〜ゾルフの逆襲<陵辱あり>〜  
 
しばらく人が立ち入っていないのであろう、古い教会の礼拝堂らしきガランとした部屋。  
その中央で、あたしは両腕を頭の上で縛られて、異形の者たちに囲まれていた。  
岩のような肌と金属質の髪の青年、ゼルガディス。  
狼の頭を持った下品な言葉遣いの獣人、ディルギア。  
魚にそのまんま手足をつけた感じの不気味な半魚人、ヌンサ。  
そして、ミイラ男よろしく、全身にびっしり包帯を巻いた三流魔導士、ゾルフ。  
あたしは、とある事情によって彼らと争い、色々あった末にこうして捕まってしまったのだった。  
「おれはいやだぞ。ぴーぴー泣きわめく女を抱くなんて、趣味じゃないからな」  
「……そんなぁ……」  
慌てた感じのゼルガディスの台詞に、ゾルフは泣きそうな声を出した。  
このゾルフって奴は、あたしに「三流」呼ばわりされた事が、よっぽど気に障ったらしい。  
それでその腹いせに、あたしにすけべーこまさせるつもりでいたのだ。  
だけど、ディルギアは美的感覚の違いから、ヌンサは生殖方法の違いからアウト。  
当のご本人は、あたしの魔法で見た目どおりの重症なため、激しい運動はとても無理。  
そして最後の望みだったゼルガディスにも断られ、もはや万策尽きてしまったらしい。  
ええいっ! めそめそするなっ! 子供じゃあるまいしっ!  
途中で貞操の危機に怯えたりもしたものの、安心したとたん、いきなり強気になるあたしだった──が。  
「しかたがない。別の手で行こう」  
そう呟くと、ゾルフはあっさり立ち直り、いやらしい笑みを浮かべる。  
ふたたびぶり返したイヤな予感に、あたしの背筋がぞくっと寒くなった。  
 
「さて、それでは……」  
「ど、どーする気よ! 黙ってないで何とか言ったらモグッ!」  
ゾルフは大きめのハンカチ程度の布を取り出すと、無言で背後に回ってあたしの口に猿ぐつわを噛ませた。  
少しいがらっぽい布の味が舌に広がり、あたしはんむんむと呻くことしか出来なくなってしまう。  
ハンカチを頭の後ろできつく縛りあげると、ゾルフはもったいぶった足取りであたしの前に戻ってくる。  
「さあ……、これで泣きわめくどころか、しゃべる事もできまい」  
「おい。断っておくが、いくら泣き声が出せなくとも、おれは手を出す気にはならんぞ?」  
「へっへっ。わかってますよ」  
釘を刺すゼルガディスに、ゾルフは舌なめずりをしながら答えた。  
だから、そのスケベったらしい目付きであたしを見ないで欲しいんですけどこの三流。  
そう言ってやりたいけれど、あいにく口を塞がれた今はそれも無理な話だ。  
「さて……。ディルギア、こいつの後ろに立て」  
「あ、ああ、そのくらいはいいけどよ……。今度は何をやらせようってんだ?」  
いぶかしげに問い掛けながら、ディルギアは言われた通りにあたしの背後へ歩み寄る。  
うん、それはあたしも聞きたい。いったいコイツなにをさせる気?  
「なに、大した事じゃない。──そこから、そいつの胸を揉め」  
「はぁっ!?」  
「んう!?」  
呟かれたゾルフの台詞に、あたしとディルギアの驚きの声が見事に重なる。  
ちょっとっ! それじゃさっきまでと全然手口が変わってないでしょーがっ!  
そう思ったのはあたしだけではないらしく、ディルギアは疲れきった口調でゾルフに反論した。  
 
「あのなぁ……。だから、こんなの相手にそんな気にゃならねえって、さっきも言ったろうがよ?」  
「別にお前がその気になる必要などない。問題は、やられたこいつがどう感じるか、だ」  
「そうは言ってもよぉ。ンな変態じみた真似、何もオレにやらせるこたぁねえだろうが」  
そうだそうだ! 頑張れディルギア、変態三流魔導士なんかに負けるなっ!  
あたしは心の中で、気乗りのしない様子のディルギアに向けて、懸命にエールを送った。  
やたらと感情の沸点が低いゾルフは、そんな態度にまたもやいきり立つと、声を荒げて怒鳴りだす。  
「その位してくれたっていいだろうがっ! 牛の乳搾りでもするんだと思っとけっ!」  
「いや、そんなのした事ねえし。大体こいつの胸に、揉めるトコなんてほとんどないぜ?」  
コロス。  
あ、いや、トートツに殺意なんて覚えてる場合じゃない。  
何しろ、あたしの純潔が守られるかどうかは、ディルギアの胸先ひとつにかかってるんだ。  
祈るような気持ちで頭越しの口論を聞いていると、ゾルフは突然わざとらしくうなだれて見せる。  
「……そうかよ。お前って奴は、大怪我した仲間のささやかな願いすら、聞いてくれないんだな……」  
「え、あ、いや、そういう言い方をされるとだなぁ……」  
「冷てえよなぁ……。ああ、仲間の無情さが、身体の芯まで染み込んでくるぜ……」  
「うっ、うう……」  
でえぃっ! いいトシこいたオッサンが拗ねるんじゃないっ!  
あっこらディルギア、あんたもなに押されてんのよ! 獣人としての誇りはどーしたっ!?  
「──だあぁっ! わかった、わかったよ! やりゃあいいんだろやりゃあ!」  
「ふむうぅぅっ!?」  
いいワケないでしょこのバカあぁぁっ!  
ヤケになって怒鳴るディルギアの言葉に、あたしは力いっぱい抗議の呻き声を上げた。  
 
