一日の仕事を終え自室に戻ったいつきは、ソファに座り込むなり小さくため息をついた。  
 一足先に待機していたウルが、手に持ったマグカップを掲げいつきに労いの声をかける。  
「お疲れのようだな、ホットミルクでもどうだ」  
「ありがとうございます」  
 ウルは新しいマグカップをいつきに手渡し、静かに自分のカップを傾ける。  
 考えるのは、目の前に座るお堅い相棒のことだ。  
 ここ何ヶ月か大きな事件は無く、いつきの両親に関する情報はゼロ。その上、  
雑用のような仕事でも生真面目にこなしてしまういつきは、流石に精神も肉体も  
かなり疲弊して居るようだった。  
「いつき、仕事を真面目にこなすことは結構だがな。息抜きってモンも大切だぜ? ベイビィ」  
「息抜き……ですか……」  
 いつきは浮かない顔で、両手の中のマグカップを見つめた。  
「息抜きも仕事の内だ。仕事を円滑にこなすための潤滑油が、お前には不足している」  
 ウルは小さくインサフィシエンスィ、と付け加えた。  
「息抜きも、仕事……?」  
 ウルの言葉にいつきは顔を上げ、何か考え込むような仕草をする。  
「そうだ。何か趣味とかあるだろ?」  
「いえ。私は無趣味です」  
「……じゃあ、興味のあることは?」  
「興味ですか、そうですね……」  
 いつきは難しそうな顔で、あごに手を当て小首を傾げる。  
 ウルは、いつきが何か別の思考に気を取られたのを確認し、満足そうにホットミルク  
に口を付けた。趣味が見つかればそれでいいし、見つからなくても他のことについて  
考える時間だけ彼女は楽になるはずだった。  
 穏やかな沈黙が続くこと数分。突然いつきは立ち上がり、大声で叫んだ。  
 
「あ、あります!」  
 
 いつきの突飛な行動に、ウルは口に含んだミルクを噴出してしまう。  
「な、なんだ?」  
 口元を拭いながら、恐る恐るいつきに声をかけるウル。  
 いつきは何か目が覚めたかのような生気の宿った目で、真っ直ぐにウルを見つめた。  
「ウル、私を縄で縛ってください」  
「リアリィ? いや、なんだって?」  
「私を縄で縛って、鞭か何かで叩いてください!」  
 ウルは思う、息抜きを提案するのが少しばかり遅すぎたのだと。  
 
「ウル、もっと強く縛れませんか」  
「またか、これで四度目だぞ……」  
 ただでさえQテクターで強調された肉体のラインを、縛った縄でさらに挑発的にした  
いつきは、四つん這いの状態で不服そうに呟いた。  
 ピッチリとヒップに張り付いたQテクターのレオタード部分が、玉付きの縄で締め上げ  
られ、肉厚な秘所が苦しそうに押しつぶされている。はみ出そうな陰部で挑発するように、  
お尻を振って催促するいつきに、ウルは呻き声のようなものを上げた。  
「ひでぇ格好だぜ? レディ?」  
 それは縛りのスタンダード、亀甲縛りだった。  
「これも、ある意味ICPの業務に関する訓練になるのではないでしょうか」  
 食い込む縄の感触を楽しむように身体を揺すりながら、真面目な口調で呟くいつき。  
ウルは縛り終えたばかりの縄を解きながら、呻くようにそれに答えた。  
「どこの行政機関が重要参考人を亀甲縛りするってんだ」  
「一考の余地があるかもしれません」  
「そんな余地は無い。お前、警察学校で捕縛術を習わなかったのか」  
「習いましたが……。そうだウル、手も縛ってください」  
「聞いちゃいねぇ……」  
 呆れ半分、自棄半分で乱暴に縄を引くウル。  
「くぅっ……!」  
 ギチギチと締め上げられる縄にメロンのような胸が震え、いつきは苦しそうな声を上げた。  
「あぁ……いいです。もっと、もっとキツく縛ってください!」  
「これ以上は無理だぜ。おい、手を回せ。縛ってやる」  
「お、お願いします」  
 縄に押しつぶされた胸を地面に擦りつける様にして、いつきは腕を背中に回した。頬が  
冷たい床に押し付けられ、十七歳にしては性的過ぎる大きな尻がいっそう強調される。  
より屈辱的な体勢になったが、酷い格好になるのに比例していつきの顔は高潮し、興奮  
していることがはっきりと分かった。  
「あぁ……素敵です、ウル……」  
 甘ったるい声と共に、戦闘型ナビの嗅覚センサーでも分かるほど濃厚な雌の匂いが  
部屋に充満していく。  
 突き出された扇情的な尻の中央には、うっすらと染みができ始めていた。  
 ウルは通常生活では感じたことの無い疲労にため息を付きながら、縛られ床を這っている  
相棒を見下ろした。  
「……眩暈がするぜ」  
「んっ……、何か言いましたか?」  
「満足したのかって、聞いたのさ」  
「まだです、ウル。今度は鞭か何かで叩いてください」  
 いつきが喋るたび胸の上下に合わせて尻が揺れて、まるで尻と会話してるみたいだとウル  
は一人ごちる。  
「まだやるのか」  
「ダメですか?」  
 間抜けな格好で不安そうな声を出す自分のパートナーに、ウルは肩をすくめて返事をする。  
「いいや、付き合うさ。お前が何かを頼むなんて久しぶりだしな……アンユージュアル」  
 
