信感が募るが、接客業に個人意見を入れてはいけない、平然なフリをして笑顔を作った。
「いえ、昔の知り合いに似ていたものですから・・・。」
黒いプリーストは微笑むとかるくお辞儀をした。
「ご注文は、『本日のオススメ』でよろしいですね?少々お待ちください」
ウェイトレスの女性はメニューを取るとそのまま店の奥に行ってしまった。
まるで、少しでも関わり合いになるのを避けているように。
しばらくすると先ほどのウェイトレスの手によって『本日のオススメ』が運ばれてきた。
黒いプリーストは思い切って話しかけた。
「あの・・・あなたのご親戚に『リナ=インバース』という方はいらっしゃいませんか?」
ピクッ
一瞬、料理を置く手が止まる。
「・・・いえ、知りません。・・・・こちらが、本日のオススメの『ナジャトフの姿丼』です。では、失礼します。」
ウェイトレスはマニュアル通りに料理の説明をすると逃げるようにクルリと向きを変えて行こうとしたが、黒いプリーストがすばやく彼女の腕を掴んだ。
「・・・あなた・・・リナさんのお姉さんですね?」
ウェイトレスがドキッとして振り返ると、顔は笑っているのに、目だけが真剣なプリーストがこちらを見ていた。
「・・・あんただって魔族でしょ?」
今度はプリーストの眉毛がピクリと動く。
「さ、さすが、リナさんのお姉さんですね。私の正体を見破るとは。驚きました。」
「あんた、ここで何かするつもりなら、私が相手するけど・・・?」
キッと睨まれ、プリーストは思わず掴んでいた彼女の手を離した。
彼女には何か強い力を感じる。
そう、リナよりも強い存在が彼女の中にあるのを感じたのだ。
「すいません。別に何をするつもりもないですよ。あなたを敵に回すのは危険そうですからね。」
にっこりと微笑むと、いただきますと言って運ばれてきた料理を口にし始める。
ウェイトレスは、魔族のくせに人間の食べものを食べるなんて・・・と少しプリーストに対して興味が沸いてきた。
ちょうど店もヒマな時間だった為、客もほとんどいない。
ウェイトレスはプリーストに向き直すと、質問した。
「ねぇ、あんた、なんでこんなもん食べてんの?」
「・・・こんなもんって・・・自分の店の料理を・・・」
「意味、分かってんでしょ?」
それは、人間のマイナス感情を食べている魔族が、必要もないのに何故人間の食べものを食べているのか?と言うことだった。
「それは・・・ヒミツで・・ぐわっ!!!」
ニッコリと笑みを返すプリーストの顔には、セリフが終る前にウェイトレスによるパンチが炸裂していた。
勢いでイスが壊れ、転げ落ちたプリーストがウェイトレスを振り返ると、体から異様なオーラが出ているのが見えた。
逆らってはいけない・・・・
そう強く感じたプリーストは口早に説明をする。
「じょ、上司の命令で・・・ちょっとここら辺に支部とか作っちゃおうっかなーって事で、視察に、ですね・・・」
「却下っ!」
オーラに威圧されながらプリーストは心の中に何か熱いものを感じ始めていた。
「は、はい。そうですね、やめましょうね。あなたの言うとおりです。」
プリーストの中にはウェイトレスに対する恋心ができ始めていたが、本人はそれには全く気が付いていなかった。
「これ以上、怒らせたくなかったらあんたもさっさと消えたらどうなのよ?」
「いや・・・私も仕事ですから・・・」
ごわしっ!
プリーストの頭上にウェイトレスの鉄拳が落ちた。
体の中の熱い部分がドクンドクンと脈を打っていた。
彼女からの仕打ちが、何故か心地よい。
もう少し、ここにいたいと思わずにはいられなかった。
「あの、上司の手前、私もすぐに帰ることはできませんし・・・それに、実は私は一文無しなのです。こちらの料理の分と、それに壊したイスの修理代の分、こちらで働いてお返しすると言うのはダメでしょうか?」
そして、ゼフィーリアの食堂には美人のウェイトレスと黒いプリーストが働いていると言う・・・。
プリーストの恋は前途多難なのは言うまでもない。