「おお、そうか、やってくれるか! いやぁ、やっぱり持つべきものは思いやりのある仲間だよなぁ!」  
「ったく、言ってろよ」  
「んむーっ! もごーっ!」  
現金に瞳を輝かせるゾルフに、ディルギアは忌々しげに毒づき、あたしの背後で身動きする気配を見せた。  
やだ、ちょっと! お願いだから誰かたすけてぷりーづ!  
そうだ、ゼルガディスならもしかして……って、なに出ていこうとしてんのよっ!?  
あたしの視線に気付いたのか、ゾルフは後ろを振り返り、ドアに手を掛けたゼルガディスへと呼びかける。  
「おや、どうしたんですか? これからがいいところだというのに」  
「そういうのは趣味じゃないと言ったろう? 後はお前たちに任せる。但し、死なせるような真似はするなよ」  
「ええ、それは心得ていますよ。もっとも、それ以外は保証できませんがね」  
「……好きにしろ」  
勝手に許可しないでよっ! そんな事されたら、あたし舌噛んで死んでやるからっ!  
必死にそう叫んでも、あたしの口から洩れるのは、意味を成さないくぐもった音のみ。  
あたしの希望を断ち切るかの如く、ゼルガディスは後ろ手に扉を閉ざし、部屋の外へとその姿を消す。  
最後にちらりと見せた彼の哀れみの視線が、冷たい氷の刃となって、あたしの胸に突き刺さる。  
残ったヌンサには期待するだけ無駄だって目に見えてるし! これでほんとに孤立無援っ!?  
「くっくく。あてが外れたようで残念だったなぁ? ……おいディルギア、早くしろ」  
「わかったってんだよ。まったく、どうしてオレがこんな目に……」  
「んんっ!? んむ、んん、んうーっ!」  
尊大な口調で促すゾルフにぼやきつつ、ディルギアはあたしの身体の両脇からぬうっと腕を伸ばす。  
そして毛むくじゃらの大きな手が、胸の膨らみを覆い隠すように、服の上から掴みかかってくる。  
獣人とはいえ、好きでもない男に身体を触れられた嫌悪感に、あたしはじたばたと暴れだした。  
 
「ふぬーっ! ふぬふぬっ! むぐっふ、んーむーふーっ!」  
「どわ、いてっ! ちょっ、この、暴れんなって……」  
あたしはゲシゲシと片脚を後ろに蹴り上げ、身体をよじってディルギアの手から逃れようとした。  
かかとが脛らしき処に当たると、ディルギアは胸を掴んだまま腕を伸ばして距離を取り、勝手な台詞を吐く。  
だったらとっとと手を離しなさいよ! そうすりゃ今すぐにでも大人しくしてあげるわよっ!  
そんな思いを全身で表し、あたしは水揚げされたお魚さんのように激しく跳ねまくる。  
「なんか、小動物を苛めてるみてえで、えらく気がひけるんだが……」  
「気にするな。それよりディルギア、わしは掴めではなく、揉めと言ったはずだが?」  
「はぁ……。へいへい、こうすりゃいいんだな?」  
「んんっ、んー!」  
ゾルフの嫌味な台詞に大きく溜息をつくと、ディルギアはぞんざいな手付きであたしの胸を揉み始めた。  
発展途上の膨らみが、手加減されていない指に強く押し潰され、そこから鈍い痛みが走る。  
やっ、やだ、やめてよっ! おにょれっ、やめないと、後でひどいからねっ!  
苦痛と屈辱を怒りに変えて、あたしはディルギアの方を振り返り、キッと睨みつける。  
「そんな目で見るなって。オレだって、好きでやってる訳じゃねえんだからよ」  
「ふむふんむーっ! ふんむふむむむふ、ふーふむふむもももっめんもっ!?」  
(ふざけんなーっ! そんないいわけが、通用すると思ってんのっ!?)  
「別に言い訳してるつもりじゃねえけどな。恨むんなら、ゾルフをマジで怒らせた自分を恨むんだな」  
あ。ちゃんと通じた。  
──などと、ひとごとのよーに感心してる場合じゃないっ! やめろったらやめろーっ!  
手首に食い込む荒縄の痛みを堪えながら、あたしは躍起になって身体をくねらせた。  
 
