クエスト屋を営むフロマージュは、私生活はもちろん、その素性も色々と謎に満ちている。  
わかっていることと言えば、クエスト屋を営んでいること、チワワ種にしてはかなりの長身であること、スピノーに住んでいること、  
そしてハンターであるレッドに、優先的に仕事を回してくれるといったことぐらいである。  
そんな彼女に惚れる男性は多いものの、告白したところで丁重にお断りされるのが常である。どうやら彼女には心に決めた男性が  
いるらしく、彼女が指輪を所持しているとの噂もある。  
割と度胸もあるのか、それとも仕事熱心なのか、いかなる状況でもクエスト屋の職務を放棄しない一面もある。街がシェイドの襲撃を  
受けようと、巨大な二体の像が現れようと、タルタロスが現れようと、彼女はいつもクエスト屋としての職務を全うしてきた。  
世界が滅びかけるほどの、激動の数ヶ月が終わり、今世界はようやく平穏を取り戻したところだった。  
クエスト屋に舞い込む仕事も、緊急性や危険性の高いものではなく、掃除の手伝いや虫の駆除など、平和的な仕事が増え始めている。  
また、ファラオの復興ではロボットの力が必要な作業も多いため、クエスト屋としてもしばらくは忙しい日々が続きそうだった。  
「それでは、がんばって下さいですぅ〜」  
いつもの台詞と共にハンターを送り出し、また別の依頼の仲介を行う。彼女の周囲だけは、いつもと全く変わらない空気が流れている。  
だが、正確に言えば、それは間違いだった。  
もちろん、その間違いに気づく者はいない。彼女の顔も、声も、雰囲気も、何一つ変わることがないからだ  
その日も、フロマージュは忙しい一日をいつものようにこなし、スピノーの自宅へと帰ってきた。  
だが、いつもの表情とは一転、その顔には寂しげな、あるいは悲しげな表情が浮かんでいた。  
近くにスタードッグスカフェはあるものの、自分で料理を作り、一人で夕飯を終えると、フロマージュは自室へと引き上げる。  
服を脱ぎ捨て、ベッドに横たわる。静かに目を瞑り、一日のことを振り返る。やがて、その思考が数多くあった出来事の、ある一つへと  
収束していく。  
世界を救った英雄でもあるハンター、レッド。その愛機、ダハーカ。今日も、彼は来ていた。  
「レッドさん…」  
小さな声で呟き、ほう、と息を吐く。  
あの屈託のない、自信に溢れた笑顔。わかりやすいまっすぐな性格。そして、多少がさつではあるものの、困っている人を絶対に  
見捨てないという優しさ。  
「……好き、ですぅ…」  
右手が、自身の胸に触れる。指先に力を込めると柔らかく沈みこみ、指の隙間から収まりきらない肉が零れる。  
「んっ…!」  
小さな声が上がり、フロマージュの体がピクッと跳ねる。  
その手は止まることなく、時に強く、時に優しく捏ねるように揉みしだき、自身の昂りに合わせ、少しずつ円を描くように、  
大きく動き始める。  
 
