100年前…  
 
一陣の風が吹いた。その風は空中の雪の花を舞い散らせた。  
一片の雪の花が女王の頬をかすめる。  
氷の城。何物にも侵されることのない雪と氷の聖域。  
そこで対峙する二人の人の形をした存在があった。  
女は長く透き通るプラチナブロンドの髪を雪風になびかせ、横顔は相手を  
冷たい薄い色の瞳で睨みつけるが、その顔はぞっとするほど美しかった。  
一方の男は白いシルクハットとタキシードに身を包み、不敵な笑みを浮かべ  
ながら、女を下品な目つきで眺めていた。  
「世界を混沌に陥れる者。愚か者…!」  
「何とでも呼ぶがいい。俺には色んな名がある。お美しい女王様」  
強い風が吹き雪の花びらは降り積もる事を知らず二人の間を舞った。  
「何もかも凍りつかせるような目をしやがって…そのくせに頭の中はさっき俺が炎の矢  
で射抜いてやったホルガーの事ばかりってか?」  
「黙れ!愚か者!」  
女王は氷のロッドを天に振りかざし祈った。すると魔王の結界が破られた。  
氷の馬にまたがった兵士たちが剣を携え男へと向かっていく。  
「そっちがそう来るならこれはどうだ!」  
男は迸るマグマの中から一振りの槍を生み出し、氷の騎士たちを一撃で  
一掃した。  
「雪の女王、お前に問おう。お前のその冷えきった心にも恋の感情はあるのかな?」  
男がまた不敵に笑い、焼けつく息を吐いた。  
「ならば愚か者よ、私もお前に問おう!お前は愛の感情などを知っているのか!」  
女王は凍てつく瞳で男を睨んだ。  
 
「はは…ははははは…雪の女王!愛とは虚無だ!それは虚無だ!お前がホルガー  
に感じている想い、それが何だ!俺が創り出す何も生み出す事のない面白い混沌  
の世界ではそれは虚無だ!」  
「本当に愚かな…愛こそ暗闇の中の瞬く光。氷と雪の野から生え出でる新芽!お前  
はそれを知らない…本当に哀れな…」  
女は寂しげで苦しそうな表情をする。  
「雪と氷に閉ざされながらそれでもお前は愛と春に憧れるって訳か…そんなお前が愛しいぜ」  
「戯言を!地獄の悪魔が造りし鏡にお前を封印しよう!業火に焼かれながら混沌の世界  
を夢見るがいい!」  
女王はまたロッドを天にかざす。すると暗黒が男の体を包み、そして鏡がまばゆくばかりに光  
輝き男の影を吸いこまんとした。男は最後に女に話し掛ける。  
「これで終わりだと思うなよ?雪の女王?また再会の宴を開こう。お前の憧れに乾杯だ!  
愛しているぜ!」  
 
終わった…部下たちを多く失いながら長い闘争に勝利した女王は氷の玉座に腰掛ける。  
『ホルガー殿…』  
降り積もった雪の白さと美しさを集めたような女王の瞳から一筋の涙が流れた。  
それは氷の涙の宝石となって、冷たい床に落ちて砕けた。  
この戦いで女王はホルガーと出会い、そして氷の吹雪く心に愛を知った。  
 
100年後、また戦いの幕はきっておとされた。  
 
 

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