頬に触れる冷たい感触…………
部屋の中には自分以外誰もいないはず…………
眠さのせいか、疲れのせいか、なかない思考回路が働きださない。
それでも、重い瞼を開け、リナはそこにある気配の人物を探した。
「ゼ、ロス?」
ぼんやりと闇に浮かぶ人影。
「ゼロス?」
眠い目を擦りながら、ぼんやりと名を呼ぶと、ゼロスの冷たい手が頬に触れた。
と同時に、体の自由が奪われる。
「…………っ!」
「こんばんは、リナさん」
楽しそうに、おかしそうに微笑みゼロスの顔がそこにはあった。
「なっ」
なにすんのよっ!
怒鳴りまくろうとした口を、ゼロスは手の甲で押さえつけ、言葉を遮断する。
「しーっ。皆さんが起きちゃうじゃないですか」
「むぐっ」
顔を真っ赤にして、何か言いたげな瞳。
その瞳を見つめながらゼロスは、リナの耳元で静かに囁いた。
「ボクのものになってください」
と………
意味不明とばかりに、ギリッとリナはゼロスを睨み付けた。
ゼロスにとっては心地よい視線。
けれど…………それ以上のものが欲しい。
耳に唇を這わせ、そのまま下のほうに降りていく。
口元にあった指先は、リナの唇をこじ開け、口の中を撫で回すように犯しだす。
「ゼ………ロ…………」
拘束された体はゼロスの動きを止めることは出来ず、リナは意味もわからず犯すゼロスに恨みがましい視線を向けるだけ。
「んっ…」
耳元から落ちた唇が、いつの間にか胸元へ移動し、そこにある暖かい膨らみに移動していた。
真っ赤になって声を上げようとするが、未だ口の中を犯し続ける指がその声を遮断していた。
「………っ!」
口を弄っていた指に、何か違和感を感じ、ゼロスは顔を上げた。
それ以外の抵抗が出来なかったリナが、ゼロスの指を噛んでいたのだ。
「いたずらは、いけませんよ」
その抵抗すらも愛しく、全てを落としたい。
ゼロスは自らの唇をリナの唇に重ね、今度は自分の舌でリナの口の中を犯す。
甘い、粘着質な音が口の中に溢れ、リナの頬がほんのりと赤くなっていた。
「気持ちいいですか?」
嬉しそうに告げると、ぴくりっとリナの体に力が入り、やはり瞳に拒絶の色を浮かべる。
そうでないと、ね。………落としがいがないってものです。
「んっ……………………」
ぴちゃり………ぴちゃ………
口の中で音を立てるたび、リナの体の力が抜けていくのをゼロスは感じていた。
「犯されて、楽しいですか?」
「なっ!」
すぐに思い通り返ってくる反応が楽しい。
「だって、感じてるじゃないですか…? ボクに無理やりされてるのに」
違いますか?
くすくすと笑いながら、ゼロスは愛撫の手を再び胸へ移動させていく。
「ほら、こんなに硬くなってる」
膨らみから飛び出た突起を指で転がす。
「んぁっ…………!」
吐息と共に、甘い声がリナの口から漏れるたび、ゼロスの力は強まる。
そしてそれ以上を求める己自身の声も。
「余り大きな声を出すと、気が付かれてしまいますよ」
隣のガウリィさんに………
「…………」
名を出すだけで、リナの中に動揺が生まれるのが感じられた。
「それとも、見てもらいますか? 貴女がボクによって乱れる姿を」
それだけは嫌っとばかりにリナは瞳に涙を溜めて首を横に振った。
「いい子ですね」
残酷な微笑を浮かべ、ゼロスは満足そうに呟いた。
どれくらいの時間、弄ばれていただろう。
リナは快楽に落ちそうな意識を必死に保っていた。
ゼロスは秘部には触れず、全身を愛撫し、リナの落ちていく様を心底楽しんでいるようだった。
それでも、まだ………落ちないんですよね。
落ちてしまえば楽だというのに、少女は寸前の処でそれを拒否し続けている。
「んっ…………あっン」
甘い声を出し、潤んだ瞳で見つめ、誘っているというのに………
決してリナは求めない…………
「欲しいんでしょ?」
「………っ」
唇を噛み締め、首を縦には振らない。
アキレスになる要素はいくらでもある。脅してしまえば、容易く落ちる。
