「ゼルガディスさん・・・」  
自室の窓辺にもたれ雲ひとつない青空を眺めながら、アメリアはどこにいるかも分からない想い人の名を口にする。  
セイルーンの王宮はいつも退屈で、あのとんでもない女魔道士と光の剣士、そして冷たい岩の肌を持つ人と一緒に旅した頃が懐かしく思われた。  
旅を共にするうちに、銀の髪を尖らせ人を近寄らせないような雰囲気を放った無口な彼の不器用な優しさを知り、次第に惹かれていった。  
そして、たった一夜ではあったがアメリアの気持ちに応えてくれた男、セルガディス。  
 
 
旅の途中で訪れた町は、これと言った名所もなかった。  
ただ、世界でも有名な珍味の産地であった為、観光客も多く宿屋も規模が大きくて豪華と言うくらいに充実してる所が何軒も連なっているほどだった。  
陽も傾きかけた頃、到着した旅の仲間達は2階建ての白い宿屋にチェックインすると、すぐに珍味を味わうべく早めの夕飯をとった。  
連れの女魔道士と光の剣士は宿屋の夕飯だけでは物足りなかったらしく、ここぞとばかりに珍味の食べ放題に出かけてしまった。  
夕飯だけでもそれなりの質と量があった為、アメリアとゼルガディスは宿屋に残ることにした。  
今回は町に入る前に、女魔道士曰く『副収入(盗賊いぢめ)が思ったよりよかったから、奮発しちゃいましょ♪』という事だったので、いつもなら男女一室ずつの所を、一人一人別々の部屋を取っていたのだった。  
 
「ゼルガディスさん、入ってもいいですか?」  
アメリアは普段よりも高価な作りの扉の前に立つと扉をコンコンッとノックした。  
『さすがに珍味で国が潤っているのか、普通の宿屋とは思えない作りだわ。』  
先ほどまでいた隣の自分の部屋も手彫りの装飾が施された立派なドアだったが、部屋により多少なりともデザインが違うようだ。  
自分が何故ここにきてしまったのかを考えない様に、ノックした扉をまじまじと見つめていると、突然扉から声がする。  
「ああ、開いてる」  
扉の向こうから聞こえてきた声に緊張しながらも静かに扉を開けた。  
「!!!・・・きゃあっ!」  
目の前に腰にタオルを巻いただけのゼルガディスが、まだ雫の垂れる髪をタオルで拭いていた。  
「あ?何が『きゃあ』なんだ?―――ていうか、お前、人の部屋来るなり騒がしいぞ」  
「だだだだだってっ!!ゼ、ゼルガディスさんこそ、レディの前でなんて格好をしてるんですかっ!」  
顔を両手で隠しつつも、指の隙間からしっかりとゼルガディスの様子を伺うアメリア。  
部屋の作りは同じらしく、入り口の右手にはユニットバスの扉があり、真正面にはソファが見える。  
アメリアの部屋と全く同じならば、ソファの見える奥の部屋には、お茶を沸かす程度の簡易キッチン、ベッドとサイドテーブルが置いてあるはずだ。  
「・・・だっても何も・・・シャワー浴びてたんだから仕方ないだろう」  
そう言いつつもアメリアに指摘され、さすがに女性の前でいる格好じゃないなと気づいたゼルガディスの顔が赤く染まる。  
とりあえず奥のベッドまで行くと、上に置いてあったバスローブを羽織り戻ってくる。  
壁にもたれ腕を組むと、わざとらしくコホンッと咳払いした。  
「何か用なのか?」  
「・・・あ、あの―――・・・・・・・・・す」  
決死の覚悟でここまで来たというのに、頭の中のセリフが上手く言葉として発せられない。  
緊張で顔は真っ赤になり、そんな顔を見せる訳にもいかず、ただただ俯きながらアメリアは必死で頭の中でセリフを繰り返していた。  
 