「ふはははは! どうだ、むさい獣人に胸をまさぐられる気分はっ!? 嫌だろう、おぞましかろう!?」  
「むむーっ、むっももむっ!」  
「……をい。なにげにオレの扱いって、ひどくねえか……?」  
「気にするなと言っただろう。あくまでこいつに聞かせる為の言葉だ」  
勝ち誇って笑うゾルフに向けて、あたしは殺意を込めた視線を突き刺した。  
後ろで何やらディルギアがぶつぶつ呟いているが、そんな事はこの際どうでもいい。  
元はと言えばこの変態ミイラ男がっ! あんただけは、このあたしが必ず消し炭になるまでブチのめすっ!  
決意も新たに睨みつけると、ゾルフは馬鹿にしたようにフンと鼻を鳴らす。  
「なんだ、その反抗的な目付きは? どうやらまだ、自分の立場が分かっていないようだな……」  
「んむっ! ふむふむっ!」  
卑怯にもあたしの足が届かない場所から、ゾルフは優越感に浸ってそう告げる。  
そしてこちらの顔を上目遣いに覗き込んだまま、背後に立つディルギアへ言葉を放つ。  
「ディルギア、こいつの上着を引き裂け。今度はじかに触ってやるんだ」  
「んうぅっ!?」  
なっ!? じょっ、冗談じゃないっ! こいつの目の前で、あたしの珠の肌を晒すなんてっ!  
更なる辱めの要求に、あたしの頭へかぁっと血が昇る。  
言われたディルギアも手の動きを止めて、どこか気弱な口調で問い質す。  
「まだやらせんのか? もういい加減、勘弁して欲しいんだが……」  
「──ディルギア?」  
「だからそう睨むなって……。わぁかった、やるよ、やるってばよ」  
狂的な光を宿した目で見据えられ、ディルギアは渋々ながらあたしの襟元へ爪を立てる。  
鋭い獣人の爪はシャツの布地に容易く切れ目を入れ、メリメリと音を立てて左右へ引き裂いていった。  
 
「んうっ! んん、んんんーっ!」  
胸元の肌を外気に晒されたところで、あたしは堪え切れずにぶんぶんと首を振り乱した。  
やだっ、やだやだっ! 見るな、見るなぁっ!  
心底からの拒絶も空しく、シャツの裂け目はおへその辺りまで広がり、服の下から小振りな乳房が零れ出す。  
ゾルフの絡みつくような視線が、あたしの胸のたおやかな膨らみに注がれる。  
「ふん、確かに小さいな。いくら大口を叩いても、所詮はまだガキか……」  
「んんんっ! んむ、むうんっ!」  
うるさいうるさいっ! だったら、その子供を裸に剥いて喜んでるあんたはなんなのよっ!  
込み上げてくる涙を誤魔化すために、あたしは内心で必死に怒りを掻き立てる。  
こんな下衆の前で、泣き顔なんて絶対見せてやるもんですかっ!  
「そんな態度がいつまで続くかな? さあディルギア、このアマに自分の愚かさを思い知らせてやれ」  
「あいよ……っと」  
「んっ! んん……!」  
いかにも面倒臭げに受け答え、ディルギアは再びあたしの胸に手を這わす。  
冷たくざらついた肉球つきの掌が、ぺたりと肌に貼り付いて、その気色悪さにざわっと背筋が粟立つ。  
たとえ相手に変な気持ちがなくとも、それで身体を弄くられる不快感が和らぐはずもない。  
しかも、目の前では暗い情熱に身を任せたゾルフが、淫らな悦楽に顔を卑しく歪ませている。  
「そうだ、外から揉み込むようにして……。わしにもよぉく見えるようにな、くくっ……」  
「むっ、ううっ……」  
ゾルフの耳まで穢れそうな雑言と、荒くなり出した吐息とが、あたしの神経を逆撫でする。  
こいつの喜ぶ姿をこれ以上見たくなくて、あたしは視線をあらぬ方へ外し、意識の中から追い出そうとする。  
けれど、そうはさせまいとばかりに、ゾルフはいやらしい声色であたしに呼び掛けてきた。  
 
「……おやぁ? どうした小娘、段々と乳首が立ってきているぞ?」  
「んむぅっ!?」  
「なんだ、大人しくなったと思ったら、こんな真似をされて感じてきていたのか」  
「んうっ! んんむぅ!」  
ゾルフの思う壺だと分かっていても、あたしは強くかぶりを振り、その言葉を否定せずにはいられなかった。  
確かに胸の先は尖り始めているけど、それはディルギアの手で刺激され続けた為の、仕方のない反応である。  
目の粗い服が走っている時に擦れたのと同様、痛みこそ感じるものの、断じて気持ち良くなどない。  
なのにゾルフはニヤニヤと見透かしたような笑みを見せ、尚も言い募る。  
「やれやれ、これでは仕返しにならんなぁ。まさかここまで淫乱な娘だったとは、な?」  
「んんっ! んっ……むぅ!」  
何も言い返せない悔しさに、とうとうあたしの目尻から、一筋の涙が零れ落ちる。  
それをさも楽しげに眺めつつ、ゾルフは耐え難い侮辱の言葉を突きつける。  
「どぉうした、涙など浮かべおって。泣くほど気持ち良いのか、この変態め」  
「むぐぅ、んんっ、んふぅっ!」  
変態はどっちよ! この最低のサディストの異常性欲者っ!  
泣くな、あたしっ……! ここでくじけたら、こいつをもっと喜ばせるだけなんだからっ……!  
「ほれ、何をしているディルギア、もっと気合を入れて揉まんか!」  
「だからよぉ……。はぁ、とんだ貧乏くじだぜ……」  
「ん、んっ! ふぐっ、うっ、むぐ……」  
だけど……。だけど、こんなの、いやっ……、もういやっ……!  
まるで物みたいに扱われて……。その姿を、こんな下劣な奴に見られてっ……!  
自己憐憫という甘い毒が、あたしの意地をじわじわと侵食し、抵抗する気力を奪い始めていた。  
 