「でも、…………それじゃぁ、意味はないんですよ」
貴女がボクを見てくれなきゃね。
「…………?」
リナにとっては、ゼロスの行動、言動全てが意味不明なのだ。
「でも、まぁ、ここまで我慢したし、………ご褒美ですよ」
「ひゃっ…ん…あっん」
今まで焦らされていた秘部への愛撫。
蕩けるような甘い声がリナの唇からあふれ出した。
「いい声ですよ、リナさん」
「ぁん…………はぅっ」
「こんなに溢れてますよ」
ゼロスは指でリナに愛液をすくい、ぺろりっとそれを舐める。
「おいしい、ですよ。淫乱な味がして」
くすくすと珠を転がしたように笑う。
「もっと…感じてください」
「やっ……………」
足をつかまれ、その付け根にゼロスの顔が埋まり、リナはその行為から逃げようと、腰をずるずると動かそうとする。
「駄目、ですよ」
腰を押さえつけられ、ゼロスの赤い舌がそこを舐めまわす。
「ひゃ……ん、………あんっ……、やっ、…ゼ………ロス」
愛撫が始まってから、初めてリナはゼロスの名を呼んだ。
「何ですか?」
「も…う、…………や、め……」
求める言葉ではなく、拒絶の言葉。
微かにゼロスの表情が歪んだ、ような気がした。
「こんなにして、止めてとは………。正直が一番ですよ」
ちろちろと舌先で茂みの中にぷっくりと膨れたそこを刺激すると、ピクンと体を反らした。
くちゅりっ、と音を立てて蜜を舌で味う。
しゃぶるように、舐めるようにそこを愛撫するたび、リナの甘い吐息が耳に届いた。
もっと、もっと感じてください。
「ひゃ………ん、あぁぁん………ゼ…ロス」
名を呼ばれるたび、力が溢れる。
「リナさん………」
虚ろな目でゼロスを見たリナの表情がいっきに強張った。
「いっ、………やぁ」
そこに見えるのは、魔族にはあるはずのない、必要のないモノ。
いやいやと首を振りながら大きく見開いた瞳がとても美しく見えた。
「恐怖に歪んだ顔もいいですが………」
ボクとしては快楽に溺れたリナさんの方が好きですよ。
ずぶりっと音をたて、それがリナの中に挿入される。
「いっ………」
ゆっくりと動かすと、ちゅぷ、ちゅぷと音をたてる。
「ほら、こんなに吸い付いて。それでも、否だというんですか?」
「………っ」
前後に動かし、奥へ突き立てるほどそこの中は熱くなった。
「ひっ……ん、あっン」
快楽からか、屈辱からか、リナの瞳から大粒の涙が一粒落ちた。
ドクンッとゼロスは自らの鼓動が高鳴ったのを感じた。
「やっ……だ、め……も…」
「リナさん…」
そっと包むようにゼロスはリナを抱え上げる。
「力を、抜いてください」
耳元で囁かれる声はどこまでも優しく、どこまでも残酷。
「あっ…ん」
重なる唇が温かく感じられるのは、リナの錯覚だろうか。
魔族のゼロスに、温もりを感じるなど………
「んっ」
その暖かさに力が抜ける。
「ひゃっ」
その瞬間に突き上げられる快楽。
「だっ、ダメッ」
突然覚醒したように、リナは目の前のゼロスにしがみ付く。
「やっ………!」
力の入った指先が、ゼロスの肌に食い込んでいく。
「んっ………っ………は、んぁ」
びくんと体を仰け反らせ、リナはそのまま崩れるようにベッドに倒れこんだ。
「ゼ……」
目の前にいるのは、満足そうな男。
「こっの……」
文句の一つでも言ってやらなければ。
そんな表情で睨み付ける。
いつの間にか動くようになっていた手に拳を握り、絶対、絶対殴ってやる、と思ったとき、突然襲いくる睡魔。
「ゼロ……この」
最後まで諦めずその手を振るおうとするが、睡魔はリナの意識を深い闇の中に取り込んでいった。
「おやすみなさい、リナさん」
それが、リナが聞いたゼロスの最後の言葉だった。
「わかってるんですけどね」
リナの乱れた衣服を綺麗に直し、自嘲気味にゼロスは呟いた。
貴女は落ちない……絶対に。
それでも、欲しいんです。
「ない物ねだりの子供ですね。ボクは」
微笑んだゼロスは、愛しそうにリナを見つめ、闇の中に消えていった。
<おわり?>