「全然聞こえないんだが・・・」  
呆れ顔で頭を掻きながら、仕方ないなと言わんばかりにアメリアの傍まで近付く。  
「今、なんて言ったんだ?」  
すると、アメリアが今にも泣き出しそうな顔でゼルガディスの顔を見上げた。  
「わ、私、ゼルガディスさんが、好きなんですっ!」  
アメリアの目にはうっすらと涙が浮かび上がってくる。  
ゼルガディスは冗談のようなセリフには似つかわしくないアメリアの表情に戸惑っていた。  
「いや・・・あの・・・なんだ・・・突然。と、ともかく泣くな」  
首にかけていた、先ほど髪を拭いていたタオルを無理矢理アメリアに押し付ける。  
「・・・濡れてますぅ」  
湿り気を含んだタオルを握り締め、ゼルガディスに抗議するアメリア。  
「あ、ああ、悪い・・・。さっき髪拭いたタオルだったな。ちょっと動転してた。まぁ、とにかくちょっと落ち着け。そんな所に立ってないでこっちこい」  
ゼルガディスが横からタオルを掠め取ると部屋の奥に行き、アメリアにはソファを勧め、新しいタオルを放ってやる。  
アメリアが渡されたタオルで涙を拭っている間に、部屋に備え付けられてあったお茶を二人分用意すると、一つをソファの横のサイドテーブルに置き、ゼルガディスはカップを持ったままソファに向かい合うように置かれているベッドに腰掛けた。  
 
「それで・・・?さっきのはどういう意味だ?」  
お茶を2口ほど飲んだ後、ゼルガディスが口を開いた。  
言葉の意味をそのまま受け取れず、アメリアの真意を問う。  
「・・・だから、あの・・・一度でいいから・・・私を抱いてくれませんか?」  
「ち、ちょっと待てっ!なんでいきなりそうなるんだっ!!!」  
突然の申し出に動揺が隠せず、手の中のカップが落ちそうになるのをかろうじて防ぐ。  
「私は、セイルーンの第一王子の娘です。いつかは私もそれなりの身分の者に嫁ぐ事になると思うんです。」  
『ああ、そうだった・・・このやんちゃなお嬢さんは一応お姫様だったんだっけな』  
アメリアの話が続く中、ゼルガディスがそんな風に考えていた。  
「でも、私、本当はそういうのは嫌なんです・・・。かと言って自分の身分は変えられません。ならば、最初に好きになった人には自分を捧げようって・・・」  
「・・・俺が最初だった、って事か?」  
ゼルガディスの言葉に静かに頷く。  
「―――やめとくんだな。俺は人間の体をしていない・・・。それに、俺みたいのが最初だと後悔する羽目になるぞ?」  
自嘲気味に笑いながら、このまま引いてくれることを願う。  
「いいんです。このまま好きな人とも何もせぬまま、自分が嫁ぐのを待つなんて、嫌なんです。」  
真っ直ぐな瞳で自分を見つめ、純粋な気持ちをぶつけてくるアメリアにゼルガディスは視線を逸らすことしかできなかった。  
「とにかく、俺にはどうすることもできん。分かったら自分の部屋へ戻れ。」  
静かにそう言うと、ゼルガディスはアメリアの顔を見ずに、既に日が落ちて僅かに青紫に染められた空が見える窓の方へ行ってしまう。  
しばらくすると、ソファから微かな音が聞こえ、入り口の方へ向かって行く。  
『・・・諦めたか・・・』  
安堵感と共に何か喉に引っかかる物があった。  
それを消してしまおうと、手元で冷めきってしまったお茶を一気に流し込む。  
 
カチャリ  
鍵の閉まる音がした途端、部屋の明かりも消える。  
「なんだ?」  
驚いて振り向くと、部屋の入り口に誰かが立っている。  
目が慣れてくると、暗闇の中に白い肌が浮き出たアメリアの姿があった。  
ソファの上にはキチンと服がたたんで置いてある。  
「な、なにやってるんだ!部屋へ戻れと言っただろう!!」  
「戻りません。自分勝手と言われるのは覚悟してます。でもっ!今夜だけ、今夜だけは私をリナさんだと思って抱いてくれませんか?」  
そう言うと、アメリアは窓から差し込む月明かりの中まで進んでくる。  
いつの間にかその姿を強調し始めた月の明かりは、アメリアの白い肌を一層に白く見せた。  
女魔道士――リナと呼ばれる女にゼルガディスは確かに横恋慕していた。  
横恋慕・・・リナはすでに光の剣士であるガウリイとそういう関係になっているからだ。  
今日の部屋割りもゼルガディス、アメリア、リナ、ガウリイという並びになっていた。  
情事が行われたとしても声が漏れないように配慮したつもりなのだろう。  
本人達が気づいていないだけで、旅の仲間には知った事実だった。  
だからこそ、今までの旅で男女一部屋ずつの時などは、アメリアもゼルガディスも二人に配慮して、無意味な夜の散歩をする羽目になっていたのだ。  
「お前・・・いつから気づいていた?」  
全裸のアメリアを直視できず、うつむき加減に尋ねる。  
「・・・一緒に旅をするようになってすぐ・・・。そうなんじゃないかな?って思うようになってから注意して見てるとすごく分かりました」  
ゼルガディスは音もなくため息をつくと、また窓の外へと視線を戻した。  
 