 部屋の中にはねっとりと絡みつくような淫臭と、嬌声とも悲鳴ともつかないいつきの声、  
そして鞭の打ちつける音が響いていた。  
「あぁっ……んっ! ウル……もっと、もっと強くお願いします!」  
「はぁっ……はぁっ……、いつき、少し休まないか……? 流石の俺も疲労が……」  
「ダメですっ! もう少し、もう少しだけ……いひぃっ!」  
 いつきは普段の精悍な顔だちを涙で歪め、恍惚の表情で自らの尻を振って懇願した。  
白かった尻肉は今や真っ赤に腫れ上がり、所々に出来た擦り傷から血が滲んでいる。  
そしてその中央、縄で締め上げられた秘所からも、“血では無い液体”が溢れていた。  
粘質ないつきの愛液はスーツから溢れ太ももを濡らし、テカテカと淫靡に光っている。  
 
「私は犬です! 卑しい家畜ですっ! どうか、どうかご寵愛を……ッ!」  
 
 だらしなく開いた口から舌を突き出し、尻尾を振るように尻を振るいつき。口の端からは  
透明な唾液が地面まで糸を引いて、小さな水溜りを作っていた。  
「シット……、完全に変なスイッチが入ってやがる……」  
 ウルは小さく唸り、おざなりに鞭を振るいながら時刻を確認した。いつきがバカなことを  
口走ってから三時間が経過している。  
「疲れるわけだぜ、全く……、おい! いつき!」  
「はひっ……! な、なんでしょうか」  
「もう終わりだ、明日の勤務に支障が出たら元も子も無い」  
「そっ、そんなぁ……」  
「お前、こんなケツで“フグ”に乗れると思ってるのか。少しやりすぎだ、薬を塗る」  
 ぶつぶつと文句を言ういつきを無視して、ウルは血の付いた小さな鞭を放ると、常備薬の  
中から塗り薬を取り出した。  
 そして、未だに四つん這いで荒い息をしているいつきの尻に、軟膏をべったり塗りつける。  
 その瞬間、いつきの身体がびくりと跳ねた。  
「ひぃっ! ウ、ウルっ! 痛いですっ! いっ……!」  
「我慢しろ、バカ野郎」  
 腰をカクカク震わせ、大声で叫ぶいつきを無視して、ウルは乱暴に塗り薬を傷口に  
塗りこんでいく。柔らかな尻肉が、ウルの手の動きに合わせて卑猥に歪んだ。  
「いっ……、良いですっ! イタ気持ちい――――痛いぃいいいっ!」  
「……どっちなんだ」  
 大きなため息をつき、ウルはいつきの尻に軟膏を塗り終える。  
「うぅっ…… ひ、ヒリヒリします……」  
「そりゃ効果の証だ、良かったな」  
 嬌声混じりの泣き言を吐くいつきを適当になだめながら、ウルは苦戦しつつ縄を解いた。  
これでようやく開放される。そうウルは安堵したが、いつきは縛られた後を摩りながら、  
潤んだ瞳で相棒を見つめた。  
「な、なんだ?」  
「ウル……分かっているでしょう? あ、あそこが、その……疼くんです」  
「まあ趣向は別として、言いたいことは理解できる」  
 だがなぁ……、とウルは続け、頭を掻いた。  
 そういう機能はウルには無い。  
 困惑するウルを他所に、いつきはウルの戦闘用の外装を指差した。  
 大口径の銃が装備された実践向けのスーツだ。  
 