                      ◇  ◇  ◇  
 
それからも、あたしにとっては永遠とすら思えるほどの長い時間、この辱めは続いた。  
あたしはきつく瞼を閉じ、外界からの全ての刺激を遮断するように、意識を内へと引き篭もらせる。  
反応の鈍ったあたしの気を引こうと、ゾルフは思いつくままに背後のディルギアへ様々な指示を与え続ける。  
「下から掬い上げて、思い切り揉みしだけ」  
「乳首を摘んで、指先で捏ね回せ。じっくりといたぶるようにな」  
「そこから左右に引っ張ってやれ。そうそう、爪を立ててやるのもいいな」  
もはや反論する気も起きないのか、ディルギアはゴーレムのように唯々諾々と従い、あたしの胸を弄り回す。  
痛みに耐え、屈辱を堪え、あたしは出来る限りその感情を表に出さないよう、強く奥歯を食い縛る。  
今はただ、この責め苦が一刻も早く終わってくれるのを、頭の中で祈り続けるしかない。  
その願いがどこかへ通じたのか、ディルギアはいきなりパッと手を離すと、吠えるように怒鳴り捨てた。  
「だあぁっ、もうやめだやめっ! 面白くも何ともねえし、もう疲れちまったよ!」  
「……ふむ、まあこんなものか。ご苦労だったな、ディルギア」  
「もういいんだな!? ったく、オレぁもう寝るぜ! いいか、頼まれたってもう二度とご免だからな!」  
適当な労いの台詞に文句を言い立てつつ、ディルギアはドスドスと足を踏み鳴らして遠ざかっていった。  
あ……、これで、やっと終わり……?  
乱暴に扉が閉められる音に、膝が崩れ落ちそうなほどの安堵を覚え、あたしは大きく息を吐く。  
「くくく、何を安心している? お前への責めは、まだこれからが本番だぞ? ──ヌンサ!」  
「……っ!?」  
けれど、あたしの儚い希望を打ち砕き、ゾルフは続けて存在を忘れかけていた半魚人の名を呼ぶ。  
まっ、まさか、まさかっ……!?  
怖気の立つような予感に、あたしは思わず目を見開き、伏せていた顔を引き起こした。  
 
「私……を、呼んだ……か……?」  
「ああ、放っておいて済まなかったな。ちょっとこっちに来てくれ」  
「いや……。お前たちの……行為は、なかなかに……興味、深かった……」  
あたしの正面からずれたゾルフの横に、ヌンサは湿った足音を鳴らして並び立った。  
そのぬたっとした語り口と奇っ怪な姿は、心の弱ったあたしにとって、とてつもなく不気味に感じられる。  
蒼白になっているであろうあたしの顔をちらりと見、ゾルフは喜悦に顔を歪めてヌンサへ向き直る。  
「そうかそうか。では、自分でも少しやってみようという気にはならんか?」  
「やる……とは、先ほどの……ディルギアの、ように……、その女の、胸を……触る、ことか……?」  
「それでは芸が無いだろう。下の服も脱がせて、人間の女の生殖器を観察してみないか、ということさ」  
「────!!」  
予想を上回るおぞましい提案に、あたしの頭が一瞬、真っ白になる。  
あまりの衝撃に色彩を失った視界の中で、ヌンサの口がゆっくりと言葉を紡ぎ出す。  
「ふむ……、そういう、ことか……。まあ……、それも、いいだろう……」  
「んんんんんーっ!!」  
ぎょろりとこちらを向いたヌンサの虚ろな瞳に、あたしのやせ我慢は一気に弾け飛んだ。  
「んんっ! ふうっ! んっ、んっ、ん、んう、んんんっ!」  
「ん、どうした小娘? そんなに暴れては痛いだろうに」  
ゾルフの声も腕の痛みも無視して、あたしは狂ったように全力で暴れまくった。  
肩が抜けたって、手首が千切れたって、そんな事をされるよりは万倍もましだっ!  
なのにっ! どうして外れないのっ!? いやっ、やだぁっ、それ以上近づかないでよっ!  
そうして懸命にヌンサから離れようとしていると、ゾルフがあたしと半魚人の間にスッと割り込んできた。  
 