『俺は、どうしたらいい・・・。俺がアメリアを抱いたとて、それは俺にとってはリナの代わりにしか過ぎん。もう、手には入らないアイツの代わりに・・・。  
アメリアはそれを承知で俺に抱けと言っている・・・。  
―――くっ・・・何を考えているんだ、俺は・・・。  
そもそも、こんな化け物の体で人を抱くなんぞ馬鹿な考えなんだ』  
「服を着てさっさと――」  
『部屋へ戻れ』と言いかけたゼルガディスが振り返ろうとした瞬間、後ろから小さな手がゼルガディスを抱きしめていた。  
コンッ  
思わずゼルガディスの手から落ちた空のカップを、部屋に敷き詰められた絨毯のクッションが受け止める。  
背中越しに感じる二つの胸、リナと違うその豊かな胸が自らを主張するかのようにゼルガディスの背中を押しつけ、既に硬くなった二つの頂点をゼルがディスは感じていた。  
ゼルガディスの体は無意識に反応していく。  
「―――抱いて」  
背中から聞こえる小さな声に、ゼルガディスは理性を抑えることができなかった。  
『ゼル、抱いて』  
頭の中で、自分のものには絶対ならないリナの声とアメリアの声が重なる。  
「・・・リ・・ナ・・・」  
ゼルガディスは自分の腰に回っている華奢な腕を掴むと、自分に引き寄せるようにして抱きしめる。  
「―――後悔してもしらないぞ・・・」  
そう呟くと、アメリアの体ごと一気にベッドへ倒れこんだ。  
ゼルガディスの腕の中で小さく頷くアメリア。  
「後悔はしません。リナさんの代わりでもいいって―――」  
言いかけた口をゼルガディスの唇が塞いだ。  
 
どんなに欲しても手に入らない女を想って、飢え渇いた欲望を満たすようにアメリアの唇を執拗に求める。  
ゼルガディスの貪るようなキスにも必死でついていこうと、自らも舌を絡めるアメリア。  
「っはぁあ」  
長いキスから解放され、一気に空気を吸い込むアメリアにかまわず、ゼルガディスの唇は首筋をなぞり、鎖骨へと落ちてくる。  
左手はアメリアの乳房を掴み、人差し指でその先端を弄ぶ。  
「アァッ!」  
初めて誰かに触られる胸はその愛撫に敏感に反応していく。  
体は仰け反り、思わず声が漏れた。  
それに構わず、ゼルガディスの唇はもう片方の乳房へと下りていき、硬くなっているその先端を口に含んだ。  
舌で転がし、唇で挟む。  
「い・・・やぁん・・・はぁ・うん・・・」  
決して拒んでいる言葉ではなく口から紡ぎだされる声にゼルガディスは尚更興奮していく。  
空いてる手は躊躇せずにアメリアの秘所へと潜り込む。  
一番敏感な場所を探りあてると、ゼルガディスの指は乱暴に弄る。  
「痛ッ・・・」  
触られる事に慣れていないアメリアのそこは、ゼルガディスの行為に体が拒絶し始める。  
「―――悪い・・・初めてだったな・・・」  
そう言うと、今度は優しく周りから馴染ませるように指で愛撫する。  
そのすぐ下からは愛液が溢れ出し、アメリアの足をつたっていた。  
「あ・・・ンン・・・」  
ゼルガディスが乳房から離れると、突然アメリアの両足を自分の肩に乗せる。  
アメリアの火照った体にはゼルガディスの冷たい岩の肌が心地よく感じた。  
ゼルガディスは先ほど自分が指で愛撫していた場所に顔を埋めると愛液を下から舐め上げた。  
 