「アレ……アレを私の××××に、ブチ込んでください!」  
「ああ」  
 
 ウルは腕を組み、突き出た銃口とそれを指差す相棒を交互に見た。  
 数秒の思考停止後。  
 
「…………な、なんだって?」  
 
 ウルは信じられないものを見る目で、糞真面目な顔をした相棒を凝視した。  
 
「……なんて格好だ」  
「恥ずかしいから、あまりジロジロ見ないで下さい」  
 いつきは仰向けの状態で自分の両足を持ち上げM字開脚をしながら、恥ずかしそうに  
頬を紅潮させた。言ってることと行動が一致していない気もしたが、ウルは大口径の銃を  
構え、呆れたような口調で答える。  
「じゃあやめるか?」  
「だっ、ダメです!」  
「……お前なんかキャラ変わったなぁ」  
 ウルはぶつくさと文句を言いながらも、自らの銃をいつきの濡れそぼった秘所に宛がう。  
湿った布が擦られる水っぽい音が響いて、いつきの身体がビクリと震えた。  
「ここか?」  
「んっ……、もう少し下です、ウル」  
 銃口が下に滑って、布越しにいつきのアナルを刺激する。  
「ひっ……! ウルっ! そっちは違っ…………ひぃんっ!」  
「すまん、結構難しいんだ」  
 ぐりぐりと、銃身がいつきの穴を探して布の上を這いずり回り、その度にいつきは切ない  
喘ぎ声を上げた。  
「あぁっ……ダメ、ダメです……! そこはダメぇっ!」  
 ウルは自分の動きに合わせて敏感に反応するいつきに嗜虐心を刺激され、わざと銃口を  
ぐるぐると動かした。  
「んぅっ……! い、イヤです……そんなところ、グリグリしたらぁ……」  
「ふむ」  
 短い仕返しの後、ようやくウルは目当てのポイントを発見する。  
「……ここだな?」  
「はっ……はい……」  
 たっぷりと痴肉をこねくり回されたいつきは息も絶え絶えに、ゆっくりと秘所を覆う布を自ら  
の手でずらした。ウルの嗅覚センサーが、この部屋に充満している匂いの倍はある陰臭を  
感知する。すっかり発情したそこはすでに花びらが開き、ピンク色の綺麗な膣口が呼吸して  
いるかのように震えていた。  
 いつきは肉付きのいい唇を動かして、ウルにおねだりをする。  
「ください……ウルの、その固くて大きな……おちんちん……」  
「おちっ!? いや、何と呼ぼうが勝手だが……」  
「お願いしますっ……! 早く、卑しい雌犬のおまんこに――――」  
「分かった! 分かったから大声を出すな! 隣に聞こえる!」  
 すっかりロールプレイに嵌ったいつきを制するように、ウルはやや乱暴に自分の剛直を  
いつきの中へと突き入れた。  
「あぁあああっ……! ひっ…い…! 良い、ですぅ……! ウルぅ……」  
 無骨な金属が窮屈な膣肉をこじ開けて、誰も到達したことのないいつきの身体の中を  
蹂躙していく。膣内にたっぷりと溜まっていた愛液が押し出され、粘着質な水音を響かせた。  
「結構、抵抗があるんだが……大丈夫か、キツくないか?」  
「んんっ……! いい……、ウルの、ウルの太いの、気持ちいいです……」  
 いつきは身体を仰け反らせ、自分の太ももをきつく握り締め、始めての快感に耐えている。  
「……大丈夫のようだな」  
 ウルはいつきに痛がる素振りが無いことを確認すると、ゆっくりと銃を動かし始めた。  
いつきはその動きに合わせるように腰を揺り動かし、荒い呼吸に胸を弾むように上下させる。  
「凄いっ……凄いですぅ、ウルっ……! ウルの固いのが…ゴリゴリって、おまんこの中ぁ……  
あぁああっ! あっ……暴れてます……!」  
 あっという間に順応し、なおかつ自ら腰を揺すって快感を貪るいつき。紅潮した肌には汗が  
玉となって浮かび、いっそう強い陰臭を部屋に充満させた。  
 