「くっくっく……。どうやら、それだけはどうしても嫌らしいなぁ?」  
「んん……。んっ、んふ、んう……!」  
あたしはポロポロと涙を零しながら、こちらを見下すゾルフに何度も頷いた。  
今となっては、こいつに対する怒りよりも、この場を逃れたいという思いの方がはるかに強い。  
あたしは精一杯の哀願を瞳に込めて、包帯に隠されたゾルフの顔色を伺う。  
「そうだな、わしにも慈悲の心はある。お前の態度次第によっては、許してやらんでもないぞ?」  
「ほっ、ほん、ほ……?」  
「ああ、こう言うんだ。『三流は私です。どうかお許し下さい、偉大なるゾルフさま』とな」  
「んっ……!?」  
「きちんと言えたら止めてやろう。さあ、どうするね? くっくっ……」  
こっ、こいつっ……! ひとをどこまで辱めればっ……!  
で、でも、そうしないと、あたしはこのまま、あの魚モドキにっ……。いやっ、それだけは……!  
「は……、はんふうは……、はふぁひ……え……っ」  
「はて、そんな小さな声では聞こえんなぁ。言う気がないのなら……」  
「ふぁんふうは、まはひえふっ! もうま、おうふひふらはひっ! ひらひらう、おうふはまっ!」  
ゾルフが身を引こうとする気配に、あたしは血を吐くような思いで、望まれた台詞を叫ぶ。  
耐え難い屈辱があたしの脳裏を塗り潰し、戦士にして魔道士たるプライドも、完膚無きまでに打ち砕かれる。  
「くはっ、はははっ、本当に言ったのか!? このわしに向かって、お許し下さいとっ!?」  
「うっ、うぅ……」  
「こいつは傑作だ! まさか自分で三流だと認めるとはなぁ! はははははっ!」  
勝ち誇ったゾルフの笑い声が、あたしの耳に、心に、いやというほど突き刺さる。  
たとえこの身を守る為でも、こんな奴に屈服してしまった悔しさに、あたしの胸は張り裂けそうだった。  
 
「はぁっ、ひぃ、はぁ……。あまり笑わせるな、お前にやられた傷に響くではないか……」  
「ふぐ、うっ、すんっ……」  
身勝手極まりないゾルフの呟きにも、あたしはもう、文句をつける気力すら起きなかった。  
もう、いいっ……。これでやめてくれるなら、あとはどうだって……。  
どうしようもない無力感にさいなまれたあたしの耳に、ヌンサとゾルフの声が忍び込む。  
「……では、私は……もう、観察……しなくても、いいのか……?」  
「おお、そうだったな。──いいぞヌンサ、やってくれ」  
え……? こい、つ……。いま、なん……て……?  
意識が言葉を理解する前に、あたしの膝が不吉な雰囲気を察して、ガクガクと震え出す。  
「だが……、言ったら、止める……という、話では……なかった、か……?」  
「わしは、『きちんと言えたら』と言ったんだ。あんな喋り方では、到底『きちんと』とは言えまい?」  
「おお……。なるほど、な……」  
それ、は……。あんたが、猿ぐつわなんて、噛ませた、から……。  
じゃあ、最初から、許すつもりなんかなくて……? ただ、あたしを……、あたしをっ……!?  
ようやく真意を悟ったあたしをあざ笑うかのように、ゾルフはゆらりとヌンサの前に道を空ける。  
「納得したら、早く始めてくれ。お前の手で下を脱がせて、たっぷりと観察してやるんだ」  
「ああ……、良か、ろう……」  
「んむううううううっ!!」  
こいつっ! こいつぅっ! ふざけるなふざけるなふざけるなあぁぁっ!!  
消し炭なんかじゃ飽き足らないっ! 塵一つ残さずこの世から消し去ってやるっ!!  
全身を焼き尽くすような怒りと憎悪に、あたしは死力を振り絞って、ゾルフの元へ飛び掛ろうと足掻いた。  
 
「うぐううぅっ! うぁ、ふぐ、ううぅううっ!」  
「そう……、暴れるな……。それでは……脱がすことが、出来ぬでは、ないか……」  
「なに、今まであれだけ抗っていたんだ。すぐに力尽きるさ」  
「うっ、うう〜っ! ふうぅっ、うううぅふっ!」  
ヌンサが触手のような腕を伸ばしてくると、あたしは矛先をそちらに変えて、その魔手を蹴り払っていった。  
あんたもよっ! そんな真似したら、あんたも一緒に消滅させてやるぅっ!  
けれど、激情に任せた抵抗は、あたしの体力を急速に奪い取り、脚が鉛を仕込んだように重くなってくる。  
上滑りする憎悪の影で、ひたひたと水位を増してゆくのは、魂さえも飲み込む、暗い、絶望。  
「んんっ、ふ……! んくぅ、ん、んふ、んぅ……!」  
「……よし、大人しく、なったな……。さあ……、見せて、みろ……」  
「んん……! んふ、んむ、ふ……!」  
やがて、限界を迎えたあたしの足には、半魚人の細い腕を押し返すだけの力すら無くなってしまった。  
あたしの動きが弱まると、ヌンサはこちらの脚を払いのけ、ゆっくりとズボンのボタンを外していく。  
やめろっ……、やめ……っ、やっ、やめて……、やめてよぉっ……!  
懸命に慈悲を願っても、こちらの表情など理解できないのか、ヌンサは一向に手を止めてくれない。  
ズボンの前を開いた指先が、今度はあたしの下着の内側に入り込み、その感触にざわっと鳥肌が立つ。  
あたしはせめてもの抵抗にと、足の爪先を組み合わせ、震える太腿を出来る限り固く閉じる。  
「見せろと、言っている……」  
「んふぅ──っ!」  
けれど、絡めた脚を強引に外させると、ヌンサは一気に下着ごと、あたしのズボンを引き下ろす。  
気が遠くなるほどの恥辱の中、あたしは激しい手首の痛みのせいで、意識を失う事さえ許されなかった。  
 