「やぁっっあああ」  
指とは違い、濡れた軟らかい舌がアメリアを快感に導いていく。  
そこへ、突然の違和感。  
膣の中へ入っていく異物に、アメリアの体はビクンと反応する。  
「いっ・・・たぁっ・・!」  
舌での愛撫を続けながら、ゼルガディスは人差し指をアメリアの中へと沈める。  
既に溢れ出ている愛液によって、ゼルガディスの指は本数を増やしてもなんなく飲み込まれていく。  
膣の中で指を動かされる度にクチュクチュと音がする。  
アメリアの中での痛みは、自分の中でたてられる音に反応して、今までに感じた事のない快感に変わっていった。  
「・・・はン・・・あ・・・ゼル・・・き、て・・・」  
わざと『ゼル』と呼ぶアメリアの言葉に、ゼルガディスは頷く。  
「・・・リナ・・・」  
聞こえるか聞こえないかの声で囁く。  
ゼルガディスは空いてる手でバスローブの紐を解くと乱暴にそれを脱ぎ捨て、いきり立っているモノをアメリアの秘所へと押し付ける。  
「痛いぞ・・・」  
「は・・・ぅ・・・大丈夫、きて・・・」  
ゼルガディスの中でアメリアの姿がリナと重なり、勢いに任せてアメリアの中にねじ込んだ。  
『ずっと・・・ずっとこうしたかった・・・リナ・・・』  
「ひぁっ!!アぁ・・・んはっあン!!」  
痛みに堪えきれず声を上げ、見開かれた大きな瞳からは涙が溢れてくる。  
ゼルガディスがアメリアの声に我に返った。  
『そうだ・・・こいつはアイツじゃない・・・。アイツの代わりでもいいと言って俺に抱かれてるアメリアなんだ・・・』  
そう思いながらも締め付けられる膣の中で体は止められない。  
初めてのアメリアを思い、ゼルガディスはゆっくりと動き出す。  
『ゼルガディスさんとひとつになれた・・・』  
ゼルガディスの心とは裏腹に、アメリアは喜びに満たされていた。  
ゼルガディスが自分を通してリナを見ている事は分かっていた。  
アメリアにとっては、それでもよかったのだ。  
多分、こうでもしない限りゼルガディスと結ばれる事はなかっただろう。  
ゼルガディスとてリナと結ばれる事があるとは思えない。  
自分と、そして慰みでもゼルガディスを満足させることができるならば・・・と。  
 
次第に動きが激しくなるにつれ、どんどんと思考は薄れ、快感に意識が朦朧としてくるアメリア。  
「あっン、ンン・・・」  
動きに合わせて声が漏れる。  
結合部からは、抜き差しされる度にぐちゅぐちゅといやらしい音が聞こえてくる。  
その音が二人を益々感じさせていった。  
どんどんと激しさは増し、奥へと突き上げられるとアメリアが頂点を迎えた。  
「やぁああああっンン〜!!」  
「アメリアっ!!」  
ゼルガディスもすかさず、中から引き抜くとアメリアの腹の上へ白濁した液体を放出した。  
先ほどまで力の入っていたアメリアの足から力が抜け、ゼルガディスの肩から滑り落ちる。  
アメリアは意識の薄れていく中でゼルガディスが自分の名前を叫んだのが聞こえたが、確認する間もなく夢の中へと堕ちていく。  
ゼルガディスもそのままアメリアの横に寝転がり、隣で疲れきって眠ってしまった少女の顔を見つめた。  
 
 
少し休んだ後、眠っているアメリア顔を覗くと目尻の涙の筋に気が付く。  
「・・・乱暴にして悪かったな・・・」  
まだ乾ききっていない涙を手のひらで拭い取るとアメリアの唇に自分の唇を重ねる。  
「ありがとな・・・アメリア」  
アメリアの腹に放った後始末をすると、その体に布団をかけた。  
ゼルガディスは脱ぎ捨てたバスローブを羽織ると、窓辺に近寄る。  
先ほど落としたカップを拾い上げると、窓の外に見慣れた姿が見えた。  
宿屋の方に向かって歩く二つの影が途中で立ち止まり、重なる。  
『場所くらい選べんのか・・・あいつらは・・・』  
今まで二人が仲良く並んでいる所など目を逸らしてしまうゼルガディスだったが、何故か素直に受け止めている気持ちに気づいた。  
ベッドで寝息を立てているアメリアを見ると、何故か心が安らいだような気がして顔が緩む。  
「さて、そろそろ起こして部屋に戻さんとな・・・。あいつらにバレたらなんて言われるか分からん」  
バスローブの紐をちゃんと縛ると、ベッドに近寄りアメリアを起こしにかかった。  
 
 
 
おしまい。  
 

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