「ふぅ、んっ……レッド、さんん…!」  
右手では自身の胸を強く揉み、左手が下腹部へと伸びる。そして、さらさらとした毛並みを撫でつけるように滑り、小さな膨らみを  
越えると、フロマージュは一層熱い息を吐く。  
「はうっ……くぅん……レッドさん…!」  
名前を呼びながら、フロマージュはその手が彼のものだったらと夢想する。  
彼の手が、自身の胸を撫で、優しく揉みしだき、誰にも触らせたことのない部分へと伸びる。  
「もっと……触ってほしいですぅ〜…」  
空想の彼にそう呼びかけ、左手が小さく尖った突起に触れる。  
ビクンと、フロマージュの体が大きく跳ねた。  
「あうぅ…!気持ちいいですぅ…!レッド、さんっ……レッド…!」  
その時、不意に彼女の手が止まった。吐息はまだ熱を帯びているものの、その顔には悲しげな表情が浮かび、口は涙を堪えるように  
きゅっと結ばれている。  
彼には今、相棒がいる。エルというネコヒトの女性で、彼女はレッドをとても大切に思っている。  
そして、レッドもまた、彼女をとても大切なものと思っている。  
そこにもはや、自分が入り込める余地などなかった。  
「……ずるい、ですぅ…」  
涙が一粒、頬を伝う。  
しかしすぐにそれを拭うと、フロマージュは枕を抱いた。  
以前、彼に物が消える事件の解決を頼んだあと、ベッドの上に付けられた足跡に呆れたものだった。しかし今となっては、  
それを洗い去ってしまったことに軽い後悔を覚えていた。もっとも、足跡の付いた枕や布団など、到底使う気にはなれないのだが。  
枕にぎゅっと顔を押し付け、大きく息を吸う。洗ってしまったとはいえ、これは確かに彼が触れたものなのだ。  
「レッドさんの匂い……レッドさん……好き、ですぅ…」  
再び、左手を秘部へと伸ばす。もはや何の遠慮もなく、指を秘裂へと沈みこませ、激しく動かす。  
「ふああっ……気持ちいい、ですぅ…!レッドさん、もっと激しくしてほしいですぅ…!」  
枕越しに熱い吐息が漏れる。激しく出し入れされる指にはねっとりとした愛液が絡み、シーツへと伝い落ちる。  
部屋に充満する、汗と愛液の匂い。それがより彼女を昂らせ、それに比例して行為も激しくなっていく。  
「んうっ、はぅ、ああっ!レ、レッドさんっ!もうダメですぅ!わ、私、もうイっちゃいますぅ!レッドさんっ、レッドさん!  
レッドっ……くっ、う、あああぁぁぁ!!!」  
一際大きな嬌声が上がり、フロマージュの体が仰け反る。足はピンと伸びて震え、未だ指を咥え込んだままの秘裂からは愛液が滴り落ちる。  
強張った体から、少しずつ力が抜けていく。そして、秘部から指を引き抜くと、急にガクンと力が抜ける。  
 
まだぼんやりする視界の中、一つの指輪が目に入った。  
無意識に手を伸ばし、それを手に取ってじっと見つめる。  
例の事件の際、これをレッドに聞かれたときは、何食わぬ顔で答えをはぐらかしたものだった。  
しかし、もはやそれも必要ない。これを渡すべき相手は、もはやいなくなってしまったのだから。  
これを渡したかった相手。その彼はきっと、知らないままの方が幸せだろう。  
彼女にとって、彼が幸せであることが、一番の幸せなのだ。だからもう、渡したかった相手がいたことなど―――  
「……なんのことですか、ですぅ〜」  
いつか言った台詞を呟き、フロマージュは笑った。その目に涙をいっぱいに溜め、彼女は泣きながら笑い続けていた。  
 
翌日、クエスト屋はいつも通りの大盛況だった。なにぶん、人手などいくらあっても足りないのだ。特にロボットを持つハンターは、  
クエスト屋にとっても街にとっても大歓迎だった。  
次々に来る依頼とその受付を捌きつつ、フロマージュは笑顔を絶やさない。その優しい笑顔にホッとするという者も、  
また惹かれるという者も、数多くいる。とはいえ、そこに惹かれて告白したところで、彼女の撃墜記録が一つ増えるだけなのだが。  
大量の仕事をあらかた捌き、いくつか大きな依頼を残してひと段落ついたとき、彼女の大きな耳に聞き覚えのある声が飛び込んできた。  
「よう!何かいい仕事ない?」  
名前が示すとおりに、赤を基調とする服を着込んだイヌヒトの若者。その時々によって変色する小型のロボット。  
そして、その傍らにいる、一人のネコヒトの女性。  
それでも、フロマージュの表情は変わることがなかった。見る人が見れば、幾分か優しい気がするという程度の笑顔を浮かべ、  
フロマージュは決まったセリフを口にする。  
「いま受けられるお仕事はこちらですぅ〜」  
彼女はクエスト屋。彼はハンター。それ以上でも、それ以下でも、それ以外の何者でもない。ただ少し、彼に対して優先的に仕事を  
回しているというだけの、それ以外は他のハンターと何一つ変わることのない関係。  
彼女の真意を知る者はいない。その素性や私生活と同じく、彼女がそれを明かすことはない。以前も、そしてこの先も、ずっと。  
「それでは、がんばって下さいですぅ〜」  
いつもの笑顔で、二人を見送るフロマージュ。その屈託のない笑顔には、純粋な応援の気持ちだけが込められていた。  
誰にも知られぬ思いを秘め、彼女は今日もクエスト屋としての職務を全うしている。  
 

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