「ほお……。人間……は、こんな、場所にも……、体毛を、生やして、いるのか……」  
「んんっ……! んうっ……!」  
感心して呟くヌンサの姿に固く目を閉ざし、あたしは現実を拒絶するように強くかぶりを振った。  
今まで、どんな男にだって見せた事なんてないのにっ……! それが、こんなっ……!  
嘆くあたしを更に追い詰めるかの如く、ゾルフの声が妖しく響き渡る。  
「ヌンサ、そこがどうなっているか、わしに説明してくれんか?」  
「んんっ!?」  
「ああ……。小さな襞が……左右から、ぴたりと……合わさって……、まるで、貝の身のようだ……」  
「んんーっ! んうーっ!」  
いやぁっ! やだっ、そんなの聞きたくないっ!  
ヌンサ達の声を掻き消すために、あたしは激しく首を振り、喉が裂けんばかりにくぐもった叫びを放つ。  
それでもなお、彼らの会話は鼓膜の奥に忍び込み、あたしの心を汚してゆく。  
「ほほう、やはりまだ、男を知らんようだな。それで、色はどうだ?」  
「……珊瑚にも、似た……、つややかな、薄い……桃色だ……」  
「んんんっ! ふぅん、んんうっ!」  
「なるほどな、自分で慰めた事すら、ろくにないという事か。他に何かあるか?」  
「うむ……少しだが、血が……、滲み出ている……。さきほど、暴れて……いた、せいか……?」  
「おお、そう言えば、あの日だという話だったか。人間の女は、一月ごとにそうしてそこから血を流すのさ」  
「んんぅうぅー! んん……、んっ、ふぐぅ……っ!」  
やめてぇ、もうっ、やめてえっ……!  
乙女の尊厳を踏みにじる言葉の暴力に、あたしはただ泣き濡れるしかなかった。  
 
「そう、なのか……? それに、しても……、ここまで……身体の、構造が、違うとは……」  
「興味を持ってくれて何よりだ。では、次はそこを広げて、奥の様子を観察してみてくれ」  
「言われる……までも、ない……」  
「んふぅっ!? んっ……んぅ、ん……っ!」  
ヌンサはあたしの足を大きく開かせると、太腿の間に鼻面を割り込ませ、下腹部にぺたりと指先を添えた。  
いくら抵抗しようとしても、疲れ切った身体には、すでにその手を振り払う力は残っていない。  
冷たい指にぐっと力がこもると、あたしのそこは左右に割り裂かれ、過敏な内側が外気に触れる。  
秘密の全てを暴かれた深い喪失感が、心の大事な部分を音も無く崩壊させていった。  
「うむ……。中は、かなり……複雑な、作りを……して、いるな……。ん、これは……?」  
「ひぅっ!?」  
「どうしたヌンサ、何か見つけたか?」  
「いや……、ここの、上側に……、小さい……突起が、あるのだ……」  
「ひっ……ん、むふぅ!」  
不思議そうな声色で呟きつつ、ヌンサはあたしの最も敏感な場所を、確認するように指先でつついた。  
おぞましい刺激を急所に受けるたび、身体がまるで電撃を受けたように、ビクビクと痙攣する。  
「なぜ……この女は、こんなに……震えて、いるのだ……?」  
「くっふふふ……。人間の女はな、そこを触られると、気持ちよさのあまり、そうして悶えるんだよ」  
「そうか……。人の……女は、面白い、器官を……、持って、いるのだな……」  
お願い、やめてっ……! でなければ、今すぐ、死なせてっ……!  
もしも今、誰かがあたしを殺してくれたなら、あたしはそいつに感謝すらするに違いない。  
けれど、そんな夢想は当然叶えられる事はなく、ヌンサの指は小さな肉芽をねちねちと弄り回した。  
 
「その……下は、細かい、襞が……何枚も、重なって、いるな……」  
「ふ、ぅむ……っ、むうぅ、んむぅ……!」  
やがて、そこをいじるのにも飽きたのか、ヌンサはその下に向けてゆっくりと指をずらしていった。  
薄い粘膜の襞をつまみ、触感を確かめるように指の間で揉み込むと、大きく外へめくり上げる。  
性的な欲望を一切含まない無機質な扱いに、あたしは生きたまま解剖されているような恐怖と嫌悪を味わう。  
「ここは……まだ、奥へと……続いて、いる、ようだな……」  
「ああ、人間の女は、卵を産まない代わりに、そこへ男のナニを突っ込んで、精を出してもらうのさ」  
「……ふうむ、つまりは……、この中で、卵を……孵す、わけか……」  
「んっ、んん……!」  
閉じた入り口を興味深げになぞりながら、ヌンサはどこかずれた言葉を呟く。  
いっ、痛っ……!? やっ、うそ、入って、くるっ……!  
そして、細い指先がうねうねと蠢き、自分で触れた事すらないその奥へ、少しずつ侵入し出す。  
同じ人間ですらない異種族の手で、勝手に体内を探られる不快極まりない感覚が、あたしの意識を責め苛む。  
「中……は、熱いな……。それ……に、きゅうきゅう……と、締め付けて、くる……」  
「んふぅ、んっ、ぐぅ……!」  
「そこは少し解してやった方がいいな。指を細かく前後に出し入れさせてみろ」  
「ふむ……、こう、か……?」  
「んぐっ、うぅ、んむっぅ、んん!」  
ヌンサの手が動き出すと、あたしの意思とは無関係に収縮した内部が、行き来する指と強く擦れ合う。  
やめっ、やっ……! 痛いっ、そんな、無理やりっ、つぅっ……!  
やわな粘膜が引き攣れる、今まで体験した事のない種類の鋭い痛みが、あたしの身体の中心を貫いた。  
 