「だ、大丈夫だろうな……」  
 早くも感じまくるいつきにウルは若干引きつつも、律儀にピストン運動を早めいつきを責め  
立てていく。  
「ひぃっ! あぁああっ……! 感じ、過ぎてぇ……! もう、もうぅ……っ!」  
「くっ……、急に締め付けが……!」  
 いつきの足の指に力が入り縮こまり、銃を抜く時にウルが受ける抵抗が一層強くなる。  
いつきの肉体が、無骨な金属のペニスから精液を搾り出そうと蠢いた。  
「ウルっ……! ウルぅ……っ!」  
「何だっ!?」  
 叫ぶように名前を呼ぶいつきに、ウルは同じく大声で返す。  
 
「撃って……! 私を撃ってくださいっ!」  
 
「な、何だと?」  
 思わず動きを止めそうになるウルに、いつきは泣きながら懇願する。  
「お願いしますっ……! 撃ってください……っ! ウルっ!」  
「糞ッ! どーなっても知らんぞ!」  
 
 嬌声の鳴り止まない部屋に、破裂音が木霊した。  
 
「あぁあああああああああっ……!」  
 銃声と衝撃に目を見開いたいつきは、“正しく”撃たれたように身体を痙攣させ、  
崩れ落ちるように脚を床に落とした。銃を咥え込んだ膣が何度も収縮し、そこから  
温かな液体が大量に流れ出ていく。  
 部屋の中に、濃いアンモニア臭が広がった。  
「おい! いつき!? だ、大丈夫か? さっきのは空砲だぞ……?」  
 流石にやりすぎたかと、不安を感じたウルは銃を抜き取るといつきに駆け寄るが、  
イったと同時に失禁したいつきは、虚ろな目のまま恍惚の表情を浮かべている。  
「ひっ……! あっ…………あはっ……! あはは……」  
「大丈夫――――じゃあなさそうだ」  
 ウルは途方にくれ、酷い光景の広がる部屋を見回すと、小さくジーザスと呟いた。  
 窓の外には、夜明けを知らせる太陽の光が輝いていた。  
 
 
 次の日  
 
「おや、珍しくお疲れのようだねウル」  
 怪奇課の執務室にウルといつきが入るなり、デスクの向こうのニーナが声を上げた。  
 フラフラと安定しない軌道で飛ぶウルを尻目に、いつきは軽やかな足取りでデスクの前  
まで歩いてくる。  
「おはようございます、ニーナ」  
「おはよう、いつきクン。今日はなんだか元気がいいね」  
「はい! 実は昨日、良い事があったんです」  
 笑顔で返すいつきに、ニーナは若干困惑しながらも笑い返す。  
「へぇ……それは――」  
 ニーナの目に映るのは、ゲンナリした表情のウルだ。  
「それは、良い事だね?」  
「はい!」  
 語尾にクエスチョンマークが付いたニーナのセリフに、疑問も持たず笑顔で返すいつき。  
 ニーナは何か考える素振りを見せたが、ふとウルの異変に気が付き声を上げた。  
「ウル、“アレ”はどうしたのさ」  
「“アレ”? アレは……水害にあって。その、メンテナンス中だ……」  
 珍しく言葉を濁すウルに、怪訝そうな顔をするニーナ。  
「水害ねぇ……」  
 ニーナはニコニコ笑顔のいつきと、やつれたウルを交互に眺めていたが、やがて苦笑  
しながらタバコの煙を吐き出した。  
 
「まさかね」  
 
 言葉は煙と共に浮かび上がり、そのまま宙に溶けていく。  
 答える者は、居なかった。  
 
 
                                             完  
 

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