「こんな……事で、本当に、解れて……くる、のか……?」  
「ああ、間違いない……。その内に、すぐ濡れてくるだろうからな……」  
「んんんっ、んっ、ぐ、ふぅっ……!」  
ゆっくりと埋めては抜かれるヌンサの指に、あたしの中はいいように蹂躙されていった。  
それで痛みが増すと分かっていても、そこは異物の挿入を拒んできちきちと締まり、指との摩擦を強める。  
全く自由にならない身体の反応に、あたしはもう、どうしたらいいのか分からない。  
しばらく同じ動きを続けていたヌンサは、ふと手を止めると、何かを確認するように指先で奥を探りだす。  
「本当だ……。中が……、少しずつ、湿って、きたぞ……? これは……、血では、ないな……」  
「ほほう、もう感じ始めたのか……。そいつはな、女が気持ち良くなってきた証のようなものだ……」  
「んうっ!?」  
うそっ! そんなはずないっ! すごく痛くて、気持ち悪いだけなのにっ!  
信じられないヌンサの台詞に、あたしは思わず耳を疑う。  
だけど、その言葉を裏付けるように、股間からは湿った音が響き出し、きつい摩擦も和らいでくる。  
「うむ……、だいぶ、動かし……易く、なった……。この、ぬめりが……なかなか、心地、良い……」  
「ふひっ、はぁ、そうか……。もっと中を、ぐりぐりと掻き回してやれ……」  
「んっ、んん、んく、んっふ……!」  
下卑た興奮に息を荒くしたゾルフの指示で、ヌンサは内部を広げるように、指先で大きく円を描く。  
嫌で嫌で堪らないのに、内壁を強く擦られる度、そこから新たな潤いが滲み出す。  
どうして……? あたし、おかしくなっちゃったの……? いや、うそ、うそよ……。  
訳の分からない変化に、自分の肉体にまで裏切られたような気持ちになり、あたしの心は千々に乱れる。  
淫猥な音を立てる股間から、一筋の雫が零れ落ち、脱力した内股をつうっと伝った。  
 
「いくらでも……溢れて、くるな……。中も、段々……と、柔らかく、なって、きている……」  
「んうっ……! ふぐ、んん、ん……っ!」  
「ひひっ、おい小娘、分かるか!? 醜い半魚人に弄られて、下の口からよだれを垂らしているのが!?」  
「ぐ、むうっ……! んっ、んむ、んんん!」  
身体と心を汚されながら、いつしかあたしは猿ぐつわの内側で、自分の舌を力の限り噛み締めていた。  
この辱めから逃れるためには、もう自ら命を絶つ他に、選べる道などなにもない。  
そんな強迫観念に囚われて、あたしはぎりぎりと舌に歯を立てる。  
「くははっ、いい表情だ! そうとも、そういう顔が見たかったのだ、わしはっ!」  
「んぐ……っ、んぅ、むぐうぅっ……!」  
けれど、浅ましく生を求める本能が邪魔をして、たったそれだけの事すら思う通りに出来ない。  
苦悶の呻きを洩らすあたしを凝視し、ゾルフは気が違ったように笑い、嗜虐の悦楽に声を上擦らせる。  
「ヌンサ、それはもういいっ! そろそろ仕上げにかかれっ!」  
「仕上げ、だと……?」  
「ん……っ! んむ、ん……?」  
ゾルフの声を合図にして、ヌンサの指がずるっと引き抜かれ、あたしは薄く目を開いた。  
仕上げって、なに……!? いや、これ以上、ひどいこと、しないで……!  
のろのろと顔を上げたあたしへ目を向けたまま、ゾルフは裏返った声でヌンサに宣告する。  
「そうだっ! そこを思い切り広げて、腹の中にお前の精をたっぷりと注ぎ込んでやれっ!」  
「んううううううぅっ!!」  
いやっ! いやぁっ! そんなのいやああぁぁっ!!  
想像しただけで狂死しかねないほどのおぞましさに、あたしは心の底から絶叫を上げた。  
 
「ふむ……。いい、だろう……」  
「んんうぅうっ! んっ! ふむうぅっ、んん、んうっ!」  
ヌンサは暴れるあたしの足を大きく抱え込み、ぬうっと身体を起こして腰を近づけてきた。  
あたしは限界まで首を反らし、ちぎれんばかりに頭を振り乱して、拒絶の意を表す。  
おねがい、やめてぇ! あたし、なんでもしますっ! するからっ、それだけはやめてえぇっ!  
股間に伸びたヌンサの指が、濡れた秘所へと潜り込み、左右へ引き裂くように大きく入り口を広げていく。  
「泣け、喚けっ! わしを馬鹿にした報いを、いやというほど思い知るがいいっ!」  
「んふぅ! んぐっ! むぅう! んんんぅ!」  
反省してますっ! もう馬鹿にしたりしませんっ! だからっ、だからぁっ!  
必死の思いを視線に乗せ、喚くゾルフへ慈悲を願っても、それはもはや陰惨な興奮を煽る効果しかない。  
「この……奥に、私の……精子を、注げば……、いいの、だな……?」  
「そうだともっ! もしかしたら、お前の子供が出来るかも知れんなぁ! くひっ、ひははっ!」  
「そう、か……。女……、私の、精子を、その身に……受ける、事を……光栄に、思え……」  
「ぅんんうぅ! んむぅ! んっんぅん!」  
いやあああぁっ! 姉ちゃん! 父ちゃん! 母ちゃん! 誰かっ! たすけてっ! たすけてよぉっ!  
思いつく限りの存在に救いを求め、けれどあたしの祈りはどこへも届かない。  
あたしの下腹部に、ヌンサのぬらりとした胴体が触れ、予兆を示してひくひくとわななき始める。  
「さあ出せっ! お前の精で、この女の腹を満たしてやれぇ!」  
「う……む、では……出す、ぞ……、うっ、おぉ……!」  
「んぅ────!?」  
ヌンサの身体がぶるっと震え、ぞっとするほど冷たい白く濁った液体が、大量に吐き出される。  
勢い良く噴き出したそれが、身体の奥にまで注がれるのを感じた瞬間、あたしは、あたしは────。  
 
                      ◇  ◇  ◇  
 
「……や……、いや……、も……う、いや……」  
「くっくっく。どうやら、よっぽど最後のあれが効いたみたいだなぁ……」  
リナの口から猿ぐつわを外し、その弱々しい呟きを耳にしたゾルフは、暗い喜悦の笑みを浮かべた。  
華奢な肢体は全ての力を失って、まるで吊るされた人形のように頼りなく揺れ動く。  
薄い胸にはディルギアの指の痕が赤く残り、爪が刻んだ幾筋かの線にうっすらと血が滲んでいる。  
秘所からは薄く血の混じったヌンサの精液がこぼれ、べったりと白濁に穢された内股へ新たな汚れが伝う。  
まともな神経なら目を背けたくなるようなリナの無残な姿を、ゾルフは満足げに眺めていた。  
「今日はこの辺にしておくが、この傷が癒えたら、今度はわし自らお前を犯してやるからな」  
「いや……、もう、い、や……、いや、いや……」  
「ならば、もう一度ヌンサの精を受けてみるか? わしはどちらでも構わんぞ?」  
「い……や……、いやいや……、い、や……」  
「……おい?」  
なおもいたぶるように告げていたゾルフは、全く抑揚の変わらぬリナの声に、軽く眉をひそめた。  
細いおとがいを掴み、うなだれていた頭を強引に上向けると、その顔を覗き込む。  
涙に濡れたリナの顔からはいかなる感情も伺えず、虚ろな瞳はどこにも焦点を合わせていない。  
何かに取り憑かれたように同じ言葉を繰り返すリナに、ゾルフは興醒めした様子で鼻を鳴らした。  
「ふん、壊れたか。……まあいい。生きてさえいれば、人質としては充分だからな」  
ゾルフはリナの顎を乱暴に放り出し、身勝手極まる捨て台詞を吐くと、ゆっくりとその場を後にした。  
それに続いてヌンサも無言でぺたぺたと足音を立て、扉の外へと姿を消す。  
残されたのは、生々しい陵辱の跡もあらわな裸身を晒し、力無く呟き続けるリナのみであった。  
 
「いや……よ……。こんな……の、あたし……、みとめ、ない……」  
ゾルフ達が立ち去ってからしばらくして、リナの口から洩れる言葉はようやく変化を見せ始めた。  
傷ついた体はぴくりとも動かさぬまま、ただ唇の動きだけが、次第に明確なものになってゆく。  
それにつれ、垂れた前髪に隠された瞳から再び涙が流れ出し、声の響きにも暗い感情の色が滲み出す。  
「こんなあたし、いらない……。あんなやつら、いらない……。ぜんぶ、いらない……」  
一語一語を噛み締めるように、リナはその身に受けた仕打ちの全てを拒絶する。  
頬を伝い、顎に集った涙が珠となってこぼれ落ち、ぽたぽたと水音を立てて床を打つ。  
「こんなあたし、消えちゃえ……。あんなやつら、消えちゃえ……。ぜんぶ、消えちゃえ……」  
やがてその囁きは、自分とその他あらゆる存在に対する呪詛へと移り変わる。  
そして、一旦唇が閉じられると、今度は韻を含んだ声が紡がれていく。  
「やみ、よりも、なお、くらきもの……。よるよりも、なお、ふかき、もの……」  
それは力ある言葉。  
「こんとんの、うみに、たゆたいし……。こんじきなりし、やみのおう……」  
全ての母にして、全てを無に帰す力を持つ、根源の存在を呼び寄せる呪文。  
滅びを求める心が足りない魔力を補い、発動するはずのない虚無の深淵が、リナの頭上に現出する。  
一切の制御も無く、轟々と渦巻き出す黒い光の下、リナのか細い詠唱が、更なる力を請い願う。  
異変を察したゼルガディス達が、足音高く駆けつけようとするが、それもわずかに及ばない。  
彼らが扉を開くと同時に、俯いたリナの唇の端が、ほんのかすかに持ち上がり──  
 
「……重破斬」  
 
──そして、世界は混沌の海に沈んだ。  
 
〜END〜  
 

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